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39,ジェシカ、諭す。
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エルフの里に到着~。
とたん護衛隊に連行され、地下牢に投げ込まれた。しばし待っていたら、ジェシカさんが駆けこんできた。
「あのさぁ、キミ、アポなしでエルフの里に来たら地下牢行きは当然だよね。へたしたら殺されているところ──いや、すでにキミを殺せる奴は、もう下級エルフの中にはいないかもだけど。で、今回はどうしたの?」
私は、切断された右足を差し出した。
「右足チョンパされたので、再接合手術とかできますか? ほら、こんなに綺麗な切断面なので、エルフの医療技術を使えば神経とかも繋ぎ直せるのではないかと」
「うーん。まぁ、病院に行こう。ほら、肩を貸すよ」
その日のうちに再接合手術が行われ、喜ばしいことに成功。ただし切断された個所には、一生、傷跡(接合痕ともいう)が残るそうだ。名誉の勲章が増えたらしい。今回言い渡されたリハビリ期間は、3カ月半。よし、2か月での【覇王魔窟】復帰を目指そう。
病室のベッドで寝転がっていると、ジェシカさんがやって来た。
「今回はどこまで行ったの?」
「161階です。凄く手ごわい魔物が出てきましてね。手持ちのスキルポイントで新しいパネルを解放していくにしても、ちゃんと考えないと」
今回は、あの《鎌鼬(カッティング)》対策となるわけだけど。どう対策を立てるか、そこを間違えると致命的になりかねない。
まず防御領域を開拓する策もある。つまり《鎌鼬(カッティング)》の切れ味に対抗するために。
だが、どうもあの切れ味は異常すぎる。こっちも『(防御Lv.5)+《鎧装甲》』でかなり硬くしていたのに、ああもスッパリ切断されてしまうとは。
ここでひとつの仮説が出てくる。《鎌鼬(カッティング)》の固有スキルが、『防御力に関係なく切断する』というものだったならば?
これだと、こっちがいくら防御領域を開拓し、攻撃対策しても意味がなくなる。とするならば、ひとまず防御は捨てて、どうやって一撃を与えられるか。
しかし、あの速度だ。通常攻撃は当然として、《爆雷舞》などの打撃スキルも当てられるとは思えない。
うーん。威力ではなく速度を上げるスキルを開拓したいのだが、それはどこの領域だろう?
ジェシカさんが呆れた様子で言ってきた。
「なんか楽しそうだねぇ。右足チョンパされた身なのに、キミは幸せそうだ」
「そうですか?」
「やはりキミは才能があるよ。いろいろな意味合いで──それはそうと、キミ、叙勲式にはちゃんと出なさいよ」
「なんですか、叙勲式って?」
「うわぁ。忘れているよ。キミ、本当に自分が興味がないことは、興味がない奴だなぁぁ。キミにとって興味があるのは、カブと【覇王魔窟】だけか」
「あとセシリアちゃんですよ」
「あーーーーーセシリアね、はいはい」
と、なぜか遠い目をしているジェシカさん。
とにかく叙勲式というのは、まさか〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉撃破の件で、王国から勲章をもらえる云々の話か。それが嫌で(何が嬉しくて、人前に出て勲章なんか授からねばならないのだろうか。何かの罰ゲームですか)【覇王魔窟】に逃げたのに。まだ話が生きていたなんて。
よし、話題を変えよう。
「カブ畑の話ですが、しばらく栽培はやめて、あそこは休耕地とするつもりです。残念ですが、【覇王魔窟】とカブ畑の両立は難しいですよ。【覇王魔窟】を完全攻略し、『結婚できないバグ』を直した暁には、またカブ畑に戻ります」
「ふーん。話題をかえたつもりなら、残念だったな。ボクは、キミのカブ畑がどうなろうと知ったことじゃないので、いまも話題は叙勲式のままだ。あのさぁ。ボクとしては、キミが勲章をもらおうが、馬糞をもらおうが、どーでもいいんだよ」
