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第89話 丘ゆう子
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「住吉君。さっきの見てたよ」
校門に寄りかかりスマホを弄る愛翔に、愛翔のファンを自称する加藤が声を掛けてきた。
「ん、加藤君か。サッカー好きの加藤君には面白くなかっただろ?」
愛翔が苦笑しつつ加藤に答える。
「そうだね。サッカーとして見たらダメダメだよね。特に相手が。住吉君も派手な立ち回りで遊んだでしょ?」
加藤の言い方に笑みを深くする愛翔。
「遊んだつもりはないけど、俺のスタイルじゃないのは確かかな」
そんな話をしているところに1人の女子生徒が意を決したように声を掛けてきた。明るめの茶色いセミロングの髪をおさげにしたおとなしめの女の子。
「あ、あのサッカー部での見てました」
愛翔が怪訝な顔で目線を上る。
「え、えと君は?」
「あ、ごめんね。わたし2年C組丘ゆう子(おかゆうこ)。ずっと住吉君に興味があって、それで今日のサッカー部との……。何と言ったらいいのかしらあれは」
頬に右手のひらを当て小首を傾げる丘。
「デモンストレーション」
ボソリと愛翔が呟くと、丘はポンっと手を叩き。
「あぁそうね。そういう感じ。で、あのデモンストレーションも見ていたんだけど、あれってなんであんな具合になったの?」
そこで愛翔は、先輩に呼ばれてグラウンドに行ったもののいきなりあんな具合に晒しものにされたので早々に引き揚げてきたことを話した。
「本当はクラブが休みの時にボールが蹴れると良いなと思って行ったんですけどね。あれはちょっとなんで、休みは休むか自主トレすることにしますよ」
苦笑交じりに話していると、後ろの方が何やら騒がしい。
「ね、ねぇあの子さらっと住吉君とお近づきになって仲良くお喋りしてるんだけど」
「住吉君も特に気にもしないみたいよ……」
「ひょっとして、わたしにもワンチャン……」
そんな声が聞こえてくる中
「あーいと。おまたせー」
「気にするな。俺の方が予定より早く終わっただけだから」
校門に寄りかかっている愛翔に楓が抱きついてきた。愛翔もやさしく受け入れいつものように頬にキスを交わすふたり。
当然周りからは黄色い悲鳴が上がる。そんなものは知らないと楓は愛翔の胸にスリスリとすり寄り
「愛翔派手にやったわねぇ。私も見に行ってたけどさ」
そこで一旦言葉を切り、
「最後の剣崎君のタックルは、あれどうなの?愛翔の足ごと刈りに来たラフプレーに見えたんだけど。公式戦の決勝点でもないのにあれってありなの?」
目が座っている。声もいつもの可愛らしい声ではなく、まるで呪い殺すかのような低い声。
「そ、そうよね。やっぱりそうよね。あれって普通じゃないわよね」
楓の剣崎を非難する声に最初に反応したのは丘だった。
「え、あの、あなたは?」
丘の言葉の勢いに目を白黒させながら楓がたずねる。
「あ、ごめんね。わたし丘ゆう子。2年C 組よ。女神様」
途端に表情を曇らせる楓。
「先輩、私は橘楓です。女神様なんて名前じゃありません」
丘ははっとしたような顔になった。
「ご、ごめんなさい橘さん。そんなつもりで言ったわけじゃないの。みんなが呼んでいるものだからつい」
丘の謝罪をうけ楓もため息をつきつつ
「もういいです。丘先輩が悪気が無かったことはわかりましたから。でも、その特別扱いが桜への嫌がらせにつながったようなものなので、本当に勘弁してほしいんですよね」
そう言いながらちらりと周囲を見回した。
「で、あの足まで刈るようなタックルの話ですよね。実際どうなの、愛翔?」
愛翔は話をふられ、ちょっと顔を顰めながら
