上 下
78 / 155
新たな仲間

第78話 ご主人様

しおりを挟む
「マルティナさん、ケガはどんな具合ですか?」
「ええ、跳ね飛ばされた時に胸を、その時に受け身を失敗して背中と足を痛めました」
「他には大きなケガはありませんか?」

あたしは、左足を引きずりながら傍に来たマルティナさんを座らせてケガの状態を聞いている。
あら?右腕も何かおかしい気がするわね。

「右腕は?動きがおかしいように見えますけど」
「いえ、これは……」

言い難い事なのかしら。戦闘でケガしたのなら別に……。そうしてマルティナさんの状態をみている、あたしの目に気になるものが映った。

「瑶さん。ちょっと離れてむこうを向いていてください。あたしが良いと言うまでこちらを向かないように」
「え?」
「いいから、反対を向く」
「あ、ああ。わかった。後で説明してくれるんだろうね」
「可能であれば?」

瑶さんが少し離れたのを確認して、あたしはマルティナさんに小声で声を掛けた。

「マルティナさん。その体の痣はいったい?戦闘でついたとは思えないんですけど」
「……」
「ごめんね」

あたしは、マルティナさんの上着をはぎ取った。そして、あらゆる形の痣と傷跡が刻まれた痛ましい身体が、あたしの目の前にあらわになってしまった。

「ごめんなさい」

あたしは一言あやまり、そっと上着をかけなおした。

「瑶さん。もういいですよ」

あれは、おそらく間違いない。この世界でもあるのね。あの態度からすれば女神の雷のメンバーによるものね。そう考えると、あの右腕のあれも恐らく。となると時間が経ちすぎてこの状態で固定されて、あの状態が正常と認識してしまっている可能性があるわね。

「ケガの状態だけなら、ハイヒールで良いかとおもったのだけど」

エクストラヒールを使った場合、あたしはまた魔力切れで倒れるかもしれないわ。でも、これはほったらかしにできるものでは無いから……。
それでも、あたしが倒れれば無防備になるとまで言わなくても、間違いなく戦力は低下するもの、瑶さんにひとことだけは言っておかないとね。

「で、何があったのかな?」
「マルティナさんの治療なんですが。エクストラヒールを使います」
「そんなに、酷いのか?」
「ちょっと言えないくらいに……」

マルティナさんの状態は、瑶さんにであっても言いにくいのよね。

「わかった。朝未が回復するまでここで待機しつつ朝未を護衛ということだね」
「ええ、瑶さんの欠損の修復の時に近い魔力を使うと思いますから、お願いします」

あたしの言い難い様子に察してくれた瑶さんに話してからあたしはマルティナさんに視線を向けた。瑶さんの治療をした時とは別の緊張感があるわね。

「マルティナさん。こちらに来てください。そこで楽な姿勢をとって。そう、それでいいです」

自然な姿勢で座ったマルティナさんの前で魔法を使う。そしてケガの治った、傷の消えた、過去のケガの後遺症の消えたマルティナさんをイメージして魔力を練り上げる。固定された後遺症の治療の難しさは部位欠損の治療に匹敵すると魔法書にも書かれていた。油断は出来ないもの。

「エクストラヒール」

瑶さんに使ったときと同じく、マルティナさんを青白い清浄な光が包む。全身の痣が傷が癒えていく。変な形に固まってしまっていた右手が光と共に正しい形に整って、すべてのケガが、後遺症が治癒していくのが見える。
グイグイとあたしの身体から魔力が抜け、それと同時に身体から力が抜け膝をつく、魔力が増えた分だけ瑶さんのケガを治した時よりはマシな感じだけど、それでも眩暈がする、虚脱感、そして気持ちの悪さに耐え魔法を維持する。
全ての治癒が終わり魔法の光が消えた。
治癒の完了を見届け、身体に力の入らないあたしはガックリと倒れかけ、それを力強い腕が支えてくれた。顔を上げると、そこには優しい目であたしを見つめてくれる瑶さんの顔があった。

「瑶さ、ん。出来、ることは、しました。後はお願い、します」
「わかった。朝未のことは私が守る。ゆっくり眠りなさい」




次にあたしが目を覚ました時、周囲は茜色に染まり始めていた。そして、やっぱり瑶さんが抱っこしてくれていたの。
暖かくて安心するけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。

