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風鈴ナツ

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星空の誓い 編

Metal Blood World外伝 エピソード オブ ヴァルキル

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「お前は私の跡を継ぐんだ、だから××家の者として生まれた以上一族の掟には従わなければいけない。」

××家
平安時代から続く貴族の一族で明治時代には政府を裏で支えるほどの実力を持っていたらしい。今では日本有数の造船業野大企業の会社になって日本の経済を支えている。私はその一族として生まれた、いや生まれてしまったと言った方がいいだろう。この古い掟に縛られた愚かな一族に........

私には兄と母がいたらしい。しかし私を産んだ後すぐに一族の掟に耐えられなかった母は幼かった兄を連れて逃げてしまった。土砂降りの雨だったらしい傘一つ持たず必要最低限の荷物をだけ持って出て行ってしまったと父は語る。なんで私を置いて行ってしまったのだろう。

長男がいなくなった以上この家の後継者は私になってしまった。

××家の掟
「後継者が女の場合12年間男として育てる。そうすれば一族に災いは来ない」

あぁこの馬鹿げた掟のせいで私の人生は狂ってしまった。物心ついた時には私は「男」として育てられた。





12年後

タン コン ヅー タン コン ヅー タン コン ヅー

僕の部屋に誰かが歩いてやってくる。足音だけで父だという事がすぐに分かった。父は若い時に乗車していたタクシーと飲酒運転した運転手が乗った別の車とぶつかりその時の事故以来、右足に障害を負ってしまっている。

タンは左足のブーツの音
コンは杖をつく音
ヅーは障害を負った右足を引きずる音

コンコン

「はい」

キーーー

僕の部屋のドアが開く。真っ黒なスーツを着た父が杖をついてドアの前に立っている。オールバックで高身長の初老の男、それが僕の父親だ。

「こんな夜中まで勉強をしていたのか?」

「ダメ.....でしたか?」

「いいや、お前は本当に勉強熱心なんだなと思っただけだ。私とは大違いだ.....私の子供の頃なんて庭で遊んでいて廊下の窓をよく割ってお前の死んだ爺さんによく怒られたものだ。」

父は僕の部屋を見渡した。父に買ってもらった男の子向けのおもちゃや変身玩具、そしてサッカーボールやサッカーのプロ選手のサイン付きのポスター。どこからどう見ても男の子の部屋だ。

「すまないな......私の子供に産まれてしまったばっかりに」

父は僕に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声でこう言った。

「掟を破った者には災いがもたらされる......お前に私のように辛い想いをして欲しくないんだ。」

「どういう事....ですか?」

「私の右足は事故のせいでもう動かない。なんでか分かるか?......掟に従わなかったから災いが舞い降りたんだ。」

「え?」

「私は同じ身分の者と結婚しなければならないはずだったのに一般人であったお前の母さんと結婚した。私が事故に遭ったのは結婚して6日後の事だ......。」

「........。」

「お前の爺さんも46歳の時に「6のつく日に酒を飲んではいけない」という掟を破って6日後に乗っていた飛行機が墜落して亡くなった。どうやら私達の一族は6という数字に嫌われているらしい。だがお前ももうすぐ12歳の誕生日だ、これでお前も掟から.......」

「旦那様....お話がございます」

いつも僕のお世話をするメイドが父の元にやってきた。珍しく焦った様子だ。メイドは父の耳元でこそこそと僕には聞こえない小さな声で用件を伝え始めた。メイドの言葉を聞いた父が一瞬だけ戸惑った顔を見せると元の冷静な父の顔へ戻った。


「すぐに行く、×××今日は寝なさい。」

バンッ

父がドアをゆっくり閉めてそのまま玄関のある方向に向かって歩く足音がし始めた。どこかへ出かけるのだろうか?僕は勉強道具を片付けベッドに横になって目を瞑る。





眠れない
眠れない
眠れるはずがない

心臓の音がバクバクと鳴っている。
僕が恐れていた12歳の誕生日がやってきてしまう。

あの掟がなくなってしまう12歳の誕生日だ、今まで男として育てられた「僕」はどうすればいいんだ?明後日からは女として「私」として生きていかなければならない。

無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ!!!!!!!!!!!!!

無理に決まっている!学校の友達との関係はどうすればいいのだろう?先週まで男友達と混じってサッカーをしていたのに今週からは女の子らしく女友達と遊べとでも言うのだろうか?

