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第12話「消えないPast」
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【20年前 東都大学附属病院】
「先生これあげる!」
医療用帽子を被った少年がベッドの横に座ってカルテを記入する1人の医者にストラップを手渡した。忍者のキャラクターのストラップだ。
「にんまるくんか....懐かしいな。」
「先生にんまるくん知ってるの?」
「あぁ子供の頃やったことがあるよ。って言っても僕がやってたのは初代なんだけどね。」
「そうなんだ!これね前に買ってもらったゲームの特典についてきたんだ!」
「特典か、じゃあ大事なものなんじゃないの?」
「うん!だから先生にあげる!」
「そうか.....ありがとう。」
医者は微笑むと貰ったストラップを大事そうにポケットにしまった。すると病室のドアが開き、少年の両親と少年の妹がお見舞いにやってきた。妹は病室に入るとキョロキョロと周りを見渡し、お兄ちゃんを見つけた瞬間に駆け足で少年のベッドに向かう。
「お兄ちゃん!」
医者が立ち上がり、少年の両親に会釈すると両親も同じように会釈した。お兄ちゃんに会えて嬉しそうにする妹とは対称に両親の表情は少し曇っている様に見える。
「本当に髪の毛全部なくなっちゃったね~」
妹がそう言うと少年は医療用帽子を外す。少年の頭は抗がん剤の副作用で髪の毛は全て抜け落ちていた。
「うんそうだよ。髪の毛ないお兄ちゃんは嫌い?」
「うんうん。」
そう言って妹は首を振り少年の頭を撫でてぺしぺしと叩く。
「あはは!やったな~!」
「えへへ!」
少年と妹は楽しそうに戯れている。その様子を両親を微笑みながら見つめていたが母親の目がうるみ始め泣きだしてしまった。父親は母親を抱き寄せ、その様子を見ていた医者は両親に近くに寄った。
「こちらに。」
医者は両親を部屋から連れ出し、誰もいないことを確認すると少年の両親と話し始めた。
「先生.....」
「余命は1年ほどでしょう。」
その言葉を聞いた瞬間、母親が涙を再び流し始めてしまった。最初は我慢をしていた父親も数十秒後には同じように涙を流す。この言葉は誰も幸せにはしないと分かっていた。だが医者として伝えなければいけなかった。
「先生、もう手はないんですか?」
「..........。」
父親のその言葉に何も言えなかった。何を言えば正しいのか分からなかった。母親は「なんで.....どうして......」と何度も問いかけている。なぜ自分の息子だけがこんな目に遭わなければいけないのか。数分後、少し落ち着きを取り戻した両親は息子と娘が待っている病室へと向かった。
夕方になり両親は帰る準備を始める。その際、少年の妹は医者に近づてきた。
「どうしたの?」
「今日お兄ちゃんとたくさんお話できた!」
少年の妹は嬉しそうに話す。
「そう良かったね。」
「うん!......ねぇお医者さん......お兄ちゃん元気になりますか?」
その瞬間、医者の胸が締まるような感じがした。この子になんて言えばいい。お兄ちゃんはあと1年しか生きられないと言えるわけがない。
「....うん」
それを聞いて少年の妹はさらに嬉しそうな表情を浮かべ楽しそうにしながら両親と共に病室を立ち去った。この時の医者は気づかなかったが彼は選択を間違えた。言葉を間違えた。取り返しのつかないことをした。
少年の身体は月日が経つにつれ悪化していき余命であった1年を待たずして天国へと旅立ってしまった。少年が旅立った日の夜、少年の妹が医者に会った瞬間に放った言葉は今でも彼の記憶に焼き付いている。
「うそつき」
これは罰だ。少女の純粋な気持ちを踏み躙った罰だ。これから彼はこの十字架を背負って生きていく。
「ユキタカさん!」
ユイアは病院内でユキタカを見つけ、手を振り駆け寄った。ユキタカはすぐに忍者のメモリスから回収した黄緑色のメモリカセットを手渡した。
「うわー!忍者のメモリカセットだ!ありがとうございます!ユキタカさんがいなかったら忍者のメモリス逃してしまうとこでした!」
ユイアは深くお辞儀をする。すると奥から車椅子に乗った男性が勢いよくやってきた。ユキタカと話していた人だ。
「ユキタカー!!」
「詩島さん静かに!あと車椅子はゆっくりと!」
