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11 離縁
しおりを挟む「アナスタシア様!!」
翌朝目を覚ますと、エディットの顔があった。
「ああ、なんてことを……」
エディットは震えながら私を抱き起こす。
「昨日私が傍にいたら……」
「大丈夫よ。仕方ないの……」
セドリックは誰にも入って来られないよう人払いをしていた。セドリックの命令には誰も逆らえない。
「お湯を沸かしてます。入られますか?」
「ええ……ありがとう」
セドリックが朝方帰る前に体は拭われたが、まだ体の奥がジンジンする。
「それにしても……」
「?」
「いえ、何も……」
エディットは奇妙なものを見る目でアナスタシアを一瞬見た。
(何かしら……)
「どうしたの?何かあるなら言って?」
「執着のようなキスマークが全身につけられています……」
アナスタシアは自身の体を見た。首筋から腕や背中太ももや足の甲まで全身に跡がついている。
「消えるかしら……」
アナスタシアは戸惑いながら目を伏せると、エディットは一人で何かを呟いていた。
暖かい湯の中に入り、まだ怠い体を起こし服を着せてもらう。
落ち着いて朝食をとり始めた頃に、王宮から従者が手紙を持ってやってきた。
「妃殿下、こちら殿下からです」
「ありがとう……」
(何だろう……)
手紙の封を開けると、離縁届けの書類が入っていた。
アナスタシアは目を見開く。
「殿下がこれを?」
「はい」
アナスタシアは驚きと悲しみで胸がいっぱいになった。
アナスタシアが言い出したことではあったが、激しく抱かれた翌日に離縁届けを送られるとは思わなかったのだ。
(私はもう、用済みなのね……)
アナスタシアはセドリックの字が書かれている下にサインをする。
これで提出すればいいだけだ。
「殿下に渡してくれる?そして明日にはここを去るようにするとも」
「かしこまりました」
従者は気の毒そうに私を見つめて、書類を大事にしまい部屋を出て行った。
「アナスタシア様、良かった……」
傍に支えていたエディットは涙ぐみながら嬉しそうに笑った。
「良かったの、かしら?」
「はい、これでアナスタシア様は自由ですもの。どこにだって行けます」
どこにだって行ける。
もう、この離宮にずっと居なくてもいい。
苦しい思いも、辛い思いも、することはない。
(私は、自由ーー)
アナスタシアは涙が出そうになった。
エディットの傍で、アナスタシアは久しぶりに心から微笑んだ。
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