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#01
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あの川を越えると、魔法が解ける。
シャワーを浴びて野田が部屋へ戻ると、ハルはもう動かなくなっていた。
結露で曇ったガラスの向こうでは疫病が流行っている。その影響は水が染みるように日常のあちこちに入り込んでいて、このホテルへ辿り着くまででも殆ど人とすれ違わなかった。週末だというのに。テレビのニュースは一日中同じ話題を繰り返すばかり。息を吸うことすらも慎重になっている。とはいえこのような生活の変革にも慣れ始めてしまった。世界の終わりは静かに忍び寄ってくると言うけれど、おそらくこんな風にやってくるものなのだろう。
身体全体を包むようにかけられた白いチュールレース地の下に、見慣れたハルの美しい顔が透けている。丸襟の付いたミニのワンピースとタイツ。身を包むもの全てが白く、まるで自身を葬っているような、神に創られた聖なる物体である証明のような。丁寧にラッピングされた新しい玩具のような。
これで遊んで良い、と提供された玩具なのだ。野田はそう胸の中で呟いて、チュールレースをゆっくり剥がす。ベッドヘッドに重ねた枕にもたれて座らされたハルの手を握っても、握り返してくれることなど当然なく、力を失った手は重く。離せばパタンと落ちる。重力に抗うことなく垂れ下がった腕。軽く閉じられた艶やかな唇と、ぼんやり開いたままで動かない瞳。人工の毛が植えられた睫毛。柔らかな頬をそっと撫でても何の反応もない。
こういう方法でしか望んでいたものは手に入らないのだろうか。きっと本当はそうではないのだろうけど。
使い捨てのプラスチック手袋越しにしか触れることを許されていないのがもどかしい。わかってはいるのだ。今はもうそんな状況ではない。自分が誰がそれに該当しているのかわからないまま、空気中の何処かにいるそれに怯えている。数ヶ月前とはすっかり変わってしまったが、世界は唐突には終わってくれない。
野田は心細さをその身から剥がそうとするかのようにハルの太腿を撫で、縋り付くようにその間に顔を埋める。ワンピースの裾を捲ると、タイツに覆われたなだらかな起伏が現れた。頬擦りするのにマスクが邪魔だが、外すわけにいかない。ましてや以前のように舐め回すことなど、今は許されない。股を開かせ足首を掴み、足の裏を自身の下半身に擦り付ける。人間の脚って重いな。ハルの瞳はただ一点だけを虚ろに見つめている。自力で動かすことを放棄した身体。ただそれを味わいたかった。
それから両足首を掴んで引き摺り、ベッドに横たわらせる。ワンピースを胸の辺りまで捲りあげ、脚の付け根から真白なタイツを脱がす。露わになったショーツの上からハルのものに触れても、野田のそれのようにすぐに硬くなることはない。撫でても起伏はそれ以上盛り上がらず柔らかなまま。裾からは身体に繋がった細いコードとコントローラーが転がっている。完璧な工業製品として、この身体はここにある。
小さなリボン飾りがついた淡いピンク色のショーツの上から起伏に口付けると、堪らない感情がこみ上げ、思わずマスクをずらして舌の先で触れてしまった。唾液の染みた布に隔たれてはいるが、生きた感触がある。すると突然ハルの口から魔法を解く言葉がささやかれ、思わず息が喉を逆流していった。
「約束と違いますよね」
さっきまで虚空を見つめていた瞳が、じっとこちらを覗き込む。
「今日は着衣のまま、キスもオーラルも本番もなしって約束したよね? 長い付き合いだから許されると思った?」
ごめん、と一旦身体を離すと、ハルはゆっくりと灯りが消えるように再び動かなくなった。ただの人形に戻った。自我を捨て、他人の欲望を受け止めるだけの人形。
ハルとは数年前にマッチングサービスで出会った。文字通り「お人形さん」として扱われることに興味がある男の娘と、遊びたい男。会う度に幾らか渡し、「お人形遊び」をする。
人間そっくりの人形は言葉を発しないし、自らの意思で動くこともない。弄っても挿入しても何の反応もしない。着せたい服を着せ、セックスをして、思いのままに戯れる。ホテルの部屋の中でだけ、玩具としてその肉体を差し出してくれる。
「絶対、絶対に挿れたりしないからさ、服脱がさせて。見て触るだけって約束するから」
じっと返事を待つが、ハルは微動だにしない。許可してくれたと思って良いのだろう。下着を脱がせて大きく開脚させた。身体の中心にある肉色の突起は、栗色の髪とつけまつげを備えた美しい顔とは少し隔たりを感じさせる。
