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15話 交流試合
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「サッカー部、次の土曜日に対外試合するんだって?」
部活が終わった帰り道、楓が突然口にしたのはサッカー部の試合予定。
「おう、耳が早いな」
「え、あたし聞いてないんだけど」
桜が口をとがらせる。
「いや、オレ達部員だって今日、知らされたとこなんだぞ。楓の情報が早すぎるんだよ」
愛翔の反論に、少しだけ機嫌を直す桜。となれば気になるのは
「愛翔は出るの?」
「うーん、どうなんだろう。公式戦じゃないし後半戦なら少しは出してもらえるかもなぁ」
「レギュラーになれてないの?」
さすがに桜のこの言葉には愛翔も苦笑する。
「おれサッカーを始めてまだ3カ月なんだからな。さすがにずっとやってきた先輩を上まわるのはまだ無理だって」
ひとつの事に打ち込んできた経験があるため、幼馴染の少女ももさすがに本気で言っているわけではない、
「ま、そりゃそうよね」
「でも、さっきの話だと、少しは出してもらえそうってことよね」
「対外試合とは言っても非公式な交流試合だからな。俺だけじゃなく恐らくAグループは何らかの理由をつけて出すと思う」
愛翔の答えに桜は即答で
「楓、一緒に愛翔の応援にいこう」
「いいわね、そうしよう。あ、じゃぁお休みの日だし、ふたりでお弁当作っていかない?」
「うん、そうしよう。愛翔、愛翔の分もちゃんと作っていくから、お昼は3人で一緒に食べようね」
愛翔は、幼馴染ふたりそろっての提案に素直に喜ぶ
「え、ありがとう。ふたりの作る料理うまいからな。楽しみだよ」
そして土曜日。同市の市立中学校のサッカー部同士の交流試合、公式戦では毎回県大会出場を争うライバル校、緊迫した好ゲームを繰り広げていた。午前中は両校ともレギュラー陣同士でのゲームということで中学レベルとしてはそこそこにハイレベルな試合展開。時に緻密に、時に大胆に攻め守る両チームにベンチからも、観客(噂を聞きつけて見に来た近所の住人たち)からも声援が送られる。
良い感じに縦パスが通ったと思うと、それをディフェンダーが効率的に外に追い出す。ショートパスをつなぎ攻めあがっていると見せ、サイドチェンジで相手陣形を崩しにかかる。細かいテクニックは荒いものの動きの良いゲームが30分ハーフで行われた。両校1点ずつの得点で交流戦ということでドローとなった。
「よーし、レギュラー陣のゲームは多少のミスはあったが思い切りのいい気持の乗ったゲームだったぞ。2試合目のサブチームも頑張れよ。で今からメンバーを発表するが、基本は1年のチームだからな」
顧問のサプライズに愛翔をはじめ1年生部員が目を白黒させる。
「先生、俺たちまだポジションも決まってないし、ましてやフォーメーションも組んだことないですよ。試合にならないんじゃないですか?」
田河の抗議も
「大丈夫だ、毎年この時期の交流戦の2試合目は両校サプライズで1年にやらせることになっているから条件は一緒だ」
と取り付く島もない。そこでメンバーに選ばれた1年が集まり即席でポジションを決めていく。
「とりあえず田河のトップ下司令塔は間違いないよな」
それぞれが勝手な事を言いながらどうにかポジションを決めた1年生部員。愛翔はライトウィングを任された。その時の田河の言葉は
「住吉はとにかく足が速くてタフだからな、とにかく走ってくれ」
他のポジションも似たようなものでたいがいな感じになっている。
そんな即席チームでは当然コンビネーションなどあってないようなもの。1試合目のレギュラー陣のゲームと違いとんでもなく大味な展開になっている。となれば物を言うのは個人のフィジカル。味方ゴールから敵ゴールまでを走り回る愛翔にボールもマークも集まる。大きく蹴りだされたルーズボールに真っ先に追いつきライン際を相手陣営にドリブルで攻め込む。
「愛翔ぉ、後ろからマークきてるよぉ」
