カイイノキヲク

乾翔太

文字の大きさ
上 下
4 / 14
第一章 ××を欲しがる怪異の記憶

少年の記憶

しおりを挟む
 §

「あれ?」
 気が付くと、私は教室の中に戻っていた。だけど、様子がおかしい。
 さっきまでは机も床も何もかもがボロボロだったはず。なのに、今は新品同様にピカピカだ。窓の外に夕焼け空が広がっていることは変わらないけど。
 ……おかしなことは、まだあった。黒板の前に、男の人が立っている。そして、教卓のすぐ前にある席。そこに、一人の男の子が座っていた。
「あの子は……!」
 私の身体に、思わず力が入る。何故なら、教卓の前にある席に座っている子は、さっき私を襲ってきた男の子だったからだ。さっきと違って、包丁を持っていたり、服が血まみれだったりはしないけれど……。
「先生。みんなもう帰ったよ。どうしてボクだけ居残りしないといけないの?」
 黒板の前に立つ男の人に向かって、男の子がそう言った。どうやら、黒板の前に立つ男の人はこの子の先生のようだ。
「シンヤくん。君にお願いしたいことがあるんだ」
 男の子の名前はシンヤというらしい。
どうしよう。あのシンヤくんって子、怪異だよね? 逃げた方がいいのかな。
 ……でも、今のあの子は危険じゃない気がする。何となくだけど、私はそう思った。
「あ、あのう……」
 私は、勇気を出して二人に話しかけてみた。だけど、
「ボクにお願いしたいこと? 先生が?」
「うん。君じゃないとダメなんだ……」
 二人とも、私のことを無視して話を続けた。 
――いや、違う。無視しているんじゃない。私のことが、見えていないみたい。
「シンヤくん。君はとても珍しい血液型だよね」
「え? う、うん。めったにない血液型らしいけど、それがどうしたの?」
 血液型? あの先生は、どうして急に血液型の話なんて始めたんだろう。
「実はね、私の娘も珍しい血液型なんだ。なんと、シンヤくんと同じなんだよ」
「へぇー。そうなんだ」
「うん。だからね……」
 先生が笑みを浮かべながら、ゆっくりとシンヤくんに近づいていった。そして……、
「せ、先生……っ!?」
 何と、両手でシンヤくんの首を絞め始めた!
「な、何をしているの!?」
 やめさせないと! そう思った私は、シンヤくんの首を絞める先生に向かって体当たりをした!
「えっ!?」
 だけど、私の体は先生をすり抜けてしまった! 何で!?
「く、くるし……っ!」
 シンヤくんの顔が、段々と青ざめていく。
「やめて!」
 あきらめずに、私は先生に体当たりをした! でも、やっぱりすり抜けて当たらない! どうして!?
「君の心臓があれば、私の娘は助かるんだ。だから、ごめんね」
「せんせ……い……」
 ――徐々にシンヤくんの体から力が抜けていく。そして、完全に動かなくなったのと同時に、辺りは真っ暗な闇に包まれた。

 §

「こ、今度は何!?」
 闇が晴れた時、私は見知らぬ場所にいた。どこか暗い、倉庫の中みたいな場所だ。
目の前には、大きなベッドがある。そしてそのベッドの上には、ベルトのようなもので手足の自由を奪われたシンヤくんが横たわっていた。
 ……シンヤくんの首には、先生の手の跡がついている。でも、シンヤくんは生きていた。しっかりと目を開けている。どうやら、首を絞められて殺されたわけではないみたい。
私は、シンヤくんが生きていてほっとした。
 ……ベッドのそばには、二人の男の人が立っている。一人は、さっきシンヤくんの首を絞めた先生。もう一人は、白衣を着た男の人だ。
「先生。どうしてこんなことをするの? お家に帰してよ……」
 シンヤくんが、力なくそう呟いた。しかし、先生はシンヤくんの方を見ない。
「ドクター。お願いします」
 先生は、白衣を着た男の人に向かってそう言った。ドクターと呼ばれた男の人は、こくりと頷く。
「任せたまえ。報酬の分は、しっかりと働くよ」
「ええ。……お願いします」
 そう言葉を残して、先生はどこかに行ってしまった。
「何をする気なの?」
 シンヤくんが、ドクターに質問する。すると、ドクターはにっこりと笑いながら、こう言った。
「楽しい楽しい手術だよ」
 ドクターが、懐から何かを取り出す。
 ――それは、医療系のテレビドラマでよく見る鋭利な刃物。メスだった。
「ま、まさか……。ダメー!!」
 私は叫び、ドクターに飛びかかった! だけど、さっきと同じように体がすり抜けてしまう! どうして! このままだと……っ!
「千眼さん」
 呼ばれて、私ははっとする。気が付くと、私のすぐ近くに龍守くんが立っていた。
「龍守くん! どうしてここに……。いや、それよりもまずシンヤくんを助けなきゃ!」
「……無理なんだよ。だってこれは、あの怪異の生前の記憶。過去に起きたことなんだから。……今、僕たちが見ているものは映像のようなもの。だから、触れることはできない」
「過去に、起きたこと……?」
「……君が光って見えると言ったロッカーの中に、これが入っていたんだ」
 そう言って、龍守くんは私の前に開いた右手を突き出した。……龍守くんの手に、小さな水晶玉のようなものが乗っている。
「これはもしかして……」
「ああ。記憶の核だ。……記憶の核を見つけると、怪異の生前の記憶が怪域の中に居る人間の頭に流れ込んでくる。特に、怪異が生前に強い未練を残すきっかけになった瞬間の記憶が」
「強い未練を残すきっかけになった瞬間の、記憶……?」
 私は、シンヤくんが横たわるベッドの方に目を向けた。
 ――ドクターが、鋭いメスをシンヤくんの胸に当てている。
「さあ、聞かせてくれ。君の断末魔の叫びを!」
 次の瞬間、シンヤくんの悲鳴が辺りに響いた。
「うそ……こんなの……っ!」
「見ない方がいい」
 そう言って、龍守くんは私を引き寄せた。……残酷な手術を見せないように、胸を貸してくれたのだ。だけど、目を塞いでも悲鳴は聞こえてくる。怖くて、悲しくて、私の目から涙がこぼれた。
「ねえ、どうして……。どうして、こんなこと……! 生きたまま、こんな……っ!」
「……分からない。分からないけど、生前に理不尽な目に遭った者が怪異になることがほとんどだ。あの子も、理不尽に命を奪われて、怪異になった。それは確かだ」
 龍守くんの声は、震えていた。……今、龍守くんは怒っている。姿は見えないけど、何となくそんな気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