「馬糞はいりません」
「だけどさ、ミリカがうるさいんだよ。『アリアさんの功績を国中に広めるのだ云々』と。とくに現在、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を討伐した手柄は、ミリカとベロニカのものになっている。まぁ、分かりやすいんだよね。ミリカは伯爵令嬢で女剣士、ベロニカも冒険者ギルドの期待の新星。ちなみにキミの扱いは、『二人の英雄に付き添っていた農民の娘A』だってさ」
「いいじゃないですか、農民の娘A。私、そういう匿名性ばっちりなの大好きです。まぁこれが、葬儀屋の娘Aとかだったら、困りますよ。別に葬儀屋さんに含むところはありませんが、なんといっても、私は農家の娘ですからね。職業は正しく伝えてくださいよと。けれども、ちゃんと農民というのが伝わっているのならば、私はもう何も言うことはありません」
「だからさ、ミリカとベロニカにはあるんだって。二人とも、キミが〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を撃破したことを知っているのだからね。その手柄を横取りした形で、実に罪悪感だ。ただベロニカは、キミが目立ちたくないのを理解しているので、叙勲式をやれと言ってない。ただしミリカは、何とかして、世間のキミへの評価を正したいと」
「世間の評価なんて、どーでもいいじゃないですか。どうせ今から百年経てば、みーーーんな墓の下なんですから」
「ボクたちエルフは違うけどね。ちょっと遅れちゃったけど、これをあげる」
ジェシカさんがトロフィーを差し出してきた。私は困惑しつつも受け取る。
「なんですか、これは」
「100階攻略記念のトロフィーだよ。ボクが工房に頼んで作らせた。
あのさ、アリア。キミの気持ちも分からんでもないけど、残念ながら、他人とのつながりは無視できないものなんだよ。とくにキミは、【覇王魔窟】でミリカの命を救ったことで、ある種の責任が生まれたのだ。ミリカのために、叙勲式とやらに出てあげなさい」
私はトロフィーを眺めてから、溜息をついた。
「分かりました。このトロフィーもありがとうです」
とたん護衛隊に連行され、地下牢に投げ込まれた。しばし待っていたら、ジェシカさんが駆けこんできた。
「あのさぁ、キミ、アポなしでエルフの里に来たら地下牢行きは当然だよね。へたしたら殺されているところ──いや、すでにキミを殺せる奴は、もう下級エルフの中にはいないかもだけど。で、今回はどうしたの?」
私は、切断された右足を差し出した。
「右足チョンパされたので、再接合手術とかできますか? ほら、こんなに綺麗な切断面なので、エルフの医療技術を使えば神経とかも繋ぎ直せるのではないかと」
「うーん。まぁ、病院に行こう。ほら、肩を貸すよ」
その日のうちに再接合手術が行われ、喜ばしいことに成功。ただし切断された個所には、一生、傷跡(接合痕ともいう)が残るそうだ。名誉の勲章が増えたらしい。今回言い渡されたリハビリ期間は、3カ月半。よし、2か月での【覇王魔窟】復帰を目指そう。
病室のベッドで寝転がっていると、ジェシカさんがやって来た。
「今回はどこまで行ったの?」
「161階です。凄く手ごわい魔物が出てきましてね。手持ちのスキルポイントで新しいパネルを解放していくにしても、ちゃんと考えないと」
今回は、あの《鎌鼬(カッティング)》対策となるわけだけど。どう対策を立てるか、そこを間違えると致命的になりかねない。
まず防御領域を開拓する策もある。つまり《鎌鼬(カッティング)》の切れ味に対抗するために。
だが、どうもあの切れ味は異常すぎる。こっちも『(防御Lv.5)+《鎧装甲》』でかなり硬くしていたのに、ああもスッパリ切断されてしまうとは。
ここでひとつの仮説が出てくる。《鎌鼬(カッティング)》の固有スキルが、『防御力に関係なく切断する』というものだったならば?