ユキタカとユイアがいる場所にたどり着く前に看護師に見つかり説教されてしまう。しょぼしょぼしながらゆっくりと車椅子を動かす。が、看護師がいなくなった瞬間に車椅子を先程の勢いで動かしてユキタカとユイアがいる場所に向かった。
「ユキタカー!」
「進助....」
「見てたぞ!相変わらずかっこいいなその刀は!」
進助は隣にいたユイアに気づくとユイアの前に移動した。
「初めまして!」
進助は大きな声で挨拶をすると手を伸ばした。
「初めまして!」
ユイアも同じくらいの音量で挨拶し伸ばした手を握り握手をした。
「紹介しよう日代。彼は詩島し....」
「俺は詩島進助(シジマ シンスケ)!!よろしく!!」
「おい......俺の同期だ。今はここで入院して治療に専念している。」
ユイアは車椅子に座った進助の脚を見つめた。包帯のようなものは巻いていない。
「気になるかい?いやー任務中に怪我しちゃったんだよねー!」
「そうなんですか!?」
「.........」
ユイアが心配すると進助は自分の脚を上げたり下ろしたりぺしぺし叩いたりする。その様子をユキタカはなんだか何か言いたそうな表情で見つめた。
「でもこの通り!もう動かしても叩いても痛くない!あとは歩けるようにリハビリするだけだ!」
「リハビリ頑張ってください!!復帰されたら一緒にお仕事頑張りましょう!」
「おうよ!若い子には負けてられないからね!」
ユイアと進助が楽しそうに会話をしているとユイアのバッグからスマホの着信音が鳴り響いた。ユイアはすぐにバッグを開きスマホを取り出す。画面には「おばあちゃん」と表示されている。急いでユイアは電話に出た。
「もしもし!うん....うん!あ、ごめんすぐ帰るから!うん....え?あー家の近くのスーパーね。卵2パック?うん分かった。」
ピッ
「ごめんなさい!私そろそろ帰らないと!」
「おう!」
「気をつけて帰るんだぞ。」
「はい!」
ユイアは2人に会釈すると病院に入口の方へ向かって歩きだす。走ってはいないが急いでいるのが伝わる早歩きだ。2人はユイアの姿が見えなくなるまで手を振っているとユキタカが横にいる進助に喋りかけた。
「なぜ怪我だと嘘をついた。」
「うん?だって「君が持ってるドライバーに適合できなくてその副作用で入院してます」なんて言えないだろ?それは彼女に言うことじゃない。」
ユーアドライバーの適合者はレーテ内で見つからなかった。進助がドライバーを巻きメモリカセットをセットしようしたその時、全身にピンクと赤色の電撃が走り始め進助は苦しみ倒れてしまった。他の隊員の場合は気絶で済んだが進助の場合、身体中に火傷のような傷ができ下半身は痺れ動かなくてしまった。
「医者に言われたんだ......俺の脚歩けるようになっても前みたいな走ることはできないってさ。もうお前とは一緒に戦えないな......」
「.......」
「でも俺はこの仕事を辞める気はないぜ。デスクワークとか情報収集とか仕事はいくらでもある。それにアイツの無念も晴らさねぇとな。」
「まだあの事件を追っていたのか。」
「絶対俺が犯人見つけてやる。だからお前も悩むな。アイツが死んだのはお前のせいじゃない。」
進助はそう言うと車椅子を動かし自分の病室に戻り始めた。ユキタカはその背中をただ見つめる。
「お前もそろそろ帰れ。じゃあな」
背中を向けながら手を振る。外はもうすでに夕日が沈み星が見え始めていた。
【とある舞踏会場・休息の間にて】
白い髪の少女はソファーに座りながらクッキーを食べていた。そこに骸骨の姿をした怪人ゴーストが1人やってくる。
「どうされましたか?」
「私が解放したメモリスがすぐやられちゃった。もーなんなのアイツー!」
「ユーアのことですか。確かに彼女は厄介ですね。」
ゴーストが席に座ると大きな扉を開けてチーターの怪人ターボが勢いよく入ってきた。
「遅くなった!!」
「ターボ.....遅いですよ。20分の遅刻です。」
「まぁいいじゃない。他の来ない人達よりはマシよ。」
ターボは息を整えると席に座り、目の前に置いてある透明なガラスのポットの中に入った水を豪快に飲み干した。
「ふーーー生き返るぜ。」
ターボの腕や脚から生えているバイクについているようなマフラーからプシューと音を立て蒸気が吹き出す。
「で何の話してたんだ?」
「ユーアについてよ。」
「ユーアか....まだ戦えてねぇな。」
「若い芽は成長する前に摘むべきです。ここは普通のメモリスではなく私のような「メモリスト」を使うのはどうでしょう?」
バン!!
