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第一章 ××を欲しがる怪異の記憶
少年の記憶
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§
「あれ?」
気が付くと、私は教室の中に戻っていた。だけど、様子がおかしい。
さっきまでは机も床も何もかもがボロボロだったはず。なのに、今は新品同様にピカピカだ。窓の外に夕焼け空が広がっていることは変わらないけど。
……おかしなことは、まだあった。黒板の前に、男の人が立っている。そして、教卓のすぐ前にある席。そこに、一人の男の子が座っていた。
「あの子は……!」
私の身体に、思わず力が入る。何故なら、教卓の前にある席に座っている子は、さっき私を襲ってきた男の子だったからだ。さっきと違って、包丁を持っていたり、服が血まみれだったりはしないけれど……。
「先生。みんなもう帰ったよ。どうしてボクだけ居残りしないといけないの?」
黒板の前に立つ男の人に向かって、男の子がそう言った。どうやら、黒板の前に立つ男の人はこの子の先生のようだ。
「シンヤくん。君にお願いしたいことがあるんだ」
男の子の名前はシンヤというらしい。
どうしよう。あのシンヤくんって子、怪異だよね? 逃げた方がいいのかな。
……でも、今のあの子は危険じゃない気がする。何となくだけど、私はそう思った。
「あ、あのう……」
私は、勇気を出して二人に話しかけてみた。だけど、
「ボクにお願いしたいこと? 先生が?」
「うん。君じゃないとダメなんだ……」
二人とも、私のことを無視して話を続けた。
――いや、違う。無視しているんじゃない。私のことが、見えていないみたい。
「シンヤくん。君はとても珍しい血液型だよね」
「え? う、うん。めったにない血液型らしいけど、それがどうしたの?」
血液型? あの先生は、どうして急に血液型の話なんて始めたんだろう。
「実はね、私の娘も珍しい血液型なんだ。なんと、シンヤくんと同じなんだよ」
「へぇー。そうなんだ」
「うん。だからね……」
先生が笑みを浮かべながら、ゆっくりとシンヤくんに近づいていった。そして……、
「せ、先生……っ!?」
何と、両手でシンヤくんの首を絞め始めた!
「な、何をしているの!?」
やめさせないと! そう思った私は、シンヤくんの首を絞める先生に向かって体当たりをした!
「えっ!?」
だけど、私の体は先生をすり抜けてしまった! 何で!?
「く、くるし……っ!」
シンヤくんの顔が、段々と青ざめていく。
「やめて!」
あきらめずに、私は先生に体当たりをした! でも、やっぱりすり抜けて当たらない! どうして!?
「君の心臓があれば、私の娘は助かるんだ。だから、ごめんね」
「せんせ……い……」
――徐々にシンヤくんの体から力が抜けていく。そして、完全に動かなくなったのと同時に、辺りは真っ暗な闇に包まれた。
§
「こ、今度は何!?」
闇が晴れた時、私は見知らぬ場所にいた。どこか暗い、倉庫の中みたいな場所だ。
目の前には、大きなベッドがある。そしてそのベッドの上には、ベルトのようなもので手足の自由を奪われたシンヤくんが横たわっていた。
……シンヤくんの首には、先生の手の跡がついている。でも、シンヤくんは生きていた。しっかりと目を開けている。どうやら、首を絞められて殺されたわけではないみたい。
私は、シンヤくんが生きていてほっとした。
……ベッドのそばには、二人の男の人が立っている。一人は、さっきシンヤくんの首を絞めた先生。もう一人は、白衣を着た男の人だ。
「先生。どうしてこんなことをするの? お家に帰してよ……」
シンヤくんが、力なくそう呟いた。しかし、先生はシンヤくんの方を見ない。
「ドクター。お願いします」
先生は、白衣を着た男の人に向かってそう言った。ドクターと呼ばれた男の人は、こくりと頷く。
「任せたまえ。報酬の分は、しっかりと働くよ」
「ええ。……お願いします」
そう言葉を残して、先生はどこかに行ってしまった。
「何をする気なの?」
シンヤくんが、ドクターに質問する。すると、ドクターはにっこりと笑いながら、こう言った。
「楽しい楽しい手術だよ」
ドクターが、懐から何かを取り出す。
――それは、医療系のテレビドラマでよく見る鋭利な刃物。メスだった。
「ま、まさか……。ダメー!!」
私は叫び、ドクターに飛びかかった! だけど、さっきと同じように体がすり抜けてしまう! どうして! このままだと……っ!
