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第216話 アレンジ

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「ね、ねえ、みんなアレンジを今までの2種類と違うものに変えたらダメかな?」
楓の言葉に”春”のメンバーが目を見張った。
「楓、今から新しいアレンジを考えるっての?本気?」
長嶺が楓を呼び捨てにしてただ事ではないと言外に伝える。
「ええ、本気よ。ずっとモヤモヤしてた。言葉に出来なかったから主張しなかったけれど」
「じゃあ、今は言葉に出来るの?」
「ええ、出来るわ。ポイントはシンプルに装飾を無くすの。さっきのテレビの特集のゲスト。あの人の言葉で気づいたわ」
「言葉?」
「ええ、分野が違ったけれど『スマホの画面で表現するべきものは大画面では表現できない』だったかしら。言いたいことわかる?」
楓以外のメンバー達は皆意味が分からず首をひねっている。そこで楓がさらに説明を始めた。
「ものごとには丁度いいところってのがあるって事だと思うの。足りなくてもダメ。でも多すぎても活かしきれない。だから、少しだけ時間をちょうだい。」
そう言うと、楓は楽譜を取り出し、近くのベンチに腰を下ろした。とりあえずと自分のパートであるギターのアレンジを作り直していく。横から覗いていた他のメンバー達だったけれど、楓が1枚目の楽譜を書き上げるころには意味を理解したようで
「その書き上げた1枚こっちに寄越しなさい。別のパートのアレンジは私達でやるから」
そう言って書きあがった楽譜を取り上げる。
「え、それは私が……」
「いいから、楓ちゃんは優秀だけど、音楽の経験はあたし達の方が倍以上あるんだから、このくらいはまかせなさい」
長嶺がそう言うと、楓の作ったギター譜を元に、それぞれがそれに合わせてパート譜を作っていく。
「できた」
最後に市野がパート譜を完成させたときには夏の空に茜色が混じり始めていた。
「あ、やばい。スタジオの予約時間」
長嶺が慌てて時間を確認する。
「あと20分しかないわ。急いで移動するわよ」
楽器を持ち、それでも駆け足で移動する”春”のメンバーたち。方向性を見つけた彼女たちのその表情はとても明るい。

スタジオに入ると、チューニングもそこそこにパート練習に入る”春”のメンバーたち。
「あ、これ本当に良いじゃないの」
大家が頬を緩め、市野が目を見張る。
「じゃあ、そろそろ合わせてみましょうか」
個別練習を1時間ほどしたところで長嶺が声を掛けた。
楓のギターがシンプルなメロディラインでイントロを奏でる。シンプルな8ビートを長嶺のドラムが刻む。市野のベースと大家のキーボードが控えめに華をそえる。そして楓が歌い上げ……

数回の合わせの後
「決まりね。前の2つのアレンジより全然良いわ」
長嶺が感想をくちにすると他のメンバーも首を縦に振る。田口もぼーっと聞き惚れていたようで、ここに来てあたふたとしている。
「じゃ、明日の本番は、このアレンジでいくわよ」
問題がクリアになり”春”のメンバーたちが晴れやかな笑顔でこの日の練習を終わった。
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