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99,怪鳥乱舞。
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ライオネルさんが手綱を握る馬車で、のんびりと街道を進む。
ライオネルさんは手巻き煙草をふかしながら、実に満足した様子だった。私も、ライオネルさんくらいの年齢になったら、人生に満足することを覚えるのだろうか。
私が眺めていると、ライオネルさんはこちらを見やった。
「魔物どもが溢れかえってくれているおかげで、俺なんかはいい思いをしているがね。これまでは中途半端に平和な国だったせいで、腕っぷしが強いだけじゃ成り上がるのも難しかったが、今は違うだろ。といっても、俺ももう歳だからな。これ以上、上を目指そうってつもりもないが」
「ほう」
「ところで嬢ちゃん。意外だな。生きているとは思っていたが、てっきり【覇王魔窟】に入り浸っているものだと思ったぜ。ロクウの奴なんかはそうと決めつけて、いまも【覇王魔窟】内を探索しているころだろうさ」
「私も、できれば【覇王魔窟】攻略していたいんですがね。どうやら状況は複雑さを増していくようでして」
「『からまった糸』理論だな」
「なんですか、それは」
「なぁに、俺が勝手に作った理論だ。からまった糸はほぐそうとすると、余計にからまるもんだ。それと同じで、取りかかった事柄というものは、続けるほどに複雑性を増していくってな。ま、それが嫌だから、俺はもう半隠居の身だがな」
「複雑さですか。まさしくそうですね──神というのは、どうやら何柱もいるそうなんですよ」
とくに興味のない話題のようで、ライオネルさんはあくびした。
「へぇ」
私は、自分でも『ある疑惑』を整理するため、順をおって説明することにした。
「【覇王魔窟】は方針を変え、〈攻略不可能体〉だけは外に出てよいとしたそうです。それが遠因となって、いまの魔物さん大暴れに至るわけです、が。
どうして、ここにきて方針転換が起きたのか。これまで【覇王魔窟】の外に出ることは完全違反だったんですよ。もちろん、その目を盗んで、〈攻略不可能体〉の何体かは外に出ていた。ただし違反なので、神の目を気にしながらの『外出』でした。だから大暴れに至ることも、基本的にはなかった。少なくとも、表に出てくることは稀だった。
ところが、そんな『外出』が、〈攻略不可能体〉だけとはいえOKとなった。私は、これはあることに似ていると思うんですよ」
ライオネルさんはすぐに、私が言いたいことが分かった。
「王が変わった国か。前の王とは違うということを国民にアピールするため、でかい政策変更に乗り出すのはよくあることだ。ミリカ女王陛下も、そのきらいがある。ま、悪いことじゃないがな」
「はい」
「つまり、【覇王魔窟】を管理する神が変わったんじゃないかと。そう疑いを持っているわけだな? さらにいうと、もしも神が変わったのならば、はじめの人類との約束はいまも有効なのかと。
つまり【覇王魔窟】を完全攻略したとしても、本当に願いを叶えてくれるのかと。だがよ嬢ちゃん。いざとなったら、『結婚できないバグ』ってやつは、女王陛下に直してもらえばいいだろ?
いやまて。なにも【覇王魔窟】を完全攻略せずに、いま女王陛下に頼めってことじゃない。最悪、完全攻略しても願いが叶わなかったら、ということだ」
「ええ──そうですねぇ」
私が考えていたのは、ちょっと違うのだ。
つまり、【覇王魔窟】1001階のことなのだ。
私はずっと【覇王魔窟】の最上階には、【覇王魔窟】を創った古代神がいて、私の願いを聞くのだとばかり思っていた。だから厳密には、攻略するべき階層は1000階までだと。
だがしかし──神が変わったのならば、最上階では何が待っているのか。
私は、それは神とのバトルではないのか、と見ている。そ・れ・が目的だから、新しい神さまは、【覇王魔窟】の管理を引き継いだのではないかと。
これは私の直感に過ぎないけれど、だとしたら──最上階に至る前に、私は身につけておく必要がある。神を殺すスキルを。
「おっと、あれはなんだ?」
ライオネルさんが手綱を引いて、馬車を止めた。
一キロほど先の上空を、複数体の巨大な怪鳥が飛び回っている。いや、あれは怪鳥ではないぞ。巨大な両翼を持った人型の魔物だ。
意外なことに、見たことがない魔物だった。つまり500階層より上に出現する魔物ということかぁ。
〈魔物図鑑:視覚版〉によると、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉という名称。
〈蝙蝠魔牙バットウォー〉たちはキャラバンに襲い掛かっているところだった。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり、《操縦》で急上昇。
《電光石火》発動とともに、〈スーパーコンボ〉と私自身を《阿吽竜巻》で包む。すなわち『《電光石火》+《阿吽竜巻》』で破壊力は数倍にもなる。
この状態で、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉たちを蹴散らしていく。
最後の一体を殺させていただいてから、私は地面に降りた。
キャラバンの無事を確認してから、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の死骸の一体を調べてみる。【覇王魔窟】の外だからか、魔素化するのが遅いのだ。
ほう、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の皮膚に、焼き鏝の痕がある。
これは、たぶん絶滅言語。
ふむ。【覇王魔窟】内で撃破してきた魔物に、こんな絶滅言語の焼き鏝の痕はなかった。ということは、これは〈攻略不可能体〉がつけたものでは? 低級魔物を自由にしている〈攻略不可能〉がしていることが、見えてきたぞ。
キャラバンの人たちが来て、私に礼を言ってきた。
「危ないところをありがとうこざいました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「アリアです…………………いえ、アリアではなくてですね。えーと、そのう、うーん」