自分が恥ずかしい格好をさせられているということすらわからない。感情も感覚もないお人形だから。そんな風に、ただされるがまま。何をされても感知しない。顎を押さえて口を開けさせ、脱がせたタイツを押し込む。
「今度はもっとマシなものを挿れてあげるからね」
まばたきをしない瞳には、薄い涙の膜が張っている。
隅々まで一通り鑑賞した後、野田は硬くなった自身のものをハルのショーツを使って擦り、達した。こんな時期だからなと汚したショーツをポリ袋に入れて口をきつく縛る。
野田はベッドを離れて紅茶を淹れた。少し冷めるまでの間、自分のスマートフォンの通知を見る。いくつかのメッセージは送信者の名前だけ見て後回しにして、勤務先からの連絡だけチェックする。やっぱり新規のプロジェクトは一通り延期か。一体これがいつまで続くのだろう。部屋の反対側でまだ熱い紅茶を啜りながら、デスクの鏡越しにベッドの上の様子を伺う。人形はさっき取らせたポーズと表情のまま。性器を露わにされられたまま。身体の中で震え続ける機械などないかのように、身動きひとつしない。外の世界と切り離された部屋の中では、空気洗浄機の動作音と自分が立てる物音だけがする。
今のハルは無機物と化している。その約束事を破ってはならない。気を緩めて人間扱いしてしまわないようにしないと。支配しているつもりが、服従しているようだ。
他の部屋にも宿泊客はいると思うのだが、ロビーにも廊下にも人影はなかった。そもそも駅からの道も人通りがなく、殆どの店が休業していた。まるでSF映画で観た、人類が滅亡し荒廃した世界のような。冷たく乾いた空気を遮断した部屋で、こうして人形遊びに興じている内に本当に世界は終わってしまって、二人だけが残されたような気分になってしまう。そんなはずはないのに。
紅茶を半分飲んだところで、電話が鳴った。勤務先からだ。バスルームで電話を取り、世界はまだ終わってないんだと実感する。しかし状況は良くない。乾いたスポンジのように、ほろほろと崩れていくようだ。いつ終わるかもわからない災禍の中にいるのに、今までと変わらない日常にしがみつこうとしている。無様で滑稽だと自分で自分に呆れてしまう。
部屋に戻り、ツインルームのベッド一つを隔てた場所からハルを眺める。遊び終わってもきちんと片付けてもらえずに放り出されたままの人形。あまりにも完璧に人形になれという命令に屈しているその姿は、美しさと共に畏怖を感じる。ハルはこちらの欲望をいくらでも呑んでくれるが、決して一緒に達してくれるわけではない。こうして人形として、人ではない無機物として扱われていることに悦びを感じているのだ。
残りの紅茶を飲み干して時計を見ると、もうすぐ約束の時間になる。ハルの顔を覗き込むと潤んだ瞳から今にも涙がこぼれそうで、ティッシュで拭いてやる。ちょっと疲れてきたのだろうか。ローターと咥えさせたタイツを引き抜いてやっても、口はぽっかりと開けたまま。自分で閉じることは出来ない。いつもならこの中に挿れられるのに。湿った舌に擦り付ける感覚を思い起こして、少し下半身が疼いた。
耳元で合言葉をささやくと、ハルは深く静かに息を吐きながら身体を伸ばした。まるでかけられていた魔法が解けたかのように。そしてサイドテーブルに置かれたアラームが鳴り、約束の時間が終わった。
「こういう状況だからさ、他のバイトのアテもないし。だから呼んでくれて助かった。このままだと生活費がままならないから」
「他の人たちは?」
「先週一人だけ呼ばれたけど。アナルバイブ挿れてリモコンで強さとか振動とか操作して、相手は離れたところで見ながら自分でするだけ。みんな感染が怖いんだよ。まあ、怖くないって人に会いたくもないし」
仕方がないよね、とハルは軽く笑う。仕方がない。この数週間の内に何度その言葉を聞いただろう。
「もし俺が感染者なら、こんな密室にいるのは危ないね。症状出ない人もいるっていうから」
それでも会ってくれたのは自分が特別な相手だから、というわけではないだろうと野田は思う。純粋な金のためだけであればまだ気持ちも軽いが、そうでないとも思い込みたい。しかしながら、ハルが一体何を考えているのかよくわからないのだ。人形だから感情も思考もなくて当然、と結論したいわけでもない。どうにも底が見えない。人形として商売するには人間らしい部分を見せないのが得策だとは理解するが、単純にそういう話でもない。わかりたい、けれど人形でない人間の部分を見せられて絶望しない保証もない。
ハルはアメニティのお茶の中から緑茶を選ぶ。一口飲んで、まだ熱いね、とカップをテーブルに置いた。
「野田さんの方は、仕事は大丈夫?」
「まあ、なんとか。在宅勤務も出来てるし。まだ先のことはわかんないけどね」
