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17.悔しいけれど
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組長は目を丸くしていた。何を言われたのかわからないって感じの顔だ。
俺が紗良さんのワガママに付き合っていただけの優しい男子だと思い込んでいたのかもしれない。まあ無害な草食動物ってのは認める。人の意見に逆らうってことをやった覚えはあまりなかった。これも逆らうってほどのもんじゃないけれど。
「きっと、あなたが思っているほど、紗良さんには伝わっていないですよ」
自由に伸び伸びと育ってほしい。親が求める子供の生き方の一つかもしれない。
それは間違いじゃないんだろうし、色眼鏡をつけさせてもらうのなら極道が我が子をそこまで考えているのは優しさ倍増して見えてしまう。
それでも、俺には親のエゴに感じてしまうのだ。
「紗良さんのことを考えているのなら、自分の口で言ってあげればいいじゃないですか。ちゃんと自分の気持ちを表に出していいんだって。自分で気づけ、なんてのは無責任だと俺は思いますけどね」
自分で気づくこと。悩んだり苦しんだり、痛みを伴うことで覚えることはあるだろう。自分から動かなければ何も変わらないと、そうやって見守ることはあるだろう。
聞いてみればとても優しいことだ。子供が独り立ちできるようにと考えてくれている。
紗良さんは特殊な家庭環境で育った。それでも気にせず立派な大人になってほしい。彼女が生まれや育ちで気に病むことなく、自由に意思を示していけ。と、そんな風に組長は願っているのかもしれない。
とても素晴らしい、と思わなくもない。
「少なくとも、俺にはわかりませんよ。きっと、俺にはわからない……」
だけど、俺には合わないと思った。
別に紗良さんの家庭のことだし、その話自体ももう終わったことだ。
今更俺が口を挟んでどうすんだってのもわかっている。理解はしているのに、口は止まらなかった。
「親が子供に愛されているって思うのは勝手ですけどね、子供が親に愛されているって考えているとは限らないでしょうよ」
子供は無条件に親を信頼している。愛情を抱いている。
でも、それがずっと続くかは親次第だ。
黙ったままで愛情を注げるのだとすれば、そんな簡単なことはない。それなら俺だって胸を張れるだろう。愛されているのだと信じていられた。
俺はワガママで一人暮らしを始めた。ワガママで良い部屋に住ませてもらっている。
それでも、俺は両親から愛情を感じたことはなかった。そして、それは間違いではないのだ。
俺と紗良さんは違う。境遇が全然違うし、共感するだなんて間違っているし、する気もない。
だから……くそっ。だから俺とは全然関係ないんだ。過去に浸って何言ってんだ。バカか俺は。
感情ばかりが先行して、思考がぐちゃぐちゃになってきた。
「……すみません。変なことを言いました。さっきまで言ったことは忘れてください」
頭を下げる。本当にバカなことを口走ったと思う。
「でも、紗良さんは話せばちゃんと理解してくれる人です。あなたが思っているほど、娘さんは柔な育ち方はしていないと思います。だから信じさせてあげてください。そうすれば、彼女も信じられるはずですから」
ただ、それだけ言った。
「そうか」
たったそれだけ、組長は言った。
それで俺達の話は終わった。無礼な言葉を吐き出した俺に怒りを露わにするでもなく、肯定することもなく、組長は無言で帰るようにと促してきた。
その後も何もとがめられることもなく、帰り際に若い衆に取り囲まれることもなく、俺は無事に帰宅することができた。
「和也くん、今日は本当にありがとう。少し、話をする勇気をもらったわ」
門を出るまで見送ってくれた紗良さんの言葉と表情を思い出す。
微笑む紗良さんは、案外父親に似ていた。イケオジといっても充分強面なのに、それでも彼女は父親に似ていると思った。
やっぱり親子だ。ちゃんと伝わっていなかっただけで、信頼関係は確かにあったのだ。
「いいなぁ……」
そんなことを羨ましいと思ってしまったことがなんだか悔しい。
1SLDKの部屋を見渡す。
「……」
なぜか前よりも広く感じる。それがなんだか寂しくて、俺はベッドに顔を埋めた。俺じゃない、女の子の匂いがした。
俺が紗良さんのワガママに付き合っていただけの優しい男子だと思い込んでいたのかもしれない。まあ無害な草食動物ってのは認める。人の意見に逆らうってことをやった覚えはあまりなかった。これも逆らうってほどのもんじゃないけれど。
「きっと、あなたが思っているほど、紗良さんには伝わっていないですよ」
自由に伸び伸びと育ってほしい。親が求める子供の生き方の一つかもしれない。
それは間違いじゃないんだろうし、色眼鏡をつけさせてもらうのなら極道が我が子をそこまで考えているのは優しさ倍増して見えてしまう。
それでも、俺には親のエゴに感じてしまうのだ。
「紗良さんのことを考えているのなら、自分の口で言ってあげればいいじゃないですか。ちゃんと自分の気持ちを表に出していいんだって。自分で気づけ、なんてのは無責任だと俺は思いますけどね」
自分で気づくこと。悩んだり苦しんだり、痛みを伴うことで覚えることはあるだろう。自分から動かなければ何も変わらないと、そうやって見守ることはあるだろう。
聞いてみればとても優しいことだ。子供が独り立ちできるようにと考えてくれている。
紗良さんは特殊な家庭環境で育った。それでも気にせず立派な大人になってほしい。彼女が生まれや育ちで気に病むことなく、自由に意思を示していけ。と、そんな風に組長は願っているのかもしれない。
とても素晴らしい、と思わなくもない。
「少なくとも、俺にはわかりませんよ。きっと、俺にはわからない……」
だけど、俺には合わないと思った。
別に紗良さんの家庭のことだし、その話自体ももう終わったことだ。
今更俺が口を挟んでどうすんだってのもわかっている。理解はしているのに、口は止まらなかった。
「親が子供に愛されているって思うのは勝手ですけどね、子供が親に愛されているって考えているとは限らないでしょうよ」
子供は無条件に親を信頼している。愛情を抱いている。
でも、それがずっと続くかは親次第だ。
黙ったままで愛情を注げるのだとすれば、そんな簡単なことはない。それなら俺だって胸を張れるだろう。愛されているのだと信じていられた。
俺はワガママで一人暮らしを始めた。ワガママで良い部屋に住ませてもらっている。
それでも、俺は両親から愛情を感じたことはなかった。そして、それは間違いではないのだ。
俺と紗良さんは違う。境遇が全然違うし、共感するだなんて間違っているし、する気もない。
だから……くそっ。だから俺とは全然関係ないんだ。過去に浸って何言ってんだ。バカか俺は。
感情ばかりが先行して、思考がぐちゃぐちゃになってきた。
「……すみません。変なことを言いました。さっきまで言ったことは忘れてください」
頭を下げる。本当にバカなことを口走ったと思う。
「でも、紗良さんは話せばちゃんと理解してくれる人です。あなたが思っているほど、娘さんは柔な育ち方はしていないと思います。だから信じさせてあげてください。そうすれば、彼女も信じられるはずですから」
ただ、それだけ言った。
「そうか」
たったそれだけ、組長は言った。
それで俺達の話は終わった。無礼な言葉を吐き出した俺に怒りを露わにするでもなく、肯定することもなく、組長は無言で帰るようにと促してきた。
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「……」
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