「一応足ではなくボールにきていたのでファウルは取られないとは思うけど、正直あまり褒められるプレーではないと思う。俺はね」
校門に寄りかかりスマホを弄る愛翔に、愛翔のファンを自称する加藤が声を掛けてきた。
「ん、加藤君か。サッカー好きの加藤君には面白くなかっただろ?」
愛翔が苦笑しつつ加藤に答える。
「そうだね。サッカーとして見たらダメダメだよね。特に相手が。住吉君も派手な立ち回りで遊んだでしょ?」
加藤の言い方に笑みを深くする愛翔。
「遊んだつもりはないけど、俺のスタイルじゃないのは確かかな」
そんな話をしているところに1人の女子生徒が意を決したように声を掛けてきた。明るめの茶色いセミロングの髪をおさげにしたおとなしめの女の子。
「あ、あのサッカー部での見てました」
愛翔が怪訝な顔で目線を上る。
「え、えと君は?」
「あ、ごめんね。わたし2年C組丘ゆう子(おかゆうこ)。ずっと住吉君に興味があって、それで今日のサッカー部との……。何と言ったらいいのかしらあれは」
頬に右手のひらを当て小首を傾げる丘。
「デモンストレーション」
ボソリと愛翔が呟くと、丘はポンっと手を叩き。
「あぁそうね。そういう感じ。で、あのデモンストレーションも見ていたんだけど、あれってなんであんな具合になったの?」
そこで愛翔は、先輩に呼ばれてグラウンドに行ったもののいきなりあんな具合に晒しものにされたので早々に引き揚げてきたことを話した。
「本当はクラブが休みの時にボールが蹴れると良いなと思って行ったんですけどね。あれはちょっとなんで、休みは休むか自主トレすることにしますよ」
苦笑交じりに話していると、後ろの方が何やら騒がしい。
「ね、ねぇあの子さらっと住吉君とお近づきになって仲良くお喋りしてるんだけど」
「住吉君も特に気にもしないみたいよ……」
「ひょっとして、わたしにもワンチャン……」
そんな声が聞こえてくる中
「あーいと。おまたせー」
「気にするな。俺の方が予定より早く終わっただけだから」
校門に寄りかかっている愛翔に楓が抱きついてきた。愛翔もやさしく受け入れいつものように頬にキスを交わすふたり。
当然周りからは黄色い悲鳴が上がる。そんなものは知らないと楓は愛翔の胸にスリスリとすり寄り
「愛翔派手にやったわねぇ。私も見に行ってたけどさ」
そこで一旦言葉を切り、
「最後の剣崎君のタックルは、あれどうなの?愛翔の足ごと刈りに来たラフプレーに見えたんだけど。公式戦の決勝点でもないのにあれってありなの?」
目が座っている。声もいつもの可愛らしい声ではなく、まるで呪い殺すかのような低い声。
「そ、そうよね。やっぱりそうよね。あれって普通じゃないわよね」
楓の剣崎を非難する声に最初に反応したのは丘だった。
「え、あの、あなたは?」
丘の言葉の勢いに目を白黒させながら楓がたずねる。
「あ、ごめんね。わたし丘ゆう子。2年C 組よ。女神様」
途端に表情を曇らせる楓。
「先輩、私は橘楓です。女神様なんて名前じゃありません」
丘ははっとしたような顔になった。
「ご、ごめんなさい橘さん。そんなつもりで言ったわけじゃないの。みんなが呼んでいるものだからつい」
丘の謝罪をうけ楓もため息をつきつつ
「もういいです。丘先輩が悪気が無かったことはわかりましたから。でも、その特別扱いが桜への嫌がらせにつながったようなものなので、本当に勘弁してほしいんですよね」
そう言いながらちらりと周囲を見回した。
「で、あの足まで刈るようなタックルの話ですよね。実際どうなの、愛翔?」
愛翔は話をふられ、ちょっと顔を顰めながら
「一応足ではなくボールにきていたのでファウルは取られないとは思うけど、正直あまり褒められるプレーではないと思う。俺はね」
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