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108話
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僕たちはヘンゲン子爵領領都ヘゲルンに到着した。馬車で10日の旅。僕たちはこの特製馬車でなければ途中で歩いたかもしれない。実際一緒に移動したグラハム伯は2日目から移動中は僕たちの馬車に乗っていたくらいだ。ヘゲルンは長子たる勇者様が聖女アーセルを娶るということでお祭り騒ぎだ。アーセルが領民に受け入れられているらしいということで、ちょっとだけホッとする。そしてホッとした自分に気づいて、ああアーセルを幼馴染として大事に思うところまで戻ったのだなと納得をした。大事には思うけれど、自分の横にとは全く思わない、勇者様を幸せに添いとてげられると良いなと本気で思える自分、そしてそういう自分にしてくれたミーアにとても大きな愛情を感じた。そしてその実感は実感として
「宿をとらないと」
「ああ、そうね。でも宿ってどこが良いのか」
そんな僕たちにグラハム伯が
「まずは城に行けばいい。結婚の儀に参列する旨伝えれば宿くらい手配してくれるさ。何しろヘンゲン子爵は尚武の家だ。そしてお前たちほどそれを体現したものはいないからな。それに今回の主役の個人的な友人関係だろう。ひょっとしなくても城に泊めてくれるんじゃないか」
「あ、それじゃあグラハム伯はどうされるんですか」
「うん、俺も多分城だな」
「ふふ、さすが辺境伯ね」
ミーアも見知った人がそばにいるのが嬉しいようだ。
「とりあえず、俺が先触れを出しておく。本当はお前たちも執事と身の回りの世話をするメイド、それに形だけでも護衛役を雇うのが良いんだがな」
「執事とメイドは考える余地あるけど、護衛はちょっと」
「ちょっとなんだ」
「本気で戦闘になると巻き込む可能性が」
「だから形だけだ。本気での戦闘になったら逃げていい事にするんだ」
「んん、でも僕たちに喧嘩売ってくる時点でそれなりの戦力だと思うんですよね。逃げられますかね」
「ああ、そういう問題もあったか。護衛は見栄えだけの問題でもあるし……。まあお前たちの場合護衛無しでもありか」
「へえ、結婚の儀当日じゃなくて、ここで結婚祝いのプレゼントって贈るんだ」
ミーアがちょっと挙動不審だ。
「そりゃ一般庶民と違って貴族だとプレゼントも多いだろうし、こういっちゃなんだけど危険物の確認とかもあるからじゃないか。それに僕たちと違ってほとんどの参列者は本人でなく執事とか家令とかが持ってきてるしね」
そんな話をしているところに声が掛かった
「フェイ、ミーア。来てくれたのね」
「やあ、アーセル結婚おめでとう」
「アーセル、おめでとう」
僕たちからの結婚祝いを受け取ったヘンゲン子爵家の執事が目を白黒している。
「あ、アーセル様、グリフィン侯爵閣下に対してそれは非礼です。お立場を……」
ここは僕から伝えた方がいいだろう。
「僕たちはアーセルとは幼馴染でね。公式の場ならともかく、私的な場では気にしないでくれ」
そう言ってから、僕はアーセルに顔を向けた。
「フェイ、それにミーアも来てくれて嬉しい。見た感じ体調も悪くなさそうだし。て、あのドラゴンを討伐したのよね。回復してるに決まってるのに、あたしったら……」
「ううん、あの時はごめんね。あの時は、あたしもフェイもどん底だったから。でも、もう大丈夫。ドラゴンに負けないくらいに元気よ。って本当に倒しちゃったんだけどね」
ペロリと舌を出すミーアが一瞬だけ昔の幼い頃の3人に戻してくれる。
「やっぱり本当だったんだ。2人は遠い人になっちゃったわね。いつの間にか侯爵になってるし。どんな無茶をしたのよ」
「あはは、それはちょっと内緒かなぁ」
「また、とんでもない事をした時の顔ねそれは」
そう言いながらアーセルの目がチラチラとプレゼントを見ている。
「ふふ、気になるかな。僕たちも新参の貴族だからね。こういった場所でのマナーを知らないから見ていいとも言えないんだけどね」
「ひとつは説明されるまでもないわ、どうやって持ってきたのよ馬車なんて」
「ちょっと容量の大きな魔法の鞄を持っているんだよ。あの馬車はほとんどが討伐したドラゴンの素材で出来ている。他にも色々説明が必要だから時間ある時に勇者様と一緒に話を聞いてくれるかな」
「あ、ありがとう。でも良いのかしら。ドラゴンの素材ってとんでもなく貴重でしょ。そんなものを……」
