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76話
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「ご子息が、何者かに誘拐されました」
僕もミューも何を言われたのか理解できなかった。
「な、なんで」
「とにかくお屋敷に」
僕たちは身体が悲鳴を上げるのも構わず屋敷に走った。そこには目を覆うばかりの惨状が広がっていた。頑丈なはずの塀は崩れ、美しい庭は焼け焦げ、そして屋敷は崩れ落ちていた。警備についていた兵も世話役のメイドもみな息をしていなかった。ラーハルトの寝ていたはずの部屋に入るとグラハム伯その人がいた。真っ白になった唇を噛みしめ、悲痛な目をして何人もの騎士に指示をだしている。
「グラハム伯。これはいったい」
僕が声を掛けると
「ファイ、ミュー。すまん。今朝突然に複数の魔法使いによる魔法攻撃を受けたそうだ。俺が駆け付けた時には既にラーハルトは連れ去られた後だった」
「どこの誰が」
「わからん。なんにしても俺とお前達にまとめて喧嘩を売ってくるやつがいるとは思わなかった。油断した」
グラハム伯は壁を殴りつけ怒りを隠せていない。
「ラーハルトが連れ去られたのは間違いないのですか。生きているのですよね」
ミューが縋るように問いかけると
「それは間違いない。これだけ派手な攻撃をしていながらラーハルトの寝室は見た通り無事だ。犯人も理由もわからんが、とにかく生きて連れ去られたのは間違いない」
とりあえずラーハルトの命だけは無事そうだ。暴走しそうになる心を必死に押しとどめ僕は追加で聞いた。
「襲われたのは今朝のどのくらいの時間ですか」
「朝日が昇る直前。空は明るくなり始めていた頃だ」
僕は数回深呼吸をして、
「ミュー」
声を掛け痕跡を探す。ミューも僕の声に応え部屋を僕の調べているのと反対側を調べている。
「あった」
窓に僅かなひっかき傷があった。ここから逃げたのだろう。僕はミューと目を合わせ頷き合う。
「グラハム伯、僕たちは痕跡を追います。こちらでの調べはお願いします。それと……」
「ん、それとなんだ」
口ごもる僕にグラハム伯が問いかけてきた。
「状況によっては帝国法を無視するかもしれません。その場合僕たちを切り捨ててください」
これだけの事が出来る魔術師を集められる存在。そして恐らく僕を敵視する存在。おおよその見当はついている。
「僕は自分を抑えられる自信がありません」
「あたしだって無理よ」
ミューも怒りに顔を真っ赤にしている。
「何を言う。ラーハルトは俺にとって孫だと言っただろう。それに、これは既に辺境伯たるオレに対する宣戦布告でもある。辺境伯領軍の全力を挙げて叩き潰してやる」
グラハム伯も怒りを抑えるつもりがないようだ。
「全面戦争だ」
「では、僕たちは行きます」
「少しだけ待て」
グラハム伯が僕たちを引き留め、おつきの人に何か命令していた。
「今更引き留めても」
「いや、引き留めるつもりはない。だが、持って行って欲しいものがある」
大した時間もなくグラハム伯に何かを言われて出ていったおつきの人が戻ってきた。グラハム伯は、その人から何か小さなオーブのようなものを受け取ると
「これを持っていけ。後できっと役に立つ」
オーブを受け取り懐に入れると、僕たちは窓枠を乗り越え痕跡を追い始めた。絶対に赦さない。
僕もミューも何を言われたのか理解できなかった。
「な、なんで」
「とにかくお屋敷に」
僕たちは身体が悲鳴を上げるのも構わず屋敷に走った。そこには目を覆うばかりの惨状が広がっていた。頑丈なはずの塀は崩れ、美しい庭は焼け焦げ、そして屋敷は崩れ落ちていた。警備についていた兵も世話役のメイドもみな息をしていなかった。ラーハルトの寝ていたはずの部屋に入るとグラハム伯その人がいた。真っ白になった唇を噛みしめ、悲痛な目をして何人もの騎士に指示をだしている。
「グラハム伯。これはいったい」
僕が声を掛けると
「ファイ、ミュー。すまん。今朝突然に複数の魔法使いによる魔法攻撃を受けたそうだ。俺が駆け付けた時には既にラーハルトは連れ去られた後だった」
「どこの誰が」
「わからん。なんにしても俺とお前達にまとめて喧嘩を売ってくるやつがいるとは思わなかった。油断した」
グラハム伯は壁を殴りつけ怒りを隠せていない。
「ラーハルトが連れ去られたのは間違いないのですか。生きているのですよね」
ミューが縋るように問いかけると
「それは間違いない。これだけ派手な攻撃をしていながらラーハルトの寝室は見た通り無事だ。犯人も理由もわからんが、とにかく生きて連れ去られたのは間違いない」
とりあえずラーハルトの命だけは無事そうだ。暴走しそうになる心を必死に押しとどめ僕は追加で聞いた。
「襲われたのは今朝のどのくらいの時間ですか」
「朝日が昇る直前。空は明るくなり始めていた頃だ」
僕は数回深呼吸をして、
「ミュー」
声を掛け痕跡を探す。ミューも僕の声に応え部屋を僕の調べているのと反対側を調べている。
「あった」
窓に僅かなひっかき傷があった。ここから逃げたのだろう。僕はミューと目を合わせ頷き合う。
「グラハム伯、僕たちは痕跡を追います。こちらでの調べはお願いします。それと……」
「ん、それとなんだ」
口ごもる僕にグラハム伯が問いかけてきた。
「状況によっては帝国法を無視するかもしれません。その場合僕たちを切り捨ててください」
これだけの事が出来る魔術師を集められる存在。そして恐らく僕を敵視する存在。おおよその見当はついている。
「僕は自分を抑えられる自信がありません」
「あたしだって無理よ」
ミューも怒りに顔を真っ赤にしている。
「何を言う。ラーハルトは俺にとって孫だと言っただろう。それに、これは既に辺境伯たるオレに対する宣戦布告でもある。辺境伯領軍の全力を挙げて叩き潰してやる」
グラハム伯も怒りを抑えるつもりがないようだ。
「全面戦争だ」
「では、僕たちは行きます」
「少しだけ待て」
グラハム伯が僕たちを引き留め、おつきの人に何か命令していた。
「今更引き留めても」
「いや、引き留めるつもりはない。だが、持って行って欲しいものがある」
大した時間もなくグラハム伯に何かを言われて出ていったおつきの人が戻ってきた。グラハム伯は、その人から何か小さなオーブのようなものを受け取ると
「これを持っていけ。後できっと役に立つ」
オーブを受け取り懐に入れると、僕たちは窓枠を乗り越え痕跡を追い始めた。絶対に赦さない。
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