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第208話 ちょっとした気遣い

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「楓、荷物はこれで全部か?」
愛翔と桜は橘家で荷物を運んでいる。
「愛翔、桜、手伝ってくれてありがとう。助かっちゃった」
ペロリと舌を出していたずらっ子な笑顔を見せる楓。
「てか、こんな大荷物大丈夫なのか?新幹線に乗るまでは手伝えるけど」
「うん、まあなんとかするわ」
楓も少しうんざりしているけれど、仕方ないと割り切って入るようだ。
「あたしが横浜まで手伝うから大丈夫よ」
「え、桜?」
「なに?あたしが一緒に行ったらまずいの?」
「ううん、そんなことは全然ないんだけど。良いの?」
楓の言葉に桜は首をかしげる。
「あたしだって楓の手伝いくらいするわよ」
「ううん、そういう事じゃなくて」
そこで楓は桜の耳に口を寄せて囁いた。
「私が横浜に行っている間は愛翔と2人きりになれるのよ」
そんな楓の言葉に桜はあっさりと答えた。
「楓だって、あたしがインターハイで留守にしている間、愛翔と2人きりになれるのに応援に来てくれたじゃない」
そこで一旦離しを区切り、普通の声で桜が
「さ、あんまり遅くなってもあれだから移動しましょ」
スーツケースと大きなリュックを背負い、ギターを持とうと愛翔が手を出したとき
「ギターだけは私が自分の手で持っていくわ」
「え、楓、ギターって結構重いよな。俺がいる間は……」
「ううん、他の物はともかくギターだけは私の責任で持っていく。愛翔だってサッカーの道具を他人任せにはしないでしょ。たとえ私や桜にだって預けないの知ってるんだからね」
「そっか、わかった」
着替えやメイク道具等なら愛翔や桜になら任せてもギターだけはダメというのは愛翔にも理解できるので、愛翔は他の荷物を抱えた。


「で、集合は本当にここでいいのか?」
3人がいるのは新幹線の上りホーム。愛翔がやや訝し気に楓に聞いていた。
「ええ、間違いないわよ。そろそろ時間も、あ、来た」
そう言って手を振る楓の視線の先には光野高校軽音楽部”春”のメンバーが揃っていた。
「やっほ楓ちゃん、相変わらず早いわね。住吉君と華押さんもお見送りにきてくれたのね。ありがとう」
最初に気軽に声を掛けてきたのは”春”のリーダー長嶺。
「まあ楓の荷物もすごかったしね」
クスリと愛翔が笑い、他のメンバーを見やる。誰もがかなりの荷物を抱えていて大変そうだ。
「で、忙しい愛翔は無理だけど、あたしは着いていくことにしたの」
桜はフンスと胸を張った。
「で、そんな大荷物にちょっと引け目を感じるけど渡すものがあるんだ」
愛翔が自分のバッグから取り出したのは2つの小ぶりな袋。
「これは?」
「こっちはマヌカハニーっていって普通の蜂蜜より殺菌抗菌作用があるそうなんで喉に良いそうだ。そしてこっちは携帯型のネブライザー。喉の保湿に専用の吸引液とセットで使ってみてくれ。今の時期冷房で喉をやられやすいからな。楓はギター兼ボーカルだろう、だからその対策になると思って準備してみたんだ」
照れくさそうに人差し指で頬をかく愛翔に楓が抱きついた。
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