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107,カジノ。

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 神殿をあとにして、まずサンディさんと合流することにした。



 しかしサンディさんを回収するにも時間がかかった。てっきり酒場にいるのかと思ったら、もっと悪いことにカジノにいた。泣きながらひざまずいて、床を叩いている。



「アリアちゃぁぁぁぁん! 身ぐるみはがされたよぉぉぉぉ!」



 修道女というのは、堕落した生き物なのかもしれない。というか、サンディさん、やはりコスプレ疑惑。



「……行きますよ、サンディさん。知り合いの巫女が監獄にいるようなので救出して、いろいろと聞き出さないと。すべては【覇王魔窟】攻略のためです」



「このままじゃ、このままじゃ、私の気がすまないよ! アリアちゃぁぁぁん!」



「私にどうして欲しいんですか?」



 サンディさんが、私の腕をがしっとつかむ。



「私が負けた分を、取り戻してきて!!」



「……」



 人は、ひとつのものにしか中毒にはなれない。仮に私が【覇王魔窟】中毒だというのならば、ここでギャンブルをしてもハマることはないだろう。すると逆説的に、時間の無駄ということになる。まぁ、少しならやってみようか。

 手持ちの全額を、カジノコインに変えてもらい、サンディさんにもたせる。



「ふーむ。しかし、肝心のゲームのルールが分かりません」



「いちばん単純なのは、ルーレットかな。ディーラーが回転する円盤に球を投げ入れるから、プレイヤーのアリアちゃんは落ちる場所ポケットを当てるだけ。ベット(賭け)はわたしがするから、アリアちゃんは──当ててっっ!!!」



 それは、〈未来予知〉スキルが必要なのでは? 

 ふいに神のイカズチを食らったような気分になった。

 まさしく、それだ。〈攻略不可能体〉のチートスキルへの唯一の対抗策は、〈未来予知〉することに違いない。

 少なくとも、どのような初見殺しスキルかを、漠然とでも予知できたならば、こちらの勝率は一気に持ち直すというものだ。



 問題は、どうやって〈未来予知〉の領域をスキルツリー開拓するのか。クラウディアさんから素材を取るわけにはいかないし。

 しかし、クラウディアさんの後釜となった巫女さんも、劣化版とはいえ〈未来予知〉スキルを使えるではないか。

 欲しい。その人体素材が、凄く、凄く欲しい。もちろん、その人体素材を得たからといって【予知領域】が出現するかは分からないけれど。それでも、ああ私は欲しいのだ。



「アリアちゃん! どこにベットするの! ここは配当36倍の1目賭けでいくよ!!」



 ふむ。ベットのタイミングは、ディーラーさんが球を投げ入れた直後でもいいのか。では投げ入れた角度と速度から、だいたい最後に落ちるポケットは読みこめる。



「5ですサンディさん」



「よっしゃ!」



 球が5のポケットに落ちた。サンディさんが「ふんぎゃぁぁぁあああぁぁ!!」という、変てこな声で歓びを表現する。それから3連続で1目賭けを当てたところで、コインを換金してもらうことにした。 

 そのさい、カジノ側の強面なスタッフ(用心棒?)がやって来たが、私の持つ魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を見るなり、顔を青くして立ち去った。



 サンディさんがくすくすと笑う。



「いまの人、カジノオーナーの指示で来たんだね。アリアちゃんがイカサマをしたものと思い込んで、痛い目にあわせようとした。だけどアリアちゃんの〈魔統武器〉を見るなり、これは命がいくらあっても足りないと退散したみたい。逆にいえば、アリアちゃんの強さを見ただけで理解できたのだから、かなりの使い手ということだよね。こんなカジノで用心棒しているなんて、もったいないなぁ」



 そんなカジノで身ぐるみはがされた人が、よく言うものだなぁ。



 さて、次はクラウディアさんを救出するのだが、まずは黒騎士の隊長さんから聞き出した監獄。エルン監獄の場所を特定するところから始めなければならない。

 ところがサンディさんが、ここで初めて役に立つ(もちろんサンディさんは、いるだけで和むので、さっきから足を引っ張ってしかいなくても良いのだが)。



「エルン監獄なら、わたしが知っているよ。聖都の観光スポットのひとつ。毎週日曜には、公開処刑が行われているとか。実は公開処刑って、ラザ帝国内ではこの聖都でしか許可されていないんだってね。だから観光客が大喜びだってさ」



「さっそくエルン監獄に案内してください」



 エルン監獄には、二つの顔があった。観光スポットとして機能しながらも、しっかりと厳重警備を敷き、重罪犯を閉じ込めている。



 《視界不良》発動で看守から発見されにくくなった状態で、サンディさんと侵入。まず重犯罪者ゾーンを探ってみると、拍子抜けするほど簡単に見つけた。

 牢獄内で、さらに足枷をつけられたクラウディアさんが、死んだ目で天井を見ている。サンディさんに看守が来ないか見張ってもらってから、私は鉄格子の外より声をかけた。



「クラウディアさん、アリアですよ。元気ですか?」



 クラウディアさんは、私を見てもとくに驚いた様子ではなかった。ただ肩をすくめて、



「元気かと問われると、難しいところじゃな。わらわは、こうして囚われの身じゃし」



「まぁ、足枷をはめられた状態で、バカンスとは言えませんよね…………………………脱獄しますか? お手伝いしますよ」



「うむ。頼む」
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