あなたの子ではありません。

沙耶

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9 決意

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それからセドリックが離宮に来ることはなかった。
アナスタシアは一人寂しく離宮に住んだまま、二年が経とうとしていた。

「アナスタシア様……」

エディットは申し訳なさそうにアナスタシアに話しかける。

「何?」

もう何も驚かない。結婚して二年、アナスタシアのセドリックへの愛は粉々になってしまった。
そんなアナスタシアの心を知らないエディットは、戸惑いながらも口を開いた。

「レベッカ様が、妊娠したようです」

「そう……」

(いつかは来ると思っていた未来がやって来たのね……)

「お祝いを送った方がいいかしら」

「そんなの送らなくていいです!!」

「でも、殿下の子よ……」

アナスタシアが産めなかった。いや、産むことさえも許してくれなかった。

「贈らなかったら何か言われるかもしれないわ」

二年で分かった。セドリックがどれだけレベッカを大事にしているか。
どれだけ忙しくても必ずレベッカの部屋で過ごし、レベッカへ贈り物をし、彼女を大事にしている。ついでのようにアナスタシアにも時々贈り物が来たけれど、嬉しいと思えたのは最初だけだった。

「一応私が、王太子妃だもの……」

「嫌です。私は許せないです」

エディットは悔しそうに拳を握りしめていた。

エディットにもこの二年、辛い思いをさせてしまった……

「ごめんねエディット」

「アナスタシア様が謝ることは何もありません!!むしろ私が何もできなくて……。力に、なれなくて……」

震えた声で話すエディットに、アナスタシアは胸が苦しくなる。

(私は一生、このままなのかしら……)

この生活が永遠に続くのを考えると、ゾッとした。

世継ぎが産まれるなら、アナスタシアはもう必要ないのではないだろうか。

(この名ばかりの王太子妃として、ずっと生きていくの?)

そんなの、嫌……

『離縁』の一文字が頭によぎる。

父には罰され公爵家を追い出されるかもしれない。
それでもアナスタシアはお飾りの妻ではなく、名ばかりの王太子妃でもなく、この離宮から出て、ただのアナスタシアとして生きてみたかった。

アナスタシアはペンを手に取り、久しぶりにセドリックに手紙を書いた。

『大事な話があります。お会いできませんか?』

セドリックから返事がきたのは、翌朝だった。
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