「こんな時に家に居なくていいのかな」
「まあ、どうせ構わないといけないような家族も、もういないしさ」
「……出歩いて人と会ったりするのに不安はないかなって」
落ち着いた声で言われて、ハッとした。
「ああ、ごめん、わかった。防疫ってことね」
本当にごめん。日常はこの場所に持ち込むべきものではなかった。この場所を特別な空間にするために、存在を許される行為や言葉が予め決められている。
お互いが越えて欲しくないラインを越えないために、合言葉が存在する。その言葉をどちらかが発すれば、無機物として扱われ所有物として扱うこのプレイは終わる。魔法が解ける呪文。
人間に戻った身体を労わるために、野田がハルの脚や肩を揉んでやると、これから何か用事ある? と尋ねられた。
「もし時間あるなら、まだ遊んでいいよ。着替えとか色々持ってきてるし。今日はセックスさせてあげられなかったから、サービス」
コンビニでパンやカップラーメンなど適当に食料を見繕う。この店も客足が乏しいのだろう。日持ちしないケーキやシュークリームに、どれも割引のシールが貼られている。野田の他に客はおらず、ビニールカーテンの向こうのレジの店員はぼんやりうつむいたまま。下着に手を伸ばしかけ、必要ないだろうと止めた。まばらに空いた陳列棚はもう見慣れた。ウェットティッシュはいつまでも手に入らないから、ティッシュを濡らして代用するしかないのかな。とりあえずポリ袋とコンドームも買い足した。
ビルとビルの間に、ほとんど空の車両を揺らしながら走っていく電車が見える。いつもならとっくに咲いている植え込みの沈丁花はまだ眠ったまま。街中が静かだ。風や葉擦れの音自分の足音、普段は気付かないような音が気になってしまう。あの高架の下には、境界を隔てる川が流れている。こちら側とあちら側を分断する川。こんなに簡単に世界が変わってしまって、きっと今までと同じにはもう二度と戻れない。
ポケットの中からスマホを取り出し、返事をしていなかったメッセージを読んで電話をかける。
「こっちは変わりないよ。大丈夫。買い物もネットで出来るしコンビニもやってるし」
ビデオ通話にする勇気はなかった。顔を見たら後ろめたさのあまり、一瞬で自分が人の形を保てずに溶け出してしまいそうだった。
「こんな時だからね。また電話してくれて構わないよ」
電話を切った後、野田はスマホを握る手が強張っているのに気付いた。
あの川の向こう岸には帰る家がある。数時間だけの魔法はあっけなく解けて、平穏な慎ましい暮らしが自分を受け入れるだろう。だけど。
これを仕方ないなんて言葉で片付けられるだろうか。これしかない、というのはただの思い込みに過ぎないのだろうか。
ホテルの部屋に戻り、野田は先程の時間を一旦自分から切り離すように顔を洗った。再びプラスチック手袋をはめ、マスクで顔を覆う。表情を相手に見られない悟られないことが、こんなに安心感を与えてくれるとは、こんな世界になるまで知らなかった。
人形は部屋を出る前と同じくベッドの隅に座らされたままだ。ワンピースの裾を捲ると、ショーツの中でローターは震え続けている。が、既に耐えきれなくなったようで、精を漏らしている。そういう人間らしさはどうしても切り離せない。爪先で陰部を押してやると、ハルの唇が微かに震えたように見えた。達したのはローターの所為なのか。それとも、人形として任意の体勢を取らされ、静物として置かれている状況に対してだろうか。
人間ではなく人形として扱うことを、彼は望んでいる。拘束具などなくても、「人形になれ/なる」という双方の合意だけで容易に身動きを奪える。声を発することも抵抗することも出来ない。
髪をブラシで優しく梳かしてやりながら、背面からなら抱きしめても良いだろうかと考え、その衝動を抑え込む。ただでさえこんな時期に密室で触れ合っているのに。
背中のファスナーを下ろし、ワンピースを脱がせる。それからショーツの中からローターを抜き出した。
胸元がレースで飾られたキャミソールの上から、胸元の左右の突起をローターで刺激する。表情こそ変わらないものの、音を立てないように最小限の動きでする呼吸はやや強まり、人間と人形の間を振り子のように揺れてるようだ。
再度ショーツの中にローターを戻し、リモコンのダイヤルを強の方へ回した。人形は人形のままだが、少し身に力が入っているのがわかる。上半身をベッドの上に押し倒し、ショーツの上から彼のモノを指の背で撫でてやる。彼の爪先が一瞬反応したのを見逃さなかった。
自分のために一体どこまで人形でいてくれるんだろうか? そう思っていたけれど本当は、彼は彼のためだけに人形になっていて、人形でいることを楽しむために人を使って遊ばせているのではないか?
