ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ

文字の大きさ
上 下
12 / 19

11.二人は類友

しおりを挟む
『とにかくあたしもすぐにそっち行くから。詳しいことはそん時に聞かせて。くれぐれも紗良に手を出しちゃダメだかんね!』

 アスカさんはそう言って一方的に電話を切った。そろそろこっちの言い分を聞けるようになってもらいたいものだ。
 流されるまま昨晩と同じ状況になりつつあった。理由は違うけど、これでアスカさんが来たら、また俺の家に女子二人が揃ってしまう。
 だからって男に襲われたばかりの紗良さんを放ってはおけないし。でも俺一人だとどう接すればいいのかわからないし……。結局、アスカさんに来てもらわなければ状況を打開できないのも事実だ。

「アスカはなんの用件だったの?」
「紗良さんが心配だからここに来るって。……あの、電話の相手がアスカさんだって、俺言ったかな?」
「言っていないわ。カマをかけたのよ」

 まんまと引っかかった俺はバカだったってことか……。そういうの慣れてないから素直に答えちゃうって。正直者がバカを見る世の中は間違ってると思います。

「落ち込まないで和也くん。ぼっちの和也くんに電話をしてくれる奇特な人がいるだなんてすごいことよ。しかも女子。良い思い出になったわね」
「そういうことで落ち込んでるわけじゃないというか。ていうかぼっちどころか非モテ扱いしてるよね? え、何? もしかして俺いじめられてるの?」
「和也くんをいじめるのは楽しいわ」
「そこはちゃんと否定してよ!」

 おかしそうに笑う紗良さんだった。どうやら調子を取り戻したみたい。良いことだろうに、いじられた俺は嬉しくないです。
 とっくに三分は経っていた。紗良さんはカップ麺を食べ始める。別に俺が電話している間に食べていれば良かったのにね。

「食事は朝以来ね。空腹の辛さを思い知らされたわ」
「そういえば昼は食べてなかったもんね。ダイエットだっけ?」
「……デリカシーがないわよ和也くん」
「ご、ごめんっ」

 素で怒られた。思春期の女子に面と向かって「ダイエット」と言うのは禁句らしい。

「……本当は手持ちがなかったのよ。和也くんにおごった素うどん、私にとってはなけなしのお金を出したんだから。ごめんなさいね、あまり良いものをおごってあげられなくて」
「え、そうだったの? なんかこっちこそごめん……」

 そうならそうと先に言ってくれたら良かったのに。女子におごられることに対してなんの疑問も持たなかった俺にも問題があるんだろうけども。
 あまり現金を持ち歩いていないのはお嬢様だからか。きっと支払いはカードで済ませるのが当たり前なのだろう。学校の食堂でカード払いはできないしな。

「美味しいわ……」

 しみじみと呟く紗良さん。お嬢様の口にインスタント食品は新鮮だったのだろう。
 はふはふと本当に美味しそうに食べている紗良さんを眺めているとほっこりする。なんだろう、小動物の食事シーンを見ている気分だ。ここだけ見ればちゃんと可愛げがあるじゃないか。
 そんな紗良さんを眺めながら伸び切ったカップラーメンを食べた。美味しくなかったけれど、なぜだか満足感があった。
 食事を終えてしばらくまったりしていると、インターホンが鳴った。

「紗良ー! 大丈夫だった? ケガはしてない?」

 アスカさんは部屋に入って一番に紗良さんへと駆け寄った。駆け寄ったというか抱きついていた。これ、俺が見ていい場面なのかな? ちょっと見ちゃいけない気がするのはなんでなんだろうね。

「心配かけたわねアスカ。ごめんね、アスカのところに行くとすぐばれちゃうと思ったから」
「うぅ~。紗良の親からうちに来てないかって電話があった時はびっくりしたよ~。紗良も紗良でカズっちの家ならばれないだろうって言うし。でも紗良の親がマジな感じだったし……。もうどうなっちゃうかって気が気じゃなかったよ~」

 紗良さんは抱きつくアスカさんの背中をぽんぽんと優しく叩いて落ち着かせる。どっちが被害に遭ったのかわかんなくなりそうだ。

「あのさ、そろそろ事情を聞かせてもらってもいい?」

 アスカさんも来たことだし、気になっていたことを聞かせてもらおうと口を開いた。
 こうなったら俺にも事情を聞く権利があると思う。突発的に頼られても困るし、何よりこんなことを繰り返して、また強面の男に誘拐されそうになったらと想像するだけで怖い。二度も助けられる自信はないのだ。

「……そうね。和也くんには迷惑をかけてしまったわ。説明くらいしないと筋が通らないわね」

 紗良さんが俺の方に向き直る。いつもの微笑みではなく、真剣な表情だった。さっきされたばかりの謝罪が頭を過る。

「私、許嫁がいるのよ」

 紗良さんから飛び出た単語は、普通の高校生である俺には聞き慣れないものだった。
 つまりはこういうことらしい。
 先日、紗良さんは親に勝手に婚約者を決められてしまった。それに反抗していたが、ついに我慢の限界がきて家を飛び出してしまったのだとか。昨晩のあれは家出中だったってことだ。
 そうして本日、改めて親と話し合いを試みたが、ケンカになってまたもや家を飛び出す結果になったと……。
 紗良さんにとって、こうやってざっくりまとめられる感情ではなかったのだろう。そりゃそうか、結婚相手だなんて人生を左右する重大なことだ。それを勝手に決められたとなれば反抗したくもなるか。
 それにしても許嫁って……。一般家庭だとまず縁のない単語だ。紗良さんってやっぱりお嬢様だったんだなぁ。
 お嬢様の初めての反抗期。そう考えると無計画な感じも納得である。
 一緒にいたのもアスカさんだったし、家出を止めてくれる人はいなかったんだろうな。アスカさんじゃなきゃ家出に付き合ってくれそうな友達はいなさそうだし。優等生グループに相談していたら説得されるとでも思ったのだろう。たぶん正解だ。
 俺がふむふむと納得していると、紗良さんの胸に顔を押しつけていたアスカさんががばりと顔を上げた。

「そうだ!」

 名案を思いついたとばかりにアスカさんが声を上げる。直感からか、俺は嫌な予感がした。

「カズっちに紗良の彼氏役をやってもらって、許嫁の件を諦めてもらえばいいんだ!」

 やっぱり、ろくでもない思いつきだった。紗良さんも呆れて──

「な、なるほど……。それは名案ねっ」
「でしょ!」

 ……嘘だろ?
 アスカさんの案に紗良さんも興奮したのだろう。顔が赤くなっていた。そして期待するように俺をチラチラとうかがってくる。本気で俺に彼氏役をやれと?
 乗り気になった様子の紗良さんを見て、タイプが違うように見えても二人は類友なんだと確信させられてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...