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128話
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「ちょっと聖国に行く前に寄っていくところがある」
僕とミーアは一行を待たせてイングリッドとエルンストの2人だけを連れて丘を登る。
「ラーハルト、聖国に行ってくるよ。少しの間留守にするけど、我慢してね」
ミーアと2人、目を瞑り今は亡き我が子に想いを告げる。そして
「イングリッド、エルンスト。初めて連れてきたけど。ここにはお前たち2人のお兄ちゃんが眠っているんだ。行ってきますと挨拶をしてあげてくれるかい」
一瞬キョトンとした2人だったけれど、
「お兄ちゃん、僕達、パパとママと一緒に聖国に行ってきます。お空の上で見ていてね」
「お兄ちゃん、私達、パパとママの故郷の聖国に行ってくるね。帰ってきたら色々お話しようね」
2人とも良い子に育っていて僕は少し涙ぐんでしまった。ふと横を見るとミーアが空を見上げていた。それはきっと僕と同じなんだろう。
「さ、お兄ちゃんに挨拶も出来たし、そろそろ行こうか」
僕たちは馬車に乗り騎乗した騎士団に先導されて14年前にたどった道を逆に進んだ。
聖国に入り、先触れを送る。聖都に入るとそこはお祭りのような騒ぎだった。”英雄の帰還”だなんだのという言葉が聞こえてくる。どうやら一般の人からは歓迎されているらしいけれど、上層部からはどうだろうか。とはいえ、上層部の本心がどうであれ帝国侯爵でありドラゴンスレイヤーとなった僕たちに簡単に手を出せるものではない。とりあえず夜の羊亭に馬車を向かわせる。そこで部屋をとり、騎士団の半数を子供たちの護衛にのこし執事のギディオンと騎士団の残り半数を伴い大聖堂へ向かう。
僕たちはやっとここに堂々と立つだけの力を手に入れることができたということだろう。万感の想いがよぎる。生まれ故郷の村、ミーアとの結婚式。ミーアと一緒に眺めた大聖堂前からの素晴らしい景色。ミーアと2人で乗り切ったスタンピード。そういえば、今も現役で使っている僕たちの弓はここの武器屋で手に入れたものだった。始めて手に入れた魔法の鞄も……。そして下位王種リトルデビル討伐と結界破壊の冤罪。そこからの逃亡。
「長かったなあ」
僕の呟きに
「長かったわね」
ミーアの声が重なった。
そして今、14年の年月を超えて大聖堂に足を踏み入れる。
「フェイウェル・グリフィン侯爵閣下、ミーア・グリフィン侯爵夫人ご入場」
僕はミーアと並んで14年前にも歩いた赤いカーペットを歩く。違うのふたつ、ひとつは僕たちより先に大司教が場に出ている事。もうひとつは、とどまった場所で跪づかないこと。立ったままで大司教と向き合う。聖教会大司教チェイニー・モルダー・ミラー、僕たちが聖国を追われた元凶。はたしてどんな言葉をむけてくるのか。
「フェイウェル・グリフィン侯爵、ミーア・グリフィン侯爵夫人、よくいらしてくれた……」
僕とミーアは一行を待たせてイングリッドとエルンストの2人だけを連れて丘を登る。
「ラーハルト、聖国に行ってくるよ。少しの間留守にするけど、我慢してね」
ミーアと2人、目を瞑り今は亡き我が子に想いを告げる。そして
「イングリッド、エルンスト。初めて連れてきたけど。ここにはお前たち2人のお兄ちゃんが眠っているんだ。行ってきますと挨拶をしてあげてくれるかい」
一瞬キョトンとした2人だったけれど、
「お兄ちゃん、僕達、パパとママと一緒に聖国に行ってきます。お空の上で見ていてね」
「お兄ちゃん、私達、パパとママの故郷の聖国に行ってくるね。帰ってきたら色々お話しようね」
2人とも良い子に育っていて僕は少し涙ぐんでしまった。ふと横を見るとミーアが空を見上げていた。それはきっと僕と同じなんだろう。
「さ、お兄ちゃんに挨拶も出来たし、そろそろ行こうか」
僕たちは馬車に乗り騎乗した騎士団に先導されて14年前にたどった道を逆に進んだ。
聖国に入り、先触れを送る。聖都に入るとそこはお祭りのような騒ぎだった。”英雄の帰還”だなんだのという言葉が聞こえてくる。どうやら一般の人からは歓迎されているらしいけれど、上層部からはどうだろうか。とはいえ、上層部の本心がどうであれ帝国侯爵でありドラゴンスレイヤーとなった僕たちに簡単に手を出せるものではない。とりあえず夜の羊亭に馬車を向かわせる。そこで部屋をとり、騎士団の半数を子供たちの護衛にのこし執事のギディオンと騎士団の残り半数を伴い大聖堂へ向かう。
僕たちはやっとここに堂々と立つだけの力を手に入れることができたということだろう。万感の想いがよぎる。生まれ故郷の村、ミーアとの結婚式。ミーアと一緒に眺めた大聖堂前からの素晴らしい景色。ミーアと2人で乗り切ったスタンピード。そういえば、今も現役で使っている僕たちの弓はここの武器屋で手に入れたものだった。始めて手に入れた魔法の鞄も……。そして下位王種リトルデビル討伐と結界破壊の冤罪。そこからの逃亡。
「長かったなあ」
僕の呟きに
「長かったわね」
ミーアの声が重なった。
そして今、14年の年月を超えて大聖堂に足を踏み入れる。
「フェイウェル・グリフィン侯爵閣下、ミーア・グリフィン侯爵夫人ご入場」
僕はミーアと並んで14年前にも歩いた赤いカーペットを歩く。違うのふたつ、ひとつは僕たちより先に大司教が場に出ている事。もうひとつは、とどまった場所で跪づかないこと。立ったままで大司教と向き合う。聖教会大司教チェイニー・モルダー・ミラー、僕たちが聖国を追われた元凶。はたしてどんな言葉をむけてくるのか。
「フェイウェル・グリフィン侯爵、ミーア・グリフィン侯爵夫人、よくいらしてくれた……」
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