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35,やってみたならば
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えーと。〈龍殺しの毒〉とやらは、どこから出るんだろう。
まった。肝心の『ドラゴンだけを毒殺できる毒息吹の攻撃』は、どこから出てくるのだ? 息吹というのだから、私の口だろうか。えー、それって射程範囲が地獄のように短すぎるのでは?
つまり標的である〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉と、そこまで密着しろというのか。無茶ぶりである。
〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉が口を開く。まばゆい光が喉から漏れる。すべてを焼き尽くすレーザー光線を放とうとしているのだ。むろん、私に向かって。
死んだ。これは死にましたよ、私。
跡形もなく消し飛ぶまえに最期の言葉を。
「セシリアちゃん、I LOVE YOU!!!」
大地から、邪悪な瘴気が噴き出され、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を包みこむ。いまの瘴気こそが、『ドラゴンだけを毒殺できる毒の息吹』だ。大地が吐き出す息吹だ。
瞬間、レーザー光線が放たれる前に閉ざされ、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉が空中で暴れ出す。その全身から、まず鱗がぽろぽろと剥がれだす。
表皮にいた〈蚤量魔(フリーデッド)〉が、困惑した様子で落ちていく。
一方の〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉は苦鳴をあげながら、鼻づらから大地に突っ込む。地割れが起きる。
それでも〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉は暴れながら、これが人間ならば「いっそ殺してくれ!」と叫ぶほどに苦しみ、のたうちまわり、血を吐いた。
いや、血だけではない。何か固形物が、口から飛び出る。それが腐った内臓であることに、私はしばししてから気づいた。
どういう、毒状態?
血の涙を流しながら眼球がこぼれ落ち、腐った両翼が落ち、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉はどうと倒れた。
そして絶命した。
「…………勝ったの? あぁ、勝ったんだ。いやぁ、良かった良かったぁぁ」
かゆい。私、体中がかゆいのだ、ああ、かゆい、かゆすぎて仕方ない、かゆい、かゆい──そこでちょっと掻きむしったところ、何かがペロリと剥(む)けた。
一体、この薄っぺらくて、表側が肌の色で、裏側が血でべっちょりとしたものはなんだろう。この皮は。
あーーー、これは私の皮膚ではございませんか。掻いたら、皮膚がむげだっっ!
あと爪の間から、異常な出血をしている。毒だ。これは〈龍殺しの毒〉の毒が、私の全身を蝕み始めたのだ。全身の血が沸騰しだしたような、激しい痛みが起こる。
うげぇぇ。口の中が鉄の味。だらだらと唾液が垂れてきたと思ったら、どろりとした血だった。苦しみのせいで涙が出てきたと思ったら、暗褐色の血ではありませんか。
「いぎゃぁぁぁあああ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」
暴れすぎて舌を噛んだ。または無意識的に舌を噛んで死のうとしたらしい。転げ回っていたら、ベロニカさんが抱き上げて、水を飲ませてくれた。
解毒。
全身から痛みが引いていく。しかし剥けた皮膚までは治癒されなかったので、また傷が増えてしまった。
まぁ、いっか~。
その後。
私は、ミリカさんとベロニカさんの肩に両腕をまわして、なんとか歩いていた。
そうして中核都市ボーンの都市壁、今回はちゃんとした表門から外に出る。そこでは騎士団や冒険者ギルド、また避難した市民たちが待っていた。で、大歓声と拍手喝采で迎えられる。いや、そういうのはいいから、早く休ませてほしい。
騎士団長らしき人がやってきて、ミリカさんに握手を求めた。
「あなたがハーバン伯爵のご令嬢とは存じませんでした。先ほどは失礼いたしました」
私がすでに都市内に入ったあとで、この人は何やら失礼したらしい。どうでもいいけど。
「あなたが、あの悪しきドラゴンを討たれたのですね?」
と騎士団長は決めつけていたが、ミリカさんが否定する。