充分に硬くなったのを確認し、ショーツを脱がせて手でイかせた。コンドームの先に液体が溜まる。その上から陰茎の先を指で触れても、無表情無反応で人形らしく振る舞い続ける。
今度は野田が下着を脱ぎ、先程と同じようにハルの指先で自身の陰茎の先を触れさせ、握らせる。握る力のない人形の手の上から、自分の手で包み込む形になるが。そうして野田は再び熱いものを吐き出した。
合言葉を唱えてハルを解放してやる。いつもはアフターケアで抱きしめてあげるけど、今は頭を撫でてやるので限界の距離だ。人形から人間の世界に連れ戻しても、まだハルはぼんやりと虚ろな目をしている。人形でいることに未練があるかのように。
川から岸辺に引き上げるようだ、と思う。しかし自分も川に浸かって溺れているのではないか。
初めてハルに会った日は、触れることしか出来なかった。
人形に触れてみたい。人形と化した人間を、人形として扱ってみたい。ただそれだけで良かった。
ベッドの上に壁を背もたれにして座る人形を見た時、野田は今日で自分の人生は終わってしまうのかもしれないとさえ思った。触れてみたいけれど一生触れることは叶わないと諦めていたそれが、目の前にある。触れてみたくて二時間数万円の料金を支払ったのに、触れることさえ躊躇われた。白いタイツに包まれた脚は人間らしさを感じず、意を決して撫でても何の反応もしない。真っ直ぐに伸びた背筋と虚ろな瞳。挿入もオーラルも道具を使っても、何をしても構わないと行為の前にハルから説明されたけれど。いざ人形を目の前にして、どう扱って良いのかわからず戸惑っている間に、タイムリミットが迫ってくる。ようやく身体をうつ伏せにさせて臀部を撫でている内に、サイドテーブルのアラームが鳴ってしまった。隣に置かれていたコンドームを開けることもないまま。せっかく今までの自分から一歩踏み出そうとしたのに。
なんとか挿入まで至ったのは三回目の利用日で、行為後にシャワーを浴びて部屋に戻った時に野田は驚いた。さっきまでのうつ伏せで腰を持ち上げたポーズのまま、汚されたままの人形がそこにあった。合言葉を言い忘れていた。
辞めたければ簡単に辞められる。縄や手錠で拘束されているわけじゃない。自分で、自分の意思で魔法を解くことが出来るはずだ。けれど人形でいることを辞めない。そうすることだけが唯一の真実であるかのように。この子は本当に人形を全うしてくれているんだ。この人形遊びが一方通行ではないと感じて、野田の迷いはなくなった。ハルに後で聞くと、そういう放置プレイなのかと思ってたと返ってきたが。
毎月会う関係になりしばらく経った頃、ハルにどうして人形になりたいと思ったのか訊いたことがある。
「人形っていうか無機物になりたいんだよね。……捨身飼虎ってわかる?」
しゃしんしこ、という聞きなれない単語に野田は眉をひそめる。
「お釈迦様が前世でさ、飢えた虎の親子に自分の身を捧げたってやつ。学校の日本史の資料集に載ってたんだけど、覚えてない? 玉虫厨子の捨身飼虎図」
「ごめん、覚えてない。あとで調べとく」
「それを見た時にさ、ただの肉の塊となって貪られたいって思ったんだよね。肉食獣の餌となって食い尽くされたい」
「……それは、観念上の自殺のようなもの?」
「うーん、死にたいとか殺されたいはちょっと違うかな。自意識のないただの物体になって、滅びたい。何か大きな力に滅ぼされたい」
そう言ってハルは笑った。
生命のない肉として貪られ、人形として遊ばれ、自分自身という世界を滅ぼされ。また人間の生きる世界に戻ってくる。まるで何度も死んで生まれ変わっているようだ。
ホテルの部屋を出る前に、また会える? と野田が尋ねると、会いたいけど世の中次第だよねとハルは苦笑いした。
「いつまでこれを続けられるかわからないし、この先の生活もどうなるかわからないし。でも疫病が流行ってる今は世界中が薄暗くなってるでしょう。そのことに安心するよ」
君らしいね、と笑いながら野田はハルの頭を撫でようとして無意識に上げかけた手に気付いて、引っ込めた。
「野田さんこそ、ずっと会わないでいたら忘れちゃうんじゃないの」
そんなわけないだろう、と返した言葉は思いの外強くなってしまった。もっと冗談混じりに言うつもりだったのに。野田が取り繕う言葉を言おうとすると、ハルも同時に何か言いかけ、譲り合おうとして妙な沈黙が生まれ。顔を見合って笑った。
「会えるまでずっと待ってるから、大丈夫」
ハルの言葉に野田は良かったと微笑む。
今の自分から人形遊びを取り上げられたら、どうなってしまうのかわからないから待ってて。あまりに剥き出しの不安を口から漏らしそうになるのを、野田はなんとか堪えた。
