上 下
124 / 314

第124話 トレーニングと晩飯

しおりを挟む
「それじゃ、鍵借りていきます」
運動着に着替えた愛翔は体育準備室からトレーニングスペースの鍵を借り体育館に向かう。体育館ではいくつかの運動部が活動をしていた。男女バレー部、バトミントン部、そして当然バスケットボール部も。そして当然のように女子バスケットボール部の活動エリアに歩み寄りちょうどコートから出た桜に声を掛ける。
「桜、頑張ってるな」
「あ、愛翔。放課後に体育館に来るなんて珍しいじゃない。今日はどうしたの?」
タタッっと愛翔に駆け寄り抱きつこうとしたところで躊躇う桜。
「ん、どうした?」
愛翔が不思議そうな顔をする。
「えへへ、部活途中だからさ、ちょーっと汗臭いかなって」
照れくさそうな笑みを浮かべる桜に愛翔はクスリと笑って言った。
「そんなの気にする間柄じゃないだろう」
そう言いながら愛翔は桜の頭を自分の胸に抱き撫でる。
「むぅ、むぅ」
桜がポンポンと愛翔の胸を叩くけれど、愛翔は穏やかに微笑みながら撫で続ける。
愛翔はひとしきり桜を可愛がり満足すると
「昨日も言ってただろ、今日は、クラブが休みの日のトレーニングに体育館のトレーニングスペースを借りようと思ってな。今日は初日なんで道具やマシンの様子を見ながらって感じだな」
そう言ってトレーニングスペースに移動していく愛翔。桜はそれを耳まで赤くなりながら見送った。

トレーニングスペースの入り口の鍵を開け、愛翔は何気なく中に入っていく。
「へえ、進学校って言ってても私立だからかな。結構揃ってるな」
一通りマシンや道具を確認した愛翔はスクールバッグから1綴りの紙を取り出した。それはクラブのトレーナーが作成した愛翔向けのトレーニングメニュー。
「うん、フィジカルトレーニングはここで全部できるな」
そう独り言ちると、愛翔は、その場でウォーミングアップを始めた。エアロバイク・動的ストレッチ等で十分に身体をほぐす。
「さて、そろそろいいだろう」
愛翔は上に羽織っていたジャージを脱ぎトレーニングウェア姿になると、淡々とトレーニングメニューをこなしていく。時より傍らに置いたボトルから水分補給をしながら2時間あまりトレーニングを行った愛翔は
「通常メニューは、これで終わりだけど」
ふっと時計に目をやり、
「後は家でやるしかないか」
ボディーシートで身体を拭き、軽く制汗剤をスプレーすると制服に着替える。そして背伸びをひとつし、トレーニングエリアを見回し片づけ忘れの無い事を確認して、扉を閉め施錠をする。
「あーいと。終わり?」
制服に着替えた桜が愛翔の背中に飛びついてきた。
「おう、桜か。とりあえず学校ではここまでだな。あとは家に帰ってから合宿で教わったメニューを追加する感じかな。ただ少し問題があるんだよなぁ」
愛翔の呟きに、背中から降りてきた桜が声をかける。
「問題って?」
「残りのトレーニングってフォームが大事で……。ん?」
そこまで言って何かに気づいた愛翔が
「桜、ちょっと手伝ってくれないか」
「え、手伝い?良いけど何するの?」


「で、楓まで……」
「そりゃ桜が愛翔の家に行くって聞いたら私だってついてくるわよ。それとも私が邪魔になるような事するの?」
「いや、そんなわけないだろう。単にトレーニングの手伝いをしてもらうだけだぞ」
「なら私がいても良いでしょ?」
ニッコリと笑う楓に
「いや、邪魔になるからじゃなくて、多分いても退屈するだろうと思っただけだぞ」
愛翔はやれやれとばかりに首をふり
「ま、いいや。邪魔にはならないから楓は適当にくつろいでいてくれ。桜、今からプランクっていう体幹トレーニングをするんだけどさ、これフォームが大事らしいんで見ててくれるか?」

「愛翔、右にずれてる」
「こ、こうか?」
「そうそう、そのままあと20秒」

「今度は顔が上がりすぎよ。もうちょっと……。そう、そのくらいで」

「く、結構キツイな」
桜にフォームチェックしてもらいながら愛翔がトレーニングを続け、一通り終わらせると。
「ふう、一通り終わった」

「お疲れ様」
桜がタオルを手渡したところで
「あ、終わった?こっちも丁度できたところよ」
楓が声を掛けてきた。
そこにあったのは、鳥から揚げ、ほうれん草ときのこのサラダ、厚揚げの大葉味噌焼き、豆乳コーンポタージュという和風の夕飯が3人前。
「冷蔵庫の中身勝手に使わせてもらったわよ」
そう言って両手をこすり愛翔を上目使いで見る楓に
「いや、まさか晩飯作ってくれるって思わなかった。ありがとうな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せな政略結婚のススメ

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

【完結】似て非なる双子の結婚

野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。 隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。 そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。 ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。

処理中です...