上 下
108 / 155
力をつけるために

第108話 朝未の料理②

しおりを挟む
「さってと、夕飯の仕込みにかかろうかしら」
「アサミ様、お手伝いできることはありませんでしょうか?」
「えっと、すぐには無いと思います。でも少ししたら交代でスープの番をしてもらっていいですか?ちょっと長時間かかるので」
「はい、もちろんです」

マルティナさんってあたしに凄くよくしてくれるのよね。奴隷のままになんて本当はしておきたくないけど、事情が事情だから、権力に対抗できるように強くなるまでは仕方ないのかしらね。

「まずは、材料の確認をしないとね。コロネにカームに鶏ガラにスパイス各種と、あミノの肉買うの忘れてた。マルティナさん、申し訳ないのだけど、ミノのもも肉と赤身肉をそれぞれ2グルずつ買ってきてくれませんか?あたしはその間に下ごしらえをしておきますから」
「わかりました。お任せください。いいところを買ってきます」
「あ、いえ、そんなに良いところでなくて大丈夫です。直接それを食べるわけではないので……」

あたしが言い切る前にマルティナさんは駆け出してしまった。
まあ、悪くなるわけではないからいいことにしよう。

マルティナさんが戻るまでにあたしは買ってきた骨から血合いを取り除く作業に入った。日本ではここまで手を掛ける時間もなかったけど、一度やってみたかったのよね。日本では簡単に味を調えることのできる調味料がいくらでもあったから、ここまでする必要もなかったっというのもあるのだけど。

血合いを取り除き終わった骨を軽く下茹でしてこれの下ごしらえは完了。この世界には魔道具のコンロがあって火加減の調整がIH並に簡単なのは楽でいいわね。
鍋から取り出しているちょうどそこにマルティナさんが息を切らして帰ってきた。

「ハアハア……。アサミ様、買ってきました」
「マルティナさんありがとう。まずはそのもも肉の方を小さめに切り分けてから軽く炙ります」

サイコロ状に切ったもも肉をフライパンで軽く焼き色をつける。

「そしたらこれをまとめて鍋に入れて灰汁を取りながらじっくりと煮込みます」
「煮込むってどのくらいですか?」
「うーん、量が4分の3くらいになるまでですね」

あ、マルティナさんが固まった。

「結構時間が掛かるので、その間1人で灰汁取りをしているときついと思うんですよ。なので時々マルティナさんが交代してくれると助かります」
「ええ、ええ、もちろん、お手伝いさせていただきますとも」

マルティナさんが満面の笑顔を見せてくれたわね。


マルティナさんと雑談を交わしながら交代で灰汁をとること3時間ほど。いい感じに煮込めた。

「これをザルで漉しながらこっちの鍋に移します。そして別の鍋にマルティナさんが買ってきてくれたミノの赤身肉をミンチにしたものと、卵の白身、今度は皮を剥いてみじん切りにしたカーム、コロネ、ザックルを入れてよく混ぜます」

ざくざくとよく混ぜ、マルティナさんに見せる。

「そして、これに先ほど濾したスープを入れてよく混ぜながら火にかけます」

混ぜながらよく観察する。たしか沸騰したら混ぜるのをやめるんだったはず。そして火を調整して弱めの沸騰が続くように調整する。

「はい、これでこのまましばらく煮込みます」
「アサミ様、またですか?」
「ええ、でも今度はこのまま煮込むだけですよ」

時々確認しながら煮込むことおよそ2時間。スープが澄んできたので火からおろし、小皿にとって味見をしてみる。

「うん、美味しいスープが出来たわ。これがコンソメというスープです。味見してみますか?」

小皿に少し取ってマルティナさんに渡すと、恐る恐る口にした。この世界の常識では食べられるようなものに見えなかったのかもしれないわね。

「お、美味しいです」

マルティナさんがパッと花が咲いたような笑顔を向けてくれたので思わずドキッとしちゃったじゃないの。



さて、次はカーク、コロネ、ジャグンの皮を剥いて、一口サイズに切ったものを鍋に入れてそのまま軽く炒る。そこに水とコンソメを入れて弱火でコトコト。

「マルティナさん。これ焦げ付かないようにゆっくり混ぜていてもらえますか」
「はい。どんな美味しいものになるのか楽しみです」

鍋をマルティナさんに任せて、あたしは常時準備しているプレーンなパン種を取り出してきた。30センチくらいの三角形に薄くのばしたものをいくつも作っていく。準備が出来たところで石釜風オーブンをいつものように火魔法で予熱。そこに今作ったものを並べる。

マルティナさんに任せた鍋の様子を見るとそろそろ煮えた感じなので、フライパンにラードを投入。本当はバターが欲しいんだけど、まだ見つけてないのよね。ほどよくとろけたところで火からおろして、この世界の小麦粉をふるい入れてザクザクと混ぜる。大体混ざったところで弱火にかけてさらに混ぜて、緩んだところで、準備しておいた香辛料を投入。さらに少し火を通したらちょっと舐めてみる。うん、いい感じ。嘘です。あたしにはちょっと刺激が強すぎました。でもこれくらいにする必要はあると思うの。

「マルティナさん。これをそちらの鍋に入れてゆっくり混ぜていてください」

マルティナさんに鍋を任せて、あたしは大皿を持ってオーブンに向かう。

「うん、いい感じに焼きあがったわね」

その頃にはマルティナさんの混ぜる鍋からスパイシーないい匂いがしてきていた。
大皿に焼きあがったものを載せてテーブルに運ぶ。

「マルティナさん、そろそろいいわ。ありがとう。瑶さんをダイニングに呼んできて」

あたしは、鍋からスープ皿にとりわけてテーブルに並べる。瑶さん喜んでくれるかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が子離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

転移した異世界が無茶苦茶なのは、オレのせいではない!

どら焼き
ファンタジー
ありがとうございます。 おかげさまで、第一部無事終了しました。 これも、皆様が読んでくれたおかげです。 第二部は、ゆっくりな投稿頻度になると思われます。 不遇の生活を送っていた主人公が、ある日学校のクラスごと、異世界に強制召喚されてしまった。 しかもチートスキル無し! 生命維持用・基本・言語スキル無し! そして、転移場所が地元の住民すら立ち入らないスーパーハードなモンスター地帯! いきなり吐血から始まる、異世界生活! 何故か物理攻撃が効かない主人公は、生きるためなら何でも投げつけます! たとえ、それがバナナでも! ざまぁ要素はありますが、少し複雑です。 作者の初投稿作品です。拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいいただけるとうれしいです。よろしくおねがいします。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

処理中です...