僕の身体は「女」だ
しかし「男」の生き方しか知らない。

女の子らしくってなんだ?男の子らしくってなんだ?
スカートを履くのか?今までズボンだったのに?
髪を伸ばすのか?肩より長くまで髪を伸ばした事なんてないんだぞ?
大人になってからはどうするんだ?

大人になった僕は.....「私」になっているのかな?

大人になった自分を想像すると少しだけ吐き気がした。

でもこれも××家の跡取りになる為には仕方がない。僕がこの××家の跡を継ぐんだ、父の為に.....僕の不安定な心の為に.......。









次の日の朝

「紹介しよう。お前の兄の×××だ。」

「.........。」

は?

父の横にいたのは傷だらけの1人の少年だった。僕よりも2、3歳ほど離れている中学生くらいで身長も高い。父が僕に説明を始めたがあまり頭に入ってこなかった。

頭の中で後で整理すると12年前に兄を連れて家を出た母はその後わずかな貯金で兄を1人で育てていたが1人で兄の養育費を稼ぐのは難しく仕方なく別の男性と再婚したが2人とも虐待を受け耐えきれなくなった母は再婚相手を殺害した後自殺したらしい。

学校の部活から帰ってきた兄が見たのは血まみれになったリビングと真っ赤に染まった再婚相手と首を吊って涙を流す母の遺体だったと言う。兄は死ぬ前に母が残したメモの住所を元にこの屋敷に来たらしい。

「今日からこの家で暮らすことになった。2人とも仲良くするんだ......兄と「妹」として」

すると兄がゆっくりと手を差し伸べてきた。握手のつもりだろう。しかし僕は兄の手を取らずにそのまま部屋に戻り学校に向かった。



兄が帰ってきた。
それはつまり本来の長男である兄が跡継ぎになるという事だ。それじゃ僕が今まで男として生きた12年間は何だったのだ?跡継ぎになる為に12年間男として育ったのに跡継ぎになれない?

学校に行った後多くの友人が誕生日を祝ってくれたが何も頭に入ってこなかった。この日以来僕の心は「跡継ぎ」という支えを失って不安定さは増していた。






「ねぇなんで×××ちゃんはスカート履かないの?」

「え?」

この質問をされるのは何度目だろうか。クラスの明るそうな女子が僕......いや私に話しかけてきた。

「確かにこの学校は女子がズボン履いてもOKだけど×××ちゃんだったらスカート似合うはずだよ?」

「あ.....うん....そうだね」

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

「あ、チャイム鳴った!やべそろそろバイトの時間だ!?じゃあね×××ちゃん!部活頑張ってねー!」

なんだったんだ、あの子は........。


僕が私として生き始めて数年が経った。小学校を卒業した後、小学校の頃の友達と離れる為にすぐに違う街の中学校に入学した。僕だった頃の私を知る人達と離れる為にだ。

中学生の頃は着替える時に女子のグループと一緒に着替える時や修学旅行で風呂に入った時はやはり少しドキドキしてしまったがもうそんな事はないだろう。女子サッカー部の部活を終わらせ家に帰宅する途中で高校生の兄を見た。

迷子になった子供の母親を一緒に探して商店街を歩いていた。兄らしい、困った人は見過ごせない優しい性格だ。僕もあれくらい他人に優しくできたらいいのに.......。

そう思う時があるが今は自分1人のことで精一杯だ。優しく誰かを照らす兄が金色に輝いて見えた、それに比べて僕は自分の事しか考えられない私は.......。

これ以上兄を見ていたら自分が嫌いそうで怖い、だから兄のいない場所に......。

時々僕と私が混在してしまう。間違えて「私の時に僕を」「僕の時に私を」使いそうになってしまう。どっちが本当の自分なのだろうか?







そして気づけばこの世界にいた。
たまたま手に入れたゲームをプレイして兄のいないこの世界に来ることができた。

この世界に僕を女だと知る者は誰一人だっていない。性別は変えられなかったが髪型も髪色も瞳の色も変えた。これで僕は本当の自分として生きることができると思った。

0からの新しい人生のスタートだ。この鎧は私を隠す為の鎧、僕として生きる為に決して壊されてはいけない。女だとみんなが知ってしまえば誰も「僕」として見てくれなくなる。

「ヴァルキル」
この名前は神話に登場する半神の戦乙女の名前を元にしたという。
ならば僕はこの新しい名前に誓って戦おうじゃないか........「僕」の為に。






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