上 下
93 / 314

第93話 丘と高野

しおりを挟む
試合後のブリーフィングを終え、ロビーに入ったステラスターFCU18メンバー。すでにそれぞれにファンがついているようで、あっという間に囲まれている。
愛翔も例外ではなく4人の男女に囲まれていた。
「住吉さん、今日の活躍最高でした」
「ありがとうございます。これからも活躍できるよう頑張ります」
「あ、あの。サインしていただけないでしょうか?」
「すみません、サインってしたことが無いので代わりに握手ではダメでしょうか?」


「はーい、皆さんいつもステラスターFCU18を応援していただきありがとうございます。大変申し訳ありませんが、そろそろお開きとさせていただきます。また次回よろしくお願いします」
ステラスターFCの係員が全体に声を掛けて回りファンがロビーから退出していく。
そしてクスクスと笑いながら時枝が愛翔に声を掛けてきた。
「住吉、驚いたって顔してるな」
「ああ、トップチームでもないのにこういうのは驚いたよ」
そう話しながらロビーを並んで出る。
「愛翔君」
声を掛けてきたのはセミロングの茶色い髪をポニーテールにした少女。
「やあ、高野さん。今日は応援ありがとう」
愛翔が笑顔でこたえた。そして
「住吉君、お疲れ様」
明るめの茶色いセミロングの髪をおさげにしたおとなしめの女の子が歩み寄ってきた。
「あ、丘先輩も来てくれたんですね。ありがとうございます」
にこやかに挨拶を交わす愛翔に、呆れたように声を掛ける時枝。
「おいおい、ふたりも彼女を……」
そこまで言いかけ、声を潜め
「そういえば、初練習の時にはもう1人別の女の子がいたな。おまえどんだけ女侍らしてるんだよ」
コソコソと愛翔に耳打ちする。愛翔はプッと吹き出し
「そんなんじゃない。友達だよ。ま、それでも待たせるわけにはいかないから、今日は失礼するよ」
そう言いおいて、愛翔は高野と丘に向き合う。
「帰ろうか。よかったら軽く何か食べていかないか。応援に来てくれたお返しにおごるよ」

3人は結局駅近くのファミレスに腰を落ち着けた。
「高野さんはともかく、丘先輩が応援に来てくれるとは思わなかったので驚きましたよ」
愛翔が嬉し気に話すと
「あら、わたしって用事もない休日に友人が近場で公式戦デビューするのに応援にいかないような人間に見えていたのかしら」
丘がいたずらっ子の顔で茶化す。
「いえ、丘先輩とは、まだ知り合ってそれほどでもないので、そう思っただけです」
愛翔はやや引き気味で言い訳にはしることしたようだ。そんな話をしていると高野が横でクスクスと笑っている。それに気付いた愛翔が高野に目をむける。
「愛翔君でもそんなふうに焦ることもあるのね」
「ところで、そのそちらの方とは初対面なので紹介してもらえると嬉しいのだけれど」
愛翔は丘の言葉に居住まいを正し口を開く。
「こちら光野高校の先輩で丘ゆう子さん。学校のサッカー部とのちょっとしたことをきっかけに知り合った先輩」
「丘です。よろしくね」
「で、こっちは高野ひろみさん。小学校からの同級生で中学時代からの友人です」
「高野です。よろしくお願いします」
お互いを愛翔に紹介され挨拶を交わす丘と高野。
「高野さんは、住吉君とどんなふうに仲良くなったの?中学時代ってことは住吉君もまだ有名ってわけじゃ無い頃よね」
「中学に上がったばかりの頃、わたし授業についていけなくなって愛翔君に助けてもらったんです。それからですね。丘さんはどんなです?」
「わたし?そうね。わたしの場合はサッカーで有名な男の子がうちの学校に編入してきたって聞いて興味を持ったのが最初ね。自慢するわけじゃないけれど光野ってこの辺りでは1番と言って良い進学校じゃない。そこにサッカーでプロの試合にも出たようなスポーツマンが編入してきたって聞いてどんなスーパーマンかって思ってずっと興味を持って見てたの。確かにスーパーマンだと思ったわ。でも、とても優しい、そして本当の覚悟をもって物事にあたるスーパーマンだった。そしたらもう目が離せないわね。で、先日サッカー部とちょっとあって、そのことで交流をもてて、そこから仲良くさせてもらっているわ」
そう語る丘の目はとても優しく見守る目で、高野には愛翔に群がる他の女の子とは少し違うと感じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...