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 お茶会の翌日、カインが授業を休んだらしい。腹痛でどうしてもベッドから出られないという。
 ……原因は、アレだな。地面に落ちたモノを貪り食うとえらい目に合うということだな。愛する者を救うという尊い行為には、時には犠牲が必要なのだろう。

「……という訳で、頼んだよお嬢ちゃん」

 そう言って、うーにゃーイィーツのバイトセットを差し出してきたのは、食堂のマッチョシェフだ。

「嬢ちゃんではないデュナティスである。それに、どうしてわたしがこれを被らないといけないのだ?」

「バイトのカインくんが病欠。ということは、ピンチヒッターが必要になるってことだ」

「それでどうしてわたしが代わりなのだ」

「それのアイディアを出してくれたじゃないか」

 マッチョシェフに指さされ、わたしは手に持ったネコミミキャップに目を落とした。
 なんということだ。あの時カインに声を掛けねばこんなことにはならなかった……

「もちろん、バイト代も弾むよ! まかないだってつくぞ!」

「よし、やろうではないか。だが、条件がある」

「何だい?」

「カインが復帰したら、彼のユニフォームを半ズボンにするのだ。そしてバイト中は語尾に「にゃん」とつけて喋るように指示するのだ。まあ、一日くらいで許してやろう。くくく……」

「……お嬢ちゃん、真っ黒だな……こんな小さいのに……」

 身長は関係ない!



✝✝✝




 モモカが生徒会入りした。
 正確には臨時の補佐役らしい。

「ユリウス様がぁ~どうしても私の力が必要だって言うからぁ~」

 朝からモモカはご機嫌だ。
 王子様自ら推薦してくれたのなら、機嫌も良くなるだろう。いつも以上にお肌がツヤツヤだ。

「どうして臨時なのだ?」

 わたしはハムを切りながらモモカに尋ねる。
 作っているのは、昼食用のサンドイッチだ。モモカが鼻息荒く、生徒会のメンバーに差し入れるから手伝って欲しいと言ってきたからだ。
 餃子を挟もうとしたら、脳天にチョップをかまされた。案外美味しいのだが……

「新入生歓迎会があるんだって。その準備の手伝いね」

 在校生が新入生に向けて魔法のパフォーマンスをする第一部と、パーティーの第二部という構成になっているらしい。
 貴族やら王族はパーティーが好きだな。真性のパーティーピーポーだな!

「ユリウス様もパフォーマンスするんだって」

「ああ、なるほど」

 きっと準備の手伝いというのは建前。本当の役目は、あの自信が持てない相談王子ユリウスのメンタルケア役だろう。

「そういう訳だから、しばらくランチは一緒できないの。ゴメンね!」

「気にするな」

 どうせわたしはバイトだ。
 ネコミミ仮面になって学園内を駆け抜けてやろうではないか!




 ……駆け抜けて分かったことがある。
 学園の敷地内は、ほんっとうに広いな!
 偵察した時はゆっくり回ったから気にならなかったが、時間に追われながらランチの配達となると、途端に実感してしまう。
 くそぉ~どいつもこいつもアチコチに散らばりおって。食堂の料理は食堂で食え! あ、食堂で食べたらデリバリーの意味がなくなるか。
 こんな大変なことを毎日やっているカインは偉いな。そのうちあいつの脚はムキムキになるんじゃないか?

「お嬢ちゃん、また注文が入った! よろしくな!」

 注文票を片手に、マッチョシェフが言う。
 ちなみに注文票は、食堂に置いてある。それを生徒たちがあらかじめ持っていっておいて、デリバリーを頼む時にはそれに魔力を込めると翼の生えた子猫になって食堂に飛んでいく仕組みだ。『うーにゃー』の名前は、この子猫から来ていると、マッチョシェフから聞いた。

「う~ん。なかなかの忙しさだな。これでは賄いを食べる頃には午後の授業が始まってしまいそうだ。……こうなったら」

 わたしは翼を出した。隼と同じそれは、とても速く空を飛べる。これで一気に配達だ!

「えええ天使!? 天使が配達!?」

 注文した生徒がわたしの姿に驚いている。しまった、この反応を忘れていた。こうなったら仕方がない。必殺――

「気のせいだ!」

 お前の気のせいだ作戦だ。

「いや、気のせいじゃないでしょ。メッチャ翼があるんだけど」

 図書館の二階で本を読みながらランチをしたい、という理由でデリバリーを頼んだという文学少女な生徒がツッコんでくる。面倒そうな奴だな。

「これは……光属性の創作魔法、その名も『光の翼』!」

「そのまんまな名前ね」

「最近……リア充に囲まれすぎて、わたしの中二病脳が仕事をしないのだ……」

 ちょっと遠い目になってしまった。悪魔を狩る楽しい日々が遠い。神の命令は絶対だが、ここはわたしの場所ではない。寂しい。

「な、なんか分からないけど、元気出しなさいね?」

「おう。心遣い感謝する。ではさらばっ!」

 光属性っぽく輝くエフェクトをかけながら、わたしは再び空に舞い上がった。

「これで終わりだろうか……おや、モモカとニクス?」

 たまたま下を見ると、特別棟の前をモモカがニクスに腕を引かれて歩いていた。
 いや、引かれてというより、引っ張られている?
 モモカにしては珍しく、男性に抵抗しているではないか。これは尋常ではない。

「おい! 何をやっているのだニクス・エーティアぁ!?」













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