Metal Blood World 〜ようこそ選ばれしプレイヤー達〜

風鈴ナツ

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流星祭 編

Matel Blood World外伝 エピソード オブ ギルバ (後編)

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「今なんて言った?」

人質ってこんなあっさりなってくれるものなのか?

「人質にしてもいいわ.....意味なんてないから。私がどうなろうとお父様達にとってはどうでもいい事なの。」

「そんなわけないだろ........子供の事を大切に思わない親なんて..........。」

「残念.....貴方が思っているほど世界はそんなに美しくなんてないわ。大切にしているならこんな森の中の洋館に住まわせたりしない。」

それもそうだ、大切な我が子を森の洋館にメイドと一緒に住まわせたりなんてしない。この貴族の娘の言う通りだ。

俺がそう考えていると貴族の娘はベッドから降り、部屋を歩き始める。
何かを探しているらしい。

「私.......病気なの。20歳まで生きられるか分からない......そうお医者様は言っていたわ。」

「..............。」

何かを一瞬思い出しかけたが.......すぐにモヤがかかってしまう。なんだったんだ今の感覚は.........病気.....か。
メイドも殺しちまった。このままにしておけばコイツはここで1人ぼっちだ。

「で?私をどうするの?この話を聴いてもまだ人質にしようとするの。」

「人質にするのはやめだ...........シンプルにお前を連れて行く。」

「え?」





次の日

「ギルバ........どうしてこの子を連れて帰ってきたのです?」

貴族の娘はソファーの上ですやすやと寝ている。それを見たゴウジンマルが布団を持ってきて貴族の娘にかけてやった。

「お前らがメイド殺すからだろ?」

「貴方が殺していいと言ったんじゃないですか........。」

「うっ............でも金はだいぶ手に入ったんじゃないのか?」

「まぁ、そこそこは。で、この子どうするんですか?」

リビュエは椅子に腰掛ける。

「食糧調達に使おうぜ、街の買い物はコイツに任せる。」

「まだ子供だろ。1人で行かせて大丈夫なのか?もしかしたら逃げる可能性も..........。」

「その時はその時だ........おい起きろ。」

俺はソファーで横になっているコイツを揺すって起こす。するとパチッと目を開け、あくびをした。

「おはよう.........あれ?貴方には仲間がいたの?蜂とカブトムシみたいね。」

「蜂ではなくリビュエです。」

「俺ゴウジンマル、よろしく。」

ゴウジンマルがいつもよりなんか楽しそうな気がするが気のせいか?


「名前を聞くのを忘れていた、お前名前はなんだ?」

「ローズ・リノよ。」

「そうか、だったらローズでいいな。これからお前はここで暮らす......いいな。」


リビュエとゴウジンマル(言い方が怖い。半分、脅しが混じっているな........。)

「えぇ、いいわ。」

そして俺達はこのローズという少女と暮らす事になった。



一年経過

「リビュエさん、この本を読んでもいいかしら?」

「その本はダメです。危険なモンスターを閉じ込めていますのでね。確か同じ本があっちにあったはずですよ。」

「ありがとうリビュエさん。」

ローズはどうやら本が好きらしい、ここに来る時も本を一冊持ってきていたのを覚えている。本を読む時はキラキラとした目で見ていた。



二年経過

「洗濯物は自分でするわ、ギルバはここで休んでいて。」

「前から気になっていたんだが......なんで俺だけ「さん」をつけないんだ?」

「ギルバはギルバだから.......もしかしてさん付けして欲しいの?」

「いいや、別に。」

俺はそう言って窓の外の青空を見つめた。青空っていうものは嫌いじゃない。なんだか懐かしい気分になる。




三年経過

「ゴウジンマルさん!洗濯物を取り込むのを手伝ってくれるかしら?」

「いいぞ.......身長伸びたか?」

「そう?」

「あぁ、」

「でもゴウジンマルさんの方が大きいわ、3人の中で一番身長が高い。」

最近、ローズとゴウジンマルの仲がいい。それを見てるとなんだか寂しい気持ちになる。なぜだろう、そんな時は森を散歩するようにしている。もう森を歩くのは慣れてしまった。



