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64,重婚OK説。
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私がミリカさんを避けているのは、ミリカさんの身分を考慮してのことだ。
伯爵家の令嬢というだけではなく、次期領主でもある。だから、聖ルーン騎士団とのゴタゴタには巻き込みたくはないと。
とはいえ、不可抗力とはいえ、いまや私はギルド員800人(壊滅ギルド撃退後、たった半日でまた増えた)のギルマスである。ということは、彼ら全員を巻き込んでいることなのだけど。
まぁ、それでもミリカさんだけは──という思いは、思いがけないところでしくじった。
ベロニカさんが、『あたし、これからアリアと新婚旅行に聖都参りしてくるからねぇ』という余計な速達を出したために。
帝国に向けて出発するにあたり、ロクウさんと打ち合わせ。その最中に、ミリカさんが飛び込んできた。速達片手にして。
「新婚旅行というのは本当なのか、アリアさん! いや、アリアさんが他の誰かと先に結ばれるのは、百歩ゆずって諦めよう。私は、第二妻というポジでも良いだろう。しかし第一妻がベロニカというのは、断じて──アリアさんのためを思って言うのだが、断じて良くないぞ」
「……………同性婚も重婚もダメだと思いますが」
ところがロクウさんが横から口をはさむには、
「いえ先生、アーテル国では重婚、つまり一夫多妻制は有りだったかと。しかし先生のおっしゃるとおり、いまだ同性婚は認められておりませぬ。いっそ先生が、男装するしかないのでは」
「男装しても女ですからね。男装の意味を分かっていますか? とにかく、私は──第一妻はセシリアちゃんですからね。同性婚が認められた暁には。第二妻はとってもとらなくてもいいです」
「さすが先生、重婚の可能性を斬り捨てぬ、その懐の深さ。拙者、感服いたしました」
ミリカさんが勢いこんで、
「では私は第二妻なのだな、アリアさん。ではここに署名を」
ここでベロニカさんが登場。
「こらこら! あたしのいないところで、話を進められちゃ困るなぁ。だいたい、あたしはすでにアリアとは初夜を迎えた身。第一妻の座は、そのセシリアという子に譲るとしても、第二妻の座はあたしで決まりでしょう」
初夜? いや私のベッドで爆睡しただけでは。
訂正するのも面倒なのでスルーしていたら、案の定というか、ミリカさん激怒。
「初夜だとっっ! 貴様、アリアさんを穢したかっっ! ベロニカ殺すっっ!」
「殺せるものなら殺してみなさい! あたしの武装Lv.は三桁突入の120なんだから!」
「ふん。強化武器だのみの貴様に負ける気がしない! 私は〈開華のタネ〉覚醒によって、この私自身がスキルツリーを開拓しているのだ!」
「Lv.99でカンストする雑魚枠よねぇ。それに、いまの侮辱はそのままアリアにも向くということお忘れなく」
「アリアさんは別格なので、侮辱などできるはずもないだろうが。それに『〈開華のタネ〉覚醒者はLv.99カンスト』説は、貴様のような強化武器だのみの連中が造り出した偽説にすぎぬと聞くぞ」
「雑魚枠は、自分に都合が良いデマを信じるものよねぇ」
ところで、この場にはもう一人、サラさんがいた。サブマスターという肩書きながら、書類仕事を黙々とこなしてくれている。
そしてサラさんは呟いた。
「……………変な人たち」
同感です。
とにかく、ミリカさんが来てしまった以上は、連れていかないわけにはいかない。拗ねるから。拗ねるといえば、ロクウさんも留守番ということで、やはり拗ね気味だった。
「拙者もお供したいのですが、先生」
「さっきも言いましたが、ロクウさんはこのギルドを守ってください。新興ギルドは、何かと狙われやすいですからね」
「……ところで先生。われわれのギルド名ですが、今や老若男女が入り乱れております。さすがに女戦士ギルドで通すのもどうかと思うのですが」
ギルド名のことまで気にしていられない。そのことを言いたくて、私は「ではカブギルドとでも名付けてください」と言ったわけだ。
ところが、それから数時間後。
帝国に不法入国するに備えて、食料や水などの準備をしていると。サラさんがまたも大量の書類を持ってやって来た。
「ギルドマスター。出立前に、こちらに署名をお願いします」
署名といえば。ミリカさんとベロニカさんが第二妻証明書の相手欄に署名しろ、とうるさかった。サラさんには、そんな心配はない。そうか、サラさんは超有能なのではないか。
私はサラさんの肩をがしっと掴んだ。
「私は、あなたを重宝しますよ!」
「えっと、ありがとうございます。では、こちらに署名を」
「こちらの書類は?」
「王政府に提出するギルド関連の書類です。女戦士ギルドとしては公式認定されていましたが、いまや複数の従属ギルドを吸収し、完全にひとつの大手ギルドと化すにあたっては、再度書類を提出する必要がありまして。そこでギルドマスターの署名をいただきたく思います」
ギルドマスターが、聖ルーン騎士団から標的にされている私で大丈夫だろうか。ただ聖ルーン騎士団、そしてローズ教の総本山が、私が魔物化していることを、わざわざアーテル国の王政府と共有しているとも思えないか。
「分かりました。署名は、ここですか──」
見ると、ギルド名欄に『カブギルド』と記されていた。
またギルドの目的欄が『全国民が安心してカブを食べることができるよう、国家の治安を維持する』とある。
