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5 贈り物
しおりを挟む離宮に住み始めてから三月経った頃、アナスタシア宛にドレスと宝石が送られてきた。
そこにはセドリックの手紙も添えられており、アナスタシアの心臓がドクンと跳ねる。
震える手でセドリックの手紙を開封すると、短い文章が書かれていた。
『舞踏会に使ってくれ。当日迎えにいく』
セドリックからの手紙に、アナスタシアの心は震えるほど嬉しかった。
(殿下が私のために用意してくださった……)
セドリックが用意してくれたドレスは、琥珀色の布地に細かい刺繍が入ったプリンセスラインのドレスだった。
「それにしても、金色ばかりですね」
エディットは驚きながらも、宝石を片付けていく。
金色は王族の色だ。アナスタシアは一応王太子の妻だから、セドリックは琥珀色を用意したのだろう。
アナスタシアはセドリックからの贈り物に胸がいっぱいになっていたが、ふとレベッカのことが頭によぎった。
(レベッカ様は、参加するのかしら……)
セドリックのことを話していた侍女は急に辞めてしまったから、アナスタシアはもう何も分からなかった。
舞踏会でレベッカと会うかもしれないと思うと、胸がざわめきひどく心が落ち着かなかった。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
「お久しぶりです、殿下」
「ああ、久しぶりだな」
舞踏会当日迎えにきたセドリックは、アナスタシアのドレス姿を見て目を見張る。セドリックの琥珀色を全身に纏ったアナスタシアは、美しくキラキラと輝いていた。
そんなアナスタシアは真っ白な頬を赤く染め、タキシード姿のセドリックに見惚れていた。
「ドレスを送っていただきありがとうございました」
「いや、夫として当然のことだ」
(夫……)
アナスタシアは何故かその言葉に違和感を感じてしまった。
夫と云うには彼と過ごした時間があまりにも少ないからかもしれない。
セドリックはエスコートのため腕を差し出すと、アナスタシアは彼の腕にそっと手を添える。
アナスタシアが触れた瞬間、ぴくりと動揺するようにセドリックの体が揺れたが、彼を見上げるといつもの無表情で真っ直ぐと前を向いていた。
二人は会話もなくただゆっくりと舞踏会場へと向かった。
アナスタシアの心臓は会場が近付くにつれドクドクと早鐘を打っていた。
セドリックに愛する人がいる今、アナスタシアは貴族たちに鋭い視線を投げかけられるはずだ。
それでもアナスタシアは背筋を伸ばし前を向き、凛とした表情で足を一歩踏み出した。
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