思わず叫ぶ桜の声に反応したわけでもないのだろうけれどチラリと後方を見やると、そのまま大きく逆サイドにパスを振る。精度は低い物の小学生時代からクラブチームでサッカーをしてきた仁平が捌き敵陣に切り込む。パス後マークを振り切った愛翔がゴール前に詰めているのを見た仁平がゴール前に上げる。愛翔がヘディングで合わせるけれど、コーナーもつかない正直すぎるシュートは簡単にはゴールネットを揺らすことは出来ない。
もっともその辺りは相手チームも似たようなもので2、3人のハイスペックメンバーを中心になんとか繋いでゴール前までボールを持ってくる。
結局は2試合目もドローゲームで終わった。
「ライトウィングのお前。名前は?」
相手チームの1年から声を掛けられた愛翔。
「え、俺の事か?」
「他にそっちのチームでライトウィング入ったやついるかよ」
「住吉愛翔だ。それでなんだよ」
「オレは多賀浩介」
多賀浩介はそれだけを言うと挙動不審になっている。
「で、その多賀君はオレに何の用?」
「あー、そのなんだ。負けないからな」
一言叫んでチームに合流していく多賀を愛翔は呆然と見送った。
「なんだったんだ?」
そのあと、合同で簡単な総括を行い一旦解散となった。各々食事を済ませて午後には合同練習の予定になっている。
グランドの隅でチームメイトが弁当を広げはじめたところで愛翔はキョロキョロと周囲を見回し、手を振る。
「あーいと。頑張ったねぇ」
左腕に抱きついてきたのは桜。
「残念ながら得点できなかったけどな」
「そんなことないよ。結構かっこよかったよ。何より一生懸命に走ってたでしょ」
楓が右腕に抱きついてくる。
「そんなことより、ほら。お弁当食べよ」
そんな3人を不思議そうな顔で見るサッカー部員。その部員を代表するように田河が口を開く。
「住吉。その、華押さんとも橘さんとも幼馴染だってのは聞いてたんだけど。付き合ってるって話は聞いてないぞ」
「いや、付き合っては無いし」
愛翔の返しに田河は納得がいかないと
「ならなんで弁当まで作ってきてくれてるんだよ」
「なんでって言われても。桜も楓も料理がうまいからなぁ。作ってくれると言われれば喜んで頼むよ」
「うらやましいな」
「やらんぞ」
「まったくそういう意味じゃないんだけどな」
呆れたように言うと田河は他のサッカー部員のもとへ戻っていった。
部活が終わった帰り道、楓が突然口にしたのはサッカー部の試合予定。
「おう、耳が早いな」
「え、あたし聞いてないんだけど」
桜が口をとがらせる。
「いや、オレ達部員だって今日、知らされたとこなんだぞ。楓の情報が早すぎるんだよ」
愛翔の反論に、少しだけ機嫌を直す桜。となれば気になるのは
「愛翔は出るの?」
「うーん、どうなんだろう。公式戦じゃないし後半戦なら少しは出してもらえるかもなぁ」
「レギュラーになれてないの?」
さすがに桜のこの言葉には愛翔も苦笑する。
「おれサッカーを始めてまだ3カ月なんだからな。さすがにずっとやってきた先輩を上まわるのはまだ無理だって」
ひとつの事に打ち込んできた経験があるため、幼馴染の少女ももさすがに本気で言っているわけではない、
「ま、そりゃそうよね」
「でも、さっきの話だと、少しは出してもらえそうってことよね」
「対外試合とは言っても非公式な交流試合だからな。俺だけじゃなく恐らくAグループは何らかの理由をつけて出すと思う」
愛翔の答えに桜は即答で
「楓、一緒に愛翔の応援にいこう」
「いいわね、そうしよう。あ、じゃぁお休みの日だし、ふたりでお弁当作っていかない?」
「うん、そうしよう。愛翔、愛翔の分もちゃんと作っていくから、お昼は3人で一緒に食べようね」
愛翔は、幼馴染ふたりそろっての提案に素直に喜ぶ
「え、ありがとう。ふたりの作る料理うまいからな。楽しみだよ」
そして土曜日。同市の市立中学校のサッカー部同士の交流試合、公式戦では毎回県大会出場を争うライバル校、緊迫した好ゲームを繰り広げていた。午前中は両校ともレギュラー陣同士でのゲームということで中学レベルとしてはそこそこにハイレベルな試合展開。時に緻密に、時に大胆に攻め守る両チームにベンチからも、観客(噂を聞きつけて見に来た近所の住人たち)からも声援が送られる。