四年経過

「最近、冒険者がこの森に入ってくるのが多いわね。」

「もしかしたらここにも来るかもな。」

「私はここで3人と一緒に暮らしたいだけなのに........。」

「それ本気で言っているのか?」

これを聞いたらリビュエやゴウジンマルが少し喜ぶだろうな。



五年が経過した。
ローズは16歳になり、身長もだいぶ高くなり大人びてきた。もしかしたら身長を抜かされるかもしれない。五年が経っても本が好きな事には変わりがないらしい。一日中本を読んでいる。

「もう、この城にある本は読んだのか?」

「えぇ、ほとんど読み終わってしまったわ。だから今は読み直しているの。」

「そうか..........。」

飽きたりしないのだろうか。


2日後の夜 
とある街の本屋にて

「さて、店を閉めるとするか。」

「ちょっと待ってくれ。」

本屋の店長が店を閉めようとした、その時だ。ボロボロのローブを纏った1人の青年が本屋の前に現れた。

「はい?なんでしょうか?」

「本を買いに来た......物語でもなんでもいい。売ってくれ。」

「わっ分かりました、ちょっと待ってくださいね。」

そう言うと店主のおじいさんはそそくさと歩いて店の中へ入ると10冊ほど本を持ってきた。

「ふーー、疲れました。今のところ人気なのはこの辺ですかね。この「細波と私」って本や「流星を追う瞳」なども人気で........どれにします?」

「全部くれ!」

「え!?全部ですか!わっ分かりました.......合計で4200パールです!」

店主がそう言うと青年はポケットから金貨を5枚取り出して店主の手の上に置くと本を持って帰ってしまった。

「お客さん!これ5000パールだよ!お釣りは!」

「釣りはいらない!」

「ちょ!待って!って走るの速ッ!!」



数分後 街の外の木下で青年は息を整えていた。次の瞬間には元のカマキリの化け物へと戻ってしまう。

「クソ......リビュエにかけてもらった人間変化の魔法「チェンジ」も15分ほどしか持たねぇか。体力もだいぶ使うし.........でも本は買えたぞ。」



次の日の朝

「ギルバ、これは?」

ローズが机に置かれた新しい本を見ると表紙を見るだけで目をキラキラと光らせていた。興味しんしんってとこらしい。

「新しい本だ......同じのを何度も読んでいたら飽きるだろ?まぁ俺もちょうど新しい本を読みたかったとこだったんだ。」

俺はローズに本を手渡す。

「ありがと..........ギルバ。大切にするわ。」

そう言うとローズは微笑んで自分の部屋へと戻ってしまった。こういうのも悪くはない。あんなローズは初めてみた..........。




六年経過

「ねぇ、ギルバ」

「なんだ、ローズ」

突然、ローズが本を読みながら俺に話しかけてきた。
ローズも髪もだいぶ伸びてきた、腰くらいはあるな。

「私ね、あの屋敷にいた頃はね。メイドにいじめられていたの、だから貴方にはとても感謝しているわ。あそこから解放してくれて............。」

「どういたしまして........で?それだけ?」

「いいえ、まだ伝えたい事があるわ。私、貴方の事が好きよ。」

「ブーーーーーーーーーーーーーーー!!ゲホ!ゲホ!」

急に変な事を言い出すから、リビュエに淹れてもらったばかりの紅茶を吹き出してしまった。今ローズは何て言った?

「今なんて言った?」

「聞こえなかった?私、貴方の事が好きよ。」

普段滅多にそんな事を言ったりしない子だって事は俺が一番分かっている。あ!分かった。あれだな、好きは好きでも家族として好きって事だ!

「いいえ、その好きではないわ。」

「なんで俺の心の中の独り言に返答できるの!?」

「貴方が考えている事なんてすぐ分かるわ。貴方は私の事......どう思ってるの?」

「え...........。」

この時の俺は返答する事が出来なかった。






七年経過

今年も秋になった、森が赤色に染まる。少し肌寒くなってきた。彼女は外に出て紅葉する木々を見ていた。

「寒くないのか?」

「少し寒いけど大丈夫よ。」

「...............。」

「ブランケットをかけてくれるの?優しいわね.......。」

バレた............!背中にでも目が付いているのか!?