「いえ、民を苦しめたドラゴン──〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を討伐したのは、この方だ」
ミリカさんが、私を紹介してくる。私はといえば、すっかり疲労困憊なので、「どうもです」とだけ言っておく。
騎士団長さんが、私の顔をじっくりと見て、
「なるほど。その顔の右半分がグチャグチャとなったのは、ドラゴンとの激しい戦闘によってですな。すなわち名誉の勲章」
「この顔は、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉と戦う前からです。名誉の勲章は、こっちですかね」
私は衣服をめくって、皮を剥いてしまったところを見せた。どうもグロかったらしく、吐き気をこらえる顔をされる。これは失礼。
騎士団長さんの態度に激高したのは、ミリカさん。
「失礼だぞ、貴様。アリアさんがいなければ、われわれは全滅していた。貴様の命も、この方が救われたのだ」
ベロニカさんも加勢する。
「そうよ、あたしのアリアちゃんに失礼でしょ。ミリカ。あとで、この無礼者をこっそり殺しましょう」
「こっそり殺そうという提案は受けなくもないが、誰が貴様のアリアちゃんだ。アリアさんは誰のものでもないぞ。あえて言うのならば、先に出会っている私こそが──」
「先着順じゃないでしょ。バカなのね、ミリカ。バカね」
「なんだと!」
ミリカさんとベロニカさんがだらだら揉めていると、騎士団長のもとに部下が駆けつけて、慌てて報告しだす。
「西壁のほうで問題が起こりました。複数の子供のゾンビが、女に引きつられて逃走いたしました」
騎士団長さんは顔をしかめる。
「なんだと? 追跡隊を組織して、すぐに追わせるんだ。ゾンビを野放しにするわけにはいかん」
ほう。どうやらジョアンナさんと、生徒ゾンビたちか。
いま思い返すと──ジョアンナさん、彼女もゾンビ化していたように思う。自我をもつゾンビさんか。そのうち、また会いそうな気がするが、とりあえず今は──
「気絶します」
暗転。
まった。肝心の『ドラゴンだけを毒殺できる毒息吹の攻撃』は、どこから出てくるのだ? 息吹というのだから、私の口だろうか。えー、それって射程範囲が地獄のように短すぎるのでは?
つまり標的である〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉と、そこまで密着しろというのか。無茶ぶりである。
〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉が口を開く。まばゆい光が喉から漏れる。すべてを焼き尽くすレーザー光線を放とうとしているのだ。むろん、私に向かって。
死んだ。これは死にましたよ、私。
跡形もなく消し飛ぶまえに最期の言葉を。
「セシリアちゃん、I LOVE YOU!!!」
大地から、邪悪な瘴気が噴き出され、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を包みこむ。いまの瘴気こそが、『ドラゴンだけを毒殺できる毒の息吹』だ。大地が吐き出す息吹だ。
瞬間、レーザー光線が放たれる前に閉ざされ、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉が空中で暴れ出す。その全身から、まず鱗がぽろぽろと剥がれだす。
表皮にいた〈蚤量魔(フリーデッド)〉が、困惑した様子で落ちていく。
一方の〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉は苦鳴をあげながら、鼻づらから大地に突っ込む。地割れが起きる。
それでも〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉は暴れながら、これが人間ならば「いっそ殺してくれ!」と叫ぶほどに苦しみ、のたうちまわり、血を吐いた。
いや、血だけではない。何か固形物が、口から飛び出る。それが腐った内臓であることに、私はしばししてから気づいた。
どういう、毒状態?
血の涙を流しながら眼球がこぼれ落ち、腐った両翼が落ち、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉はどうと倒れた。
そして絶命した。
「…………勝ったの? あぁ、勝ったんだ。いやぁ、良かった良かったぁぁ」
かゆい。私、体中がかゆいのだ、ああ、かゆい、かゆすぎて仕方ない、かゆい、かゆい──そこでちょっと掻きむしったところ、何かがペロリと剥(む)けた。
一体、この薄っぺらくて、表側が肌の色で、裏側が血でべっちょりとしたものはなんだろう。この皮は。
あーーー、これは私の皮膚ではございませんか。掻いたら、皮膚がむげだっっ!
