上 下
21 / 314

第21話 1位と2位

しおりを挟む
 「新入生代表橘楓さん。お願いします」
入学式の新入生代表の挨拶。壇上に立つ楓。一礼をしてマイクに向かう。
「本日は私達新入生の為にこのような盛大な式を挙げて頂き誠にありがとうございます。桜の花びらの舞い散る暖かな日差しの中、私たちは伝統ある光野高等学校への入学の日を迎えることが出来ました。……

……校長先生はじめ諸先生方、そして先輩方、まだまだ未熟な私達ではありますが、 温かいご指導下さいますようお願い申し上げます。新入生代表、橘楓」
大きな拍手の中、楓は胸を張り席に戻った。

教室に戻るとそこでは、また楓の周囲が騒がしくなっていた。
「橘さん、入試1位だったんですね」
「綺麗で、強くて、成績もいいなんてすごいです」
ここで楓は少しばかり気まずい表情をしている。
「私入試1位じゃないよ」
それを聞いたクラスメイト達は首をかしげる
「だって橘さん、新入生代表で挨拶したじゃない。あれって1位の人がやるものでしょ?」
楓は、ため息をついて桜を見やり
「1位の人が辞退したの。それで私にお鉢が回ってきたというだけよ」
「えぇ?1位の人なんで辞退したの?知ってる?」
「1位で辞退なんて勝手じゃないの?」
「人には色々事情があるもの。壇上で話すだけの事なら私は出来るけど。でもグランドで身体を動かう競技を代表でやれって言われたら私には無理。同じ壇上での発表でもダンスを踊れといわれればやっぱり無理。そういう向き不向きで1位の人は壇上での挨拶が苦手だっただけでしょう。その代わり、運動系のものは変わってもらうから大丈夫」
にっこりと笑顔で言い切る楓。それでも周囲は単なる謙遜と思い込み色々という。桜だけが苦笑いしながら頷いている。
「橘さんやさしぃ」
「運動苦手って言ってるけど、橘さんならきっと」

新入生オリエンテーションも終わり朝からの騒ぎも収まった。
桜と楓は教室の隅で
「朝は大変だったねぇ」
桜がふよふよと笑う。
「誰のせいだと思ってるのよ」
「はーい、新入生代表挨拶を辞退した誰かのせいでーす」
「そうよねぇ」
ニコニコと笑いながら桜のこめかみに拳を当ててギリギリと締め上げる楓。
「痛い。痛いよ楓」
「そりゃ痛いようにしてるからね。1位さん」
「あ。あれ?バレてた?」
「むしろあたしたちの間柄でなぜバレないと思ったのかな?」
にっこりと笑う楓に
「楓ちゃん、笑顔が怖いよぉ」
「ふふふ、人見知りの桜が代表挨拶なんてまだ無理なのはわかってるから良いけどね。一言言ってほしかったなぁ」
「うぅごめんね楓。スポーツ系の代表1回交代してあげるから許して」
「はいはい、ただし次からはちゃんと言ってよね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母ができました。弟もできました。弟は父の子ではなくクズ国王の子らしいですが気にしないでください( ´_ゝ`)

てん
恋愛
タイトル詐欺になってしまっています。 転生・悪役令嬢・ざまぁ・婚約破棄すべてなしです。 起承転結すらありません。 普通ならシリアスになってしまうところですが、本作主人公エレン・テオドアールにかかればシリアスさんは長居できません。 ☆顔文字が苦手な方には読みにくいと思います。 ☆スマホで書いていて、作者が長文が読めないので変な改行があります。すみません。 ☆若干無理やりの描写があります。 ☆誤字脱字誤用などお見苦しい点もあると思いますがすみません。 ☆投稿再開しましたが隔日亀更新です。生暖かい目で見守ってください。

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

悪役令嬢が王太子に掛けられた魅了の呪いを解いて、そのせいで幼児化した結果

下菊みこと
恋愛
愛する人のために頑張った結果、バブちゃんになったお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 アルファポリス様でも投稿しています。

【完結】本音を言えば婚約破棄したい

野村にれ
恋愛
ペリラール王国。貴族の中で、結婚までは自由恋愛が許される風潮が蔓延っている。 奔放な令嬢もいるが、特に令息は自由恋愛をするものが多い。 互いを想い合う夫婦もいるが、表面上だけ装う仮面夫婦、 お互いに誓約書を作って、割り切った契約結婚も多い。 恋愛結婚をした者もいるが、婚約同士でない場合が多いので、婚約を解消することになり、 後継者から外され、厳しい暮らし、貧しい暮らしをしている。 だからこそ、婚約者と結婚する者が多い。だがうまくいくことは稀である。 婚約破棄はおろか、婚約解消も出来ない、結婚しても希望はないのが、この国である。 そこに生まれてしまったカナン・リッツソード侯爵令嬢も、 自由恋愛を楽しむ婚約者を持っている。ああ、婚約破棄したい。 ※気分転換で書き始めたので、ゆるいお話です。

美人OLは魔法使いで玉の輿

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿106話スピンオフ 結婚間近の真理亜は、婚約者が年増の常務の娘とできている事実を知る。別れ話を切り出す真理亜にすがる康夫。そこに常務の娘が追いかけてきて、3人一緒に異世界へ。 真理亜以外は、奴隷に落とされるが、真理亜も独身相手が国王陛下しかいなく、婚約させられてしまう。 国王と結婚するのが嫌なので、元婚約者の康夫とともに、日本へ戻るが、丸の内で再び、新しい恋人ができ、その彼氏と異世界へ行き、満喫するというお話に替えます。 せっかく聖女の力があるのに、しょうもないOLやってるより、いい生活したい!という気持ちから新しい彼氏とラブラブ設定にかえまーす♪ でも、新しい恋人は、エリートだから、もったいないか?週末だけ異世界にかえます。 あはは。ご都合主義だ。いいじゃん。私が好きに書いているんだもん♪ R15は保険です。表現がエスカレートするかもしれないので。

婚約者に捨てられましたが

水川サキ
恋愛
婚約して半年、嫁ぎ先の伯爵家で懸命に働いていたマリアは、ある日将来の夫から告げられる。 「愛する人ができたから別れてほしい。君のことは最初から愛していない」 浮気相手の女を妻にして、マリアは侍女としてこのまま働き続けるよう言われる。 ぶち切れたマリアはそれを拒絶する。 「あなた、後悔しますわよ」

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

処理中です...