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星空の誓い 編

第76話 日暮れ

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「それはさておき......そこに隠れている貴方は誰?」

イバラが民家の方を見つめる。すると奥から金髪に緑の瞳小柄な少年がでてきた。

「気配は消したつもりだったが.....まさかバレていたとはな」

出てきた瞬間にリーシャは怯えた顔でサファイアに抱きつく。彼女は幽霊が苦手みたいだ。

「ぎゃぁぁあおばけぇぇえ!!」

「リーシャ彼はお化けではありません。ソードオブベルサイユのギルドマスターのヴァルキルですよね?」

「そういう君はリオの仲間のサファイアと......そうだ思い出したぞ「わんこそばクイーン」じゃないか!」

イバラをじっと見つめたヴァルキルが思い出したような顔でそう言った。イバラはポカーンとしている。

「え、わんこそばクイーン?私そんな風に呼ばれてるの?」

「あぁそうだ、あの日以来オリオンの街で空前のわんこそばブームがあってな。君が美味しそうに食べているところを見て食べたくなったのだろう、まぁそもそもそばというものを知らなかったのか結構人気が出たんだ。そのせいで街の人達が食べすぎで太ったが........」

「私のせいじゃないわよ」

「このままではオリオンの街に肥満が溢れてしまう!流行は日が経てば消えるが脂肪はそう簡単には消えない!ソードオブベルサイユが辿りついた答えは.......ジムを作る事だった!」

「ジム?」

「この話まだする必要あります?」

「そう!ファンタジーモールの技術力を借り高い設備を揃えて最高のジムを作ったのだ!」

「へージムいいわね、最近運動不足だと思ってたのよ。月いくらかしら?」

「今期間限定で1ヶ月はお試しということでこの値段なんだが.......」

「あらお安いわね私も初めて行ってみようかな......でも私オリオンに住んでないからあまりいけないかも」

「それならこのプランがオススメだぞ.......このプランだと使った回数......」




数十分後

契約成立!

「話終わりましたか?」

「長すぎてずっとしりとりしてたぜ」

リーシャとサファイアが壊れかけのベンチに座りながらぼーっとしている。親同士が話している間暇そうにつまらなそうにただひたすら待つ子供のような顔だった。

「そうねちょっと話が長くなっちゃったわね。で、ヴァルキルくん?はどうしこの亡国にきたの?」

イバラがそう尋ねるとヴァルキルは右腕に装着したデバイスの画面を操作すると空中に画像が浮かび上がる。

「討伐イベント?流星祭のファブニスのようなものですか?」

「サファイア君は知らなかったのかい?」

「はい、私は冒険者達のように運営からのメッセージは受信することはできません。それにリオ達はこの事について何も話してませんでした。」

「リオ達のことだ気づいてなかったのかもしれない。数ヶ月も運営からひメッセージがなかったからな。」

ヴァルキルはそう言うと腕を下ろしデバイスの電源をオフにした。そのあと周りを見渡してため息をつく。

「久しぶりの討伐イベントだから冒険者が集まると思ってたんだが僕達以外誰もいないな......オリオン以外の冒険者と会ってみたかったんだがな......」

「そういえば冒険者の姿を最近見かけなくなりましたね。数ヶ月前まではもっといたと思いますが.......」

するとイバラがクッキーをもぐもぐと食べながらこう言った。

「シンプルに減ってるんじゃないの?」

「え?」

「突如異世界に連れてこられて簡単に適合できる人は少ないわ。まだゲームだと思って遊び半分でモンスターに挑み命を落とす人だっているし現実に耐えられなくなって自ら命を絶つ人もいる。死にたくないからクエストを受けない人だっているはずよ。貴方達はまだ勇敢な方だと思うわ。」

「そんな...........。」

「そうか......それもそうだな。逃げるのも人生の中で生きるために必要な選択のうちの一つだ。逃げる事が悪とは思わない。だが僕は逃げない....強くなるために........」

