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(裏)傷だらけのメシア 4
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誰かが呟いた言葉を耳にし、私も心の中で同じ疑問が浮かんでいることに気付いた。
あのレアちゃんをどう判断していいのか、もう私にもわからない。
見た目と、お母さんを心配する様子はレアちゃんでも、あんなにも強い。
それに、魔物だと思っていたのに、あの子は魔物と戦ってる。
混乱した頭を回転させようとしたけど、目に入ってくる光景の意味をなんとか解釈しようとするだけで、私の頭は精いっぱいだった。
躱しきれないほどの魔物の攻撃を受け、体中から血を流して戦っているあの子。
すごい速さと巻き上がる砂埃のせいで、目で追いつかない程の激しい戦い。
私は自然と溢れてくる、嬉しさとも悲しさとも判断がつかないような気持ちを、どうすればいいのかわからないまま、戦いの行方をジッと見守っていた。
あの子が攻撃を避け損なって傷を作り、その表情が苦痛に歪むのを見る度、形容し難い感情が私の心を揺さぶった。
ヒクヒクと漏れ出そうになる声を噛み殺しながら、あの子を必死に目で追う。
あの子が手を振り下ろすと、切り落とされた魔物の腕がくるくると回転しながら飛び、先端の鋭い爪が地面に突き立った。
片腕になって怒った魔物がものすごい勢いであの子に突進していき、私は思わず手をグッと握りしめて息をのむ。
ぶつかる! と思った瞬間、あの子はくるりと横に身をひるがえして、それとほぼ同時に魔法の刃を振り下ろした。
魔物があの子の横を通り過ぎ、突進した勢いのまま何歩か進んだところで、徐々に速度が落ちていく。
勢いが衰え、のそのそと歩く程度になった魔物の顔がずるりと地面に落ちた。
顔の無くなった魔物が、切断された頭蓋骨からドボドボと脳みそを散らしながら数歩足を進めたが、肺から抜けた空気が「ブシュー!」と音を立て、むき出しになった喉から血しぶきを飛ばし、そのままドサッと地面に倒れた。
動かなくなった魔物に目も向けず、襲い掛かる別の魔物の攻撃を次々とあの子が躱している。
「倒……した……のか?」
髭の兵隊さんが驚いたような表情で呟くと、周囲の空気が明らかに変わった。
たったひとりで魔物の群れと戦い、それを倒せる人間が今ここにいる。
その事実は私たちにとってまぎれもなく希望だった。
私も目の前の光景に心奪われ、目を離せないでいるうちに、心に残っていた疑問はいつしか掻き消えてしまっていた。
あの子は何……ううん、あの子が何者かなんて関係ない!
魔物と戦うあの子を見ていて、私は自分の気持ちに気付いた。
私はあの子が心配だ。
あの子が傷つくのがただ恐かった。
魔物に負けないで助かってほしい。
あの子を信じる理由なんて私にはもう必要なかった。
あの子が心配だから信じる、信じたいから信じる。
感情のままに決めた、私の命を懸けたわがままだ。
再び視線を戻し、レアちゃんを凝視する。
もしかしたら加勢が必要になるかもしれない……。
戦いがさらに激しさを増し、魔物たちの動きはどんどん鋭くなっていく。
逆にレアちゃんの足運びは、少しずつたどたどしくなっていくのがはっきりと見てとれた。
疲れてるんだ……。
「レアちゃん……」
心配する声がつい口から漏れ出る。
すると髭の兵隊さんが私に声をかけてきた。
「君はあの子のことを知っているのか!?」
横から強く肩をつかまれて少し痛い。
「は……はい。私の友達の……レアちゃんです」
「レア……こんな辺境の開拓村にこれほどの使い手がいるとは……しかもあんなに幼い娘……信じられん……あれはまるで……」
髭の兵隊さんはそこで言葉を切り、戦いに視線を戻した。
私はレアちゃんの疲労のことで何かできないかと、兵隊さんに切り出した。
「あの! レアちゃん疲れてるきてるみたいで!……その……加勢……を……」
なれない大人の男の人との会話に、つい声が小さくなってしまう。
けど髭の兵隊さんは私の言いたいことをすぐに察してくれた。
「……いや……やめた方がよかろう。あの速さの戦いに我々はだれもついて行けん。下手な味方の魔法は邪魔にしかならんだろう。あの子に当ててしまうかもしれない」
兵隊さんも私と同じでレアちゃんを助けることを考えていたようで、すぐに答えが返ってきたけど、その返答を聞いて私は肩を落とした。
「そんな……レアちゃん……」
私は落胆しつつ、戦いに視線を戻すと、大きく口を開け肩で呼吸しているレアちゃんの様子が見えた。
空振りした魔物の爪にえぐられて、でこぼこになった地面が、レアちゃんの体力を奪っている。
歯痒い……。
レアちゃんが跳ぶ度、魔物を切りつける度、何をすることもできない私の手足にもグッと力が入る。
心なしかよろめきながら戦っているように見えるレアちゃんが、また魔物の腕を切り飛ばした。
2本目の腕を切断され両腕を失った魔物が、やぶれかぶれで咬みつこうとしたのか、レアちゃんに飛びついた。
けど、素早く反応したレアちゃんは、向かってくる魔物の口に魔法の刃を刺し込み、口から背中に刃が貫通した魔物は、切り裂かれた喉で叫びにならない悲痛な声をあげ、そのままレアちゃんに寄りかかるようにだらりと倒れて動かなくなった。
レアちゃんはズルッと魔物の口から刃を引き抜くと、再び飛びかかってきた別の魔物の攻撃を素早く跳んで避ける。