霊感兄妹の大冒険 古城にはモンスターがいっぱい⁉

幽刻ネオン
児童書・童話
★あらすじ ある日、冬休みに別荘へお泊りをすることになった仲良し皇兄妹(すめらぎ きょうだい)。 元気で明るく心優しい中学二年生の次女、あやね。 お嬢さま口調で礼儀正しい中学一年生の末っ子、エミリー。 ボーイッシュでクールな中学三年生の長女、憂炎(ユーエン)。 生意気だけど頼れるイケメンダークな高校二年生の長男、大我(タイガ)の四人。 そんな兄妹が向かったのは・・・・・なんと古城⁉ 海外にいる両親から「古城にいる幽霊をなんとかしてほしい」と頼まれて大ピンチ! しかし、実際にいたのは幽霊ではなく・・・・・・⁉ 【すべてを知ったらニゲラレナイ】 はたして兄妹たちは古城の謎が解けるのだろうか?  最恐のミッションに挑む霊感兄妹たちの最恐ホラーストーリー。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

灯りの点る小さな家

サクラ
児童書・童話
「私」はいじめられっ子。 だから、いつも嘘を家族に吐いていた。 「楽しい1日だったよ」 正直に相談出来ないまま、両親は他界。そんな一人の「私」が取った行動は……。 いじめられたことのある人、してしまったことのある人に読んでほしい短編小説。

バケセンとぼくらの街の怪談

猫屋ちゃき
児童書・童話
小学4年のユーマのクラスに、病気で入院することになった担任の先生の代わりに新しい先生がやってきた。 その名も化野堅治(あだしの・けんじ)。 大きなクマみたいで、声も大きくて、ユーマは少し苦手。 でもみんなは、〝バケセン〟と呼んで慕っている。 前の担任を恋しがるユーマだったが、友達のレンと幼馴染のミーの三人で学校の怪談について調べたり噂を確かめたりするF・K(不思議・怖い)調査隊の活動をしていくうちに、バケセンと親しくなる。 霊感ゼロのバケセンは幽霊を見るための道具を自作してまで、怪奇現象に遭遇しようとしていたのだ。 「先生、オバケ……幽霊に会いたいんだよ」 これは、バケセンとぼくらの、怖い話をめぐる物語。

スコウキャッタ・ターミナル

nono
児童書・童話
「みんなと違う」妹がチームの優勝杯に吐いた日、ついにそのテディベアをエレンは捨てる。すると妹は猫に変身し、謎の二人組に追われることにーー 空飛ぶトラムで不思議な世界にやってきたエレンは、弱虫王子とワガママ王女を仲間に加え、妹を人間に戻そうとするが・・・

魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 混沌とした太古の昔、いわゆる神話の時代、人々は突然現れた魔竜と呼ばれる強大な存在を恐れ暮らしてきた。しかし、長い間苦しめられてきた魔竜を討伐するため神官たちは神へ祈り、その力を凝縮するための祭壇とも言える巨大な施設を産み出した。  神の力が満ち溢れる場所から人を超えた力と共に産みおとされた三人の勇者、そして同じ場所で作られた神具と呼ばれる強大な力を秘めた武具を用いて魔竜は倒され世界には平和が訪れた。  それから四千年が経ち人々の記憶もあいまいになっていた頃、世界に再び混乱の影が忍び寄る。時を同じくして一人の少女が神具を手にし、世の混乱に立ち向かおうとしていた。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...