上 下
11 / 119

11,不可解。

しおりを挟む
女剣士のミリカさんは無事治療を受けられ、私の誤解も解けた。

 その後、実に実に面倒なことに、ハーバン伯爵直々にお礼がしたいとか何とかで、お城のような邸宅の客室に案内された。
 やだなぁ。早く【覇王魔窟】に戻りたいのに、貴族の人とお茶するなんて。

 あとせっかくカブを贈ると言ったのに、断られたし。ちなみにハーバン伯爵の領土は、私のカブ畑の近くではあるけど、カブ畑があるのは王領であり、税金も王政府に納めているので、これまでハーパン伯爵とは無縁だった。紋章も知らないくらいだったからね。

 ところで40代後半のハーバン伯爵は、気さくに私の両手を握り、感謝の言葉を述べた。

「我が娘を助けてくださり感謝するよ」

「お嬢さまは、大丈夫でしょうか」

「まだ意識を取り戻していないが、命に別状はないということだ」

「それは良かったです。私もホッとしました」

「だが傷は残るだろう。それに右眼が……あの子が〈挑戦者(ディファイアンス)〉を目指すと言い出したとき、もっと本気で止めるべきだった。だが〈開華のタネ〉によりスキルツリーを覚醒させてから、あの子は常に【覇王魔窟】を目標としていた。だから今回、【覇王魔窟】の経験豊富な猛者たちとともにパーティを組ませ、送り出したのだが。まさか魔物によって、あのような深い傷を負うことになるとは」

 深い傷? あぁ寄生型魔物を取り出すさい、私が切り裂いたところか。魔物の仕業と誤解されているようだ。ここで隠しておいて、あとでミリアさんの口から聞いたら、また面倒そうだ。

「いえ、右乳房の下を切り裂いたのは私ですよ。魔物を取り出すために致し方なく。ざくっと裂いて、内部に両手を突っ込みました。魔物が肋骨の外側にいて、まだ肺などに入り込まなかったのは運が良かったです。そこまで切り裂かねばならなかったら、おそらく死んでいたでしょう。
 あ、それとお嬢さまの右眼球ですが、あれは魔物のせいで、眼球蟲的なものに変化してしまいまして。たぶん今も、【覇王魔窟】の床を這いまわっているのではないかと、カサカサと。あれ、ハーバン伯爵? 顔色が良くないようですが? 吐かれますか? 誰か―、伯爵が吐きまーす!」

「だ、大丈夫だ。わが娘の眼球が蟲と化したところを想像してしまい、少々、気分が──」

「分かります分かります。蟲って、可愛いですものねぇ」

「……う、む?」

 これは高価だぞ! ということだけは分かる、変てこな味のする紅茶をすする。
 するとハーバン伯爵が、是非ともという感じで持ちかけてきた。

「そなたは、ただ者ではないようだ。いや、何も言うな。わしには分かるぞ。あの【覇王魔窟】にソロで挑むとは──それに我が私兵も、簡単に吹っ飛ばして伸してしまったという話ではないか。おお、そうだ。そのさいは、うちの者たちが失礼したな。だが兵たちも事情を知らなかったのだ、許してやってくれ。
 そして、アリア殿よ。どうだろうか。そなたには、是非ともわしが要する【覇王魔窟】攻略パーティに参加を──」

「お断りします。ご馳走様でした。さようなら」

 制止を振り切り、客室を飛び出る。パーティなんてものに組み込まれては、ソロプレイの心地良さと気楽さが台無しになってしまう。

 しかし、ふむ。パーティ? そっか。引っかかりはこれか。
 客室に引き返すと、落胆していたハーバン伯爵が顔を輝かせた。

「考えなおしてくれたのかね?」

「いえ。パーティ参加は断固としてお断りですが。先ほどお嬢さまには、【覇王魔窟】の経験が豊富な者たちとパーティを組ませた、とおっしゃいましたね? 彼らは、一体何階まで攻略した猛者だったのですか?」

「うむ。最高で33階だが──残念ながら、娘以外は全滅してしまったようだ」

「最高で33階も? しかしお嬢さまは、それほど高い階から逃げてきたとは思えません。〈寄生操魔(パペットマスター)〉という寄生型魔物に、どの階で寄生されたのでしょう? いずれにせよ、寄生型の魔物がいることは分かっていたはずなのに、なぜ全滅するようなことが?」

「油断していた、としか思えんな。娘が意識を取り戻したら、聞いてみるとしよう」

「それが良いと思います。では、私はこれで──」

 うーん。油断してたのかなぁ? 
 何か、想定外のことが起きたような気がする。思いがけないことが──だってそうじゃないと、これは不可解だ。

 おそらく〈寄生操魔(パペットマスター)〉がいるのは、そんなに上層階ではない。今日はもう遅くなったから、家に帰るけれど。

 明日は、会えるかな、〈寄生操魔(パペットマスター)〉さん?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...