上 下
42 / 155
異世界文明との接触

第42話 酒場「風来のバイェステロス」

しおりを挟む
「いらっしゃいませ。初めて見る顔ですね」
「ああ、先日エルリックについたばかりでね」
「そうなんですね。エルリックはいかがですか?」
「活気のある良い街ですね」
「全体に治安も良いのでお子さん連れでも比較的安心して過ごせると思います。ただ、正直に言わせていただくと、うちを含め北エリアにはあまりよろしくない人たちがいますので注意が必要ですが」
「おーいセシル、うちの治安は悪くねぇぞ」

あら、カウンターの向こうから厳つい感じのおじさんが苦笑いで声を掛けてきたわね。

「店長それは、北エリアとしてはでしょうが。商業区だったらうちの客の半分はしょっ引かれてるわよ」
「そりゃまあ、そうだろうが。とりあえず普通に飯を食う分には問題ないだろ」

店長さんの言葉にセシルと呼ばれたウェートレスさんがあれを見ろとばかりにあたし達の隣のテーブルに顎をしゃくって見せたわね。そこにいたのは、昼間からずいぶんとお酒が入った髭のおじさんと、片耳が無くて頬に大きな傷のあるおじさんなのだけど。

「おら、さっさと出すもの出して楽になれや」
「てめえ、イカサマしやがったな」

え?ここ酒場よね、賭場じゃないわよね。
あ、もうつかみ合いを始めたわ。
っと、こっちにまでとばっちりが来そうね。

「ほら、朝未。私の後ろに下がりなさい。狙われているよ」

瑶さんが、あたしに声を掛けて後ろに引っ張ってくれたわね。
あ、やっぱり。あたしは座っていた椅子から腰を浮かせてスルリと後ろに下がって避けたの。

グラガッシャーン!!
あたしの目の前を片耳のおじさんの手が泳いでテーブルを叩き、ひっくり返したわ。
あら?2人とも何か驚いた顔してるわね。

「なあ、あんたら私のバディに変なちょっかい掛けるのはやめてもらおうか」

瑶さんが低い声で2人に警告したわね。

「セシルさんと言ったか。こういう輩はこの店ではどうするんだ?」
「はあ、まあ基本的に客同士のトラブル自体にはノータッチなんだけどね……」

セシルさんはこっちに倒れ込んできたおじさん2人に冷たい目を向けたわね。

「ほら、あんたらがぶち壊した店のテーブルは弁償してもらうよ。それに今のは明らかにあんたらが一方的に突っかかっていったんだからね、この2人の今日の昼めしはあんたらにつけておくからね」
「セシルさん、そりゃねぇよ」
「あたいは、あんたらのために言ってるんだよ。小さい女の子にのされてメンツを失う前にやめておけってね」
「はあ?いくらセシルさんでもそりゃ言い過ぎだぜ。いくら比喩でもその言い方はないだろ」

あら?セシルさん頭を抱えたわね。

「天使ちゃん、また絡まれてるようだな」

え?あたしのこと天使って呼ぶってことは昨日ハンターギルドにいた人ってことよね。

「げっ、ギルマス。なんでここに」
「ん?いちゃいかんのか?」
「い、いえ。でも、いつもはギルドで食べてますよね」
「ふん、貴様らみたいに余計な問題を起こす奴らがいるからな。時々見回っているんだよ」
「あ、いや……」
「まあセシルの言ったように、おまえらがぶっ壊したテーブルとその2人の昼めし代を払うなら今回だけは見なかったことにしてやる。それが嫌だってんなら。分かってるな」
「わ、わかりました。払います。払いますから」

2人のおじさんは慌ててお金を払うとお店を出ていったわ。

「うふふ、そう。やっぱりあなたが天使ちゃんだったのね」
「えと、セシルさん?なんで知ってるの?」
「ふふ、ここは酒場よ。ギルドであった面白い話なんかその日のうちに広がるわ」
「ええ?そんなにですか?」
「そりゃ落ち目とは言え6級ハンターを登録もしてない可愛らしい女の子が手玉に取ったなんて面白い話、他にないもの。でも、これで天使ちゃんはこのお店で安心して過ごせるわよ」
「ほえ?なんでですか?」
「手を出して自己満足できる可能性より、返り討ちにあって嗤われるリスクの方が高いもの。ただ、お誘いはあるかもしれないけどね」

そう言うとセシルさんはキレイにウィンクをしてカウンターに戻っていったわ。

「ねえ、瑶さん。お誘いって何かしら?」
「ん?夜のお誘いか?」
「え?」

あたしは思わず自分の身体を抱きしめちゃったわ。

「冗談だよ。パーティーメンバーへの誘いだろう」
「え?なんで?あたしなんの実績もないわよね」
「まあ、簡単に言えば、同じ実力ならムサイおっさんより可愛い女の子のほうが一緒に居て嬉しいっていう男の正直な欲望かな。言葉が通じないことは知られてないしね。朝未も同じ一緒にいるなら他が同じならイケメンの方がいいだろ」
「ん、どうかしらね。あたしあまり見た目って気にしないもの。イケメンは別に嫌いじゃないけど、あれは観賞用ね」

「はーい、本日のお勧めランチよ。さっきのおバカさんたちがお金払ってくれてるからお2人はタダだから安心して食べていってね」

あたし達が話しているところにセシルさんがお盆を持ってきてくれたわ。

「うわあ、おいしそう」

白パンに野菜スープ、お肉たっぷりのシチュー、飲み物はジュースかしらね。
あれ?この世界の食事って粗末なんじゃなかったかしら?

「うちはハンター相手に商売してるからね。多少高くても美味しくてボリュームのあるものを出すようにしてるのよ」

どうやら、あたしは顔に出てたみたいね。でも、美味しいご飯が食べられそうなのは助かるわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...