またね、と手を振るとハルも手を振り返す。
「どうせなら、みんな一緒に滅びたら良いのにね」
シャワーを浴びて野田が部屋へ戻ると、ハルはもう動かなくなっていた。
結露で曇ったガラスの向こうでは疫病が流行っている。その影響は水が染みるように日常のあちこちに入り込んでいて、このホテルへ辿り着くまででも殆ど人とすれ違わなかった。週末だというのに。テレビのニュースは一日中同じ話題を繰り返すばかり。息を吸うことすらも慎重になっている。とはいえこのような生活の変革にも慣れ始めてしまった。世界の終わりは静かに忍び寄ってくると言うけれど、おそらくこんな風にやってくるものなのだろう。
身体全体を包むようにかけられた白いチュールレース地の下に、見慣れたハルの美しい顔が透けている。丸襟の付いたミニのワンピースとタイツ。身を包むもの全てが白く、まるで自身を葬っているような、神に創られた聖なる物体である証明のような。丁寧にラッピングされた新しい玩具のような。
これで遊んで良い、と提供された玩具なのだ。野田はそう胸の中で呟いて、チュールレースをゆっくり剥がす。ベッドヘッドに重ねた枕にもたれて座らされたハルの手を握っても、握り返してくれることなど当然なく、力を失った手は重く。離せばパタンと落ちる。重力に抗うことなく垂れ下がった腕。軽く閉じられた艶やかな唇と、ぼんやり開いたままで動かない瞳。人工の毛が植えられた睫毛。柔らかな頬をそっと撫でても何の反応もない。
こういう方法でしか望んでいたものは手に入らないのだろうか。きっと本当はそうではないのだろうけど。
使い捨てのプラスチック手袋越しにしか触れることを許されていないのがもどかしい。わかってはいるのだ。今はもうそんな状況ではない。自分が誰がそれに該当しているのかわからないまま、空気中の何処かにいるそれに怯えている。数ヶ月前とはすっかり変わってしまったが、世界は唐突には終わってくれない。
野田は心細さをその身から剥がそうとするかのようにハルの太腿を撫で、縋り付くようにその間に顔を埋める。ワンピースの裾を捲ると、タイツに覆われたなだらかな起伏が現れた。頬擦りするのにマスクが邪魔だが、外すわけにいかない。ましてや以前のように舐め回すことなど、今は許されない。股を開かせ足首を掴み、足の裏を自身の下半身に擦り付ける。人間の脚って重いな。ハルの瞳はただ一点だけを虚ろに見つめている。自力で動かすことを放棄した身体。ただそれを味わいたかった。
それから両足首を掴んで引き摺り、ベッドに横たわらせる。ワンピースを胸の辺りまで捲りあげ、脚の付け根から真白なタイツを脱がす。露わになったショーツの上からハルのものに触れても、野田のそれのようにすぐに硬くなることはない。撫でても起伏はそれ以上盛り上がらず柔らかなまま。裾からは身体に繋がった細いコードとコントローラーが転がっている。完璧な工業製品として、この身体はここにある。
小さなリボン飾りがついた淡いピンク色のショーツの上から起伏に口付けると、堪らない感情がこみ上げ、思わずマスクをずらして舌の先で触れてしまった。唾液の染みた布に隔たれてはいるが、生きた感触がある。すると突然ハルの口から魔法を解く言葉がささやかれ、思わず息が喉を逆流していった。
「約束と違いますよね」
さっきまで虚空を見つめていた瞳が、じっとこちらを覗き込む。
「今日は着衣のまま、キスもオーラルも本番もなしって約束したよね? 長い付き合いだから許されると思った?」
ごめん、と一旦身体を離すと、ハルはゆっくりと灯りが消えるように再び動かなくなった。ただの人形に戻った。自我を捨て、他人の欲望を受け止めるだけの人形。
ハルとは数年前にマッチングサービスで出会った。文字通り「お人形さん」として扱われることに興味がある男の娘と、遊びたい男。会う度に幾らか渡し、「お人形遊び」をする。
人間そっくりの人形は言葉を発しないし、自らの意思で動くこともない。弄っても挿入しても何の反応もしない。着せたい服を着せ、セックスをして、思いのままに戯れる。ホテルの部屋の中でだけ、玩具としてその肉体を差し出してくれる。
「絶対、絶対に挿れたりしないからさ、服脱がさせて。見て触るだけって約束するから」
じっと返事を待つが、ハルは微動だにしない。許可してくれたと思って良いのだろう。下着を脱がせて大きく開脚させた。身体の中心にある肉色の突起は、栗色の髪とつけまつげを備えた美しい顔とは少し隔たりを感じさせる。
自分が恥ずかしい格好をさせられているということすらわからない。感情も感覚もないお人形だから。そんな風に、ただされるがまま。何をされても感知しない。顎を押さえて口を開けさせ、脱がせたタイツを押し込む。
