僕が守りたかったけれど

景空

文字の大きさ
上 下
109 / 166

109話

しおりを挟む
 教会で参列者の中で最前列に並び僕とミーアは新郎新婦の入場を待っている。子爵家とはいえ勇者様の結婚の儀ということで参列者は皇帝の名代としてアーマデューク・エアリー・クレスト公爵を始め中々のものだ。教会の作りも聖都の大聖堂ほどではないけれど子爵領領都の教会は中々に厳かな中にも煌びやかさのある作り。そこにパイプオルガンの厳かな曲が流れ出す。参列者が立ち上がる。後方の大扉が開き盛装した勇者様とウェディングドレスに身を包んだアーセルの姿がそこにあった。真剣な顔の勇者様と緊張でガチガチになっているアーセルに微笑ましい物を感じ、それと同時に何かがやっと区切りがついた気がした。ふと僕の隣を見ればミーアがそっと微笑んでいて、僕はそっとその手を握る。ちょっと驚いた顔で僕の顔を覗き込むミーアに微笑みかけると、少し強めに握り返してくれた。
「アーセル綺麗ね」
「そうだね」
「あら、それだけ。昔の恋人のウェディングドレス姿に何かないの」
「不思議に何もないなあ。幼馴染が幸せになってくれるといいなってだけだね」
実際アーセルのウェディングドレス姿を見たら、もう少し何か感じると思ったのだけれど、あまり大きなものは無く、古い恋は既に思い出に過ぎなくなっていた。今は懐かしい幼馴染の幸せを純粋に祝福できている。これも隣にいてくれるミーアのおかげだと改めて感謝と愛情を感じながら祭壇の前に立つ2人を見ていた。司祭様の穏やかな通る声が聞こえる。
「汝ギーゼルヘーア・フォン・ヘンゲンは、アーセルを妻とし愛し慈しみ死がふたりを分かつまで共に生きることを誓うか」
「はい、誓います」
「汝、アーセルはギーゼルヘーア・フォン・ヘンゲンを夫とし愛し慈しみ死がふたりを分かつまで共に生きることを誓うか」
「はい、誓います」
「指輪の交換を」
可愛らしい衣装をまとった幼子が清楚でそれでいて華やかな小箱を捧げ持ち2人の横に付き従う。小箱からシルバーに煌めく指輪を手に取りお互いの左手の薬指にはめる。
「では、誓いの口づけを」
2人が向き合い勇者様の腕がアーセルを引き寄せる。優しい口づけを交わしそっとはなれる2人。
「神の名のもとに2人が夫婦となったことを宣言します。神が結び付けたものを人が引き離してはいけない」
そして司祭様の宣言をうけて参列者の拍手が響く。僕も穏やかな気持ちで拍手をした。隣を見れば愛しい妻が優しい笑顔で拍手をしている。参列者の拍手の中、勇者様とアーセルが腕を組んで退場していく。それを見送った僕たちはどちらからともなく身体を寄せ合い口づけを交わした。

 結婚式が終われば、結婚祝賀パーティーが催される。
席次は爵位と家格によって行われる。つまり僕たちが侯爵に叙せられたことでひとつ下のテーブルに回された人物もいる。そういった中の1人がどうも機嫌がよろしくないようだ。こんなところで騒ぎを起こさなければいいのだけれど。
 僕とミーアはヘンゲン子爵家の配慮もあったのだろうグラハム伯と同じテーブルについている。
「今日は大丈夫そうだな」
どうやら先回の僕とミーアの様子を思い出して気にしてくれていたようだ。
「ええ、もうあそこまで酷い事にはならずに済むと思います」
「あたしも、ラーハルトの事は胸に沈めてなんとかやっていけると思います」
僕たち2人の言葉にグラハム伯は安心したように穏やかな微笑みを向けてくれた。そんな雑談をして時間をすごしているところに
「では新郎新婦の入場です。祝福の拍手にてお迎えをお願いいたします」
ホールを照らしていた魔法の明かりが光を絞り大扉に明かりが集められる。楽隊が明るく軽やかな音を奏で扉が開く。深紅の騎士服に身を包んだ勇者様、横にはピンクのカラードレスに聖女のシンボルを胸にかけたアーセルが満開の華のような笑顔で並んでいた。お互いに携えたその手には大きなキャンドルをもちゆっくりと各テーブルを回っている。笑顔で受け答えをする2人、何やら揶揄われたのか照れて真っ赤になるアーセルと、それをそれとなくフォローする勇者様。誰がどう見てもお似合いの夫婦だろう。ゆっくりとそれぞれのテーブルをまわり僕たちのテーブルに来た2人。
「おめでとうアーセル。勇者様も約束を守ってくれているようで嬉しく思います」
「おめでとうアーセル。とてもきれいよ」
「おめでとう。良い式だったな」
僕たちに続いてグラハム伯も祝いの言葉を口にした。
「ありがとうございます。特にグリフィン侯爵には過去のいきさつがありながら……」
「祝いの席でそういうのはやめよう。なにより僕たちの幼馴染を幸せにしてやってくれればそれでいい」
半公式的な場のため侯爵としての言葉遣いで接する。違和感が酷い。
「フェイ、後で時間とれないかしら」
アーセルが何か言いたげに言葉を紡ぐ。ここでは話しにくいことがあるのか。こういった場でフェイ呼びは誤解を招きかねないのだけれど
「どのみち今日は泊っていくつもりだからかまわない。あと、こういった場でフェイ呼びは誤解を招く。まだ貴族としての立ち回りを学んでいないだろうけど気を付けた方が良い。余計な敵をつくるよ」
後半は他人に聞こえないように小声でつぶやく。
 その後はしばらくアーセルが数回のお色直しをし、その姿に感嘆を受け和やかな宴の席となっていた。そろそろ宴も終わりに近づいた頃、好きな人間にはほどほどに酒が回ってきた頃合いにやや酔いの過ぎた感の男が1人僕たちのそばにやってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進

無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語 ユキムラは神託により不遇職となってしまう。 愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。 引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。 アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

処理中です...