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第160話 復帰を目指して

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「サッカーの実戦参加ですか」
愛翔の主治医三樹が少しばかり難しい顔で考え込んだ。
「ダメ……でしょうか?」
「いえ、全くダメというわけでは無いのですが。これが学校の体育への参加程度なら無理しないことを前提にオーケーを出します。しかし、住吉君のいうサッカーは日米交流戦の録画を見ましたがレベルが違いますよね」
更に考え込む三樹。愛翔は真剣な顔でその返事を待つ。そして
「15分」
「は?」
三樹の言葉に愛翔は意味が分からず、珍しく呆けたような声を出してしまった。
「とりあえずは、プレイ時間15分から様子を見ながら時間を延ばす。延長の度合いは試合の様子を確認して私が判断します。私が提案できるのはここまでですね」
「それは試合ですよね。練習は……」
「練習の様子をビデオに撮ってきてください。それを見て判断します」


「お久しぶりです。今日から短時間ですが練習に参加させていただきます。」
ステラスポーツセンターの第1グラウンド、練習着を着た愛翔の姿があった。
ワッと集まるステラスターFCのメンバーたち。それはU18チームだけでなくトップチームからU18、U15、U13全てのメンバーが集まり愛翔の復帰を祝福してきた。
「住吉、待ってたぞ」
「もう身体は良いのか?」
集まってきたメンバーの祝福に愛翔は瞳を潤ませる。
「まだフルタイムの参加は医者から許可が下りてませんが出来る限り参加しますのでよろしくお願いします」

ウォーミングアップから基礎練、パス、シュート、1対1。愛翔はそのひとつひとつを噛みしめるようにこなす。
「これが半年もブランクのある人間の動きかよ」
時枝が愛翔に笑いかける。
「ありがとう、でもまだまだだ、スタミナがもたないわ」
愛翔は久しぶりの感触を楽しみながらも自身の回復状態を把握していく。
「住吉」
そんな中U18監督の織部が愛翔を呼んだ。
「話は聞いている。短時間の参戦からなら復帰の許可がでたそうだな」
「はい。とりあえず試合では15分を限度としての復帰許可が出ました」
愛翔の返事を聞くと織部は少し瞑目する。そして
「今から紅白戦を行う。住吉はビブスチームのライトウィングで5分だけ参加しろ」
「はい、ありがとうございます」
そういうと愛翔は再びピッチに戻っていった。

紅白戦、ビブスチームのライトウィングとして参加した愛翔は、キックオフ直後にボールを受け取りいつものエリアを駆けていた。トップスピードに乗った愛翔の厄介さを知っているユニフォームチーム、レギュラーディフェンダーの仲西和人(なかにし かずと)が早々に立ちはだかる。
「いくら代表クラスとは言っても、病み上がりの人間に簡単には抜かせないぜ」
愛翔は軽いボディフェイントで揺さぶりをかける。しかし、さすがはステラスターFCU18 のレギュラーディフェンダーというところだろう、その程度はついてきた。距離が詰まったところで仲西は愛翔にチャージを掛ける。愛翔の上体がはじけた、ように見え、そのまま仲西が体勢を崩す。ぬるりと交わした愛翔はそのまま敵陣深くに攻め込んでいった。コーナー近くまで入り込んだ愛翔はその広い視野でビブスチームのセンターフォワード芦原がゴール前に詰めているのを確認しハイボールでクロスを上げる。芦原はタイミングよく頭を合わせたもののゴールキーパーのファインセーブによりゴールはならなかった。それでも愛翔への評価は上々で
「住吉、以前と変わらないスピードとクロスだな。すぐにでも復帰できるんじゃないか?」
芦原が笑顔を見せ
「そうだと良いんだがな。そう簡単にはいかないんだよ」
愛翔が苦笑を返す。
逆に仲西は、やや憮然とした顔で
「以前よりつかみどころが無くなったな。おまえ病気と言って何か秘密練習でもしてたんじゃないのか?」
「おいおい生死の分からない病気から復帰した人間にそれはないだろう」
おおむね愛翔の復帰へむけた第一段階は順調だった。
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