「今度はもっとマシなものを挿れてあげるからね」
まばたきをしない瞳には、薄い涙の膜が張っている。
隅々まで一通り鑑賞した後、野田は硬くなった自身のものをハルのショーツを使って擦り、達した。こんな時期だからなと汚したショーツをポリ袋に入れて口をきつく縛る。
野田はベッドを離れて紅茶を淹れた。少し冷めるまでの間、自分のスマートフォンの通知を見る。いくつかのメッセージは送信者の名前だけ見て後回しにして、勤務先からの連絡だけチェックする。やっぱり新規のプロジェクトは一通り延期か。一体これがいつまで続くのだろう。部屋の反対側でまだ熱い紅茶を啜りながら、デスクの鏡越しにベッドの上の様子を伺う。人形はさっき取らせたポーズと表情のまま。性器を露わにされられたまま。身体の中で震え続ける機械などないかのように、身動きひとつしない。外の世界と切り離された部屋の中では、空気洗浄機の動作音と自分が立てる物音だけがする。
今のハルは無機物と化している。その約束事を破ってはならない。気を緩めて人間扱いしてしまわないようにしないと。支配しているつもりが、服従しているようだ。
他の部屋にも宿泊客はいると思うのだが、ロビーにも廊下にも人影はなかった。そもそも駅からの道も人通りがなく、殆どの店が休業していた。まるでSF映画で観た、人類が滅亡し荒廃した世界のような。冷たく乾いた空気を遮断した部屋で、こうして人形遊びに興じている内に本当に世界は終わってしまって、二人だけが残されたような気分になってしまう。そんなはずはないのに。
紅茶を半分飲んだところで、電話が鳴った。勤務先からだ。バスルームで電話を取り、世界はまだ終わってないんだと実感する。しかし状況は良くない。乾いたスポンジのように、ほろほろと崩れていくようだ。いつ終わるかもわからない災禍の中にいるのに、今までと変わらない日常にしがみつこうとしている。無様で滑稽だと自分で自分に呆れてしまう。
部屋に戻り、ツインルームのベッド一つを隔てた場所からハルを眺める。遊び終わってもきちんと片付けてもらえずに放り出されたままの人形。あまりにも完璧に人形になれという命令に屈しているその姿は、美しさと共に畏怖を感じる。ハルはこちらの欲望をいくらでも呑んでくれるが、決して一緒に達してくれるわけではない。こうして人形として、人ではない無機物として扱われていることに悦びを感じているのだ。
残りの紅茶を飲み干して時計を見ると、もうすぐ約束の時間になる。ハルの顔を覗き込むと潤んだ瞳から今にも涙がこぼれそうで、ティッシュで拭いてやる。ちょっと疲れてきたのだろうか。ローターと咥えさせたタイツを引き抜いてやっても、口はぽっかりと開けたまま。自分で閉じることは出来ない。いつもならこの中に挿れられるのに。湿った舌に擦り付ける感覚を思い起こして、少し下半身が疼いた。
耳元で合言葉をささやくと、ハルは深く静かに息を吐きながら身体を伸ばした。まるでかけられていた魔法が解けたかのように。そしてサイドテーブルに置かれたアラームが鳴り、約束の時間が終わった。
「こういう状況だからさ、他のバイトのアテもないし。だから呼んでくれて助かった。このままだと生活費がままならないから」
「他の人たちは?」
「先週一人だけ呼ばれたけど。アナルバイブ挿れてリモコンで強さとか振動とか操作して、相手は離れたところで見ながら自分でするだけ。みんな感染が怖いんだよ。まあ、怖くないって人に会いたくもないし」
仕方がないよね、とハルは軽く笑う。仕方がない。この数週間の内に何度その言葉を聞いただろう。
「もし俺が感染者なら、こんな密室にいるのは危ないね。症状出ない人もいるっていうから」
それでも会ってくれたのは自分が特別な相手だから、というわけではないだろうと野田は思う。純粋な金のためだけであればまだ気持ちも軽いが、そうでないとも思い込みたい。しかしながら、ハルが一体何を考えているのかよくわからないのだ。人形だから感情も思考もなくて当然、と結論したいわけでもない。どうにも底が見えない。人形として商売するには人間らしい部分を見せないのが得策だとは理解するが、単純にそういう話でもない。わかりたい、けれど人形でない人間の部分を見せられて絶望しない保証もない。
ハルはアメニティのお茶の中から緑茶を選ぶ。一口飲んで、まだ熱いね、とカップをテーブルに置いた。
「野田さんの方は、仕事は大丈夫?」
「まあ、なんとか。在宅勤務も出来てるし。まだ先のことはわかんないけどね」
「こんな時に家に居なくていいのかな」