あと爪の間から、異常な出血をしている。毒だ。これは〈龍殺しの毒〉の毒が、私の全身を蝕み始めたのだ。全身の血が沸騰しだしたような、激しい痛みが起こる。
うげぇぇ。口の中が鉄の味。だらだらと唾液が垂れてきたと思ったら、どろりとした血だった。苦しみのせいで涙が出てきたと思ったら、暗褐色の血ではありませんか。
「いぎゃぁぁぁあああ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」
暴れすぎて舌を噛んだ。または無意識的に舌を噛んで死のうとしたらしい。転げ回っていたら、ベロニカさんが抱き上げて、水を飲ませてくれた。
解毒。
全身から痛みが引いていく。しかし剥けた皮膚までは治癒されなかったので、また傷が増えてしまった。
まぁ、いっか~。
その後。
私は、ミリカさんとベロニカさんの肩に両腕をまわして、なんとか歩いていた。
そうして中核都市ボーンの都市壁、今回はちゃんとした表門から外に出る。そこでは騎士団や冒険者ギルド、また避難した市民たちが待っていた。で、大歓声と拍手喝采で迎えられる。いや、そういうのはいいから、早く休ませてほしい。
騎士団長らしき人がやってきて、ミリカさんに握手を求めた。
「あなたがハーバン伯爵のご令嬢とは存じませんでした。先ほどは失礼いたしました」
私がすでに都市内に入ったあとで、この人は何やら失礼したらしい。どうでもいいけど。
「あなたが、あの悪しきドラゴンを討たれたのですね?」
と騎士団長は決めつけていたが、ミリカさんが否定する。
「いえ、民を苦しめたドラゴン──〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を討伐したのは、この方だ」
ミリカさんが、私を紹介してくる。私はといえば、すっかり疲労困憊なので、「どうもです」とだけ言っておく。
騎士団長さんが、私の顔をじっくりと見て、
「なるほど。その顔の右半分がグチャグチャとなったのは、ドラゴンとの激しい戦闘によってですな。すなわち名誉の勲章」
「この顔は、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉と戦う前からです。名誉の勲章は、こっちですかね」
私は衣服をめくって、皮を剥いてしまったところを見せた。どうもグロかったらしく、吐き気をこらえる顔をされる。これは失礼。
騎士団長さんの態度に激高したのは、ミリカさん。
「失礼だぞ、貴様。アリアさんがいなければ、われわれは全滅していた。貴様の命も、この方が救われたのだ」
ベロニカさんも加勢する。
「そうよ、あたしのアリアちゃんに失礼でしょ。ミリカ。あとで、この無礼者をこっそり殺しましょう」
「こっそり殺そうという提案は受けなくもないが、誰が貴様のアリアちゃんだ。アリアさんは誰のものでもないぞ。あえて言うのならば、先に出会っている私こそが──」
「先着順じゃないでしょ。バカなのね、ミリカ。バカね」
「なんだと!」
ミリカさんとベロニカさんがだらだら揉めていると、騎士団長のもとに部下が駆けつけて、慌てて報告しだす。
「西壁のほうで問題が起こりました。複数の子供のゾンビが、女に引きつられて逃走いたしました」
騎士団長さんは顔をしかめる。
「なんだと? 追跡隊を組織して、すぐに追わせるんだ。ゾンビを野放しにするわけにはいかん」
ほう。どうやらジョアンナさんと、生徒ゾンビたちか。
いま思い返すと──ジョアンナさん、彼女もゾンビ化していたように思う。自我をもつゾンビさんか。そのうち、また会いそうな気がするが、とりあえず今は──
「気絶します」
暗転。
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