「千眼さん」
呼ばれて、私ははっとする。気が付くと、私のすぐ近くに龍守くんが立っていた。
「龍守くん! どうしてここに……。いや、それよりもまずシンヤくんを助けなきゃ!」
「……無理なんだよ。だってこれは、あの怪異の生前の記憶。過去に起きたことなんだから。……今、僕たちが見ているものは映像のようなもの。だから、触れることはできない」
「過去に、起きたこと……?」
「……君が光って見えると言ったロッカーの中に、これが入っていたんだ」
そう言って、龍守くんは私の前に開いた右手を突き出した。……龍守くんの手に、小さな水晶玉のようなものが乗っている。
「これはもしかして……」
「ああ。記憶の核だ。……記憶の核を見つけると、怪異の生前の記憶が怪域の中に居る人間の頭に流れ込んでくる。特に、怪異が生前に強い未練を残すきっかけになった瞬間の記憶が」
「強い未練を残すきっかけになった瞬間の、記憶……?」
私は、シンヤくんが横たわるベッドの方に目を向けた。
――ドクターが、鋭いメスをシンヤくんの胸に当てている。
「さあ、聞かせてくれ。君の断末魔の叫びを!」
次の瞬間、シンヤくんの悲鳴が辺りに響いた。
「うそ……こんなの……っ!」
「見ない方がいい」
そう言って、龍守くんは私を引き寄せた。……残酷な手術を見せないように、胸を貸してくれたのだ。だけど、目を塞いでも悲鳴は聞こえてくる。怖くて、悲しくて、私の目から涙がこぼれた。
「ねえ、どうして……。どうして、こんなこと……! 生きたまま、こんな……っ!」
「……分からない。分からないけど、生前に理不尽な目に遭った者が怪異になることがほとんどだ。あの子も、理不尽に命を奪われて、怪異になった。それは確かだ」
龍守くんの声は、震えていた。……今、龍守くんは怒っている。姿は見えないけど、何となくそんな気がした。
「あれ?」
気が付くと、私は教室の中に戻っていた。だけど、様子がおかしい。
さっきまでは机も床も何もかもがボロボロだったはず。なのに、今は新品同様にピカピカだ。窓の外に夕焼け空が広がっていることは変わらないけど。
……おかしなことは、まだあった。黒板の前に、男の人が立っている。そして、教卓のすぐ前にある席。そこに、一人の男の子が座っていた。
「あの子は……!」
私の身体に、思わず力が入る。何故なら、教卓の前にある席に座っている子は、さっき私を襲ってきた男の子だったからだ。さっきと違って、包丁を持っていたり、服が血まみれだったりはしないけれど……。
「先生。みんなもう帰ったよ。どうしてボクだけ居残りしないといけないの?」
黒板の前に立つ男の人に向かって、男の子がそう言った。どうやら、黒板の前に立つ男の人はこの子の先生のようだ。
「シンヤくん。君にお願いしたいことがあるんだ」
男の子の名前はシンヤというらしい。
どうしよう。あのシンヤくんって子、怪異だよね? 逃げた方がいいのかな。
……でも、今のあの子は危険じゃない気がする。何となくだけど、私はそう思った。
「あ、あのう……」
私は、勇気を出して二人に話しかけてみた。だけど、
「ボクにお願いしたいこと? 先生が?」
「うん。君じゃないとダメなんだ……」
二人とも、私のことを無視して話を続けた。
――いや、違う。無視しているんじゃない。私のことが、見えていないみたい。
「シンヤくん。君はとても珍しい血液型だよね」
「え? う、うん。めったにない血液型らしいけど、それがどうしたの?」
血液型? あの先生は、どうして急に血液型の話なんて始めたんだろう。
「実はね、私の娘も珍しい血液型なんだ。なんと、シンヤくんと同じなんだよ」
「へぇー。そうなんだ」
「うん。だからね……」
先生が笑みを浮かべながら、ゆっくりとシンヤくんに近づいていった。そして……、
「せ、先生……っ!?」
何と、両手でシンヤくんの首を絞め始めた!