偽名というのは、とっさには出てこないものだ。
ライオネルさんは手巻き煙草をふかしながら、実に満足した様子だった。私も、ライオネルさんくらいの年齢になったら、人生に満足することを覚えるのだろうか。
私が眺めていると、ライオネルさんはこちらを見やった。
「魔物どもが溢れかえってくれているおかげで、俺なんかはいい思いをしているがね。これまでは中途半端に平和な国だったせいで、腕っぷしが強いだけじゃ成り上がるのも難しかったが、今は違うだろ。といっても、俺ももう歳だからな。これ以上、上を目指そうってつもりもないが」
「ほう」
「ところで嬢ちゃん。意外だな。生きているとは思っていたが、てっきり【覇王魔窟】に入り浸っているものだと思ったぜ。ロクウの奴なんかはそうと決めつけて、いまも【覇王魔窟】内を探索しているころだろうさ」
「私も、できれば【覇王魔窟】攻略していたいんですがね。どうやら状況は複雑さを増していくようでして」
「『からまった糸』理論だな」
「なんですか、それは」
「なぁに、俺が勝手に作った理論だ。からまった糸はほぐそうとすると、余計にからまるもんだ。それと同じで、取りかかった事柄というものは、続けるほどに複雑性を増していくってな。ま、それが嫌だから、俺はもう半隠居の身だがな」
「複雑さですか。まさしくそうですね──神というのは、どうやら何柱もいるそうなんですよ」
とくに興味のない話題のようで、ライオネルさんはあくびした。
「へぇ」
私は、自分でも『ある疑惑』を整理するため、順をおって説明することにした。
「【覇王魔窟】は方針を変え、〈攻略不可能体〉だけは外に出てよいとしたそうです。それが遠因となって、いまの魔物さん大暴れに至るわけです、が。
どうして、ここにきて方針転換が起きたのか。これまで【覇王魔窟】の外に出ることは完全違反だったんですよ。もちろん、その目を盗んで、〈攻略不可能体〉の何体かは外に出ていた。ただし違反なので、神の目を気にしながらの『外出』でした。だから大暴れに至ることも、基本的にはなかった。少なくとも、表に出てくることは稀だった。
ところが、そんな『外出』が、〈攻略不可能体〉だけとはいえOKとなった。私は、これはあることに似ていると思うんですよ」
ライオネルさんはすぐに、私が言いたいことが分かった。
「王が変わった国か。前の王とは違うということを国民にアピールするため、でかい政策変更に乗り出すのはよくあることだ。ミリカ女王陛下も、そのきらいがある。ま、悪いことじゃないがな」
「はい」
「つまり、【覇王魔窟】を管理する神が変わったんじゃないかと。そう疑いを持っているわけだな? さらにいうと、もしも神が変わったのならば、はじめの人類との約束はいまも有効なのかと。
つまり【覇王魔窟】を完全攻略したとしても、本当に願いを叶えてくれるのかと。だがよ嬢ちゃん。いざとなったら、『結婚できないバグ』ってやつは、女王陛下に直してもらえばいいだろ?
いやまて。なにも【覇王魔窟】を完全攻略せずに、いま女王陛下に頼めってことじゃない。最悪、完全攻略しても願いが叶わなかったら、ということだ」
「ええ──そうですねぇ」
私が考えていたのは、ちょっと違うのだ。
つまり、【覇王魔窟】1001階のことなのだ。
私はずっと【覇王魔窟】の最上階には、【覇王魔窟】を創った古代神がいて、私の願いを聞くのだとばかり思っていた。だから厳密には、攻略するべき階層は1000階までだと。
だがしかし──神が変わったのならば、最上階では何が待っているのか。
私は、それは神とのバトルではないのか、と見ている。そ・れ・が目的だから、新しい神さまは、【覇王魔窟】の管理を引き継いだのではないかと。
これは私の直感に過ぎないけれど、だとしたら──最上階に至る前に、私は身につけておく必要がある。神を殺すスキルを。
「おっと、あれはなんだ?」
ライオネルさんが手綱を引いて、馬車を止めた。
一キロほど先の上空を、複数体の巨大な怪鳥が飛び回っている。いや、あれは怪鳥ではないぞ。巨大な両翼を持った人型の魔物だ。
意外なことに、見たことがない魔物だった。つまり500階層より上に出現する魔物ということかぁ。
〈魔物図鑑:視覚版〉によると、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉という名称。
〈蝙蝠魔牙バットウォー〉たちはキャラバンに襲い掛かっているところだった。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉にまたがり、《操縦》で急上昇。
《電光石火》発動とともに、〈スーパーコンボ〉と私自身を《阿吽竜巻》で包む。すなわち『《電光石火》+《阿吽竜巻》』で破壊力は数倍にもなる。
この状態で、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉たちを蹴散らしていく。
最後の一体を殺させていただいてから、私は地面に降りた。
キャラバンの無事を確認してから、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の死骸の一体を調べてみる。【覇王魔窟】の外だからか、魔素化するのが遅いのだ。
ほう、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の皮膚に、焼き鏝の痕がある。
これは、たぶん絶滅言語。
ふむ。【覇王魔窟】内で撃破してきた魔物に、こんな絶滅言語の焼き鏝の痕はなかった。ということは、これは〈攻略不可能体〉がつけたものでは? 低級魔物を自由にしている〈攻略不可能〉がしていることが、見えてきたぞ。
キャラバンの人たちが来て、私に礼を言ってきた。
「危ないところをありがとうこざいました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「アリアです…………………いえ、アリアではなくてですね。えーと、そのう、うーん」
偽名というのは、とっさには出てこないものだ。
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