意味がわからんです。
「……………まぁいいか」
署名したよっ♪
伯爵家の令嬢というだけではなく、次期領主でもある。だから、聖ルーン騎士団とのゴタゴタには巻き込みたくはないと。
とはいえ、不可抗力とはいえ、いまや私はギルド員800人(壊滅ギルド撃退後、たった半日でまた増えた)のギルマスである。ということは、彼ら全員を巻き込んでいることなのだけど。
まぁ、それでもミリカさんだけは──という思いは、思いがけないところでしくじった。
ベロニカさんが、『あたし、これからアリアと新婚旅行に聖都参りしてくるからねぇ』という余計な速達を出したために。
帝国に向けて出発するにあたり、ロクウさんと打ち合わせ。その最中に、ミリカさんが飛び込んできた。速達片手にして。
「新婚旅行というのは本当なのか、アリアさん! いや、アリアさんが他の誰かと先に結ばれるのは、百歩ゆずって諦めよう。私は、第二妻というポジでも良いだろう。しかし第一妻がベロニカというのは、断じて──アリアさんのためを思って言うのだが、断じて良くないぞ」
「……………同性婚も重婚もダメだと思いますが」
ところがロクウさんが横から口をはさむには、
「いえ先生、アーテル国では重婚、つまり一夫多妻制は有りだったかと。しかし先生のおっしゃるとおり、いまだ同性婚は認められておりませぬ。いっそ先生が、男装するしかないのでは」
「男装しても女ですからね。男装の意味を分かっていますか? とにかく、私は──第一妻はセシリアちゃんですからね。同性婚が認められた暁には。第二妻はとってもとらなくてもいいです」
「さすが先生、重婚の可能性を斬り捨てぬ、その懐の深さ。拙者、感服いたしました」
ミリカさんが勢いこんで、
「では私は第二妻なのだな、アリアさん。ではここに署名を」
ここでベロニカさんが登場。
「こらこら! あたしのいないところで、話を進められちゃ困るなぁ。だいたい、あたしはすでにアリアとは初夜を迎えた身。第一妻の座は、そのセシリアという子に譲るとしても、第二妻の座はあたしで決まりでしょう」
初夜? いや私のベッドで爆睡しただけでは。
訂正するのも面倒なのでスルーしていたら、案の定というか、ミリカさん激怒。
「初夜だとっっ! 貴様、アリアさんを穢したかっっ! ベロニカ殺すっっ!」
「殺せるものなら殺してみなさい! あたしの武装Lv.は三桁突入の120なんだから!」
「ふん。強化武器だのみの貴様に負ける気がしない! 私は〈開華のタネ〉覚醒によって、この私自身がスキルツリーを開拓しているのだ!」
「Lv.99でカンストする雑魚枠よねぇ。それに、いまの侮辱はそのままアリアにも向くということお忘れなく」
「アリアさんは別格なので、侮辱などできるはずもないだろうが。それに『〈開華のタネ〉覚醒者はLv.99カンスト』説は、貴様のような強化武器だのみの連中が造り出した偽説にすぎぬと聞くぞ」
「雑魚枠は、自分に都合が良いデマを信じるものよねぇ」
ところで、この場にはもう一人、サラさんがいた。サブマスターという肩書きながら、書類仕事を黙々とこなしてくれている。
そしてサラさんは呟いた。
「……………変な人たち」
同感です。
とにかく、ミリカさんが来てしまった以上は、連れていかないわけにはいかない。拗ねるから。拗ねるといえば、ロクウさんも留守番ということで、やはり拗ね気味だった。
「拙者もお供したいのですが、先生」
「さっきも言いましたが、ロクウさんはこのギルドを守ってください。新興ギルドは、何かと狙われやすいですからね」
「……ところで先生。われわれのギルド名ですが、今や老若男女が入り乱れております。さすがに女戦士ギルドで通すのもどうかと思うのですが」
ギルド名のことまで気にしていられない。そのことを言いたくて、私は「ではカブギルドとでも名付けてください」と言ったわけだ。
ところが、それから数時間後。
帝国に不法入国するに備えて、食料や水などの準備をしていると。サラさんがまたも大量の書類を持ってやって来た。
「ギルドマスター。出立前に、こちらに署名をお願いします」
署名といえば。ミリカさんとベロニカさんが第二妻証明書の相手欄に署名しろ、とうるさかった。サラさんには、そんな心配はない。そうか、サラさんは超有能なのではないか。
私はサラさんの肩をがしっと掴んだ。
「私は、あなたを重宝しますよ!」
「えっと、ありがとうございます。では、こちらに署名を」
「こちらの書類は?」
「王政府に提出するギルド関連の書類です。女戦士ギルドとしては公式認定されていましたが、いまや複数の従属ギルドを吸収し、完全にひとつの大手ギルドと化すにあたっては、再度書類を提出する必要がありまして。そこでギルドマスターの署名をいただきたく思います」
ギルドマスターが、聖ルーン騎士団から標的にされている私で大丈夫だろうか。ただ聖ルーン騎士団、そしてローズ教の総本山が、私が魔物化していることを、わざわざアーテル国の王政府と共有しているとも思えないか。
「分かりました。署名は、ここですか──」
見ると、ギルド名欄に『カブギルド』と記されていた。
またギルドの目的欄が『全国民が安心してカブを食べることができるよう、国家の治安を維持する』とある。
意味がわからんです。
「……………まぁいいか」
署名したよっ♪
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