ターボが強くテーブル叩く。
「メモリストだぁ?気に食わねぇ。ここは俺のような「メモリスター」だ!」
「ふん、幹部はメモリスターよりもメモリストの方が多いことをもうお忘れで?それに貴方もメモリスターかどうか怪しいですよ。」
「クッ.....!!」
2人が話すのを退屈そうに眺めながら白い髪の少女は最後の一枚のクッキーを食べ終えた。
「もうどっちでもいいわ。私の目的が達成すればそれでいいもの.......」
彼女はため息をつき天井を見つめた。天井には大きな壁画のようなものが描かれている。
「ねぇ、デフィニス様いつになったら私は貴方に会えるの?」
ピピピピピピ!!
「わ!」
激しい電子音でユイアは目を覚ました。目覚めた瞬間にベッドの横の机に置いてあるスマホの画面を押しアラーム音を止めた。
「今何時!?」
時刻を確認すると9時10分となっている。ヒビキの退院祝いに行くためにアサヒと集合する時間ギリギリだ。今から着替えて身支度をするとなるとさらに時間がかかる。焦ったユイアはすぐに着替え必要なものをバッグに入れ始めた。もちろんバッグの中にはドライバーが入っている。
「そっかー目覚まし時計いつもより早く設定してなかったんだ!やばい間に合わない!」
ユイアは身支度を整えると階段を駆け下り、リビングにいる祖母に声をかけた。ユイアは母方の祖母の家に住んでいる。以前は両親と共に亡くなった父方の祖父母の家で暮らしていたが震災で2人が亡くなった後すぐに引き取られた。
「おばあちゃんおはよう!」
リビングで朝のニュース番組をつけた状態で新聞を読んでいた祖母は老眼鏡を外し、後ろのドアの前にいるユイアに話しかけた。
「おはよう、朝ごはんは食べていかないの?」
「大丈夫!友達と食べるからー!」
「分かったわ。いってらっしゃい。」
「いってきまーす!!」
ユイアは祖母に手を振ると靴を履き玄関を出た。この時点で集合時間の9時30分まであと5分だ。ユイアは考えた。集合場所の駅まで全力で走っても10分かかる。あと5分で駅に着く方法、考えた結果出した結論は1つ。
ユイアはバッグを開けた。中にはドライバーとメモリカセットが入っている。これを使えば5分もかからず駅に着くことができる。
「でも.......」
ユイアは首を横に振りバッグを閉じ全速力で走り出した。数分間の猛ダッシュ、途中で信号機に引っかかりながらようやく駅に着くとコンビニで買ったパンを食べながらスマホを触るアサヒが待っていた。
「もぐもぐ....ゆいあ~♪」
「ハァ....ハァ......遅くなってごめん........」
「2分の遅刻くらい平気だよ~ほらさっきコンビニでパンとジュース買ったから一緒に食べよ!」
「うっうん........ありがと。」
息を整えたユイアはアサヒから貰ったメロンパンを食べながら駅のホームをアサヒと一緒に歩いて乗り場まで向かっていた。
「寝坊しちゃったんだー珍しいね。」
「うん、私、休みの日は目覚まし時計をニチアサが始まる9時のちょっと前に設定しているんだけど今日は熟睡モードで寝坊しちゃったんだー」
「じゃあ変身してくればあっという間だったんじゃない?ほらあの赤い鷹の姿だったら飛んでさ!」
「それちょっと考えたんだけど.....なんかこういう自分のために使うのは違う気がして....走ることにしたの。」
「へ~ユイアってマっジメ~」
ユイアは少し真剣な表情を浮かべポケットに入れていたピンク色のメモリカセットを取り出し見つめた。「YOU ARE」そう書かれたメモリカセットに描かれたヒーローの複眼がじっとユイアを見つめているように思えた。
「この力はやっぱり人を助けるために使うべきだと思う。」
「すごい....ちょっと今のユイア、ヒーローっぽかった。」
「ほんと!?!」
ユイアは瞳を輝かせ嬉しそうにしながらポケットの中にメモリカセットを戻し残りのメロンパンをぺろりと完食した。
「ごちそうさま!」
「あと3分で電車来るよ!」
「よーし急ぐぞー!」
「「おー!!」」
「先生これあげる!」
医療用帽子を被った少年がベッドの横に座ってカルテを記入する1人の医者にストラップを手渡した。忍者のキャラクターのストラップだ。