校庭には2匹の魔物の死体と、レアちゃんが攻撃を躱しながら切り落とした魔物の腕が、数本ゴロリと散らばっていた。
あのレアちゃんをどう判断していいのか、もう私にもわからない。
見た目と、お母さんを心配する様子はレアちゃんでも、あんなにも強い。
それに、魔物だと思っていたのに、あの子は魔物と戦ってる。
混乱した頭を回転させようとしたけど、目に入ってくる光景の意味をなんとか解釈しようとするだけで、私の頭は精いっぱいだった。
躱しきれないほどの魔物の攻撃を受け、体中から血を流して戦っているあの子。
すごい速さと巻き上がる砂埃のせいで、目で追いつかない程の激しい戦い。
私は自然と溢れてくる、嬉しさとも悲しさとも判断がつかないような気持ちを、どうすればいいのかわからないまま、戦いの行方をジッと見守っていた。
あの子が攻撃を避け損なって傷を作り、その表情が苦痛に歪むのを見る度、形容し難い感情が私の心を揺さぶった。
ヒクヒクと漏れ出そうになる声を噛み殺しながら、あの子を必死に目で追う。
あの子が手を振り下ろすと、切り落とされた魔物の腕がくるくると回転しながら飛び、先端の鋭い爪が地面に突き立った。
片腕になって怒った魔物がものすごい勢いであの子に突進していき、私は思わず手をグッと握りしめて息をのむ。
ぶつかる! と思った瞬間、あの子はくるりと横に身をひるがえして、それとほぼ同時に魔法の刃を振り下ろした。
魔物があの子の横を通り過ぎ、突進した勢いのまま何歩か進んだところで、徐々に速度が落ちていく。
勢いが衰え、のそのそと歩く程度になった魔物の顔がずるりと地面に落ちた。
顔の無くなった魔物が、切断された頭蓋骨からドボドボと脳みそを散らしながら数歩足を進めたが、肺から抜けた空気が「ブシュー!」と音を立て、むき出しになった喉から血しぶきを飛ばし、そのままドサッと地面に倒れた。
動かなくなった魔物に目も向けず、襲い掛かる別の魔物の攻撃を次々とあの子が躱している。
「倒……した……のか?」
髭の兵隊さんが驚いたような表情で呟くと、周囲の空気が明らかに変わった。
たったひとりで魔物の群れと戦い、それを倒せる人間が今ここにいる。
その事実は私たちにとってまぎれもなく希望だった。
私も目の前の光景に心奪われ、目を離せないでいるうちに、心に残っていた疑問はいつしか掻き消えてしまっていた。
あの子は何……ううん、あの子が何者かなんて関係ない!
魔物と戦うあの子を見ていて、私は自分の気持ちに気付いた。
私はあの子が心配だ。
あの子が傷つくのがただ恐かった。
魔物に負けないで助かってほしい。
あの子を信じる理由なんて私にはもう必要なかった。
あの子が心配だから信じる、信じたいから信じる。
感情のままに決めた、私の命を懸けたわがままだ。
再び視線を戻し、レアちゃんを凝視する。
もしかしたら加勢が必要になるかもしれない……。
戦いがさらに激しさを増し、魔物たちの動きはどんどん鋭くなっていく。
逆にレアちゃんの足運びは、少しずつたどたどしくなっていくのがはっきりと見てとれた。
疲れてるんだ……。
「レアちゃん……」
心配する声がつい口から漏れ出る。
すると髭の兵隊さんが私に声をかけてきた。
「君はあの子のことを知っているのか!?」
横から強く肩をつかまれて少し痛い。
「は……はい。私の友達の……レアちゃんです」
「レア……こんな辺境の開拓村にこれほどの使い手がいるとは……しかもあんなに幼い娘……信じられん……あれはまるで……」
髭の兵隊さんはそこで言葉を切り、戦いに視線を戻した。
私はレアちゃんの疲労のことで何かできないかと、兵隊さんに切り出した。
「あの! レアちゃん疲れてるきてるみたいで!……その……加勢……を……」
なれない大人の男の人との会話に、つい声が小さくなってしまう。
けど髭の兵隊さんは私の言いたいことをすぐに察してくれた。
「……いや……やめた方がよかろう。あの速さの戦いに我々はだれもついて行けん。下手な味方の魔法は邪魔にしかならんだろう。あの子に当ててしまうかもしれない」
兵隊さんも私と同じでレアちゃんを助けることを考えていたようで、すぐに答えが返ってきたけど、その返答を聞いて私は肩を落とした。
「そんな……レアちゃん……」
私は落胆しつつ、戦いに視線を戻すと、大きく口を開け肩で呼吸しているレアちゃんの様子が見えた。
空振りした魔物の爪にえぐられて、でこぼこになった地面が、レアちゃんの体力を奪っている。
歯痒い……。
レアちゃんが跳ぶ度、魔物を切りつける度、何をすることもできない私の手足にもグッと力が入る。
心なしかよろめきながら戦っているように見えるレアちゃんが、また魔物の腕を切り飛ばした。
2本目の腕を切断され両腕を失った魔物が、やぶれかぶれで咬みつこうとしたのか、レアちゃんに飛びついた。
けど、素早く反応したレアちゃんは、向かってくる魔物の口に魔法の刃を刺し込み、口から背中に刃が貫通した魔物は、切り裂かれた喉で叫びにならない悲痛な声をあげ、そのままレアちゃんに寄りかかるようにだらりと倒れて動かなくなった。
レアちゃんはズルッと魔物の口から刃を引き抜くと、再び飛びかかってきた別の魔物の攻撃を素早く跳んで避ける。
校庭には2匹の魔物の死体と、レアちゃんが攻撃を躱しながら切り落とした魔物の腕が、数本ゴロリと散らばっていた。
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