ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ

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14.彼女(仮)のお家に訪問

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 紗良さんをかくまった次の日。早速彼女の両親に話をつけに行くことになった。
 心の準備が……なんて言っていられない。先延ばしにしていたら、いつまで経っても俺の家に女子が居ついたままだ。さっさと解決してもらわねば俺の理性が持たない。草食系でも溜まるものは溜まるのだ。ナニがとは言えないけどな!
 途中までアスカさんに見送られ、その先は紗良さんと二人きり。一応恋人役なので手なんか繋いでみたり……。振りだとわかってても恥ずかしいなこれ。普段から手を繋いでるリア充カップルってすごかったんだな。尊敬しちゃいそうだよ。……いや、想像したらやっぱり爆発しろって思う。

「和也くん、緊張してる?」

 握った手から緊張を感じ取られたのか、そんなことを聞かれる。手汗をかいたからじゃないと信じたい。
 顔を向ければ、余裕ありげに微笑む紗良さん。小首をかしげて俺の顔を覗き込んでくる。モテる人はちょっとした仕草でも可愛いから困る。

「そりゃあね……」

 こちとら女子と手を繋ぐってだけでも手汗かいちゃうくらい緊張するのだ。強靭な心臓なんか持っちゃいない。精神が弱いのも非モテの原因かもしれないね。逆説的に言えば強い精神を持つ者だけがモテるのかもしれない。
 閑散とした住宅地にさしかかる。紗良さんの家が近いのだろう。手を握る力が強くなった。
 俺と手を繋ぐことは余裕でも、親との対決は紗良さんでも緊張するらしい。二日連続で俺の家に避難したくらいだもんな。やっぱりお金持ちの親ってのは厳しいものなのかもしれない。偏見だけども。
 ぎゅっと、紗良さんの手を強く握り返した。

「か、和也くん?」
「大丈夫だよ。自信を持って。紗良さんならきっとできるから」
「……うん」

 俺の励ましで紗良さんは少し余裕を取り戻したようだ。幾分か表情が緩んでくれたし、これでガチガチに緊張した状態で親と対面することは防げただろうか。
 今回、俺にできることは何もない。
 そりゃそうだ。いきなりでっち上げた彼氏役なんか成功するはずがない。紗良さんの親だってそこまで節穴じゃないだろうし、何より俺は演技に自信がない。中三の時の演劇で「もう端っこにいるだけでいいから」と戦力外通告されたのは伊達じゃないのだ。……セリフの少ない脇役だったんだけどなぁ。
 とにかく、頑張らなきゃならないのは紗良さんだ。俺は彼女の添え物程度のことしかできない。小道具みたいなもんだ。
 そして、紗良さんなら大丈夫だろう。
 紗良さんは愛される側の人間だ。そんな彼女が気持ちを込めて説得すれば、愛情を注いでいる親なら聞き入れてくれるはずだ。
 紗良さんの親だって、娘がわざわざ見ず知らずの男を連れてくるぐらい嫌がっている、ってのが伝われば考えを変えてくれるはずだ。親は愛する子に弱い。紗良さんの本気さえ伝われば、後のことは全力でなんとかしてくれるだろう。

「ここよ」

 紗良さんが呟くように、到着したと教えてくれた。
 高い塀に囲まれている大きな家。なんとなく洋風イメージだったけれど、目の前の立派な門は和風色が強かった。
 外からでも敷地の広さがわかるほどだ。やっぱりお嬢様だったんだなぁ、と呆けていたら、大きな門がゴゴゴって開いた。

「お嬢……お帰りなさい」

 顔を出したのは柄の悪そうな兄ちゃんであった。お金持ちの家にいそうにない風貌である。俺の苦手なタイプでもある。
 紗良さんは「ええ」と軽くあいさつらしきものを返し、門をくぐっていく。俺も引っ張られるまま足を踏み入れた。

「オイ」
「ひぇっ」

 柄の悪い兄ちゃんに肩を掴まれた。力が強くてミシリと聞いたことのない音が聞こえた気がした。
 痛みと恐怖で固まってしまう。そんな俺の様子に気づいたのだろう。紗良さんが振り返らないまま言った。

「やめて。私の友達よ」
「……ヘイ」

 渋々とした声とともに手が離される。ほっと息をつき、歩みを再開した。

「ははっ……。ボディガードみたいな人かな?」
「そんなものよ」

 紗良さんは振り返らずに歩みを進める。俺はそれ以上追及することなく、彼女の背中を見失わないようにした。手を繋いでいるのに、隣に並べそうにない。
 うん……。なんかね、紗良さんの家の前に立った時に「もしかして?」と思わないでもなかったんだ。
 要は現実逃避。認識が甘かったと言えばそれまでである。
 気を利かせたつもりになって、紗良さんの家の事情を聞かなかった。優しさって、時にバカな行動させちゃうんだよね。と、胸に後悔を刻んでみる。……はい、すでに後悔しています。

「ごめんね」

 小さな声。表情が見えない彼女に、俺がかけるべき言葉はなかった。
 ドラマの舞台になってそうな日本家屋。家の中が広くて、庭も広い。鯉でも飼っていそうな池なんかもある。

「こっちよ」

 紗良さんに促されるまま、和室に通される。何畳あるのかぱっと見では数えられない。親戚が集まっての宴会場だってこの部屋ほど広くなかった。

「和也くん、親を呼んでくるから少しだけ待っていてね」
「え」

 俺が何かを言うよりも早く、紗良さんは部屋から出て行ってしまった。
 おいおいおいおいーーっ! ここで一人にするって正気ですか!?

「……」

 他人の家。しかもこんなだだっ広い部屋で一人きり……。心細さが半端じゃない。
 お願いだから早く帰ってきてー! と願っていたのが通じたのか、ドタドタとした足音が近づいてきた。

「テメェ誰だコラァッ!」

 待ち望んでいた黒髪美少女の姿ではなく、怒声を上げて入ってきたのは強面の男達だった。そう、複数形である。
 突然現れた強面の男達は、俺を取り囲むと大声で威圧してきた。
 あまりにも唐突で、普通じゃない恐怖体験だ。震えるのを誤魔化して顔を伏せることしかできやしない。

「顔上げろやテメェコラァッ!!」
「舐めた面してんじゃねえぞゴルァッ!!」
「タダで帰れると思うなよウラァッ!!」

 手を出してこないのが不思議なレベル。俺にとってはこの怒号こそが暴力に相当する。誰か助けて!

「やかましいぞっ!!」

 吹き飛ばされそうなほどの大声に身体がビクゥッて震えた。俺を責めていた連中もビクゥッてなってた。ちょっとだけスッキリする。

「ったくテメェら、紗良の友達に何やってやがんだ」

 部屋に入ってきたのは顔に刀傷らしきものが特徴的なイケオジだった。声がとっても素敵ですね。
 ……いやいやいや、刀傷ってなんだよ。うっかりイケオジ顔に騙されるところだった。
 完全にカタギの人ではなかった。いや、本当はわかっていたんだ。この家自体がカタギの人が住むようなもんじゃないってことは。
 刀傷のイケオジの後ろから、紗良さんがひょっこりと顔を出す。ここで紗良さんの立ち位置がはっきりと理解できた。
 ──桐生紗良は、極道の娘だったのである。
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