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異世界へ

第14話 何もないの

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「ねえ、影井さん。もう寝ちゃった?」

あたしは少し躊躇したあとで影井さんに声を掛けてみたの。少しだけおしゃべりをしたかったのよね。

「ん、まだ起きてるよ。華さん、眠れないのかな?」
「ええ、少しだけお話しませんか?」
「ああ、いいよ。まだ夜も早いと思うしね。日本でならやっとテレビ見たりしてくつろぎ始めるくらいの時間だろう」
「あたしたち、どうしてここに来ちゃったと思います?」
「どうなんだろうね。最初に話したように何か光って気付いたらここだったからね。華さんの読んだ小説にこういうお話はなかったかい?」
「小説って、架空のお話で何を……」
「そもそも、現状が常識外だからさ。むしろ架空の話の方が現状を表す何かヒントになるんじゃないかと思ってね」

この状況は当たり前だけど影井さんもさすがに説明は出来ないわよね。そういう意味では確かに創作物からヒントがもらえるかもしれないわ。

「そうですね、最近の小説の中にあるのは……。まずこういった違う世界に日本人が移動するのは大きく分けて異世界転生と異世界転移があります」
「転移と転生ね。なんとなく分かるような分からないような。その転移と転生ではどう違うのかな?」
「えと、例えば人が事故や病気で亡くなって、その魂?が異世界で生まれなおすとでも言うのかしら、異世界の人の中に入って生まれてくるのを転生、人がそのまま別の世界に移動することを最近の小説では異世界転移と呼んでますね。ですからあたしたちの状態は異世界転移になります」
「なるほど、生まれ変わる転生と、飛ばされる転移って感じなのかな」
「そう、そうです」

あたしのつたない説明を一言にまとめてしまうなんて、やっぱり大人は違うのね。日本では、あたしも友達のみんなも、もう大人って思っていたけどこういうところ、ううん、今日この世界にきてからずっと影井さんの判断力や行動力を見てきてあたしなんかまだまだ子供だって思ってしまう。”バディだ”って言って一緒に行動してくれるのだって本当は影井さん1人で行動した方がきっと影井さんにとっては楽なはずなのに理由をつけてあたしを守ってくれているのよねきっと。

「華さん、どうかした?」

そんなことを考えて黙ってしまったあたしにまた気を使ってくれるのよね。

「え、いえ。大丈夫です。それで転移、転生の話でしたよね」

そこからあたしは、自分が知っている限りの転移転生についての話をしたのよね。神様が転移させる場合、事故で転移する場合、転移先から召喚される場合。それぞれで特異な能力をもらえたりするチート無双、最初は何も無いけど現代知識で色々作ってもうける内政チート、逆にいきなりつかまって奴隷落ちのバッド展開、それこそ覚えている限りのパターンを話したわ。
1時間くらい話していたかしら。一通り話したところで影井さんが水筒を渡してくれたのよね。あたし何も言ってないのだけど。確かに話しすぎて喉が渇いた感じはあるけど。

「大分話して、喉渇いただろ。少し水を飲んでおきなさい」

ほんの半日の付き合いだけど、影井さんのこういう気配りできるところ好きよ。

「ありがとうございます」

お礼を言って、少しだけ水を飲んだのよね。そう少しだけよ。今の状態でたくさん飲むのはちょっと危険だもの。
そして影井さんはと言えば、少し考え込んでいるわね。

「華さん、神様に会ったかい?」

当然あたしは首を横に振るわ。だって記憶は日本の辻堂の交差点でぷっつり途切れて、気が付いたらこの世界だもの。

「じゃあ、華さんは、何か特別な能力使えるようになってるかな?」

これも首を横に振るしかないじゃないの。何か能力使えるようになっていたら山登りでも対ウサギ戦でも何かしてたわよ。

「じゃあ、ステータスが見えたりするかな?」

あ、これは試してないわね。

「ステータスオープン」

夜風がそよそよと流れるだけね。そしてあたしは首を横に振ったのよね。

「ところで影井さんは、どうなんですか?」
「私も何もないね」

予想していたけど、あたしも影井さんも素のまま異世界で未開の森でサバイバルが確定したみたい。
あたしも影井さんも空を見上げてため息をついてしまったわ。
これはもう後で何か覚醒するのを期待するしかないわね。
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