終わりを願った者への鎮魂歌

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第一話 救う者と救われる者

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小さな病院の一室
 部屋の窓からは、光が差し込んでいる。
 その部屋には最低限の物だけが置かれており、ベッドの上には一人の男性が医療器具を付けられて寝ていた。
 そしてその男性の横から立って見下ろす気薄な者が一人だけいた…
 俺である。

 話は遡り数時間前
 俺は残業で会社から帰る途中で駅の階段から滑り落ち意識を失ってしまったのだった。
 その後気づいた時にはもうこの病室にいて、この部屋に寝かされていた。
 意識が戻った時、横には母さんがいて泣いていた。

「母さん…」

 母さんに声をかけるがこちらの問いに返事は無かった。
 聞こえていないのかと思いつつ、何度も声をかけたが一向に返事は無かった。
 さすがに変だと思い、母さんの手に手を伸ばすと
 母さんの手をすり抜けてしまった。
 ギョッとして、慌てて手を引っ込める。

「今…すり抜けたような?気のせい?」

 そして再度手を伸ばすがやはり掴もうとした手はすり抜けてしまい掴むことができない。
 一体何がおきているのか全く理解できなかった。
 試しに起き上がって自分のいた場所に目を向けるとそこには眠ったままの俺がいたのだ。
 そこでやっと自分の現状を理解することができた…
 俺は…幽体離脱しているとゆうことに気づいてしまった…
 病室にいた母さんは後から来た親父が連れて帰っていった。
 親父は泣き出しそうな顔をしながらも必死に堪えながら泣いていた母さんに「今日はもう帰ろう…」と言って連れて行ったのだった。
 そんな二人の背中をただ見ている事しかできなかった…。
 そして現在に至るのである。
 自分の身体に重なってみたり、目を瞑って「戻れ~戻れ~」と念を送ってみたりしてみたが全く効果がなく夜が明けてしまったのだった。
 正直手詰まりの状況だ。
 とゆうか自分の身体に戻る方法なんてわからないしこの状態じゃスマホも触れないし誰にしゃべりかけても聞こえないのだから他の人に頼ることもできない。
 詰んでる…このまま俺は地縛霊になってしまうのだろうかと眠る俺を見ながら本気で考えていた。
 眠っている俺の横には心拍数を測る機械と口に酸素を送るマスクが取り付けられていた。
 おそらく魂を身体に定着させなければ俺は身体が死ぬまで永遠にこのままだろう…
 けど戻る手段がない…このまま何もせずにその時を待つしかなさそうであった。

「もしもし~?困ってる?」

 突然誰もいない病室に声が響いた
 辺りを見渡すも誰もいない

「今…声が聞こえたんだけど…気のせいか?」

 遂に幻聴まで聞こえ始めてしまったのだろう。さすがに精神的にも相当参っているみたいだ。

「あれ?聞こえてるはずなんだけどなぁ?」

「もしもーし!25歳で彼女がいない趣味がネットサーフィンで最近仕事が彼女でもいいっかな?って思い始めちゃ
ってる若いのに悲しいサラリーマンの本間求ほんまもとむく~ん!」

 再び声が聞こえた…聞こえたのだが俺もしかしてバカにされてる?とゆうよりも喧嘩売ってるよねこれ?
 だがここでこの声に答えねばずっとこのままの状態だろう。
 俺はイラっとする感情を抑えながら声の主に対して問いかけた。

「えっと…聞こえてます。あなたは誰ですか?」

 その問いの返答が響く。

「よかった~!聞こえているようで何よりだよ~」

「僕はそうだね…君たちの世界で言う【神様】って奴かな」

 胡散臭い奴だな…まあ、でも今頼ることのできる唯一の存在だ。
 それに現状幽体離脱まで体験しているんだ。
 もう神様だろうと宇宙人だろうと何でも信じられる。

「神様って本当にいるんだ…神様お願いします。身体に戻る方法を教えてくれませんか?」

「今はむり」

 即答である。
 すごいね…全く迷いのない返答だった。
 てかなんでむりなんだろう?
 何か条件があるのかな?

って事は何か必要な事があるんですか?」

 俺は神様に問いかけたがどうやら先程とは違い簡単に答えが返ってこない。
 何か悩んでいるみたいだ…
 しばらく待つと返答が返ってきた。

「救ってほしい…いや違うかな?」

「救われてほしい奴がいるんだ」

 神様は先程とは打って変わり、妙に神妙な声色でそう語りかけてきていた。
 救われてほしい奴って誰なんだ?

「それは神様の知り合いなんですか?」

「そうだね…知り合いと言うよりか宿敵だね。それにもう死んでるんだけどね」

 そう言って神様は笑いながら話しかけてくる。

「どうだい?頼めるかな?」

 頼めるかなと言われても正直な話かなり困る。
 こっちはその知り合いの名前や居場所も分からなければ、既に死んでいるのだ。
 一体どうしろというのか…

「すみません…その方の名前とどこにいるのかとどうすればいいのかくらいは教えて欲しいんですが」

 神様は「ごめんごめん!忘れてたっけ」と言うと質問に対して答えてくれた。
 名前はウィー居場所はわからないらしい。けれども手掛かりとなる場所には送ってくれるらしい。
 そして本人は地縛霊みたいな者なので死んでいるからといって接触できないわけではないみたいだ。
 出会える保証もないみたいだけど…
 どのみち行くしかないだろう。他に手段は無いのだから。

「わかった。行ってくるよ」

 神様はその返答にただ小さな声で「ありがとう…」とだけ呟いた。
 なんか最初よりも随分しおらしい態度で神様っぽくないなとふと思ってしまった。とゆうか話しているうちにどんどん声に元気がなくなっているのだが。
 それに正直神様のイメージとは相当かけ離れているとゆうかもっと貫禄のある喋り方や、好々爺みたいなイメージを持っていた。
 まあ、しょせん人が勝手に想像したイメージだから違っててもおかしくはないのだが。

「じゃあ今からモー君を転移させるから頼んだよ」

 その声と同時に俺の周りから光が溢れてゆく。
 てかって…初対面で心の距離近づけすぎじゃない?
 まあ、いいんだけども
 やがて光に意識が飲まれ始めた時に不意に神様は俺に不吉なことを言いやがった。

「正直なところ人間送るのは初めてだから送ってる途中で死んじゃうかもしれないけど…」

「「無事を祈るよ!」」

 ちょっと待て…それは聞いてない

「ちなみに聞きたいんだけど何%の確率で成功するの?」

 神様は笑いながら「大丈夫大丈夫!必ず失敗するわけじゃないから!」と言いながら小さな声で「まあ、半分もないけど」と呟く。

「待った!中止!送るの一旦中止!」

 神様は制止の声も聞かず、「行くよ~」と言って止めない。

「待った!いや待ってください!待て!このぺ…」

 言い終わる前に転移は実行された。

「大丈夫…なら」

 眠る求の身体以外、誰もいなくなった部屋に独り言だけが響く…
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