143 / 166
143話
しおりを挟む
その日の夕刻、僕とミーアは山を登りそれぞれ愛用の剣を手に赤鳳が現れるのを待っていた。赤鳳が現れたところで一撃するためなのだけれどはたして、それで済むのか。探知も広場の範囲に絞って展開している。そこにいきなり湧き出るように現れた赤鳳。それは改めて見ると気高く美しい鳳。そして僕達を見ると一声高く啼いた。
ハッと意識を戻した僕とミーアが赤鳳に駆け寄ると赤鳳の周囲が赤に染まった。いきなりの事に僕もミーアも戸惑い赤鳳に振るうつもりだった剣を構えなおし警戒する。
『人の子よ』
どこからともなく聞こえたその声に周囲を見回したけれど、赤鳳以外に動くものは無かった。
「ひょっとして赤鳳お前なのか」
『私はお前たちに思念で話しかけている』
「思念だって」
『竜の想いを継ぐ強き人の子よ、何を求めるのか』
「力を、僕たちが、大切なものを守るための力を」
『お前たちは、既に十分な力を持っているのではないか』
「この力ではダメなんだ。この力では守れない、守り切れない」
そう僕が叫ぶと、僕の中にイメージが流れ込んできた。そう、この力。肯定の意思を示すと
『その力を得るにはまだ試練が必要です。青き竜に力を見せた。ならば私にはその勇気を示しなさい』
ふと気づくと僕は地に倒れていた。起き上がり周りを見回しても見渡す限り何もない荒れ地。習慣で武装を確認しようとして気付いた。手元に何もない。弓も剣も外出するときには必ず腰につけている魔法の鞄さえない。何があったのか、俺は森の深層部の奥でミーアと一緒に赤鳳に対峙していたはず……
ミーアはどこだ。くそ、ミーアと引き離されたのか。僕の中で焦りが膨らむ。
ダメだ焦っては逆にダメ。僕は深呼吸をして焦る心を落ち着ける。完全には落ち着けるものでは無いけれど、それでも少しは冷静な思考力が戻ってきた。むやみに動き回ってもダメ。まずは観察をすべきだろう。目視での観察と同時に探知を全開で展開する。何か探知の感覚がおかしい。それでも展開した探知には人はおろか魔獣1体さえ引っかからない。今の僕の探知なら20マルグは範囲に入るはず。そこに下級魔獣の反応さえない。
行動の方針が決まらず、周囲を観察していると視界のギリギリにブルードラゴンや赤鳳のいたような山がひとつあるのに気付いた。
とりあえず、他に当てもないので山に向かうことにする。走れば僕の足ならそう時間はかからないだろう。
山に足を向けて間もなく岩陰から出た僕の視界にワイルドボアを1回り大きくしたような魔獣が映った。相変わらず探知には反応していないにもかかわらずだ。とっさに岩陰に戻ったので見つからずに済んだようだけれど……
つまり僕の能力は限定されている。探知は展開されているように思えても実際には反応しない。となると他の祝福の力も発揮されないと思ったほうがいいかもしれない。
ハッと意識を戻した僕とミーアが赤鳳に駆け寄ると赤鳳の周囲が赤に染まった。いきなりの事に僕もミーアも戸惑い赤鳳に振るうつもりだった剣を構えなおし警戒する。
『人の子よ』
どこからともなく聞こえたその声に周囲を見回したけれど、赤鳳以外に動くものは無かった。
「ひょっとして赤鳳お前なのか」
『私はお前たちに思念で話しかけている』
「思念だって」
『竜の想いを継ぐ強き人の子よ、何を求めるのか』
「力を、僕たちが、大切なものを守るための力を」
『お前たちは、既に十分な力を持っているのではないか』
「この力ではダメなんだ。この力では守れない、守り切れない」
そう僕が叫ぶと、僕の中にイメージが流れ込んできた。そう、この力。肯定の意思を示すと
『その力を得るにはまだ試練が必要です。青き竜に力を見せた。ならば私にはその勇気を示しなさい』
ふと気づくと僕は地に倒れていた。起き上がり周りを見回しても見渡す限り何もない荒れ地。習慣で武装を確認しようとして気付いた。手元に何もない。弓も剣も外出するときには必ず腰につけている魔法の鞄さえない。何があったのか、俺は森の深層部の奥でミーアと一緒に赤鳳に対峙していたはず……
ミーアはどこだ。くそ、ミーアと引き離されたのか。僕の中で焦りが膨らむ。
ダメだ焦っては逆にダメ。僕は深呼吸をして焦る心を落ち着ける。完全には落ち着けるものでは無いけれど、それでも少しは冷静な思考力が戻ってきた。むやみに動き回ってもダメ。まずは観察をすべきだろう。目視での観察と同時に探知を全開で展開する。何か探知の感覚がおかしい。それでも展開した探知には人はおろか魔獣1体さえ引っかからない。今の僕の探知なら20マルグは範囲に入るはず。そこに下級魔獣の反応さえない。
行動の方針が決まらず、周囲を観察していると視界のギリギリにブルードラゴンや赤鳳のいたような山がひとつあるのに気付いた。
とりあえず、他に当てもないので山に向かうことにする。走れば僕の足ならそう時間はかからないだろう。
山に足を向けて間もなく岩陰から出た僕の視界にワイルドボアを1回り大きくしたような魔獣が映った。相変わらず探知には反応していないにもかかわらずだ。とっさに岩陰に戻ったので見つからずに済んだようだけれど……
つまり僕の能力は限定されている。探知は展開されているように思えても実際には反応しない。となると他の祝福の力も発揮されないと思ったほうがいいかもしれない。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り
あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。
しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。
だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。
その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。
―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。
いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を
俺に教えてきた。
―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。
「――――は!?」
俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。
あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。
だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で
有名だった。
恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、
あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。
恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか?
時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。
―――だが、現実は厳しかった。
幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて
出来ずにいた。
......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。
―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。
今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。
......が、その瞬間、
突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり
引き戻されてしまう。
俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が
立っていた。
その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで
こう告げてくる。
―――ここは天国に近い場所、天界です。
そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。
―――ようこそ、天界に勇者様。
...と。
どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る
魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。
んなもん、無理無理と最初は断った。
だが、俺はふと考える。
「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」
そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。
こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。
―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。
幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に
見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと
帰還するのだった。
※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる