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30話
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「で、マリアを相手に遊んでいた理由はなんだい」
パルミラさんは、とりあえず機嫌を直してくれたらしい。
「遊んでって。まあ良いですけど。ちょっとギルドに行きたくて、外出許可もらいたいと思ったんです」
そこで大司教名代として訪れたダニエルさんの話とそれに伴う疑問をギルドマスターに教えてもらいたいため外出許可が欲しいと説明をした。パルミラさんは頭を抱えて
「まったくあの副団長殿は、片方で儀礼的な事はサポートするからとか言いながら一般人にそれだけしか伝えないとは未だに常識がずれたままということかい」
「で、その外出許可は……」
「その理由だけなら外出自体不要だね」
「いえ、ギルドマスターと話ができないと困るのですが」
「だから、その程度の事ならあたしが教えてやるって言ってるんだよ」
「つまり、一般人にああいった呼び出しがあった場合、大体その日の朝に馬車で迎えが来るからそれに乗っていけばいいと」
「そういうこと。あの副団長は代々聖騎士団所属の偉いさんの家柄なんでそういった事を一般人が知らないことがすっぽりと頭から抜けてるんだよ。悪い人間じゃないんだけどね」
そこでふっと気付いた。僕たちは村からの避難時のまま。
「あの、もう一つ教えていただきたいことが」
「ん、なんだい」
「教会に参内するのは良いのですが。普段着で良いのでしょうか」
「ああ、それは一応それなりの格好が……。そうかスタンピードのままかい」
「ええ、魔法の鞄があれば、そこに1揃い入ってはいたんですが」
「それは無くしたのかい」
「ここには、どうやら救援部隊に担ぎ込まれたらしくて、装備から何からどうなったか分からないんです」
「まったくそれはマリアの不手際だね。マリア」
大声でパルミラさんはマリアさんを呼び、慌てたように部屋に入ってきたマリアさんに
「この子達の荷物は無いのかい」
「あ」
と一声と共に慌てて部屋を出ていくマリアさん。
「どうやら、何かはあるようだね」
しばらく待つと一抱えはある革袋を持って戻ってきたマリアさん。
「こ、これを騎士団の方がお二人が目を覚ましたら渡すようにと置いて行かれました」
「中を見てもいいですか」
おずおずと尋ねる僕に
「なーにをいっているんだい。あんた達へっておいていかれた荷物なんだから、あたしの許可なんかいらないだろうよ。中を確認してみな」
中から出てきたのは”3振りの剣”に傷だらけの防具、そして泥に汚れたひとつの小ぶりな”鞄”。
剣はどれも刃こぼれをし、歪み、1本などは途中でまがってしまっていたが間違いなくあそこで僕たちの命をつないでくれた剣達だった。
「この胸当てざっくり切り裂かれてほとんど千切れかけてるぞ」
「ほらこの肩当てなんか、これ魔獣にかじられてるよね」
一通り荷物を確認して
「なあ、僕たちよく生き残れたね」
「本当にね」
クスクスと笑い合う僕たちを見やり、パルミラさんが
「お前達の荷物で間違いなさそうだね」
「はい、間違いありません」
「じゃあ、中身をきちんと再確認して必要なものがあったら準備しておきな」
「え、でも外出は……」
「ああ、もう面倒くさいね。さっきから見てればわかるよ。あんたらはもう完治。事情が事情だからしばらくはここに泊まればいい」
「ありがとうございます」
「部屋はそうだね、一番奥の二人部屋が空いてるはずだからそこを使いな。ただし、ここは治療院だからね、壁は大して厚くない。夜の営みはドアをしっかり閉めて大人しめにすること」
「夜のってそんな」
「あん、お前達は夫婦なんだろう。それも新婚で死地を乗り越えたばかりの。そんな2人に我慢しろというほど無粋じゃないよ」
僕は自分の顔が真っ赤になっているだろうと思いながら、ふと横を見てミーアも耳まで赤くなっていて何か安心していた。
「あ、そうそう。部屋は使ってもらっていいけど。食事は自分たちで頼むよ」
その日僕たちはまだ時間があるからと、何か所かを回ることにした。最初に訪れたのはギルド。村のみんなの事を聞くにはギルドが一番だと思ったのだ。
