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[1] エリアノーラ、入学する
[1-2] 入学しました
しおりを挟む役場の女性職員が言っていたように、試験や面談もなく、エリアノーラはレベッカ魔法学校に合格した。制服は新品が無料で数着届いた。教科書は入学後に一揃い、これも無料で渡されるそうで、魔国までの旅費や地図まで手配されていた。
至れり尽くせりの中でやたらに分厚い"淫魔育成に対する同意書"や"吸精の危険"をまとめた書類が余計禍々しく映った。けれど、少なくとも無知な人間を思うさま嬲るような学校ではないらしい、とエリアノーラは安堵した。なんて儚い希望だろう。
こうしてエリアノーラはレベッカ魔法学校の新入生として、狼の群れに自ら飛び込む羊の心持ちで、魔国へと旅だった。
■ ■ ■ ■ ■
魔国とは、鋼鉄の処女王イオネが数百年に渡って治めている、多くの魔族が集う国である。レベッカ魔法学校は首都から外れた、エリアノーラが生まれ育った人間国寄りの町ガスコインにあった。
ガスコインは人間国との交易が他の町よりさかんで、人間向けの店もよく見かけられる。しかし店の並びに"魔族の娼婦がいる、人間向けの"娼館と"人間の娼婦がいる、魔族向けの"娼館が堂々と看板を掲げているあたり、やはりここは魔国なのだとエリアノーラは目眩を覚えた。
入学式前日にガスコインに到着し、宿で一泊したエリアノーラは、多大な不安と少々の期待を持って学校へと向かった。
レベッカ魔法学校は白いレンガの壁と赤い屋根が印象的な巨大な学校だった。ステンドグラスのはまった小塔や、天高くのびるいくつもの美しい尖塔は、"淫魔育成"の建物とは思えない清廉さを感じさせる。というより、寧ろ人間国にある教会によく似ている。
入学が決まってからエリアノーラのもとに届いた、レベッカ魔法学校のパンフレット開くと、大昔に人間の教会を移築したと書かれていた。何度も増築や修繕を繰り返しているが、当時の姿を損なわないよう配慮しているらしい。
なんでも、魔国では芝居まで作られるほど有名な、人間と他種族の戦争当時にあった淫魔と神父の大恋愛の舞台となった歴史的価値のある教会らしい。ただしご丁寧に"※諸説あります"の注釈付き。
突っ込みたい部分は多々あるが、エリアノーラは全てを飲み込むことにした。エリアノーラは歴史や倫理を問いただしに来たのではなく、魔法を学びにきたいち生徒だ。真相は神のみが知っていればいい。
校舎の中にはすでに多くの新入生が集まっていて、職員もしくは在校生の誘導でホールへと移動していた。エリアノーラはその流れにのって進みながら周囲を見回す。魔族――というよりも淫魔の生徒と人間の生徒の違いは一目でわかった。あからさまに見た目や雰囲気の"色香"が違うのだ。もっと言えば、人間は不安そうに青ざめているものが多い。エリアノーラもまたその一人だと気づいていないが。
ホールには教員と数える程度の在校生しかおらず、ほとんど新入生だけが集められていた。しばらくしてステージ上になんとも悩ましい体つきをした妙齢の女性が現れ、真っ赤な唇で新入生に語りかけ始める。
「新入生の皆さん、はじめまして! 私は校長のジュリア。これから三年間よろしくね。この学校について詳細や規則については入学前に資料を配布したんだけど、読んでくれたかしら? 長々と話されてもつまらないだろうし、読んだ前提で、大事なトコだけ言わせてもらうわね。
淫魔の生徒達。学内での吸精は夢でのみ、基本的には吸精の授業中のみが原則よ。破れば厳重処分。悪質な場合は退校もありえるからね。この学校で学ぶことは社会での振る舞いを学ぶ意味もあるんだから、"自由"と"自己中心主義"をはき違えないように。
人間の生徒達。"餌"枠だなんて世間では言われてるし、実際淫魔達のために"教材"になってもらうんだけど、魔法学校として教えるべきことは教えます。授業での吸精も夢のみで、きちんと教師が監視しています。授業時間外の同意のない性行為から守るための道具も配布するわ。学内には人間の相談員もいるから、安心して勉強に励んでちょうだい」
耳に心地よい声が一旦止み、ジュリア校長は新入生達へ極上の微笑みを向けた。
「では最後に――ようこそ、レベッカ魔法学校へ。歓迎するわ、可愛い可愛い子供達」
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