これだと、こっちがいくら防御領域を開拓し、攻撃対策しても意味がなくなる。とするならば、ひとまず防御は捨てて、どうやって一撃を与えられるか。
しかし、あの速度だ。通常攻撃は当然として、《爆雷舞》などの打撃スキルも当てられるとは思えない。
うーん。威力ではなく速度を上げるスキルを開拓したいのだが、それはどこの領域だろう?
ジェシカさんが呆れた様子で言ってきた。
「なんか楽しそうだねぇ。右足チョンパされた身なのに、キミは幸せそうだ」
「そうですか?」
「やはりキミは才能があるよ。いろいろな意味合いで──それはそうと、キミ、叙勲式にはちゃんと出なさいよ」
「なんですか、叙勲式って?」
「うわぁ。忘れているよ。キミ、本当に自分が興味がないことは、興味がない奴だなぁぁ。キミにとって興味があるのは、カブと【覇王魔窟】だけか」
「あとセシリアちゃんですよ」
「あーーーーーセシリアね、はいはい」
と、なぜか遠い目をしているジェシカさん。
とにかく叙勲式というのは、まさか〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉撃破の件で、王国から勲章をもらえる云々の話か。それが嫌で(何が嬉しくて、人前に出て勲章なんか授からねばならないのだろうか。何かの罰ゲームですか)【覇王魔窟】に逃げたのに。まだ話が生きていたなんて。
よし、話題を変えよう。
「カブ畑の話ですが、しばらく栽培はやめて、あそこは休耕地とするつもりです。残念ですが、【覇王魔窟】とカブ畑の両立は難しいですよ。【覇王魔窟】を完全攻略し、『結婚できないバグ』を直した暁には、またカブ畑に戻ります」
「ふーん。話題をかえたつもりなら、残念だったな。ボクは、キミのカブ畑がどうなろうと知ったことじゃないので、いまも話題は叙勲式のままだ。あのさぁ。ボクとしては、キミが勲章をもらおうが、馬糞をもらおうが、どーでもいいんだよ」
「馬糞はいりません」
「だけどさ、ミリカがうるさいんだよ。『アリアさんの功績を国中に広めるのだ云々』と。とくに現在、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を討伐した手柄は、ミリカとベロニカのものになっている。まぁ、分かりやすいんだよね。ミリカは伯爵令嬢で女剣士、ベロニカも冒険者ギルドの期待の新星。ちなみにキミの扱いは、『二人の英雄に付き添っていた農民の娘A』だってさ」
「いいじゃないですか、農民の娘A。私、そういう匿名性ばっちりなの大好きです。まぁこれが、葬儀屋の娘Aとかだったら、困りますよ。別に葬儀屋さんに含むところはありませんが、なんといっても、私は農家の娘ですからね。職業は正しく伝えてくださいよと。けれども、ちゃんと農民というのが伝わっているのならば、私はもう何も言うことはありません」
「だからさ、ミリカとベロニカにはあるんだって。二人とも、キミが〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を撃破したことを知っているのだからね。その手柄を横取りした形で、実に罪悪感だ。ただベロニカは、キミが目立ちたくないのを理解しているので、叙勲式をやれと言ってない。ただしミリカは、何とかして、世間のキミへの評価を正したいと」
「世間の評価なんて、どーでもいいじゃないですか。どうせ今から百年経てば、みーーーんな墓の下なんですから」
「ボクたちエルフは違うけどね。ちょっと遅れちゃったけど、これをあげる」
ジェシカさんがトロフィーを差し出してきた。私は困惑しつつも受け取る。
「なんですか、これは」
「100階攻略記念のトロフィーだよ。ボクが工房に頼んで作らせた。
あのさ、アリア。キミの気持ちも分からんでもないけど、残念ながら、他人とのつながりは無視できないものなんだよ。とくにキミは、【覇王魔窟】でミリカの命を救ったことで、ある種の責任が生まれたのだ。ミリカのために、叙勲式とやらに出てあげなさい」
私はトロフィーを眺めてから、溜息をついた。
「分かりました。このトロフィーもありがとうです」
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