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23,カブ畑虐殺の罪。
しおりを挟む【覇王魔窟】攻略では、体力も重要となってくる。ところが長い入院期間で、すっかりスタミナが落ちていた。
昼頃には、すっかりくたびれてしまった。町と町を結ぶ街道で、倒れ込むことに。
そこに、乗り合い馬車が通りかかったのは、ラッキーでした。近くの町まで運んでもらう。そこの町で、小休止。
食堂でお昼をとりながら足を休めていると、冒険者ギルドの方々が入ってきた。
田舎者の私でも冒険者ギルドの紋章くらいは分かる。この国で、最も有名なギルドだもの。独立した組織としても、国家最大級。
各地にある古代都市や、未踏破地域の探索などが主な仕事だが、時にはその腕を買われて、犯罪者の討伐依頼なども受けているという。
するとバルク盗賊団の討伐のために来たのかな?
何となく眺めながらサンドイッチを食べていると、ギルドの一人、20代前半の美人さんと視線があった。亜麻色の長い髪に、豊満な胸をしたスタイルの良い体。ふむ。私のタイプかも。しかし、なぜ目の中にハートが?
するとその人が、私のテーブルに移ってきた。
「あ~ら、お嬢ちゃん。あなたから、死の匂いがするわねぇ。もしかして、可愛い顔して殺人鬼さんとかぁ?」
ふーむ。昨夜、盗賊団の方々を4人ほど殺してしまったけれども、あれって犯罪なのかな? 王国の法律には疎い。自己防衛は許されるはずだけど、過剰防衛はダメだった気がするし。まぁ死体さんたちは、俗にいう堆肥葬で処分したけども。
「いえ、私は農家の娘です。カブ畑を耕すしか能がありません。えーと、アリアといいます」
「私の名前は、ベロニカ。よろしくねぇ、アリアちゃん」
「冒険者ギルドの方ですよね。もしかして、盗賊団のことで? この周辺で被害が多発している、と知り合いの牧場の方から聞きました」
「もしかして、アリアちゃんも怖い目にあったの? だとしたら、許せないなぁ~。お姉さん、可愛い女の子には優しいから、何か困ったことがあったら、是非頼ってね」
冒険者ギルドの人たちは、食事のために来たわけではないようだ。情報収集が目的らしく、もう用は済んだようで、立ち去ろうとしている。その中の一人が、ベロニカさんに声をかけた。
「おい、ベロニカ。ナンパしている場合か。とっとと行くぞ」
ベロニカさんは立ち上がり、装備している大鎌(デスサイズ)とともに立ち去ろうとして──ふいに足をとめて、なかなかに妖艶な笑みを浮かべた。
「アリアちゃんからは死の匂いだけでなく、もうひとつ独特の匂いがするなぁ。そう、あの古代神が創ったとされるダンジョン塔【覇王魔窟】の匂いがぁぁ」
「え、【覇王魔窟】ですか? あの、徒歩圏に住んでいるので、そのせいかなと」
「ふぅん。なんだか、あなたとはまた会えそうな気がする。じゃぁね、アリアちゃん」
ベロニカさんが今度こそ立ち去る。私はサンドイッチ片手に呆然としていた。
「………………私、におうの!? お風呂に、ちゃんと入っているのに!」
その後、私は私で行動を再開。バルク盗賊団のロンさん(いまは土に帰りました)からの情報で、アジトの場所は分かっている。
実は、けっこう意外な場所。
郊外に、領土を持たぬ下級貴族家の屋敷がある。なんと、そこがバルク盗賊団の現アジトなのだとか。正式な家主はとっくに殺され、今は盗賊団の一人が、下級貴族に成りすましている。その貴族さんは、もともと人嫌いで有名だった上、貴族は貴族でも領土などは持っていない下級。とはいえ貴族ではあるので、庶民は不用意に訪れない。
確かに隠れ蓑にとしては、抜群な場所である。
ちなみに、そのアジトの屋敷へは、この町から徒歩30分ほど。食後の散歩もかねて、行きましょう。
口笛ふきながら、町を出て森林地帯を行く。
途中、大きな熊と遭遇した。私は熊さんを見つめる。熊さんも私を見つめる。それから熊さんは、怯えた様子で逃げていった。
そういえば、昔は熊を見つけて怯えていたのは、私のほうだった。今となっては、〈蠍群魔(スコーピオン)〉一体の戦闘力にも劣るであろう熊さんなど、何も怖くはない。というより、ちょっとモフモフしていて可愛かったので、逃げられて残念だったりする。
さらに口笛ふきながら進んでいると、今度は冒険者ギルドの人たちと遭遇(または再会ともいう)。
えー。ここで遭遇したということは、この人たちも、バルク盗賊団のアジトを知っているということだよね?
この冒険者ギルドのパーティリーダーらしき男性が、どうしたものかという顔で、私を見やった。
「君は、先ほど町の食堂にいた子だね。もしやと思うが、君の目的地もバルク盗賊団のアジトではあるまいね?」
パーティメンバーは、ぜんぶで6人。私は潔く真実を認めることにした。というのも、このパーティの中に、『他者の嘘を見抜く』スキルを持っている人がいるかもだからだ。これはいわば詰問なので、嘘をついたとバレると面倒そう。
「はい、そうです。バルク盗賊団のアジトへ向かうところで」
そのリーダーさんは、私の魔改造鍬〈スーパーコンボ〉へと、鋭い視線を向ける。どうやら、ただの鍬ではないと見抜いているようだ。
「ただの農家の娘、というわけではなさそうだな。聞かせてくれないか? なぜバルク盗賊団のアジトに向かっているのかを」
「それは、バルク盗賊団が仇だからです」
「なるほど。大切な人を、バルク盗賊団に奪われたのだね。よければ聞かせて欲しい。一体、どんな近しい人を殺されたのかを」
「はい。カブです」
「……………なんだって?」
私は昨夜の、『カブ畑虐殺』事件について語った。私が丹精こめて育てたカブたちが、どのような惨たらしい死を迎えたのかを。てっきり理解と同情が来ると思ったが、案に反して──なんか呆れられてしまった。
「アリアくん、といったか。そんなに下らない復讐理由を、私は聞いたことがないぞ」
えーーーーーーーーー。
そんなとき、一人だけお腹をかかえて笑い転げる人がいた。ベロニカさんだ。それから、馴れ馴れしく私に腕をからめてくる。あ、なんかオトナの匂いがする。そして豊かな胸が、私にぎゅっと押し付けられる。だけど、だけど私には、セシリアちゃんという心に決めた人が──
「ねぇ、リーダー。この子も、連れていっていいでしょ? 私が責任とって面倒みるから、ね?」
リーダーさんは渋い顔。
「バカな。パーティメンバー以外の者を同行させるなど」
「いいじゃない。何も『5人までルール』があるダンジョン塔に行くわけでもあるまいし。ね、アリアちゃん? それにリーダー」
ベロニカさんが、私の顔を見つめる。あ、そんな近くから見つめられると、わたし困る。
で、ベロニカさんが何やら言うわけだ。
「バルク盗賊団にあいつが雇われているのなら、戦力は多いにこしたことがないよ。アリアちゃんは、たぶんあたしくらい強いし。ね?」
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