”キイ”軽い軋み音を響かせながらギルドの入口をくぐる。午後の閑散とした中受付に向かうと、僕たち二人に突き刺さる視線。さっそくレーアさんが迎えに出て来て奥のギルマスターの部屋に案内してくれた。
当然ゲーリックさんが出迎えてくれて開口一番。
「まーた、おまえらやらかしたな」
「ゲーリックさん、こんにちは。やらかしたは無いでしょう」
「他に言いようがない。まったく、たった2人で命懸けでスタンピード潰すとかどこの伝説の勇者様だよ」
このあたりは、僕たちも苦笑する以外にはない。
「なりゆきで止むを得ずですね」
「スタンピードってのはなりゆきで潰せるもんじゃないんだがな。まったく規格外だよな。で、今日は何の用だ。よほどとんでもない事でなければ今のお前たちの要望は通るぞ」
「実は、教えて欲しいことがありまして……」
「ありがとうございました」
僕たちはギルドを出て、次は先日剣を買った武器屋に向かうことにした。
「みんなの居場所が分かってよかったね」
ミーアの声が少しだけ明るい。
「そうだね、僕たちがお世話になったのと別の治療院が受け入れてくれてたんだね」
ギルドで教えてもらったのは村のみんなの行方と、スタンピードについてどんなふうに伝わっているか。村のみんなは聖都にいくつかある治療院の一つに滞在しているそうだ。そしてスタンピードについては”一般向け”には、”大規模”スタンピードを僕とミーアがたった2人で討伐したことになっているそうだ。スタンピードの規模としては実際はむしろやや小規模だったらしいけれど、大げさにふれ回っていると……。
「それにしても……」
と僕は溜息をついた。ミーアが僕の言葉を引き継ぎ、やはり溜息をついた。
「あたしたちが英雄ってね」
「柄じゃないよなあ」
武器屋では店主に3振りの剣を見せた
「これなんだけれど、修理できますか」
「また、派手に潰したもんだの。鉄の剣はともかくミスリルコートの剣を短期間でここまで使いつぶすとは」
そう言いながらも状態を確認していく店主。
「鉄のブロードソードはダメだの。修理してもまたすぐ折れるわこれじゃ。ミスリルコートの剣は、まあ直らんことも無いが、ここまで激しく使うのならミスリルコートでなくミスリルか、いっそミスリルにオリハルコンコートした剣にした方がいいぞ」
「いや、僕たちも今回みたいに使うのは無いと……。なあミーア」
「さすがにね。あんなこと何度もしてたら命がいくつあっても足りないわよね」
「ふん、英雄殿だったか。」
少し何かを考えていた店主は
「とりあえず剣は預かる。3日後にまた来い。その間はこいつを持っていろ。街中でならばそれで十分だろう」
そう言って鉄の短剣を2振り渡してきた。
「わかりました。3日後にまた来ます」
最後に向かったのは村の皆が身を寄せているという治療院。
「こんにちは。どなたかみえませんか」
僕が声を掛けると、中から銀髪痩躯に黒の修道服を着た男性が迎えてくれた。
「こんにちは。何か御用ですか。みたところお怪我等は無さそうですが」
「こちらに知り合いが身を寄せていると聞きまして」
「ああ、アークガルズの方々ですか。どうぞご案内します」
治療院の奥まった部屋に案内され
「この時間は皆さんこちらの部屋におられます。どうぞお入りください」
ノックをして中に入ると
「フェイ、ミーア」
皆が駆け寄ってきた。
「来るのが遅くなってごめん」
「気にするな。というより良く無事でいてくれた。それに話だけは聖騎士団の方から聞いていたからな。2人とも随分と酷い状態だったそうじゃないか」
皆を代表するようにギルべさんが応えてくれた。
「うん、それでも治療院の人たちの助力もあって5体満足で生きているよ。そっちはどう」
そこからは少し言い難そうにして
「ラシェルさんは、村から脱出できなかったようだ。ティアドさんは街道で皆を庇って、ラリサさんもその時に。すまん」
見るとギルべさんの左腕の肘から先がなかった。
「そう、ですか……」
左腕に重さを感じ、見やるとミーアが僕の腕にしがみついて顔を腕に埋めていた。それからは誰も口を開くことができなかった。
そのままじっとしていても仕方がないので、僕が重い口を開いた。
「僕たちはしばらく第1治療院でお世話になっています。何かあれば連絡をください」
そう言ってその場を離れた。