良い感じに縦パスが通ったと思うと、それをディフェンダーが効率的に外に追い出す。ショートパスをつなぎ攻めあがっていると見せ、サイドチェンジで相手陣形を崩しにかかる。細かいテクニックは荒いものの動きの良いゲームが30分ハーフで行われた。両校1点ずつの得点で交流戦ということでドローとなった。
「よーし、レギュラー陣のゲームは多少のミスはあったが思い切りのいい気持の乗ったゲームだったぞ。2試合目のサブチームも頑張れよ。で今からメンバーを発表するが、基本は1年のチームだからな」
顧問のサプライズに愛翔をはじめ1年生部員が目を白黒させる。
「先生、俺たちまだポジションも決まってないし、ましてやフォーメーションも組んだことないですよ。試合にならないんじゃないですか?」
田河の抗議も
「大丈夫だ、毎年この時期の交流戦の2試合目は両校サプライズで1年にやらせることになっているから条件は一緒だ」
と取り付く島もない。そこでメンバーに選ばれた1年が集まり即席でポジションを決めていく。
「とりあえず田河のトップ下司令塔は間違いないよな」
それぞれが勝手な事を言いながらどうにかポジションを決めた1年生部員。愛翔はライトウィングを任された。その時の田河の言葉は
「住吉はとにかく足が速くてタフだからな、とにかく走ってくれ」
他のポジションも似たようなものでたいがいな感じになっている。
そんな即席チームでは当然コンビネーションなどあってないようなもの。1試合目のレギュラー陣のゲームと違いとんでもなく大味な展開になっている。となれば物を言うのは個人のフィジカル。味方ゴールから敵ゴールまでを走り回る愛翔にボールもマークも集まる。大きく蹴りだされたルーズボールに真っ先に追いつきライン際を相手陣営にドリブルで攻め込む。
「愛翔ぉ、後ろからマークきてるよぉ」
思わず叫ぶ桜の声に反応したわけでもないのだろうけれどチラリと後方を見やると、そのまま大きく逆サイドにパスを振る。精度は低い物の小学生時代からクラブチームでサッカーをしてきた仁平が捌き敵陣に切り込む。パス後マークを振り切った愛翔がゴール前に詰めているのを見た仁平がゴール前に上げる。愛翔がヘディングで合わせるけれど、コーナーもつかない正直すぎるシュートは簡単にはゴールネットを揺らすことは出来ない。
もっともその辺りは相手チームも似たようなもので2、3人のハイスペックメンバーを中心になんとか繋いでゴール前までボールを持ってくる。
結局は2試合目もドローゲームで終わった。
「ライトウィングのお前。名前は?」
相手チームの1年から声を掛けられた愛翔。
「え、俺の事か?」
「他にそっちのチームでライトウィング入ったやついるかよ」
「住吉愛翔だ。それでなんだよ」
「オレは多賀浩介」
多賀浩介はそれだけを言うと挙動不審になっている。
「で、その多賀君はオレに何の用?」
「あー、そのなんだ。負けないからな」
一言叫んでチームに合流していく多賀を愛翔は呆然と見送った。
「なんだったんだ?」
そのあと、合同で簡単な総括を行い一旦解散となった。各々食事を済ませて午後には合同練習の予定になっている。
グランドの隅でチームメイトが弁当を広げはじめたところで愛翔はキョロキョロと周囲を見回し、手を振る。
「あーいと。頑張ったねぇ」
左腕に抱きついてきたのは桜。
「残念ながら得点できなかったけどな」
「そんなことないよ。結構かっこよかったよ。何より一生懸命に走ってたでしょ」
楓が右腕に抱きついてくる。
「そんなことより、ほら。お弁当食べよ」
そんな3人を不思議そうな顔で見るサッカー部員。その部員を代表するように田河が口を開く。
「住吉。その、華押さんとも橘さんとも幼馴染だってのは聞いてたんだけど。付き合ってるって話は聞いてないぞ」
「いや、付き合っては無いし」
愛翔の返しに田河は納得がいかないと
「ならなんで弁当まで作ってきてくれてるんだよ」
「なんでって言われても。桜も楓も料理がうまいからなぁ。作ってくれると言われれば喜んで頼むよ」
「うらやましいな」
「やらんぞ」
「まったくそういう意味じゃないんだけどな」
呆れたように言うと田河は他のサッカー部員のもとへ戻っていった。
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