「にんまるくんか....懐かしいな。」
「先生にんまるくん知ってるの?」
「あぁ子供の頃やったことがあるよ。って言っても僕がやってたのは初代なんだけどね。」
「そうなんだ!これね前に買ってもらったゲームの特典についてきたんだ!」
「特典か、じゃあ大事なものなんじゃないの?」
「うん!だから先生にあげる!」
「そうか.....ありがとう。」
医者は微笑むと貰ったストラップを大事そうにポケットにしまった。すると病室のドアが開き、少年の両親と少年の妹がお見舞いにやってきた。妹は病室に入るとキョロキョロと周りを見渡し、お兄ちゃんを見つけた瞬間に駆け足で少年のベッドに向かう。
「お兄ちゃん!」
医者が立ち上がり、少年の両親に会釈すると両親も同じように会釈した。お兄ちゃんに会えて嬉しそうにする妹とは対称に両親の表情は少し曇っている様に見える。
「本当に髪の毛全部なくなっちゃったね~」
妹がそう言うと少年は医療用帽子を外す。少年の頭は抗がん剤の副作用で髪の毛は全て抜け落ちていた。
「うんそうだよ。髪の毛ないお兄ちゃんは嫌い?」
「うんうん。」
そう言って妹は首を振り少年の頭を撫でてぺしぺしと叩く。
「あはは!やったな~!」
「えへへ!」
少年と妹は楽しそうに戯れている。その様子を両親を微笑みながら見つめていたが母親の目がうるみ始め泣きだしてしまった。父親は母親を抱き寄せ、その様子を見ていた医者は両親に近くに寄った。
「こちらに。」
医者は両親を部屋から連れ出し、誰もいないことを確認すると少年の両親と話し始めた。
「先生.....」
「余命は1年ほどでしょう。」
その言葉を聞いた瞬間、母親が涙を再び流し始めてしまった。最初は我慢をしていた父親も数十秒後には同じように涙を流す。この言葉は誰も幸せにはしないと分かっていた。だが医者として伝えなければいけなかった。
「先生、もう手はないんですか?」
「..........。」
父親のその言葉に何も言えなかった。何を言えば正しいのか分からなかった。母親は「なんで.....どうして......」と何度も問いかけている。なぜ自分の息子だけがこんな目に遭わなければいけないのか。数分後、少し落ち着きを取り戻した両親は息子と娘が待っている病室へと向かった。
夕方になり両親は帰る準備を始める。その際、少年の妹は医者に近づてきた。
「どうしたの?」
「今日お兄ちゃんとたくさんお話できた!」
少年の妹は嬉しそうに話す。
「そう良かったね。」
「うん!......ねぇお医者さん......お兄ちゃん元気になりますか?」
その瞬間、医者の胸が締まるような感じがした。この子になんて言えばいい。お兄ちゃんはあと1年しか生きられないと言えるわけがない。
「....うん」
それを聞いて少年の妹はさらに嬉しそうな表情を浮かべ楽しそうにしながら両親と共に病室を立ち去った。この時の医者は気づかなかったが彼は選択を間違えた。言葉を間違えた。取り返しのつかないことをした。
少年の身体は月日が経つにつれ悪化していき余命であった1年を待たずして天国へと旅立ってしまった。少年が旅立った日の夜、少年の妹が医者に会った瞬間に放った言葉は今でも彼の記憶に焼き付いている。
「うそつき」
これは罰だ。少女の純粋な気持ちを踏み躙った罰だ。これから彼はこの十字架を背負って生きていく。
「ユキタカさん!」
ユイアは病院内でユキタカを見つけ、手を振り駆け寄った。ユキタカはすぐに忍者のメモリスから回収した黄緑色のメモリカセットを手渡した。
「うわー!忍者のメモリカセットだ!ありがとうございます!ユキタカさんがいなかったら忍者のメモリス逃してしまうとこでした!」
ユイアは深くお辞儀をする。すると奥から車椅子に乗った男性が勢いよくやってきた。ユキタカと話していた人だ。
「ユキタカー!!」
「詩島さん静かに!あと車椅子はゆっくりと!」
ユキタカとユイアがいる場所にたどり着く前に看護師に見つかり説教されてしまう。しょぼしょぼしながらゆっくりと車椅子を動かす。が、看護師がいなくなった瞬間に車椅子を先程の勢いで動かしてユキタカとユイアがいる場所に向かった。
「ユキタカー!」
「進助....」
「見てたぞ!相変わらずかっこいいなその刀は!」
