上 下
3 / 12
第一章

始まりの日(3)

しおりを挟む
「勇くんファイトー!」

勇の2回戦が始まっていた。

ゲームは5セットで3セット取った方の勝利となる。現在試合は2ー1で勇が優勢となっていた。通常テニスでは1点取ると15点、2点は30点、3点目は40点と分かりにくい採点方式だか、中学ではわかりやすく4点先に取れば1セット先取となる。因みに3点対3点になると続けて2点を取らなければセットカウントが取れない。最低でも5対3にならなければセットカウントが取れないのだ。

「勇くん!あと1点だよーっ!ガンバって!」

光からの声援が続いているが、中々あと1点が取れない。

「ハァ、ハァ…。クソッ!何で後1点が取れねぇんだ!」

側から見れば簡単だ。サービスもレシーブも全く同じように打ち、コースも変わらない。相手にとっても同様の打球が続けば対応はしやすい。緩急も打球コースも変わらなければいくらでも対応方法はあるのだ。それに気づかない勇が脳筋なだけで…。

「このサービスで決めてやる…!!」

力一杯にラケットを振り、サービスショットを打つ。

スパンッッッ、バシュッ。

「アウト!」

サービスショットエリア内からわずかに外れ、アウトとなる。

「クソッ!」

続いてセカンドサービスを打とうとボールを上に投げた際に足に何か動物の毛が触れたような擽ったさが走った。

「うおっ!?」

一応ラケットは振るが、芯にはあたらずラケットの先にボールがが掠るように当たる。

カシュッッ

ボールの下に掠るように当たった事で、逆回転となったボールがフワフワと相手のサービスエリアの中へゆっくりと吸い込まれていく。ネットに当たって落ちるかと思われる程、ネットギリギリを越え相手コートに落ちる。

今まで力任せで来ていたサービスショットが、ふわふわとゆっくり来た事により、相手も反応出来ず走り出し1歩目が遅くなった。ただ打球がゆっくりになった事で対応出来るだけの猶予はまだあった。ただ、逆回転でネット際に入った事で、バウンドしたボールがネットに引き寄せられる角度となり、レシーブを打ち返す事はできずここで試合終了となった。

ピピーッッッ!

「試合終了!!火雷勇選手の勝利です!!」

審判が手を上げ、試合終了を告げた。

「……エッ?マジで?……オレ、勝った、のか…?」

「キャーッ!!勇くんが勝ったわよー!」

偶々入ったサービスで勝ちを拾った勇は自分の勝利に困惑し、光は両手を上げて喜んでいた。

「まさか…、マグレで勝つとは…。情け無い…。」

「でも~、運も実力のうちって言いますし~。勝てたんですからぁ、一緒に喜んであげましょうよ~!楓ちゃん!」

楓は額に手を当て目を瞑り顎を上げ、茜は胸の前で祈るように手を組み試合の感想を告げる。

「まぁ、これで3人共2回戦突破となりましたね」

「うん!また楽しく試合できるねっ!」

翔と蓮は問題無く2人共3-0のストレートで既に2回戦を突破していた。

「でも翔?勇の最後のサービスショットを打つ時に勇の足下を凄い速さで何か通り過ぎなかった?」

「……いえ、何も気づかなかったですが?蓮はまた何か見えたんですか?」

「うん。何か犬くらいの大きさなんだけど…。白っぽい何かが物凄い速さで通り過ぎたんだ!」

「ハァ…。昔からですが、蓮が何か見るたびに良くない事が起きるんですよね…。何もなければいいのですが…。」

翔が溜め息を吐き、髪をかき上げながら物思いに耽る。

「イヤ、そんなに毎回悪いことは起きてないよ…?さっきのは悪い感じは無かったし…。寧ろ小さい頃に見た妖精?みたいなキレイな感じだったよ?」

蓮が翔へ弁解していると光から声がかかった。

「蓮くん、また何か見えたの?いいな~、私も見てみたい!!」

「イヤ、小さい頃はちゃんと見えてたけど、今はなんとなくしか見えてないよ?…それに偶に変な感じのもいるし…。」

「でも、蓮くんだけ見えるなんてズルいじゃない?私も妖精とか見てみたいの!!」

「蓮く~ん?また何か見えたんですか~?」

「何?それは本当か蓮。それはカワイイやつか?モフモフしてたか?なぁ?どうなんだっ?蓮!!」

そこに茜と楓が加わり、騒しくなる。今は楓が蓮の肩を激しく揺すり蓮の頭が前後にカッコンカッコンしていた。

「ちょっ!?ちょっと!!落ち着いて?アガガガガガッ!」

「オマエら、ウルトラミラクルスーパーサービスで勝ったオレを置いて何やってんだ?」

相手選手と試合後の握手を終えて勇が誇らしげに声をかける。その声にやっと楓が手を止め勇へ言い放つ。

「脳筋ゴリラが…。何だそのダッサいネーミングは!ただのミスショットが偶々決まったマグレじゃないか!恥ずかしくないのか?」

勇が怒りで顔を赤くする。

「ぐぬぬぬぬ……!!」

「まぁまぁ、試合に勝てたんだからいいじゃない。運も実力のうちってさっき茜も言ってたわよ?おめでとう、勇くん!」

その言葉に怒りが抜け、赤みが引いてきた。

「サンキュ!!楓ももう少し光を見習って欲しいぜ。全く!」

「とりあえず、3人とも。2回戦突破おめでとう!!これでベスト16ね?次勝てば地区予選突破よ?ガンバってね!!」

3人に向け明るい笑顔で光が応援の意を込める。3人共頷き、互いに目を合わせ次の試合へ想いを馳せる。

「本当に、何も起きなければいいですが…。」

若干1名は、別の不安も胸にいだきながら…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます

三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」  地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが―― 「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」  地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。 「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」  オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。  地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。 「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」  カトーはその提案に乗る。 「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」 毎日更新してます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...