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105,二人旅。
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去年のこと。
聖ルーン騎士団の件で、ラザ帝国は聖都ローズに行ったものだ。そのときはミリカさんとベロニカさんと一緒だった。
そしてローズ教の総本山で、頂点に君臨する巫女クラウディアさんと、お互いの心の『友達リスト』に名前を入れ合ったものだけども。
今回、こんなところでクラウディアさんの『お使い』と遭遇することになろうとは。とはいえ、私も慎重肌なので、まず影の泥棒さんにちゃんと確認しておく。
「ローズ教の巫女さんからの指示で来たというのは、本当なんですね? 嘘ではありませんね? 『嘘だったら針千本、飲ーます』というのがありますが、カイト少年、針を千本こちらに」
カイト少年がオルト城砦内をかけずりまわって集めた針千本いりのボックスを、影の泥棒さんの前に置く。私は、影の泥棒さんの私物の刺繍入りのハンカチを眺めてから、返却した。
「この針千本を、あなたの娘さんに飲んでいただきますからね」
とたん影の泥棒さんが、死人みたいな顔色になる。
「うううう、嘘などついていいい、いません! 本当に、おおお、俺は巫女クラウディアから直々に特命を受けて、あああ、あの〈神禄4巻〉を盗み出しに、ききき、きたので、です!! で、ですからお願いしますぅぅぅ!! どうか娘だけはぁぁぁぁ!!」
私は、影の泥棒さんの肩を優しく叩いた。
「もう分かってますよ~。あなたが嘘をついていないことくらい、分かってますよ~」
〈神禄4巻〉とは、『絶滅言語』への記述もあるが、主眼を置かれているのは女神アリエルについて。『絶滅言語』も、女神アリエルが創造した言語として記されていた。そしてローズ教が崇めるのは、ほかでもない女神アリエルでしたね。
だからクラウディアさんが、〈神禄4巻〉を欲しがるのも無理はないけども。盗むのはいかんですね。そして、なぜこのタイミングなのか。
影の泥棒さんには地下牢に入ってもらった。
私とカイト少年は地上に出る。
「カイト少年。10日したら、影の泥棒さんを解放してあげてください。娘さんのもとに帰してあげましょう」
「はっ。ところでアリアさん、お聞きしても? なぜあのくせ者に娘がいると分かったのでしょうか?」
「女の直感ですよ」
影の泥棒さんが所持していたハンカチ。極秘指令を遂行中に持ち歩く刺繍入りハンカチなんてものは、大切な人からの贈り物以外のなにものでもない。恋人や妻の可能性もあるが、拙い刺繍だったので、まだ幼い娘が刺繍した贈り物だろう。
と、テキトーに推理したのだが、いちいち種明かしするのも面倒だ。
そんなことよりも、これからまたラザ帝国の聖都に行くにあたり、どうしたものだろう。ソロで行くのもいいが、最近はパーティ行動の『ありがたみ』も理解してきた。【覇王魔窟】攻略ならばともかく、今回は聖都再訪だ。相棒がいるといいかもしれない。
カイト少年、そしてオルト侯ユリさんに、しばしの別れを告げる。不安そうなユリさんに、私はいつでも駆けつけますよ、と約束。
それから魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり飛翔。王都近辺まで飛び、ひと目がつきそうな場所からは徒歩移動。そしてサンディさんに会いにいく。
「サンディさんにはいつもお世話になってますから、凄くいいところに連れていってあげますよっ!!」
「え? あの、アリアちゃん。わたしも一応は、カブ冒険者ギルドのサブマスとして、いろいろと仕事が」
「まぁまぁ、一泊二日ですから。さ、二人旅に出発ですっっ!」
「うーん。アリアちゃんを居候させた上、こんどは二人旅? わたし、そろそろ本気でミリカさんとベロニカさんの『殺害リスト』のトップに躍り出そうな気がしてきた」
まず徒歩で王都を出て、ひと目がなくなったところで、サンディさんを乗せて飛翔。その後も、不用意に目撃されそうなポイントでは徒歩に戻り、ちょくちょく飛行をはさんで、国境をこえ、半日でラザ帝国の聖都ローズに到着。
「サンディさん、聖地に来ましたよっ!」
サンディさん、目を輝かせる。
「うわぁ、本当だねアリアちゃん。観光地として有名な聖都だね」
サンディさんは敬虔なるローズ教徒。だからこそ修道女をやっているのだ。修道女服はコスプレではないのである。
そのわりには最近、ギルド活動が忙しく、あまり神に身を捧げられていない様子。この責任は、かつてサンディさんをスカウトして地下迷宮〈死の楽園〉へ連れていった私にもある。
そこで今回は、これまでのお礼もかねて、サンディさんにとっての聖地である、聖都ローズに連れてきたのだった。
「サンディさんが喜んでくれて、私も嬉しいです。サンディさんにとっての聖地ですものね」
「え、わたしにとっての?」
「そうですよ。聖都ローズ。ローズ教の発祥の地。ローズ教トップの巫女さんもいますよ。サインもらいますか? 私、頼めますよ」
サンディさん、ふしぎそうな顔。それから、何か得心がいったという様子で、
「ねぇ、アリアちゃん」
「はい?」
「ここは確かに、ローズ教の聖都だよね。言うまでもなく」
「はい」
「だけど、わたし、ジャスミン教の修道女だよ。ローズ教ではなくて」
「えっ……………まぁ、その二つはきっと近しい宗教なのですよね。親戚のような」
