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第268話 もういちど薬指

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1月最終週の日曜日。愛翔たち3人は愛翔のステラスターFCU18での練習の終わった午後、駅前のジュエリーショップに来ていた。
「いらっしゃいませ。住吉さんいつもありがとうございます。」
愛翔は、いつもの店員に声を掛けられそちらに向き合う。
「こんにちは。出来てるって連絡貰ってきたんですが」
「はい、こちらになります」
店員が出してきたのはコマドリの卵色の箱3つ。
「こちらが桜さん、こちらが楓さん、そしてこちらが愛翔さんのものになります」
愛翔たち3人の事は知っていながら顔に出すことなく笑顔での対応はさすがの高級ジュエリーショップの店員というところか。
「「ね、愛翔」」
愛翔の両サイドから笑顔で左手を愛翔に差し出す桜と楓。
「もちろん」
そういうと愛翔は最も手元近くにあった箱からそっと取り出す。それはフルオーダーにより桜の花びらをモチーフとし小粒のダイヤとパパラチアサファイアをあしらったプラチナリング。愛翔が桜の左手をとり薬指にはめる。
「桜、愛してる」
そう言うと、愛翔は桜の唇に自らの唇を重ねた。
「愛翔、あたしも愛してる」
唇を離すと桜が愛の言葉を返した。愛翔は桜の頭をそっと撫ぜ、次に二つ目の箱から取り出した。緩やかな曲線で楓をイメージし、小粒のダイヤとルビーをあしらったプラチナリング。愛翔は楓の左手をとり薬指にはめる。
「楓。愛してるよ」
愛翔は楓にもキスを落とす。楓が愛翔の背中に手をまわし深いキスを求めた。”ぴちゃぴちゃ”と水音が響く。
「むう」
少しむくれた桜が楓の頭にチョップを落とした。
「楓。ここはお店。やりすぎ」
”ま、気持ちは分かるけれどさ”と桜がそっぽを向いた。
「う、うん、こほん」
店員が咳ばらいをして自分の存在をあぴーるしている。
「「「あっ」」」
愛翔を含め3人が固まってしまった。
「すみません」
3人揃って頭を下げると、店員はやや硬い表情ながら笑顔を作った。
「い、いえ、大丈夫です。お幸せに」
そう言って箱をショップの名前の入った手提げ袋に仕舞おうとしたところで桜が止めた。
「あ、待って」
そして楓に視線を向け、リングの残った最後のケースに手を伸ばす。
「ね、楓」
桜の言葉に言いたい事を理解した楓が桜の手に自分の手を添える。そして桜と楓が愛翔の左手をとった。
桜と楓が手に取ったそのリングは桜と楓の左手薬指にはまったリングを少し細くし合わせた形状のダブルリング。それを愛翔の左手薬指に2人の手ではめた。
見つめ合う3人。そして3人の距離が縮まり……
「う、うん」
ふたたび響く店員の咳払い。
3人は無言で頭を下げた。
そそくさと支払いを済ませ、ジュエリーショップを出る。3人の左手薬指の指輪が街灯の灯りにキラリとひかった。
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