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第142話 サンクチュアリ

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試合はアメリカチームのキックオフで始まった。
アメリカチームは強靭なフィジカルを武器にグイグイと攻めあがる。日本チームのディフェンダーも日本人としてはフィジカルに恵まれた選手の集まりではあるけれど、よりフィジカル面に恵まれたアメリカチームの前に苦戦を強いられる。
ここにフィジカルのアメリカ、テクニックとスピードの日本のぶつかり合いが始まった。
「ぐ、何てパワーだ。押し負ける」
日本チームのディフェンダー植田勝久(うえた かつひさ)は辛うじて抑えるものの前を向けないでいる。しかし、植田が時間を稼いでいる間にもうひとりのディフェンダー名原龍斗(なはら りゅうと)がフォローに入った。さすがにディフェンダー2人からのチェックにアメリカチームのフォワード、レイ・パトリック・ヴィンセントも抜くのは無理と周囲への意識を広くとる。ふっと気付きややオーバーラップ気味に出て来ていたミッドフィルダーウォーレスにパスを出した。
ウォーレスにパスが通ると見えた瞬間、飛び込むように愛翔がパスカット。右サイドへドリブルで走り出した。愛翔の前方30メートルは空白地帯。あっという間にトップスピードにのった愛翔は右サイドを敵陣深く切り裂いていく。
あっという間の攻守逆転にアメリカチームのみならず日本チームも遅れてしまった。それでも自陣に残っていたアメリカチームのディフェンダーが2人愛翔の前に立ちふさがる。さすがの愛翔もU18ナショナルクラスのディフェンダー2人を一気に抜くことはまだ出来なかった。わずかにスピードを落としフェイントを織り交ぜる。相手との間に自らの身体を置き、相手から最も遠い位置でボールを扱う。
ファルカンフェイント、シザース、ボディーフェイント、クルクルと身体を入れ替え巧みなフェイントでボールをコントロール下に置く愛翔。2対1の数的優位を生かし愛翔にプレッシャーをかけるディフェンダー。3秒5秒7秒、サッカーにおける2対1の攻防としては信じられない時間、愛翔はボールを支配し続ける。
しびれを切らしたディフェンダーの1人が愛翔にチャージを敢行した。圧倒的なフィジカル差に愛翔の上体が弾けた、ように見えた。
次の瞬間、体勢を崩したのはディフェンダーのほうだった、そして愛翔はぬるりと体勢を立て直しもう1人のディフェンダーと1対1の態勢から得意のマルセイユルーレットで抜き去った。
そのまま右奥のいつものエリアまでボールを運びゴール前に詰めている光田にむけアーリークロスをあげた。もちろんアメリカチームディフェンダーも簡単に通さないとカットしようと前に出た、その直前でボールはグイっと曲がりゴールネットを揺らす。
わずかな静寂の時を置きスタンドの一角から歓声が、そして反対のスタンドからは悲鳴が上がる。
”ピー”主審のホイッスルが響き。
「ゴール」
日本チームが狂喜する。交流戦初戦、それも先制ゴール。試合開始直後の得点はその試合の行方さえ一気に持っていく得点だった。試合前半、立て直しきれないアメリカチームを翻弄し日本チームは更に追加点を加え2対0で折り返す。
後半、アメリカチームは徹底的に愛翔から離れたエリアにボールを運ぶ、試合序盤のインパクトが大きすぎ十分な対策が出来なかったことを表す対応だった。当然のように日本は猛攻を加えるも後半日米どちらも得点ならずゲームは2対0で日本チームが初戦を飾った。
「サンクチュアリ、聖域」
試合後、アメリカチームが愛翔に付けた呼び名だった。
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