「瑶さん」

そっと声を掛けて、視線で降ろしてと頼むと、ちょっと苦笑しながらそっと降ろしてくれたわ。

「朝未。もう大丈夫か?」
「はい、魔力も大体回復してます。あたし自身はケガも無いです」
「なら時間も遅いし、一旦エルリックに帰るか。マルティナと言ったか。あんたもそれでいいな」
「その前に、わたしとの奴隷契約を」
「どうしても、しないとダメか?」
「おふたりの秘密を守るには必要です。わたしがフリーのままだといつ誰かと奴隷契約させられるかわかりません。そうすると、その主人が、わたしにおふたりの秘密を話すことを命じられたら奴隷紋の強制力で話さざるを得なくなります」
「それはさすがに、困る、な」

あれ?そのあたりあたしが後でなんとかできそうって言ったはずなんだけど。あれ?言ったわよね。ちょっと自信がなくなったので、そーっと右手を上げて瑶さんに合図をした。

「あ、あの。そのあたり多分あたしがなんとか出来そうなんですけど」
「何とか出来る?なら……」
「あ、今ここでって言うのはちょっと無理があります。多分時間と手間がかかりますから。なので一旦瑶さんがマルティナさんと奴隷契約して、エルリックに帰ってからじっくり時間かけてということでいいですか?」
「あ、あの」

今度はマルティナさんがそっと手を上げてきたわね。

「ん?」
「あ、あの、できればアサミさんにご主人様になってもらいたいです」
「え?あたし?」
「はい」

そういうとマルティナさんは、あたしをじっと見ている。

「えと、短期間とは言っても、あたしみたいな子供がマルティナさんを奴隷にしていると、あまり良い目で見られないような気もするんですけど」
「え?子供?いえ、むしろどこかのやんちゃなお姫様がハンターをされているのかと思ったのです。お姫様なら女の奴隷を連れていても不審ではないと思ったのですが、違うのですか?」

なんでお姫様?と、考えて思い出したわ。聖属性魔法って神殿とか王宮とかが絡んでくる面倒くさい魔法だったわね。そうすると、あたしみたいな女の子が高位の聖属性魔法を使えば王族関係と思われても不思議はないわね。

「あー、あたしはお姫様じゃありませんよ。ちょっと特別な理由があるので秘密にしてほしいんですが」
「そうなんですか。それでもお許しいただけるのならアサミさんにご主人様になってもらいたいです」

なんで、そんなにあたしが良いのかは分からないけど、奴隷紋関係は後でどうにかするつもりだから、それほど気にしなくてもいいかしらね。

「わかりました。それで、どうすれば良いんですか?」
「あたしの、奴隷紋にアサミさんの血を1滴垂らしていただければ契約できます」

その日、あたしはマルティナさんのご主人様になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女【R-15】

StarFox
ファンタジー
無頼漢は再び旅に出る。皇帝となった唯一の親友のために。 落ちこぼれ魔女は寄り添う。唯一の居場所である男の傍に。 後に『黒い剣士と氷の魔女』と呼ばれる二人と仲間達の旅が始まる。 剣と魔法の中世と、スチームパンクな魔法科学が芽吹き始め、飛空艇や飛行船が大空を駆り、竜やアンデッド、エルフやドワーフもいるファンタジー世界。 皇太子ラインハルトとジカイラ達の活躍により革命政府は倒れ、皇太子ラインハルトはバレンシュテット帝国皇帝に即位。 絶対帝政を敷く軍事大国バレンシュテット帝国は復活し、再び大陸に秩序と平和が訪れつつあった。 本編主人公のジカイラは、元海賊の無期懲役囚で任侠道を重んじる無頼漢。革命政府打倒の戦いでは皇太子ラインハルトの相棒として活躍した。 ジカイラは、皇帝となったラインハルトから勅命として、革命政府と組んでアスカニア大陸での様々な悪事に一枚噛んでいる大陸北西部の『港湾自治都市群』の探索の命を受けた。 高い理想を掲げる親友であり皇帝であるラインハルトのため、敢えて自分の手を汚す決意をした『黒衣の剣士ジカイラ』は、恋人のヒナ、そしてユニコーン小隊の仲間と共に潜入と探索の旅に出る。 ここにジカイラと仲間達の旅が始まる。 アルファポリス様、カクヨム様、エブリスタ様、ノベルアップ+様にも掲載させて頂きました。 どうぞよろしくお願いいたします。 関連作品 ※R-15版 アスカニア大陸戦記 亡国の皇太子 https://ncode.syosetu.com/n7933gj/

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...