進助は隣にいたユイアに気づくとユイアの前に移動した。
「初めまして!」
進助は大きな声で挨拶をすると手を伸ばした。
「初めまして!」
ユイアも同じくらいの音量で挨拶し伸ばした手を握り握手をした。
「紹介しよう日代。彼は詩島し....」
「俺は詩島進助(シジマ シンスケ)!!よろしく!!」
「おい......俺の同期だ。今はここで入院して治療に専念している。」
ユイアは車椅子に座った進助の脚を見つめた。包帯のようなものは巻いていない。
「気になるかい?いやー任務中に怪我しちゃったんだよねー!」
「そうなんですか!?」
「.........」
ユイアが心配すると進助は自分の脚を上げたり下ろしたりぺしぺし叩いたりする。その様子をユキタカはなんだか何か言いたそうな表情で見つめた。
「でもこの通り!もう動かしても叩いても痛くない!あとは歩けるようにリハビリするだけだ!」
「リハビリ頑張ってください!!復帰されたら一緒にお仕事頑張りましょう!」
「おうよ!若い子には負けてられないからね!」
ユイアと進助が楽しそうに会話をしているとユイアのバッグからスマホの着信音が鳴り響いた。ユイアはすぐにバッグを開きスマホを取り出す。画面には「おばあちゃん」と表示されている。急いでユイアは電話に出た。
「もしもし!うん....うん!あ、ごめんすぐ帰るから!うん....え?あー家の近くのスーパーね。卵2パック?うん分かった。」
ピッ
「ごめんなさい!私そろそろ帰らないと!」
「おう!」
「気をつけて帰るんだぞ。」
「はい!」
ユイアは2人に会釈すると病院に入口の方へ向かって歩きだす。走ってはいないが急いでいるのが伝わる早歩きだ。2人はユイアの姿が見えなくなるまで手を振っているとユキタカが横にいる進助に喋りかけた。
「なぜ怪我だと嘘をついた。」
「うん?だって「君が持ってるドライバーに適合できなくてその副作用で入院してます」なんて言えないだろ?それは彼女に言うことじゃない。」
ユーアドライバーの適合者はレーテ内で見つからなかった。進助がドライバーを巻きメモリカセットをセットしようしたその時、全身にピンクと赤色の電撃が走り始め進助は苦しみ倒れてしまった。他の隊員の場合は気絶で済んだが進助の場合、身体中に火傷のような傷ができ下半身は痺れ動かなくてしまった。
「医者に言われたんだ......俺の脚歩けるようになっても前みたいな走ることはできないってさ。もうお前とは一緒に戦えないな......」
「.......」
「でも俺はこの仕事を辞める気はないぜ。デスクワークとか情報収集とか仕事はいくらでもある。それにアイツの無念も晴らさねぇとな。」
「まだあの事件を追っていたのか。」
「絶対俺が犯人見つけてやる。だからお前も悩むな。アイツが死んだのはお前のせいじゃない。」
進助はそう言うと車椅子を動かし自分の病室に戻り始めた。ユキタカはその背中をただ見つめる。
「お前もそろそろ帰れ。じゃあな」
背中を向けながら手を振る。外はもうすでに夕日が沈み星が見え始めていた。
【とある舞踏会場・休息の間にて】
白い髪の少女はソファーに座りながらクッキーを食べていた。そこに骸骨の姿をした怪人ゴーストが1人やってくる。
「どうされましたか?」
「私が解放したメモリスがすぐやられちゃった。もーなんなのアイツー!」
「ユーアのことですか。確かに彼女は厄介ですね。」
ゴーストが席に座ると大きな扉を開けてチーターの怪人ターボが勢いよく入ってきた。
「遅くなった!!」
「ターボ.....遅いですよ。20分の遅刻です。」
「まぁいいじゃない。他の来ない人達よりはマシよ。」
ターボは息を整えると席に座り、目の前に置いてある透明なガラスのポットの中に入った水を豪快に飲み干した。
「ふーーー生き返るぜ。」
ターボの腕や脚から生えているバイクについているようなマフラーからプシューと音を立て蒸気が吹き出す。
「で何の話してたんだ?」
「ユーアについてよ。」
「ユーアか....まだ戦えてねぇな。」
「若い芽は成長する前に摘むべきです。ここは普通のメモリスではなく私のような「メモリスト」を使うのはどうでしょう?」
バン!!
