上 下
74 / 155
ギルドからの依頼

第74話 優先するのは

しおりを挟む
「朝未。探知魔法の反応は?」
「まだ、探知範囲にはいっていません」
「く、あ、朝未。魔力の回復具合は?」
「そう、ですね。大体8割くらいだと思います」


「朝未、気に入らないかもしれないけど、場合によっては見捨てて逃げるよ」
「で、でも」
「多分さっきの悲鳴は女神の雷だと思う。変異種との戦闘がうまくいかなかった可能性が高い。そこに援護に入るということは、他のハンターの目がある中で変異種と戦うってことだよ。その状態で魔法はファイヤーアロー程度だけで切り抜けられるかな?」

瑶さんの言う事は分かるけど、目の前に魔物に殺されそうな人がいて、それを見捨てて逃げる。そういうことが出来る自信は無いわ。

「あ、あの。通常のゴブリンやオークならそれでも斃せると思うんです」
「うん。そうだね」
「で、その。女神の雷には悪いのですけど、変異種の相手は女神の雷にしてもらいながら周囲の通常のゴブリンやオークを斃して、変異種は倒すことが出来れば斃す。危険度が高そうなら女神の雷と一緒に撤退というのはどうでしょう?」
「それは魅力的な提案だけどね、その案には、いくつか問題点があるよ」

「問題点、ですか?」
「まず、女神の雷が私達からの救援を求めるかどうか」
「え、いくらなんでもそれは」
「彼らは5級ハンターパーティだよ。私達も6級ではあるけれど。5級と6級の間にはかなりの違いがあるみたいだからね。彼らにとって私達は完全な格下ハンター。簡単に助けを求めることの出来る立場ではないと思うよ。しかも彼らは5人パーティ。私達は2人だからなおさらだね」

「そんな。プライドのために命を賭けるってことですか?」
「まあ、こういうちょっとばかり荒っぽい仕事だと、嘗められたらおしまい的に考えている人も多いからね。ありうるよ。そして仮に救援依頼をされたとして、どう救援するか、だね」

「え?意味が分からないんですが。さっき案を出しましたよね」
「うん、ただその案には女神の雷が変異種を斃せるという前提が必要なんだよ」
「えと、難しいですか?」
「そうだね。おそらく万全の状態の女神の雷なら大丈夫なんだろうけど……」
「?」

あたしが首を傾げると、瑶さんがちょっと苦笑しながら答えをくれたわ。

「救援を求めるってことは、既に万全じゃないって事だと思わないか?」
「あっ、そうですね。さっき見た女神の雷はとても安定した戦闘をしていました。あれが崩れた状態だと立て直すのは結構大変かもしれませんね」
「そもそも立て直すことが出来ないかもしれないしね」
「え?」
「誰かが大けがをしていたら、その場での復帰は無理だろう。最悪何人か死んでしまっている可能性だってあるからね」
「あっ……」

あたしの回復魔法は死んでいなければ多分回復させることは出来ると思うけど、酷い状態から回復させると、多分あたしがぶっ倒れてしまうものね。

「まあ、まだそれなら撤退の手伝いをすればいいんだけど、最悪のパターンもあるから……」

瑶さんが言いにくそうにしてるわね。

「最悪って、救援にいっても既に全滅してる場合ですか?」
「いや、それなら単に私達は逃げるだけで済むから、それほど大したことじゃない。朝未の探知魔法なら変異種に気づかれない距離から状況を把握できるよね」

言われてみれば、その通りね。全滅していたら今のあたしの聖属性魔法では生き返らせることは出来ないから、あたし達は撤退するだけだもの、もし追いかけられてもその状態ならホーリーで足止めすれば逃げるだけならどうにでもなりそうよね。そうしたら最悪のパターンって?

「ねえ、瑶さん。女神の雷の全滅が最悪じゃないとしたら、最悪って何ですか?」
「……。女神の雷が逃げるための囮にされることだね」

瑶さんが言いにくそうにしながら口にした言葉をあたしの頭は理解しようとしなかった。え?助けに入った人を囮にするの?そんなのあり?
そんな混乱しているあたしに微笑まし気な視線を向けながら瑶さんが説明してくれた。

「簡単に言えば、全滅するか、誰か生贄をささげて他が生き延びるかって判断を勝手にされる可能性があるってことだよ」
「え?ますます分からないんですけど」

だって、救援に入るってことは勝てると思って戦闘に参加するのよ。それがなんでそんな判断になるの?

「不思議そうな顔だね。色々要因はあるけど、女神の雷が5人の5級ハンターパーティで私達は2人のなり立て6級ハンターパーティだってことが大きい。一般論で言えば私達の戦力は女神の雷に比べて数分の1と思われて当然だからね。大きく崩された状態に格下2人が救援に来たところで勝機は無いって考える可能性が高い。そうしたら同じ全滅するなら身内を優先するか他人を優先するかって話だね」
「……」

あたしは何も言えなくなってしまったわ。

「まあ、その状態になっても私達が変異種を斃せるくらいに強ければ平気なんだけどね。まだ対変異種戦をしていないから分からないよね。とは言っても女神の雷が逃げ切って見えないところまで行ってしまえば朝未のホーリーでなんとかなりそうな気はするけど」
「えーと、つまり?」
「女神の雷が、さっさと逃げてくれれば何とかなりそうってことだね」

あまりのことに、あたしは走っている足の力が抜けそうになったわ。

そしてあたしの探知魔法に反応が入り始めた。

「瑶さん。探知魔法に反応があります。敵は、……。これは、ゴブリン2、オーク8、ゴブリンの変異種と思われる魔物1、オークの変異種と思われる魔物1です。そして女神の雷のメンバー全体に動きが悪いです。中の1人はかなりのダメージを受けているようで動きません」

「く、ふぅ。朝未。冷静に聞いてくれるかな」
「はい」
「ゴブリンとオークだけなら、いや、それに加えて変異種が1体だけなら恐らく問題なかった。でも、変異種が2体となると不確定要素が大きくなりすぎる。ここで私達が救援に入るより、森の入り口に戻ってギルドに報告して戦力を整えたうえで連れてくる方が良いと思う」

冷静に……。確かにこの状態で、あたし達だけで救援に入るのはリスクは高いかもしれない。でも。

「戦力を整えて戻ってくるのに、どのくらい時間が掛かりますか?」
「……わかった。ただし、約束してくれるかな。朝未の安全を最優先すると。決して私の傍を離れないと」

少し迷ったうえで瑶さんは救援に向かうことを認めてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

処理中です...