その日僕もミーアも何も話すことも出来ず、与えられた部屋でただただ抱き締め合って休んだ。
パルミラさんは、とりあえず機嫌を直してくれたらしい。
「遊んでって。まあ良いですけど。ちょっとギルドに行きたくて、外出許可もらいたいと思ったんです」
そこで大司教名代として訪れたダニエルさんの話とそれに伴う疑問をギルドマスターに教えてもらいたいため外出許可が欲しいと説明をした。パルミラさんは頭を抱えて
「まったくあの副団長殿は、片方で儀礼的な事はサポートするからとか言いながら一般人にそれだけしか伝えないとは未だに常識がずれたままということかい」
「で、その外出許可は……」
「その理由だけなら外出自体不要だね」
「いえ、ギルドマスターと話ができないと困るのですが」
「だから、その程度の事ならあたしが教えてやるって言ってるんだよ」
「つまり、一般人にああいった呼び出しがあった場合、大体その日の朝に馬車で迎えが来るからそれに乗っていけばいいと」
「そういうこと。あの副団長は代々聖騎士団所属の偉いさんの家柄なんでそういった事を一般人が知らないことがすっぽりと頭から抜けてるんだよ。悪い人間じゃないんだけどね」
そこでふっと気付いた。僕たちは村からの避難時のまま。
「あの、もう一つ教えていただきたいことが」
「ん、なんだい」
「教会に参内するのは良いのですが。普段着で良いのでしょうか」
「ああ、それは一応それなりの格好が……。そうかスタンピードのままかい」
「ええ、魔法の鞄があれば、そこに1揃い入ってはいたんですが」
「それは無くしたのかい」
「ここには、どうやら救援部隊に担ぎ込まれたらしくて、装備から何からどうなったか分からないんです」
「まったくそれはマリアの不手際だね。マリア」
大声でパルミラさんはマリアさんを呼び、慌てたように部屋に入ってきたマリアさんに
「この子達の荷物は無いのかい」
「あ」
と一声と共に慌てて部屋を出ていくマリアさん。
「どうやら、何かはあるようだね」
しばらく待つと一抱えはある革袋を持って戻ってきたマリアさん。
「こ、これを騎士団の方がお二人が目を覚ましたら渡すようにと置いて行かれました」
「中を見てもいいですか」
おずおずと尋ねる僕に
「なーにをいっているんだい。あんた達へっておいていかれた荷物なんだから、あたしの許可なんかいらないだろうよ。中を確認してみな」
中から出てきたのは”3振りの剣”に傷だらけの防具、そして泥に汚れたひとつの小ぶりな”鞄”。
剣はどれも刃こぼれをし、歪み、1本などは途中でまがってしまっていたが間違いなくあそこで僕たちの命をつないでくれた剣達だった。
「この胸当てざっくり切り裂かれてほとんど千切れかけてるぞ」
「ほらこの肩当てなんか、これ魔獣にかじられてるよね」
一通り荷物を確認して
「なあ、僕たちよく生き残れたね」
「本当にね」
クスクスと笑い合う僕たちを見やり、パルミラさんが
「お前達の荷物で間違いなさそうだね」
「はい、間違いありません」
「じゃあ、中身をきちんと再確認して必要なものがあったら準備しておきな」
「え、でも外出は……」
「ああ、もう面倒くさいね。さっきから見てればわかるよ。あんたらはもう完治。事情が事情だからしばらくはここに泊まればいい」
「ありがとうございます」
「部屋はそうだね、一番奥の二人部屋が空いてるはずだからそこを使いな。ただし、ここは治療院だからね、壁は大して厚くない。夜の営みはドアをしっかり閉めて大人しめにすること」
「夜のってそんな」
「あん、お前達は夫婦なんだろう。それも新婚で死地を乗り越えたばかりの。そんな2人に我慢しろというほど無粋じゃないよ」
僕は自分の顔が真っ赤になっているだろうと思いながら、ふと横を見てミーアも耳まで赤くなっていて何か安心していた。
「あ、そうそう。部屋は使ってもらっていいけど。食事は自分たちで頼むよ」
その日僕たちはまだ時間があるからと、何か所かを回ることにした。最初に訪れたのはギルド。村のみんなの事を聞くにはギルドが一番だと思ったのだ。
”キイ”軽い軋み音を響かせながらギルドの入口をくぐる。午後の閑散とした中受付に向かうと、僕たち二人に突き刺さる視線。さっそくレーアさんが迎えに出て来て奥のギルマスターの部屋に案内してくれた。