「うん、ぜんぜん起源とか違うから。いうなれば『赤の他人』だから」
サンディさん、きっぱりだった。
聖ルーン騎士団の件で、ラザ帝国は聖都ローズに行ったものだ。そのときはミリカさんとベロニカさんと一緒だった。
そしてローズ教の総本山で、頂点に君臨する巫女クラウディアさんと、お互いの心の『友達リスト』に名前を入れ合ったものだけども。
今回、こんなところでクラウディアさんの『お使い』と遭遇することになろうとは。とはいえ、私も慎重肌なので、まず影の泥棒さんにちゃんと確認しておく。
「ローズ教の巫女さんからの指示で来たというのは、本当なんですね? 嘘ではありませんね? 『嘘だったら針千本、飲ーます』というのがありますが、カイト少年、針を千本こちらに」
カイト少年がオルト城砦内をかけずりまわって集めた針千本いりのボックスを、影の泥棒さんの前に置く。私は、影の泥棒さんの私物の刺繍入りのハンカチを眺めてから、返却した。
「この針千本を、あなたの娘さんに飲んでいただきますからね」
とたん影の泥棒さんが、死人みたいな顔色になる。
「うううう、嘘などついていいい、いません! 本当に、おおお、俺は巫女クラウディアから直々に特命を受けて、あああ、あの〈神禄4巻〉を盗み出しに、ききき、きたので、です!! で、ですからお願いしますぅぅぅ!! どうか娘だけはぁぁぁぁ!!」
私は、影の泥棒さんの肩を優しく叩いた。
「もう分かってますよ~。あなたが嘘をついていないことくらい、分かってますよ~」
〈神禄4巻〉とは、『絶滅言語』への記述もあるが、主眼を置かれているのは女神アリエルについて。『絶滅言語』も、女神アリエルが創造した言語として記されていた。そしてローズ教が崇めるのは、ほかでもない女神アリエルでしたね。
だからクラウディアさんが、〈神禄4巻〉を欲しがるのも無理はないけども。盗むのはいかんですね。そして、なぜこのタイミングなのか。
影の泥棒さんには地下牢に入ってもらった。
私とカイト少年は地上に出る。
「カイト少年。10日したら、影の泥棒さんを解放してあげてください。娘さんのもとに帰してあげましょう」
「はっ。ところでアリアさん、お聞きしても? なぜあのくせ者に娘がいると分かったのでしょうか?」
「女の直感ですよ」
影の泥棒さんが所持していたハンカチ。極秘指令を遂行中に持ち歩く刺繍入りハンカチなんてものは、大切な人からの贈り物以外のなにものでもない。恋人や妻の可能性もあるが、拙い刺繍だったので、まだ幼い娘が刺繍した贈り物だろう。
と、テキトーに推理したのだが、いちいち種明かしするのも面倒だ。
そんなことよりも、これからまたラザ帝国の聖都に行くにあたり、どうしたものだろう。ソロで行くのもいいが、最近はパーティ行動の『ありがたみ』も理解してきた。【覇王魔窟】攻略ならばともかく、今回は聖都再訪だ。相棒がいるといいかもしれない。
カイト少年、そしてオルト侯ユリさんに、しばしの別れを告げる。不安そうなユリさんに、私はいつでも駆けつけますよ、と約束。
それから魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり飛翔。王都近辺まで飛び、ひと目がつきそうな場所からは徒歩移動。そしてサンディさんに会いにいく。
「サンディさんにはいつもお世話になってますから、凄くいいところに連れていってあげますよっ!!」
「え? あの、アリアちゃん。わたしも一応は、カブ冒険者ギルドのサブマスとして、いろいろと仕事が」
「まぁまぁ、一泊二日ですから。さ、二人旅に出発ですっっ!」
「うーん。アリアちゃんを居候させた上、こんどは二人旅? わたし、そろそろ本気でミリカさんとベロニカさんの『殺害リスト』のトップに躍り出そうな気がしてきた」
まず徒歩で王都を出て、ひと目がなくなったところで、サンディさんを乗せて飛翔。その後も、不用意に目撃されそうなポイントでは徒歩に戻り、ちょくちょく飛行をはさんで、国境をこえ、半日でラザ帝国の聖都ローズに到着。
「サンディさん、聖地に来ましたよっ!」
サンディさん、目を輝かせる。
「うわぁ、本当だねアリアちゃん。観光地として有名な聖都だね」
サンディさんは敬虔なるローズ教徒。だからこそ修道女をやっているのだ。修道女服はコスプレではないのである。
そのわりには最近、ギルド活動が忙しく、あまり神に身を捧げられていない様子。この責任は、かつてサンディさんをスカウトして地下迷宮〈死の楽園〉へ連れていった私にもある。
そこで今回は、これまでのお礼もかねて、サンディさんにとっての聖地である、聖都ローズに連れてきたのだった。
「サンディさんが喜んでくれて、私も嬉しいです。サンディさんにとっての聖地ですものね」
「え、わたしにとっての?」
「そうですよ。聖都ローズ。ローズ教の発祥の地。ローズ教トップの巫女さんもいますよ。サインもらいますか? 私、頼めますよ」
サンディさん、ふしぎそうな顔。それから、何か得心がいったという様子で、
「ねぇ、アリアちゃん」
「はい?」
「ここは確かに、ローズ教の聖都だよね。言うまでもなく」
「はい」
「だけど、わたし、ジャスミン教の修道女だよ。ローズ教ではなくて」
「えっ……………まぁ、その二つはきっと近しい宗教なのですよね。親戚のような」
「うん、ぜんぜん起源とか違うから。いうなれば『赤の他人』だから」
サンディさん、きっぱりだった。
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