上 下
65 / 119

65,国取り疑惑。

しおりを挟む
 ラザ帝国に向けて出立。
 メンバーは、私、ミリカさん、ベロニカさん。

 さて。我々の大陸、いや現世界において最大の国家こそが、ラザ帝国。
 ということくらいは、私でさえも知っている。アーテル王国にとっても、ラザ帝国がお隣さんというのは、実に心臓の悪い日々だった。
 だがいまの女帝さんになってからは、こちらに好条件で平和条約が結ばれるなど、アーテル国としては良い風向きとなっている。
 なぜか知らないが、女帝オーロラさんは、アーテル国が好きなのだそうだ。ふむ。確かに土壌はいいけど(そういうのは侵略する理由になりそうだけどね)。

 いずれにせよ、別に女帝さんのことなどはどうでも良い。
 その女帝さんが、まだ19歳で見目麗しいという話を聞いても、今の私は『じゃ、せっかくだから一目見ていこう』とはならないのだ。

 私には大いなる目標がある。セシリアちゃんとの同性婚を可能にするという。
 その目標達成から逆算していくと、まずは聖ルーン騎士団と『お友達』になる。手段としては、手っ取り早く収穫するしかない。
 それが無理ならば、ローズ教そのものと『お友達』になる。手段としては、手っ取り早く収穫するしかない。
 それが無理ならば、ラザ帝国そのものと『お友達』になる。手段としては、手っ取り早く収穫するしかない。

 という計画を、その夜、野営しながらミリカさんとベロニカさんに話した。
 すると、ミリカさんは嘔吐し、ベロニカさんは両手で顔をおおって泣き出す始末。どうしたのだろう。夕飯のシチューの具材にキノコを入れたけど、毒だった? 私は『耐毒体質Lv.1』があるからなぁ。

 その夜。ぐっすり眠っていると、ミリカさんとベロニカさんに揺り起こされる。二人は、いつになく真剣な様子。そして深刻であり、絶望しているようでもある。
 まずミリカさんが口を開いた。

「アリアさん。先ほどは、ショックのあまり食事中に嘔吐してしまい、申し訳なかった」

「いえ、ショックで吐いたんですね」

 するとベロニカさんも告白。

「アリア。あたしも、ショックのあまり泣き出しちゃって、空気を悪くしてごめんなさい」

「ベロニカさんもショックだったんですね。しかし、なにがそれほど動揺させたんですか?」

 ここでベロニカさんが、なにか気持ちの塊を吐き出すようにして叫んだ。

「アリア! きみがね、きみが──現世界において最大国家であるラザ帝国を乗っ取る話をしたから!だから、あたしたちはショックのあまり一瞬、心が病んだのっ!」

 驚いた。一体、どうしたらそんな誤解を生むことに?

「乗っ取る? そんな大層なことは考えていませんよ。いいですか。私はただ、『お友達』になるだけです」

 ミリカさんまで、謎の切迫感を発散しながら言ってきた。

「その方法! その方法が、問題なんだアリアさん! 収穫って──収穫って、どういうことだ! いったいアリアさん、あなたは何を収穫するつもりだ!」

 ベロニカさんが重苦しい調子で、

「アリア。あなたの強化武器、武装Lv.1102とかいう、異次元に突入しちゃっているんでしょ? あのね。あたしが知る限り、武装Lv.999さえもいった者は、歴史上いないよ。
 あの英雄王ジョンだって、最高で武装Lv.は656だったという。その状態で、英雄王ジョンは単身で複数の国を侵略した。もう500年も昔の歴史だけれど。
 つまりだね、アリア。きみは、やろうと思えば、もうできる。たぶん、ラザ帝国さえも制圧することが、できる。たった独りで。きみのソロプレイは、そこまで来てしまった。なぜかは分からないけれど、きみは呆気なく、人間の限界を超えてしまった」

『人間の限界を超えた』? ある意味では、魔物化しているから間違ってはいないけれども。それでもやはり、私の素直な感想としては。

「またまたぁ~。私、【覇王魔窟】199階までしか上がっていませんよ。そりゃあ、199階まで行ったときは、まだ武装Lv.241でしたけども。
 ……私は、別にラザ帝国で地獄絵図を描いたりはしません。何を勘違いしているのか知りませんが、『お友達』になるための収穫というのは──もののたとえです。農家は、こういう言い方をするんですよ。とにかくポジティブなことは全て、『収穫』というんです」

 ベロニカさん、疑わしそうだ。

「……あたしが、ロクウとかいう男から聞いた話だと──『収穫』と称して首チョンパ祭典を開催していた、とか。ちなみにロクウとやらは、目をきらきら輝かせていたよアリアちゃん」

 これでは埒があかない。明日にはラザ帝国に入り、聖都に入るだろう。そこで私は、証明してみせよう。私のいう『収穫』というものが、どこまで平和的であり、人を傷つけないものなのかを。帝国を乗っ取るなんて、どうしたらそんな退屈な話にうつってしまうのか。

「お二人とも、もう寝ますよ。明日は、早起きして出発しますからねっっ!!」

 ミリカさんとベロニカさんが顔をみあわせる。このとき、はじめて二人に、ちょっとだけ友情めいたものが芽生えたようだ。つまり、『アリアを見張れるのは自分たちだけだ』という絆が。

 うーん、失敬な。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...