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108,『害意緩和』。
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牢屋の扉を壊し、ついで足枷も外してクラウディアさんを救出。
基本的にクラウディアさんは未来予知特化型のようで、自力脱出する手段はなかったようだ。または、この状態でも出し惜しみしていたとか。後者ならば、なかなか粘り強い策士。
「しかし、大人しく監獄に入れられるなんて。クラウディアさん、自慢の〈未来予知〉スキルはどうしたんですか?」
「うむ。トロッコ問題というのがあるじゃろ。どっちにレール切り替えしても、悲劇は起きるものなのじゃ」
ふーむ、なるほど。〈未来予知〉が起きた時点で、しかしどう回避ルートをとっても、何らかのダメージが発生する場合。ダメージ最小限を選ぶというのが、最善策となる。つまりクラウディアさんの今回の場合の最小ダメージは、監獄送りだったと。
ところでサンディさんがいない。
私の《視界不良》をかけた状態で、看守が来ないかを見張っていてもらったのだけど。まさか発見された? 《視界不良》は万能ではないけど、相手は看守レベルなので、鼻先で裸踊りでもしなければ気づかれないはず。
うーむ。しかしサンディさんは、ときおり私の想定を超えてくることがある。
ひとまずクラウディアさんにも《視界不良》をかけてから、サンディさん捜索に切り替える。その途中、私はあることに気づいた。もっと早くに気づくべきだった可能性だけどもね。
「クラウディアさん。もしかして、私が救出しにくることも、未来予知していましたか?」
「お主、〈未来予知〉スキルが万能でないことは知っているじゃろうに」
「とはいえ、どこまで未来予知できるのかは、私も知らないわけですよ。クラウディアさんは監獄で時間だけはたっぷりあったんですから、私がどう出てくるかも未来予知できたはずですよね」
「そう思うのか?」
「または──または、〈未来予知〉スキル持ちが、同じ領域に二人いると、お互いに効果を消し合うとか? 相殺現象とでも呼びますか」
クラウディアさんが未来予知し、『A』状態の未来を見て、それに対処するため『B』という対抗行動をとることにする。
ところがクラウディアさんと敵対する未来予知の巫女さんは、クラウディアさんの『B』策を未来予知して、それに対抗するため『C』策を取るが、もちろんクラウディアさんはその『C』策を未来予知したので、では『D』策を取ってやるぜ──
と、これが繰り返されれば、きりがない。
永遠に思考ゲームしているようなもので。そして切りがないのならば、それはどうなるのだろう。延々と未来予知バトルが行われるのかな? または未来予知スキルのほうが匙を投げて、完全に無効化されるのか。
「お主、随分と察しが良いようじゃな。いや、自然に考えれば分かることかもしれんが。まさしく、その通りじゃ。じゃが、相殺とはいかんな。わらわの〈未来予知〉スキルは、あやつには及ばぬ。せいぜい、あやつの〈未来予知〉スキルの妨害をしている程度じゃな」
クラウディアさんの言葉を信じるならば──黒騎士たちで罠を仕掛けてきた『クラウディアさんの敵』の〈未来予知〉スキルは、劣化どころか、進化版ということかぁ。いよいよ、そのスキルが欲しいなぁ。だけど、クラウディアさんのような美少女さんから、人体素材を採取するのは、鬼畜だもんなぁ。
「ところでクラウディアさん。あなたの地位を奪い、この監獄にぶちこんでしまった敵の巫女さんですが──」
「巫女じゃと? あやつは巫女ではない。そもそも男じゃしな。名は、バードン。ローズ教の大神官じゃな」
「わぁ」
男ならば、私が人体素材を採取するのに、ためらう理由はなくなったのである。
その後──
無事に、サンディさんを発見。看守さんたちと賭けポーカーをしており、すっかり巻き上げられているところだった。
看守たちから発見されない場所から、私たちは見守っていた。クラウディアさんが小声で言ってくる。
「あの女は、なんじゃ? お主の仲間なのか? ジョブは、ギャンブラーのようじゃな。あんまり強くはなさそうじゃが」
「いえ、あの人のジョブは、修道女──のはずなんですけどねぇ。だって、いまも修道女の服を着ているでしょ?」
「おお、コスプレかと思ったぞ」
状況が分からなかったので、サンディさんは置いて、先にエルン監獄を後にした。しばらく外で待っていたら、サンディさんも出てくる。看守さんたちに見送られて。
「何をしていたんですか、サンディさん?」
「うーん、ごめんねアリアちゃん。看守たちに見つかちゃってさ。だけど彼らは、わたしのことを迷った観光客と思い込んで。そのあと、なんやかやで賭けポーカーして、大負けした。うー、哀しい」
サンディさんって、凄い才能があるのかもしれない。サンディさんが発している、この『私は無害です』というオーラ。立入禁止の区画にいたサンディさんを、看守たちは『迷い込んだ無害な観光客』と、勝手に思い込むなんて。
これは──ただのサンディさんの性質だろうか? いや、そうではないぞ。
「サンディさん! 一体、聖杖〈愛と抱擁〉のスキルツリーで、どんな効果パネルを解放してあるんですか?」
「え? あー、それ? 他人ともめ事とか起こすとストレスだからさ。事前に対処するため、『害意緩和』というパネルを解放してあるよ。つまり、他人からのネガティブな感情をできるだけ抑制するパネル──いまの解放Lv.は25だけど。もっとレベル上げしたいよねっ!」