「良いさ。素材にしたって金にしたって持ってたってしかたないしね。それに同じ仕様の馬車は僕たちも持っているからね。そんな気にしないでくれると嬉しいな」
「持ってたって仕方ないって、いざという時にはやっぱりお金必要よ」
「金で何とかなることには限度があるから……。いや、そうだな」
ここまでにする。これ以上の議論は僕たちが金にあまり大きな価値を置かない理由を話さないと理解できないだろうから。
「宿をとらないと」
「ああ、そうね。でも宿ってどこが良いのか」
そんな僕たちにグラハム伯が
「まずは城に行けばいい。結婚の儀に参列する旨伝えれば宿くらい手配してくれるさ。何しろヘンゲン子爵は尚武の家だ。そしてお前たちほどそれを体現したものはいないからな。それに今回の主役の個人的な友人関係だろう。ひょっとしなくても城に泊めてくれるんじゃないか」
「あ、それじゃあグラハム伯はどうされるんですか」
「うん、俺も多分城だな」
「ふふ、さすが辺境伯ね」
ミーアも見知った人がそばにいるのが嬉しいようだ。
「とりあえず、俺が先触れを出しておく。本当はお前たちも執事と身の回りの世話をするメイド、それに形だけでも護衛役を雇うのが良いんだがな」
「執事とメイドは考える余地あるけど、護衛はちょっと」
「ちょっとなんだ」
「本気で戦闘になると巻き込む可能性が」
「だから形だけだ。本気での戦闘になったら逃げていい事にするんだ」
「んん、でも僕たちに喧嘩売ってくる時点でそれなりの戦力だと思うんですよね。逃げられますかね」
「ああ、そういう問題もあったか。護衛は見栄えだけの問題でもあるし……。まあお前たちの場合護衛無しでもありか」
「へえ、結婚の儀当日じゃなくて、ここで結婚祝いのプレゼントって贈るんだ」
ミーアがちょっと挙動不審だ。
「そりゃ一般庶民と違って貴族だとプレゼントも多いだろうし、こういっちゃなんだけど危険物の確認とかもあるからじゃないか。それに僕たちと違ってほとんどの参列者は本人でなく執事とか家令とかが持ってきてるしね」
そんな話をしているところに声が掛かった
「フェイ、ミーア。来てくれたのね」
「やあ、アーセル結婚おめでとう」
「アーセル、おめでとう」
僕たちからの結婚祝いを受け取ったヘンゲン子爵家の執事が目を白黒している。
「あ、アーセル様、グリフィン侯爵閣下に対してそれは非礼です。お立場を……」
ここは僕から伝えた方がいいだろう。
「僕たちはアーセルとは幼馴染でね。公式の場ならともかく、私的な場では気にしないでくれ」
そう言ってから、僕はアーセルに顔を向けた。
「フェイ、それにミーアも来てくれて嬉しい。見た感じ体調も悪くなさそうだし。て、あのドラゴンを討伐したのよね。回復してるに決まってるのに、あたしったら……」
「ううん、あの時はごめんね。あの時は、あたしもフェイもどん底だったから。でも、もう大丈夫。ドラゴンに負けないくらいに元気よ。って本当に倒しちゃったんだけどね」
ペロリと舌を出すミーアが一瞬だけ昔の幼い頃の3人に戻してくれる。
「やっぱり本当だったんだ。2人は遠い人になっちゃったわね。いつの間にか侯爵になってるし。どんな無茶をしたのよ」
「あはは、それはちょっと内緒かなぁ」
「また、とんでもない事をした時の顔ねそれは」
そう言いながらアーセルの目がチラチラとプレゼントを見ている。
「ふふ、気になるかな。僕たちも新参の貴族だからね。こういった場所でのマナーを知らないから見ていいとも言えないんだけどね」
「ひとつは説明されるまでもないわ、どうやって持ってきたのよ馬車なんて」
「ちょっと容量の大きな魔法の鞄を持っているんだよ。あの馬車はほとんどが討伐したドラゴンの素材で出来ている。他にも色々説明が必要だから時間ある時に勇者様と一緒に話を聞いてくれるかな」
「あ、ありがとう。でも良いのかしら。ドラゴンの素材ってとんでもなく貴重でしょ。そんなものを……」
「良いさ。素材にしたって金にしたって持ってたってしかたないしね。それに同じ仕様の馬車は僕たちも持っているからね。そんな気にしないでくれると嬉しいな」
「持ってたって仕方ないって、いざという時にはやっぱりお金必要よ」
「金で何とかなることには限度があるから……。いや、そうだな」
ここまでにする。これ以上の議論は僕たちが金にあまり大きな価値を置かない理由を話さないと理解できないだろうから。
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