ターボが強くテーブル叩く。
「メモリストだぁ?気に食わねぇ。ここは俺のような「メモリスター」だ!」
「ふん、幹部はメモリスターよりもメモリストの方が多いことをもうお忘れで?それに貴方もメモリスターかどうか怪しいですよ。」
「クッ.....!!」
2人が話すのを退屈そうに眺めながら白い髪の少女は最後の一枚のクッキーを食べ終えた。
「もうどっちでもいいわ。私の目的が達成すればそれでいいもの.......」
彼女はため息をつき天井を見つめた。天井には大きな壁画のようなものが描かれている。
「ねぇ、デフィニス様いつになったら私は貴方に会えるの?」
ピピピピピピ!!
「わ!」
激しい電子音でユイアは目を覚ました。目覚めた瞬間にベッドの横の机に置いてあるスマホの画面を押しアラーム音を止めた。
「今何時!?」
時刻を確認すると9時10分となっている。ヒビキの退院祝いに行くためにアサヒと集合する時間ギリギリだ。今から着替えて身支度をするとなるとさらに時間がかかる。焦ったユイアはすぐに着替え必要なものをバッグに入れ始めた。もちろんバッグの中にはドライバーが入っている。
「そっかー目覚まし時計いつもより早く設定してなかったんだ!やばい間に合わない!」
ユイアは身支度を整えると階段を駆け下り、リビングにいる祖母に声をかけた。ユイアは母方の祖母の家に住んでいる。以前は両親と共に亡くなった父方の祖父母の家で暮らしていたが震災で2人が亡くなった後すぐに引き取られた。
「おばあちゃんおはよう!」
リビングで朝のニュース番組をつけた状態で新聞を読んでいた祖母は老眼鏡を外し、後ろのドアの前にいるユイアに話しかけた。
「おはよう、朝ごはんは食べていかないの?」
「大丈夫!友達と食べるからー!」
「分かったわ。いってらっしゃい。」
「いってきまーす!!」
ユイアは祖母に手を振ると靴を履き玄関を出た。この時点で集合時間の9時30分まであと5分だ。ユイアは考えた。集合場所の駅まで全力で走っても10分かかる。あと5分で駅に着く方法、考えた結果出した結論は1つ。
ユイアはバッグを開けた。中にはドライバーとメモリカセットが入っている。これを使えば5分もかからず駅に着くことができる。
「でも.......」
ユイアは首を横に振りバッグを閉じ全速力で走り出した。数分間の猛ダッシュ、途中で信号機に引っかかりながらようやく駅に着くとコンビニで買ったパンを食べながらスマホを触るアサヒが待っていた。
「もぐもぐ....ゆいあ~♪」
「ハァ....ハァ......遅くなってごめん........」
「2分の遅刻くらい平気だよ~ほらさっきコンビニでパンとジュース買ったから一緒に食べよ!」
「うっうん........ありがと。」
息を整えたユイアはアサヒから貰ったメロンパンを食べながら駅のホームをアサヒと一緒に歩いて乗り場まで向かっていた。
「寝坊しちゃったんだー珍しいね。」
「うん、私、休みの日は目覚まし時計をニチアサが始まる9時のちょっと前に設定しているんだけど今日は熟睡モードで寝坊しちゃったんだー」
「じゃあ変身してくればあっという間だったんじゃない?ほらあの赤い鷹の姿だったら飛んでさ!」
「それちょっと考えたんだけど.....なんかこういう自分のために使うのは違う気がして....走ることにしたの。」
「へ~ユイアってマっジメ~」
ユイアは少し真剣な表情を浮かべポケットに入れていたピンク色のメモリカセットを取り出し見つめた。「YOU ARE」そう書かれたメモリカセットに描かれたヒーローの複眼がじっとユイアを見つめているように思えた。
「この力はやっぱり人を助けるために使うべきだと思う。」
「すごい....ちょっと今のユイア、ヒーローっぽかった。」
「ほんと!?!」
ユイアは瞳を輝かせ嬉しそうにしながらポケットの中にメモリカセットを戻し残りのメロンパンをぺろりと完食した。
「ごちそうさま!」
「あと3分で電車来るよ!」
「よーし急ぐぞー!」
「「おー!!」」
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