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112,成りすまし中。
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《擬態Lv.1》とは、
『スキル発動者、またはパーティ仲間を、一人まで擬態化させる。第三者からの視線内において、擬態対象に姿形が見えるようになる。見えるだけなので、触れるなどすると発覚される。またスキル発動者が、擬態対象を視認しておく必要がある』。
バードン大神官のことは頭部が吹っ飛ぶ前に、ちゃんと視認しておいたので、問題なし。
さっそく《擬態Lv.1》を発動。
ただし、第三者ではない私には、サンディさんはサンディさんのままに見える。これが第三者からは、すでにバードン大神官に見えているはずだ。
その後、本物のバードン大神官の死体は、豚に食べさせることにした。
はじめは庭に埋めるつもりだった。ところがサンディさんが邸宅の予定表を確認したところ、近々プール工事で庭を掘り返す予定だという。庭を掘り返されたら死体が発覚するので、こうなると跡形もなく消すのが一番、ということになった。
さっそくサンディさんが、深夜ながらも『バードン大神官』として、使用人を呼び出し、『5匹の腹を空かせた豚を連れてくるように』と命令。
30分後、寝室に連れ込まれた5匹の腹を空かせた豚。人払いしてから、本物のバードン大神官の死体を与える。
「うわぁ、ムシャムシャ食べるものだね、アリアちゃん」
「豚さんは雑食なのです」
「豚さんは偉いんだねぇ…………ねぇ、アリアちゃん。この豚さんたち、バードン死体を食べたあとはどうすればいいの? 飼うの?」
「食用豚のようですから、最終的には晩御飯にするのが良いかと。ただしバードンさんを消化し終わってからにしましまょうね。料理人が驚きます」
死体処理が終わったところで、ひとまず私は邸宅を出ることにした。サンディさんまでついて来ようとするので、「こらこら、バードン大神官でしょサンディさんは」と注意する。
サンディさん、照れ笑いしながら寝室に戻る。
私は聖都内で宿を取り、かび臭い枕で爆睡した。
翌日。聖都内を探索し、ローズ教直列の病院を見つける。先日の黒騎士さんたちが治療を受けていた。彼らがバードン大神官の元に戻ると、サンディさんの成りすましに気づくかもしれない。そこで、入院期間を長くしてもらうことにした。
《視界滅界》発動で誰の視界にも入らなくしてから、大急ぎ。ベッドに横たわっている黒騎士さんたちの膝を、〈スーパーコンボ〉で、作業的に粉砕していく。
全てが終わったときには、病室内は阿鼻叫喚が渦巻いていた。これで当分は、退院できないだろう。
一仕事を終えたので、バードン大神官の邸宅へ行く。
使用人には気づかれないようにして、邸宅の奥へと進む。サンディさんは、サウナにいた。まったりしながら、赤ワインをちびちび飲んでいる。
「あ、アリアちゃん。カブ冒険者ギルドに戻ったら、本拠地にもサウナを設置するよう進言しようかなぁ。疲れが癒されるよ~これ」
「サウナの中でお酒を飲むのは身体に悪そうですけど」
「その反対だって。血行がよくなって、健康増進だよ、知らないけど。あ、そんなことより、午前中は寿命が縮むところだったよ。神殿に行って、朝のお祈りとやらをしていたんだけどね。うんジャスミン教の私が、ローズ教のお祈りをするハメになるなんてねぇ。
とにかく、そうしたら、まさかまさかだよ。なんと、女帝陛下がいらっしゃったんだよ~。もう心臓がとまるかと思った。だけど知らなかったよ。アリアちゃんのお友達だったんだね」
私は小首を傾げた。
「ラザ帝国の女帝さんと? 知りませんよ、私」
「え、そうなの? だって、神殿に来たとたん、這いつくばって──分かるかな、アリアちゃん? おそらく人間枠でいうならば、この世界で最大の権力者である女帝陛下が、目の前で這いつくばってきたときの衝撃が」
「這いつくばって、何をされたんです?」
「うーん。変な話なんだけども、匂いをかいでた。くんくん、と。そして『アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃーん!』と感動に打ち震えていた。たぶん、アリアちゃんの残り香でも嗅いでいたんだと思うんだけど。ほら、昨日はアリアちゃんも、神殿に行っているでしょ」
「……………………………………残り香をくんくん。私、そんな変態さんと知り合いではありません」
「ふーん。おかしなこともあるものだねぇ」
そういえば、前にもこんなことがあった。ラザ帝国の女帝さんは、私のことを知っているのだろうか。そのうちハッキリさせたい謎かもしれないけど、優先順位は凄い低い。
「それより、偽女神からのご神託はなかったんですか?」
「ないよ。かわりに、暗殺者が来た」
「女帝さんに暗殺者さんですか。サンディさん──というか、バードン大神官も、けっこうお忙しいんですね」
「本物のバードン大神官だったら、〈未来予知〉スキルがあったから、それほどでもなかったんじゃないかなぁ。女帝陛下がいらっしゃるのも、暗殺者襲来も、事前に分かっていたら心の準備ができるよね」
「その暗殺者さんというのは、いまどちらに?」
のんびりしているサンディさんだが、〈魔統武器〉である聖杖〈愛と抱擁〉は武装Lv.1022。すでに人外の域に到達しており、暗殺者がどんな手を使ってこようとも、まず涼しい顔で撃退したことは確実なのだ。
「いまは地下に入れてあるよ」
「地下ですか」
サンディさんは、困ったものだという表情で、