ヴァルキルは3人に背を向けると仲間がいる中心部へと歩き始める。

「この季節は日が暮れるのが早い、今日は彼らの拠点で休ませてもらおう。私もたった3人で野宿するのは心細いからな。きっと彼らと共に行動を共にする方が安心だ。」

落ち着いた口調でリーシャはそう言うとメガネを外しはぁ~と息をレンズに吐きポケットから取り出したハンカチでキュキュと音を立てながら吹き始める。

「そうですね。」

「あぁ構わない」

3人はヴァルキルについていく。






夜が来る
太陽は沈み月明かりと星々が私達を優しく照らす
腹は満たされ周りを見渡すと多くの冒険者達が寝息を立てながら眠っている
私は焚き火をじっと見つめていた

夜風は冷たくこの火は暖かい
火を見るのは好きだ
規則性がなく不規則に揺めき続ける
私は決められたことに縛られるのが嫌いだ
人に従うのが嫌いだ
あくまで自分のために生きるのが好きだ
自分が選んだ人のために生きるのが好きだ
自分が選んだ人のために死ねるなら本望だ
自分が選んだ人に殺されるなら本望だ

私は死ねない死なない生き物
首を切られても死なない
身体の半分がなくなっても死なない
炎で焼かれても死なない
猛毒を受けても死なない
身体がなくなっても崩壊しても死なない
細胞が一つでも残っていたらそこからすぐに分裂し人の身体を形成する
何千年と生きてきた
いやもっと長い時間を生きている
私という歴史は常に更新を続けている
長く生きているとつまらなくなってくる

そんななか私の興味を惹きつけるものが存在する
「ヒーロー」
世界は幾千万と存在する
その幾千万と存在する世界のなかで生まれるヒーロー達の物語

誰かの笑顔を守るため
誰かの居場所を守るため
争いを止めるため
誰かの夢を守るため
運命を変えるため
代々受け継がれ1人の主人公を中心に世界の物語が進んでいく
鎖のように絡みつき仲間と共に旅を続ける
相棒と共に、友と共にその手が届く範囲で人々の最後の希望となる
世界の命運をかけて戦う
時には敵と共闘し命を燃やし愛と平和の為に様々な障害をクリアしていく
最高?最善?

ヒーローは望む限り何度でも現れる
一度滅んだこの世界にもきっと........






「どうしたんですかイバラ?」

肩をぽんぽんと叩くとイバラの隣にサファイアがいた。

「なんでもないわ、考え事よ」

「まだ夕飯を食べていませんでしたよね?おにぎりを作ってみました。ロードのようには上手く作れませんでしたが食べてみてください」

サファイアが持つお皿の上には5個ほど三角形の海苔で巻かれたおにぎりが置かれていた。イバラはそれを一つ手に取りパクリと一口分食べる。

「ちょっと塩を入れすぎ....かしら?」

サファイアも一つ食べてみる。その瞬間にしょぼんとした顔になった。2人は顔を見合わせてサファイアはこう言った。

「確かにちょっと塩を入れすぎたみたいです。」

「でも美味しいわありがとうね作ってくれて」

イバラはサファイアの頭を優しく撫でる。サファイアは無邪気な子供のように微笑んだ。

「ねぇジェネシスってどんな感じなの?」

「どんな感じって......リオがいてサナがいてロードがいて.....そうですね家族みたいなところです。ロードが「お母さん」みたいです。洗濯したり料理をしたり時々サナとリオが掃除をしたりいつも騒がしく楽しいところ」

「そう、それはいい場所ね」

それからイバラはサファイアの話を微笑みながら聴いている。

「で......ちょっと話すぎましたね。次は貴方の話をしてください。」

「どういうこと?」

「初めて会った時貴方は本当にあのエルフ達を殺したんですか?」

イバラとの出会いを思い出す。彼女は血まみれでエルフ達の首を持って笑っていた。

「私が殺したわ」

「いいえ嘘です。」

彼女の瞳は美しい。穢れなく青く輝く本物のサファイアのような瞳が穢れた私の瞳をじっと見つめる。








「なんで分かったの?」

「ほら、目線を外してスカートを左手で触る。私も誤魔化す時はついそうしてしまうんです。貴方は私によく似ている.......」

「.........違うわ貴方が私によく似ているの」

本当に私達は似た者同士だ。



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