「背中に目なんて付いているわけないでしょ。貴方の考えなんてすぐ分かるわ。」

「じゃあ....これも分かっているんだな。」

俺は彼女の指に指輪をはめた、彼女は顔には出ていないがものすごく驚いているようだ。理解すると微笑んでこう言った。

「ふふ、これは分からなかったわ...........。」

「ローズ、俺と結婚してくれるか?」

「えぇ、もちろんよ。」


   


昼間

「ギルバ、夫婦というものは同じ部屋で寝るらしいわ。ベッドを移動させましょう。」

「え?」

食事中

「はいギルバ、あーーーーん」

「え?」

他にも

「夫婦は同じ服を着るらしいわ。」

「え?どこ知識?っていうか服着れない...........。」

一体彼女はどこでその知識を知ったのだろうか。たぶん本だろう。



5ヶ月後

「なぁ、リビュエ。頼みがあるんだ。」

「なんですか旦那様。」

「いや、あのその言い方やめて..........。」

「いえ、私とゴウジンマルでそう呼ぶと決めました。」

今まで俺の事をギルバと呼んでいた2人が「旦那様」と呼ぶようになってしまった。なんだろう、ものすごく悲しい!!けど......本題に戻ろう。

「お前、確か絵が得意だったよな。」

「そうですが?」

「ローズの絵を描いて欲しいんだ。」

「どうして急に........絵を描いて欲しいだなんて。」

彼女の事を絵として残したい.......とは言えなかった。
そして次の日、リビュエに絵を描いてもらう事になった。




八年経過

彼女は今年に入ってから病気が悪化した。今までは普通に歩く事が出来たのにほとんどをベッドで過ごしている。

「ごめんなさいね........もう一緒に森を散歩....出来なさそう。」

「気にするな、そういえばリンゴがあったな。切ってこよう。」

俺は椅子から立ち上がり部屋を出て行こうとした。

「待って......もう少しここにいて。」

「........しょうがないな。リンゴは後で持ってくるとしよう。」

俺は再び元々座っていた椅子に座り直す。



1ヶ月後 その夜
彼女の前からの要望を叶えてあげた。同じ部屋で寝る、そのためにゴウジンマルに協力してもらい俺の部屋からベッドを持ってきた。

「ねぇ、ギルバ。もう寝た?」

「いいや。」

俺は夜が怖かった......もしかしたら次の日起きたら彼女が死んでしまっていたら.......そう考えるだけで胸が痛くなる。

「大丈夫、死んだりなんてしないわ。」

「そうか.........。」

「貴方にはもらってばかりね。私は貴方に何もあげれなかった.........。」

「そんな事ない.....もらってばかりなのはこっちの方だ。」

「ふふ、ありがとうギルバ。今日はゆっくり眠れそうよ。」





ニヶ月後
 
「本当にありがとう。感謝しても仕切れないわ。」

そう言った次の日に彼女は亡くなってしまった。とても綺麗な顔だった.............本当に死んでるのかと疑うほどに。

「あれ.......どうしてだろ。涙なんて流した事なんてなかったのに。」

いや一度だけある、涙を流した事が.......。思い出した、自分が家族を殺した事を理解した時に泣き続けたんだ.........。

受け入れられなかった、認めたくなかった。 

俺は部屋にかけられた彼女の絵を見つめる。絵の彼女は全て笑顔だ。
絵じゃなくて本物の彼女と話がしたい。

「俺は100年以上生きた.......ローズ.....君との思い出は9年しかない。でも君を思い出せる物はこの城には数え切れないほどある。........会いたいな.........もっと一緒に過ごしたかった。」


この世界に神がいるなら、なんて残酷なのだろう。

「君のいる場所に行ける日がきっといつか来るはずだ。」







おまけコーナー

ローズがこの城に来る前に持ってきた物はただ一つ、一冊の本でした。
タイトルは「紅い姫と野獣」
この本は彼女の亡くなってしまったお母さんからもらった大切な本です。
幼少期に眠れない時はこの本を読んでもらったらしいです。


ちなみに最初のギルバはローズを買い出しの為に使うと言っていましたが一回も行かせた事なんてありません。

指輪はこのお城で見つけたアクセサリーのうちの一つ
ギルバは指に合わなかったのでネックレスとして肌身離さずかけています。


この世界のお金の単位はパール
銅貨(小)一枚が1パール
銅貨(大)一枚が10パール
銀貨 一枚が100パール
金貨 一枚が1000パールです





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