当然ゲーリックさんが出迎えてくれて開口一番。
「まーた、おまえらやらかしたな」
「ゲーリックさん、こんにちは。やらかしたは無いでしょう」
「他に言いようがない。まったく、たった2人で命懸けでスタンピード潰すとかどこの伝説の勇者様だよ」
このあたりは、僕たちも苦笑する以外にはない。
「なりゆきで止むを得ずですね」
「スタンピードってのはなりゆきで潰せるもんじゃないんだがな。まったく規格外だよな。で、今日は何の用だ。よほどとんでもない事でなければ今のお前たちの要望は通るぞ」
「実は、教えて欲しいことがありまして……」
「ありがとうございました」
僕たちはギルドを出て、次は先日剣を買った武器屋に向かうことにした。
「みんなの居場所が分かってよかったね」
ミーアの声が少しだけ明るい。
「そうだね、僕たちがお世話になったのと別の治療院が受け入れてくれてたんだね」
ギルドで教えてもらったのは村のみんなの行方と、スタンピードについてどんなふうに伝わっているか。村のみんなは聖都にいくつかある治療院の一つに滞在しているそうだ。そしてスタンピードについては”一般向け”には、”大規模”スタンピードを僕とミーアがたった2人で討伐したことになっているそうだ。スタンピードの規模としては実際はむしろやや小規模だったらしいけれど、大げさにふれ回っていると……。
「それにしても……」
と僕は溜息をついた。ミーアが僕の言葉を引き継ぎ、やはり溜息をついた。
「あたしたちが英雄ってね」
「柄じゃないよなあ」
武器屋では店主に3振りの剣を見せた
「これなんだけれど、修理できますか」
「また、派手に潰したもんだの。鉄の剣はともかくミスリルコートの剣を短期間でここまで使いつぶすとは」
そう言いながらも状態を確認していく店主。
「鉄のブロードソードはダメだの。修理してもまたすぐ折れるわこれじゃ。ミスリルコートの剣は、まあ直らんことも無いが、ここまで激しく使うのならミスリルコートでなくミスリルか、いっそミスリルにオリハルコンコートした剣にした方がいいぞ」
「いや、僕たちも今回みたいに使うのは無いと……。なあミーア」
「さすがにね。あんなこと何度もしてたら命がいくつあっても足りないわよね」
「ふん、英雄殿だったか。」
少し何かを考えていた店主は
「とりあえず剣は預かる。3日後にまた来い。その間はこいつを持っていろ。街中でならばそれで十分だろう」
そう言って鉄の短剣を2振り渡してきた。
「わかりました。3日後にまた来ます」
最後に向かったのは村の皆が身を寄せているという治療院。
「こんにちは。どなたかみえませんか」
僕が声を掛けると、中から銀髪痩躯に黒の修道服を着た男性が迎えてくれた。
「こんにちは。何か御用ですか。みたところお怪我等は無さそうですが」
「こちらに知り合いが身を寄せていると聞きまして」
「ああ、アークガルズの方々ですか。どうぞご案内します」
治療院の奥まった部屋に案内され
「この時間は皆さんこちらの部屋におられます。どうぞお入りください」
ノックをして中に入ると
「フェイ、ミーア」
皆が駆け寄ってきた。
「来るのが遅くなってごめん」
「気にするな。というより良く無事でいてくれた。それに話だけは聖騎士団の方から聞いていたからな。2人とも随分と酷い状態だったそうじゃないか」
皆を代表するようにギルべさんが応えてくれた。
「うん、それでも治療院の人たちの助力もあって5体満足で生きているよ。そっちはどう」
そこからは少し言い難そうにして
「ラシェルさんは、村から脱出できなかったようだ。ティアドさんは街道で皆を庇って、ラリサさんもその時に。すまん」
見るとギルべさんの左腕の肘から先がなかった。
「そう、ですか……」
左腕に重さを感じ、見やるとミーアが僕の腕にしがみついて顔を腕に埋めていた。それからは誰も口を開くことができなかった。
そのままじっとしていても仕方がないので、僕が重い口を開いた。
「僕たちはしばらく第1治療院でお世話になっています。何かあれば連絡をください」
そう言ってその場を離れた。
その日僕もミーアも何も話すことも出来ず、与えられた部屋でただただ抱き締め合って休んだ。
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