基本的にクラウディアさんは未来予知特化型のようで、自力脱出する手段はなかったようだ。または、この状態でも出し惜しみしていたとか。後者ならば、なかなか粘り強い策士。
「しかし、大人しく監獄に入れられるなんて。クラウディアさん、自慢の〈未来予知〉スキルはどうしたんですか?」
「うむ。トロッコ問題というのがあるじゃろ。どっちにレール切り替えしても、悲劇は起きるものなのじゃ」
ふーむ、なるほど。〈未来予知〉が起きた時点で、しかしどう回避ルートをとっても、何らかのダメージが発生する場合。ダメージ最小限を選ぶというのが、最善策となる。つまりクラウディアさんの今回の場合の最小ダメージは、監獄送りだったと。
ところでサンディさんがいない。
私の《視界不良》をかけた状態で、看守が来ないかを見張っていてもらったのだけど。まさか発見された? 《視界不良》は万能ではないけど、相手は看守レベルなので、鼻先で裸踊りでもしなければ気づかれないはず。
うーむ。しかしサンディさんは、ときおり私の想定を超えてくることがある。
ひとまずクラウディアさんにも《視界不良》をかけてから、サンディさん捜索に切り替える。その途中、私はあることに気づいた。もっと早くに気づくべきだった可能性だけどもね。
「クラウディアさん。もしかして、私が救出しにくることも、未来予知していましたか?」
「お主、〈未来予知〉スキルが万能でないことは知っているじゃろうに」
「とはいえ、どこまで未来予知できるのかは、私も知らないわけですよ。クラウディアさんは監獄で時間だけはたっぷりあったんですから、私がどう出てくるかも未来予知できたはずですよね」
「そう思うのか?」
「または──または、〈未来予知〉スキル持ちが、同じ領域に二人いると、お互いに効果を消し合うとか? 相殺現象とでも呼びますか」
クラウディアさんが未来予知し、『A』状態の未来を見て、それに対処するため『B』という対抗行動をとることにする。
ところがクラウディアさんと敵対する未来予知の巫女さんは、クラウディアさんの『B』策を未来予知して、それに対抗するため『C』策を取るが、もちろんクラウディアさんはその『C』策を未来予知したので、では『D』策を取ってやるぜ──
と、これが繰り返されれば、きりがない。
永遠に思考ゲームしているようなもので。そして切りがないのならば、それはどうなるのだろう。延々と未来予知バトルが行われるのかな? または未来予知スキルのほうが匙を投げて、完全に無効化されるのか。
「お主、随分と察しが良いようじゃな。いや、自然に考えれば分かることかもしれんが。まさしく、その通りじゃ。じゃが、相殺とはいかんな。わらわの〈未来予知〉スキルは、あやつには及ばぬ。せいぜい、あやつの〈未来予知〉スキルの妨害をしている程度じゃな」
クラウディアさんの言葉を信じるならば──黒騎士たちで罠を仕掛けてきた『クラウディアさんの敵』の〈未来予知〉スキルは、劣化どころか、進化版ということかぁ。いよいよ、そのスキルが欲しいなぁ。だけど、クラウディアさんのような美少女さんから、人体素材を採取するのは、鬼畜だもんなぁ。
「ところでクラウディアさん。あなたの地位を奪い、この監獄にぶちこんでしまった敵の巫女さんですが──」
「巫女じゃと? あやつは巫女ではない。そもそも男じゃしな。名は、バードン。ローズ教の大神官じゃな」
「わぁ」
男ならば、私が人体素材を採取するのに、ためらう理由はなくなったのである。
その後──
無事に、サンディさんを発見。看守さんたちと賭けポーカーをしており、すっかり巻き上げられているところだった。
看守たちから発見されない場所から、私たちは見守っていた。クラウディアさんが小声で言ってくる。
「あの女は、なんじゃ? お主の仲間なのか? ジョブは、ギャンブラーのようじゃな。あんまり強くはなさそうじゃが」
「いえ、あの人のジョブは、修道女──のはずなんですけどねぇ。だって、いまも修道女の服を着ているでしょ?」
「おお、コスプレかと思ったぞ」
状況が分からなかったので、サンディさんは置いて、先にエルン監獄を後にした。しばらく外で待っていたら、サンディさんも出てくる。看守さんたちに見送られて。
「何をしていたんですか、サンディさん?」
「うーん、ごめんねアリアちゃん。看守たちに見つかちゃってさ。だけど彼らは、わたしのことを迷った観光客と思い込んで。そのあと、なんやかやで賭けポーカーして、大負けした。うー、哀しい」
サンディさんって、凄い才能があるのかもしれない。サンディさんが発している、この『私は無害です』というオーラ。立入禁止の区画にいたサンディさんを、看守たちは『迷い込んだ無害な観光客』と、勝手に思い込むなんて。
これは──ただのサンディさんの性質だろうか? いや、そうではないぞ。
「サンディさん! 一体、聖杖〈愛と抱擁〉のスキルツリーで、どんな効果パネルを解放してあるんですか?」
「え? あー、それ? 他人ともめ事とか起こすとストレスだからさ。事前に対処するため、『害意緩和』というパネルを解放してあるよ。つまり、他人からのネガティブな感情をできるだけ抑制するパネル──いまの解放Lv.は25だけど。もっとレベル上げしたいよねっ!」
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