「な、何をしているの!?」
やめさせないと! そう思った私は、シンヤくんの首を絞める先生に向かって体当たりをした!
「えっ!?」
だけど、私の体は先生をすり抜けてしまった! 何で!?
「く、くるし……っ!」
シンヤくんの顔が、段々と青ざめていく。
「やめて!」
あきらめずに、私は先生に体当たりをした! でも、やっぱりすり抜けて当たらない! どうして!?
「君の心臓があれば、私の娘は助かるんだ。だから、ごめんね」
「せんせ……い……」
――徐々にシンヤくんの体から力が抜けていく。そして、完全に動かなくなったのと同時に、辺りは真っ暗な闇に包まれた。
§
「こ、今度は何!?」
闇が晴れた時、私は見知らぬ場所にいた。どこか暗い、倉庫の中みたいな場所だ。
目の前には、大きなベッドがある。そしてそのベッドの上には、ベルトのようなもので手足の自由を奪われたシンヤくんが横たわっていた。
……シンヤくんの首には、先生の手の跡がついている。でも、シンヤくんは生きていた。しっかりと目を開けている。どうやら、首を絞められて殺されたわけではないみたい。
私は、シンヤくんが生きていてほっとした。
……ベッドのそばには、二人の男の人が立っている。一人は、さっきシンヤくんの首を絞めた先生。もう一人は、白衣を着た男の人だ。
「先生。どうしてこんなことをするの? お家に帰してよ……」
シンヤくんが、力なくそう呟いた。しかし、先生はシンヤくんの方を見ない。
「ドクター。お願いします」
先生は、白衣を着た男の人に向かってそう言った。ドクターと呼ばれた男の人は、こくりと頷く。
「任せたまえ。報酬の分は、しっかりと働くよ」
「ええ。……お願いします」
そう言葉を残して、先生はどこかに行ってしまった。
「何をする気なの?」
シンヤくんが、ドクターに質問する。すると、ドクターはにっこりと笑いながら、こう言った。
「楽しい楽しい手術だよ」
ドクターが、懐から何かを取り出す。
――それは、医療系のテレビドラマでよく見る鋭利な刃物。メスだった。
「ま、まさか……。ダメー!!」
私は叫び、ドクターに飛びかかった! だけど、さっきと同じように体がすり抜けてしまう! どうして! このままだと……っ!
「千眼さん」
呼ばれて、私ははっとする。気が付くと、私のすぐ近くに龍守くんが立っていた。
「龍守くん! どうしてここに……。いや、それよりもまずシンヤくんを助けなきゃ!」
「……無理なんだよ。だってこれは、あの怪異の生前の記憶。過去に起きたことなんだから。……今、僕たちが見ているものは映像のようなもの。だから、触れることはできない」
「過去に、起きたこと……?」
「……君が光って見えると言ったロッカーの中に、これが入っていたんだ」
そう言って、龍守くんは私の前に開いた右手を突き出した。……龍守くんの手に、小さな水晶玉のようなものが乗っている。
「これはもしかして……」
「ああ。記憶の核だ。……記憶の核を見つけると、怪異の生前の記憶が怪域の中に居る人間の頭に流れ込んでくる。特に、怪異が生前に強い未練を残すきっかけになった瞬間の記憶が」
「強い未練を残すきっかけになった瞬間の、記憶……?」
私は、シンヤくんが横たわるベッドの方に目を向けた。
――ドクターが、鋭いメスをシンヤくんの胸に当てている。
「さあ、聞かせてくれ。君の断末魔の叫びを!」
次の瞬間、シンヤくんの悲鳴が辺りに響いた。
「うそ……こんなの……っ!」
「見ない方がいい」
そう言って、龍守くんは私を引き寄せた。……残酷な手術を見せないように、胸を貸してくれたのだ。だけど、目を塞いでも悲鳴は聞こえてくる。怖くて、悲しくて、私の目から涙がこぼれた。
「ねえ、どうして……。どうして、こんなこと……! 生きたまま、こんな……っ!」
「……分からない。分からないけど、生前に理不尽な目に遭った者が怪異になることがほとんどだ。あの子も、理不尽に命を奪われて、怪異になった。それは確かだ」
龍守くんの声は、震えていた。……今、龍守くんは怒っている。姿は見えないけど、何となくそんな気がした。
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