「まあ、どうせ構わないといけないような家族も、もういないしさ」
「……出歩いて人と会ったりするのに不安はないかなって」
落ち着いた声で言われて、ハッとした。
「ああ、ごめん、わかった。防疫ってことね」
本当にごめん。日常はこの場所に持ち込むべきものではなかった。この場所を特別な空間にするために、存在を許される行為や言葉が予め決められている。
お互いが越えて欲しくないラインを越えないために、合言葉が存在する。その言葉をどちらかが発すれば、無機物として扱われ所有物として扱うこのプレイは終わる。魔法が解ける呪文。
人間に戻った身体を労わるために、野田がハルの脚や肩を揉んでやると、これから何か用事ある? と尋ねられた。
「もし時間あるなら、まだ遊んでいいよ。着替えとか色々持ってきてるし。今日はセックスさせてあげられなかったから、サービス」
コンビニでパンやカップラーメンなど適当に食料を見繕う。この店も客足が乏しいのだろう。日持ちしないケーキやシュークリームに、どれも割引のシールが貼られている。野田の他に客はおらず、ビニールカーテンの向こうのレジの店員はぼんやりうつむいたまま。下着に手を伸ばしかけ、必要ないだろうと止めた。まばらに空いた陳列棚はもう見慣れた。ウェットティッシュはいつまでも手に入らないから、ティッシュを濡らして代用するしかないのかな。とりあえずポリ袋とコンドームも買い足した。
ビルとビルの間に、ほとんど空の車両を揺らしながら走っていく電車が見える。いつもならとっくに咲いている植え込みの沈丁花はまだ眠ったまま。街中が静かだ。風や葉擦れの音自分の足音、普段は気付かないような音が気になってしまう。あの高架の下には、境界を隔てる川が流れている。こちら側とあちら側を分断する川。こんなに簡単に世界が変わってしまって、きっと今までと同じにはもう二度と戻れない。
ポケットの中からスマホを取り出し、返事をしていなかったメッセージを読んで電話をかける。
「こっちは変わりないよ。大丈夫。買い物もネットで出来るしコンビニもやってるし」
ビデオ通話にする勇気はなかった。顔を見たら後ろめたさのあまり、一瞬で自分が人の形を保てずに溶け出してしまいそうだった。
「こんな時だからね。また電話してくれて構わないよ」
電話を切った後、野田はスマホを握る手が強張っているのに気付いた。
あの川の向こう岸には帰る家がある。数時間だけの魔法はあっけなく解けて、平穏な慎ましい暮らしが自分を受け入れるだろう。だけど。
これを仕方ないなんて言葉で片付けられるだろうか。これしかない、というのはただの思い込みに過ぎないのだろうか。
ホテルの部屋に戻り、野田は先程の時間を一旦自分から切り離すように顔を洗った。再びプラスチック手袋をはめ、マスクで顔を覆う。表情を相手に見られない悟られないことが、こんなに安心感を与えてくれるとは、こんな世界になるまで知らなかった。
人形は部屋を出る前と同じくベッドの隅に座らされたままだ。ワンピースの裾を捲ると、ショーツの中でローターは震え続けている。が、既に耐えきれなくなったようで、精を漏らしている。そういう人間らしさはどうしても切り離せない。爪先で陰部を押してやると、ハルの唇が微かに震えたように見えた。達したのはローターの所為なのか。それとも、人形として任意の体勢を取らされ、静物として置かれている状況に対してだろうか。
人間ではなく人形として扱うことを、彼は望んでいる。拘束具などなくても、「人形になれ/なる」という双方の合意だけで容易に身動きを奪える。声を発することも抵抗することも出来ない。
髪をブラシで優しく梳かしてやりながら、背面からなら抱きしめても良いだろうかと考え、その衝動を抑え込む。ただでさえこんな時期に密室で触れ合っているのに。
背中のファスナーを下ろし、ワンピースを脱がせる。それからショーツの中からローターを抜き出した。
胸元がレースで飾られたキャミソールの上から、胸元の左右の突起をローターで刺激する。表情こそ変わらないものの、音を立てないように最小限の動きでする呼吸はやや強まり、人間と人形の間を振り子のように揺れてるようだ。
再度ショーツの中にローターを戻し、リモコンのダイヤルを強の方へ回した。人形は人形のままだが、少し身に力が入っているのがわかる。上半身をベッドの上に押し倒し、ショーツの上から彼のモノを指の背で撫でてやる。彼の爪先が一瞬反応したのを見逃さなかった。
自分のために一体どこまで人形でいてくれるんだろうか? そう思っていたけれど本当は、彼は彼のためだけに人形になっていて、人形でいることを楽しむために人を使って遊ばせているのではないか?