「バードン大神官、自宅の地下に拷問室なんか持っていたんだよ。ワインセラーのお隣に」
『スキル発動者、またはパーティ仲間を、一人まで擬態化させる。第三者からの視線内において、擬態対象に姿形が見えるようになる。見えるだけなので、触れるなどすると発覚される。またスキル発動者が、擬態対象を視認しておく必要がある』。
バードン大神官のことは頭部が吹っ飛ぶ前に、ちゃんと視認しておいたので、問題なし。
さっそく《擬態Lv.1》を発動。
ただし、第三者ではない私には、サンディさんはサンディさんのままに見える。これが第三者からは、すでにバードン大神官に見えているはずだ。
その後、本物のバードン大神官の死体は、豚に食べさせることにした。
はじめは庭に埋めるつもりだった。ところがサンディさんが邸宅の予定表を確認したところ、近々プール工事で庭を掘り返す予定だという。庭を掘り返されたら死体が発覚するので、こうなると跡形もなく消すのが一番、ということになった。
さっそくサンディさんが、深夜ながらも『バードン大神官』として、使用人を呼び出し、『5匹の腹を空かせた豚を連れてくるように』と命令。
30分後、寝室に連れ込まれた5匹の腹を空かせた豚。人払いしてから、本物のバードン大神官の死体を与える。
「うわぁ、ムシャムシャ食べるものだね、アリアちゃん」
「豚さんは雑食なのです」
「豚さんは偉いんだねぇ…………ねぇ、アリアちゃん。この豚さんたち、バードン死体を食べたあとはどうすればいいの? 飼うの?」
「食用豚のようですから、最終的には晩御飯にするのが良いかと。ただしバードンさんを消化し終わってからにしましまょうね。料理人が驚きます」
死体処理が終わったところで、ひとまず私は邸宅を出ることにした。サンディさんまでついて来ようとするので、「こらこら、バードン大神官でしょサンディさんは」と注意する。
サンディさん、照れ笑いしながら寝室に戻る。
私は聖都内で宿を取り、かび臭い枕で爆睡した。
翌日。聖都内を探索し、ローズ教直列の病院を見つける。先日の黒騎士さんたちが治療を受けていた。彼らがバードン大神官の元に戻ると、サンディさんの成りすましに気づくかもしれない。そこで、入院期間を長くしてもらうことにした。
《視界滅界》発動で誰の視界にも入らなくしてから、大急ぎ。ベッドに横たわっている黒騎士さんたちの膝を、〈スーパーコンボ〉で、作業的に粉砕していく。
全てが終わったときには、病室内は阿鼻叫喚が渦巻いていた。これで当分は、退院できないだろう。
一仕事を終えたので、バードン大神官の邸宅へ行く。
使用人には気づかれないようにして、邸宅の奥へと進む。サンディさんは、サウナにいた。まったりしながら、赤ワインをちびちび飲んでいる。
「あ、アリアちゃん。カブ冒険者ギルドに戻ったら、本拠地にもサウナを設置するよう進言しようかなぁ。疲れが癒されるよ~これ」
「サウナの中でお酒を飲むのは身体に悪そうですけど」
「その反対だって。血行がよくなって、健康増進だよ、知らないけど。あ、そんなことより、午前中は寿命が縮むところだったよ。神殿に行って、朝のお祈りとやらをしていたんだけどね。うんジャスミン教の私が、ローズ教のお祈りをするハメになるなんてねぇ。
とにかく、そうしたら、まさかまさかだよ。なんと、女帝陛下がいらっしゃったんだよ~。もう心臓がとまるかと思った。だけど知らなかったよ。アリアちゃんのお友達だったんだね」
私は小首を傾げた。
「ラザ帝国の女帝さんと? 知りませんよ、私」
「え、そうなの? だって、神殿に来たとたん、這いつくばって──分かるかな、アリアちゃん? おそらく人間枠でいうならば、この世界で最大の権力者である女帝陛下が、目の前で這いつくばってきたときの衝撃が」
「這いつくばって、何をされたんです?」
「うーん。変な話なんだけども、匂いをかいでた。くんくん、と。そして『アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃーん!』と感動に打ち震えていた。たぶん、アリアちゃんの残り香でも嗅いでいたんだと思うんだけど。ほら、昨日はアリアちゃんも、神殿に行っているでしょ」
「……………………………………残り香をくんくん。私、そんな変態さんと知り合いではありません」
「ふーん。おかしなこともあるものだねぇ」
そういえば、前にもこんなことがあった。ラザ帝国の女帝さんは、私のことを知っているのだろうか。そのうちハッキリさせたい謎かもしれないけど、優先順位は凄い低い。
「それより、偽女神からのご神託はなかったんですか?」
「ないよ。かわりに、暗殺者が来た」
「女帝さんに暗殺者さんですか。サンディさん──というか、バードン大神官も、けっこうお忙しいんですね」
「本物のバードン大神官だったら、〈未来予知〉スキルがあったから、それほどでもなかったんじゃないかなぁ。女帝陛下がいらっしゃるのも、暗殺者襲来も、事前に分かっていたら心の準備ができるよね」
「その暗殺者さんというのは、いまどちらに?」
のんびりしているサンディさんだが、〈魔統武器〉である聖杖〈愛と抱擁〉は武装Lv.1022。すでに人外の域に到達しており、暗殺者がどんな手を使ってこようとも、まず涼しい顔で撃退したことは確実なのだ。
「いまは地下に入れてあるよ」
「地下ですか」
サンディさんは、困ったものだという表情で、
「バードン大神官、自宅の地下に拷問室なんか持っていたんだよ。ワインセラーのお隣に」
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