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[2] エリアノーラ、勉強する

[2-1] 思っていた以上に

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 思っていた以上にまともなジュリア校長挨拶が早々に終了し、エリアノーラ達新入生はそれぞれの教室に案内された。ひとクラス四十人というところで、人間より淫魔の数の方が多いように見えた。席は淫魔と人間で二つに分かれ、教師の指示で名前順に並んだ。
 エリアノーラEleanoraはちょうど淫魔と人間の境の席に座ることになり、強張った顔で隣の様子を窺った。目の毒になるほど色香が滴る淫魔種族の中では比較的大人しい、柔らかな物腰の男子生徒だ。しかしその親しみやすさがかえって危うい場合もある、と、視線に気づいた男子生徒の微笑みを受け、エリアノーラは心臓を握りつぶされるような心地を覚えた。

 教室に聞こえるのは囁き声ばかりだ。教壇に立った淫魔の教師――こちらも目が眩む美貌の男性で、しっとりと濡れたような黒髪と緋色の目をしていた――は軽く手を叩き、今後の授業についての説明を始めた。

「初めまして。これから三年間担任を務める、イヴァン・ウィットフォードです。今年の新入生は例年とほぼ同じく、淫魔が六割、人間が四割となりました。淫魔の"吸精"の授業は四日に一度程度、夢でのみ行われます。夢であっても授業時間外の吸精は禁止、肉体的な性行為は完全禁止です。節度と理性を持った立派な淫魔を目指しましょう。
 人間の生徒は"餌"である以上に"レベッカ魔法学校の生徒"であることを覚えておくように。同意のない吸精は強姦と同義、普通に犯罪ですからね。容赦無く犯罪者扱いしましょう。
 ではジュリア校長が仰っていた通り、人間の生徒に"授業時間外の意に添わぬ性行為を防止する道具"を配布します」

 ウィットフォードが指を弾いた途端、人間の生徒達の前にふっと黒い小さな穴が現れ、そこから細い金属製の腕輪が放り出された。エリアノーラの腕には少し大きいように思われたが、輪の中に手を潜らせると、多少の身動きでは外れないが力を込めれば外れる程度のサイズに自然に調整された。

「これを装備しているうちはあらゆる性的接触や、淫魔の無意識による魅了効果さえ阻みます。普段は勿論、睡眠時や入浴時も外さないように。外すのは"吸精の授業"中、教師の管理下のみにしてください。自主的に外した場合は何が起きても"合意があった"として自己責任とみなされます。いいですね?
 では、これから今後の魔法の授業について説明します。教科書と予定表を配りますね――」



 ■ ■ ■ ■ ■



 思っていた以上にまともな今後の授業の説明が終わると、在校生が教室まで来て、エリアノーラ達新入生を寮へと案内した。エリアノーラ含む人間の女子生徒達を案内したのは一つ上の先輩にあたる人間の女子生徒で、基本的に四人部屋だった。それも思っていた以上にまともな、個人のクローゼットや机や柔らかそうなベッドがある、四人集まっても圧迫感を感じない部屋だ。
 荷ほどきや着替えをしながら、エリアノーラと同室の女子生徒は簡単な自己紹介をした。

 アガサ・リンドはとにかく快活で、自虐的になるでもなくあっけらかんと"小作人の娘"と名乗った。魔法学校に入学する資金はなく、お世辞にも希代の逸材とは言えない魔力では十分な奨学金も得られなかったが、レベッカ魔法学校ならに貧しい家庭の生徒には奨学金が出ると聞き、この学校に来たと話した。
 グレンダは穏やかな言葉遣いと優雅な所作がどことなく良いところのお嬢様のようだが、家名を名乗らず、また常時目が死んでいる。本来なら魅力的に映るはずの優雅さと儚さが、幽鬼の如き不気味さに変換されている。
 メラニー・マルサスは言葉少なで、近寄りがたい雰囲気があった。険のある眼差しでエリアノーラ達三人を見回し、さっさと背中を向けてしまった。

 日が暮れると、また上級生が部屋に訪れ、人間用の食堂に案内された。淫魔の生徒達とは食べるものが全く異なるため分かれているのだと上級生は説明した。
 出された食事は具の多いスープに白パン、焼きたてのミートパイにチーズタルトと、思っていた以上にまともだ。アガサは口いっぱいにミートパイをほおばりながら、散々エリアノーラが考え続けていた台詞と全く同じ言葉を呟いた。

「…なんかさ、思ってたより、まともな学校だね?」
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