充分に硬くなったのを確認し、ショーツを脱がせて手でイかせた。コンドームの先に液体が溜まる。その上から陰茎の先を指で触れても、無表情無反応で人形らしく振る舞い続ける。
今度は野田が下着を脱ぎ、先程と同じようにハルの指先で自身の陰茎の先を触れさせ、握らせる。握る力のない人形の手の上から、自分の手で包み込む形になるが。そうして野田は再び熱いものを吐き出した。
合言葉を唱えてハルを解放してやる。いつもはアフターケアで抱きしめてあげるけど、今は頭を撫でてやるので限界の距離だ。人形から人間の世界に連れ戻しても、まだハルはぼんやりと虚ろな目をしている。人形でいることに未練があるかのように。
川から岸辺に引き上げるようだ、と思う。しかし自分も川に浸かって溺れているのではないか。
初めてハルに会った日は、触れることしか出来なかった。
人形に触れてみたい。人形と化した人間を、人形として扱ってみたい。ただそれだけで良かった。
ベッドの上に壁を背もたれにして座る人形を見た時、野田は今日で自分の人生は終わってしまうのかもしれないとさえ思った。触れてみたいけれど一生触れることは叶わないと諦めていたそれが、目の前にある。触れてみたくて二時間数万円の料金を支払ったのに、触れることさえ躊躇われた。白いタイツに包まれた脚は人間らしさを感じず、意を決して撫でても何の反応もしない。真っ直ぐに伸びた背筋と虚ろな瞳。挿入もオーラルも道具を使っても、何をしても構わないと行為の前にハルから説明されたけれど。いざ人形を目の前にして、どう扱って良いのかわからず戸惑っている間に、タイムリミットが迫ってくる。ようやく身体をうつ伏せにさせて臀部を撫でている内に、サイドテーブルのアラームが鳴ってしまった。隣に置かれていたコンドームを開けることもないまま。せっかく今までの自分から一歩踏み出そうとしたのに。
なんとか挿入まで至ったのは三回目の利用日で、行為後にシャワーを浴びて部屋に戻った時に野田は驚いた。さっきまでのうつ伏せで腰を持ち上げたポーズのまま、汚されたままの人形がそこにあった。合言葉を言い忘れていた。
辞めたければ簡単に辞められる。縄や手錠で拘束されているわけじゃない。自分で、自分の意思で魔法を解くことが出来るはずだ。けれど人形でいることを辞めない。そうすることだけが唯一の真実であるかのように。この子は本当に人形を全うしてくれているんだ。この人形遊びが一方通行ではないと感じて、野田の迷いはなくなった。ハルに後で聞くと、そういう放置プレイなのかと思ってたと返ってきたが。
毎月会う関係になりしばらく経った頃、ハルにどうして人形になりたいと思ったのか訊いたことがある。
「人形っていうか無機物になりたいんだよね。……捨身飼虎ってわかる?」
しゃしんしこ、という聞きなれない単語に野田は眉をひそめる。
「お釈迦様が前世でさ、飢えた虎の親子に自分の身を捧げたってやつ。学校の日本史の資料集に載ってたんだけど、覚えてない? 玉虫厨子の捨身飼虎図」
「ごめん、覚えてない。あとで調べとく」
「それを見た時にさ、ただの肉の塊となって貪られたいって思ったんだよね。肉食獣の餌となって食い尽くされたい」
「……それは、観念上の自殺のようなもの?」
「うーん、死にたいとか殺されたいはちょっと違うかな。自意識のないただの物体になって、滅びたい。何か大きな力に滅ぼされたい」
そう言ってハルは笑った。
生命のない肉として貪られ、人形として遊ばれ、自分自身という世界を滅ぼされ。また人間の生きる世界に戻ってくる。まるで何度も死んで生まれ変わっているようだ。
ホテルの部屋を出る前に、また会える? と野田が尋ねると、会いたいけど世の中次第だよねとハルは苦笑いした。
「いつまでこれを続けられるかわからないし、この先の生活もどうなるかわからないし。でも疫病が流行ってる今は世界中が薄暗くなってるでしょう。そのことに安心するよ」
君らしいね、と笑いながら野田はハルの頭を撫でようとして無意識に上げかけた手に気付いて、引っ込めた。
「野田さんこそ、ずっと会わないでいたら忘れちゃうんじゃないの」
そんなわけないだろう、と返した言葉は思いの外強くなってしまった。もっと冗談混じりに言うつもりだったのに。野田が取り繕う言葉を言おうとすると、ハルも同時に何か言いかけ、譲り合おうとして妙な沈黙が生まれ。顔を見合って笑った。
「会えるまでずっと待ってるから、大丈夫」
ハルの言葉に野田は良かったと微笑む。
今の自分から人形遊びを取り上げられたら、どうなってしまうのかわからないから待ってて。あまりに剥き出しの不安を口から漏らしそうになるのを、野田はなんとか堪えた。
またね、と手を振るとハルも手を振り返す。
「どうせなら、みんな一緒に滅びたら良いのにね」
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